表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
86/133

異能バトルロイヤル④

前山の身体から突如溢れ出した黒い呪力は、泡のように大きくまとわりついている。



 黒い呪力ということは、あれの呪力属性は《陰》だろう。しかしこの現象は何だ?



 まとわりついているなら結界の一種かと思ったが、多分違う。



 そうしているうちに黒い呪力は前山を飲み込み《光輪》を打ち破り形成されていく。



 ──ヤバい。



 直感的に《絶対王制》の楔を打ち込もうとするが、呪力の壁に阻まれ刺さらない。



「……悪魔」



 呪力が落ち着き、姿はおよそ五メートルの黒い巨体に黒い翼。山羊のような頭を持ち角が生えた姿に変貌した。



正に、悪魔と言って差し支えない。



「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」



 悪魔が吼える。



 その衝撃に耐えられなかったのか、参加者たちは次々に倒れていく。恐らく《威圧》かそれに近い術式か異能を使ったと考えられる。



 ともかく、前山が悪魔に変貌したのは事実。あれを止めなければならない。



「エリス、あれのこと分かるか?」



 悪魔については専門外なので、恐らく専門だろうと思うエリスに尋ねてみた。



「あれは悪魔ではないです。姿形を模しただけのものだと思います」



 それならあの呪力が原因か。しかし出どころが分からない。あの呪力を生みだした何かを排除すれば多分元に戻る……かもしれない。



「そうか。話は変わるがあの黒い呪力の発生源とか分かるか?」



「そうですね……時間が掛かりますが分かると思います」



「それで十分だ。──光明。《神格武装》の使用許可を出す」



 その言葉で光明が驚いたような表情をする。



「……そこまでするの?」



「念には念を。エリス、出どころが分かったら光明に教えてくれ」



「はい!」



「それまで時間を稼ぐ。銀華は紅葉と合流して異能者側の参加者に幻術掛けて大人しくさせてくれ。それが終わったら術者側の参加者の安全確保。いいか?」



「ん、分かった」



 とだけ言い銀華は紅葉の元に向かう。



「それなら僕達も行こう。出来るだけ高い場所がいい。エリスもついて来て」



「良いですけど、鳴神さんは……」



「大丈夫。これでも持久戦は得意だから」



 現人神の身体能力と術式を駆使すれば条件付きでいくらでも戦える。これでも検査じゃ耐久値EX判定なんだ。



「分かりました。お任せします!」



「そっちも頑張ってな。なるべく早くで頼むぞ!」



「任せといて」



 ではこちらの役目を果たすとしよう。



 まずはこちらに注意を向ける。今は立ち尽くし瘴気を放っているがいつ動き出すか分からない。



 まずは《空破》で牽制。ボッ! という鈍い音と共に空気の砲弾が悪魔に向かって行き──



 バンッ! と当たるが悪魔は微塵も動かない。相当堅いなあれは。



 だが今ので並大抵の物理攻撃は効かないことが分かった。次の手段に移ろう。



「《煉獄》!」



 術式を発動。だがいつものように周囲に展開するのではなく両足にだけ点火する。理由は二つ。腕

の呪力膜が焼かれるのと呪力の節約。《天道印・地道紋》が使えないから仕方ないね。元々そんな多い方じゃないし。



 そして《縮地》で一気に距離を詰め《煉獄》の炎が燃える両足で悪魔の腹部にドロップキック。



 悪魔は吹っ飛び壁に激突した。ちょっとやり過ぎたかもしれないが、確認したいことは惨状ではなく《煉獄》で悪魔の身体が燃えているかどうか。



 確認すると《煉獄》は悪魔の身体を燃やし、体操服の襟が見えていた。ちらっと膝も見えている

 しかしすぐに呪力が渦を巻き《煉獄》を飲み込んだ。



 《煉獄》の燃焼能力よりも呪力量が勝ったという事だ。どこからそれだけの呪力を持ってきてるんだ……?



ついでに前山の位置を確認。腹部に襟があるということは鳩尾あたりに頭があり蹲った状態であることが分かる。《煉獄》を飲み込んだ呪力が上から流れていたから、呪力源は前山よりも上の位置にあると推測。



(光明)



(言わずとも。ちゃんと見た)



 話が早くて助かる。



(エリスにも伝えた。そっちはそっちの仕事して)



(おう)



若干怒られたような気持ちになりつつも、悪魔をしっかりと観察する。



「グオオオオオオオオオオオオオオオッ!」



 悪魔は立ち上がり咆哮を轟かせる。



 ……目が合ったな。こちらをジッと見ている。注意を引くことは成功したようだ。ちょっと本気にさせてしまったようで、目に怒りに似た激情を感じる。



「かかってこいよ」



 通じるか分からないが挑発してみる。



 すると潰すように殴り掛かってきた。言葉は通じるっぽいな。



 だが遅い。《縮地》を使わなくても避けられる。



 そして俺を捉えられなかった拳は地面に激突し、亀裂を生じさせた。さながら地割れのようだ。



巨体だけあって力はある。速度はないが。



 速度では勝ってるけど力では負けてる。それなら時間を稼ぐなら速度で翻弄させてもらおう。



 呪力がもったいないので《煉獄》を消し、悪魔の拳を避ける。



その際にできる無防備な横腹にすっと移動して《旋脚》──回し蹴りを放つ。これは痛いぞ? 何せ《空破》と同じ力で蹴りつけてるからな。流石に《縮地》のドロップキック──長いから《縮飛(しゅくひ)》と名付けておこう──よりかは威力ないけど。



その《縮飛》は悪魔を多少曲げることはできたが決定打にはならない。

だが悪魔に重要性を認識してもらったようで、蚊を叩くように押しつぶそうとする。



まあ案の定遅いのでしっかり避けて跳躍。そして一回転して悪魔の頭をかかと落し──《縦割》で頭を強打させる。



普通なら首がすげ替わるぐらいの威力があるのだが悪魔の首は取れてない。どんだけ頑丈なんだこいつ。光明に《神格武装》の許可を出しておいて良かった。



などと自分の行いを肯定していると左から悪魔の腕が襲い掛かってくる。



 避けようにも空中では身動きが取れない。為す術なく悪魔の左腕に全身を握られてしまう。もうこ

の時点で俺の右腕と左前腕は崩れ去った。



 そして悪魔はニヤリと笑い、握る手に力を入れ始めた。握りつぶすつもりか。



「《鰻滑(うなぎすべり)》っ!」



自分の身体に摩擦を減らす結界を展開しスポンッと悪魔の手から下へ抜け出す。



 そしてすぐさま《旋脚》を当て距離をとる。悪魔は苛立った様子でこちらを見ている。



(マスター、準備は終わったよ)



 光明から念話が来た。



(よし、後こっちでやることあるか?)



(動きを止めて。《あれ》使うから)



(はいよ。タイミング逃すなよ)



 向こうの準備はできたか。なら言われた通り動きを止めますか。



「《十字張》!」



悪魔の動きを封じるため、《十字張》を使い悪魔をまるで磔にしたような格好で捕縛する。



「グルアアアアアアアアッ!」



「くっ……」



 悪魔は藻掻いて捕縛から逃れようとした。



だがそう簡単には解放させない。残り少ない呪力を総動員して少しでも長く捕縛できるよう努める。



「早く……!」



 呪力が切れかかり、《十字張》が解除されかけたその時だ。



ズドン! という音と共に悪魔の左胸に穴が開いた。



 すると悪魔の身体を形作っていた呪力が霧散し始める。



「やったか……」



 勝利を確信し安堵する。しかし油断はできないので悪魔から視線は外さない。



 だがそれも杞憂に終わり、何事もなく悪魔は消え去った。後に残るのは気絶し倒れた前山と中心に穴の開いたカードだけだ。



「終わったな」



 落ちていたカードはタロットカード──悪魔のカード。これが原因か。持ち帰って異科研に調査依頼出すかな。



「マスター」



 光明が戻っていた。その腕には大きさ的に不釣り合いのライフル銃が抱えられている。



 これがあの頑丈な悪魔の肉体を貫いたライフル。名は《天之波土弓・羽々(あまのはじゆみ・ははや)》。



神話に登場する弓矢と名を同じくするが、全くの別物であるこのライフルは、光明に渡した《神格刻印》を補助する《神格武装》だ。



あまり使う機会が無くて慣れてるか心配だったけど、杞憂に終わったな。



「お疲れさん」



 仕事を労うも、光明は悲痛な表情をしている。



「……作戦中だから言わなかったけど……腕、無くなっちゃったね」



「まあ仕方ないだろ。結構強かったし。必要経費と割り切るさ」



「……元に戻るの?」



「時間はかかるだろうけど、大丈夫だと思うぜ」



 ここまで酷い損傷は初めてだが、今までの経験上治らないことはない。物質と直すために必要な設

計図の役割がある魂さえあれば問題なし。



「滅茶苦茶食べればすぐに戻るさ」



光明に心配かけないように明るく笑う。すると光明は釣られたのか微笑む。



 身体の再構成は自動的に空気を肉体に置換するパターンが基本だけど、食べて物質を取り込めば早く直る。それか損傷面に物質を無理矢理くっつける、意識的に《物質置換》をするという方法がある。



「それとさ、そこのカード拾ってくれないか?」



「良いよ」



 ライフルを戻した光明はタロットカードを拾った。



「光明速すぎ」



「透、もう終わったの?」



「皆さん、お疲れ様でした」



 遅れて銀華、紅葉、エリスがやって来た。



「……って、アンタ、それ直るんでしょうね!?」



 もう崩れ去った腕に紅葉が動揺したような声を出す。



「いやー崩れちゃったぜ。あっはっは」



 何ともないように笑う。



「ちょっとあんたね! 何笑ってんのよ!」



 紅葉は動揺から一転、激昂の表情に変わる。



「事の重大さが分かんないの!?」



「直るし大丈夫だろ。時間はかかるけど」



「あんたね……!」



「紅葉落ち着いて」



 怒り心頭な紅葉を光明が宥めに入った。



「過ぎたことは仕方ないよ。マスターも大丈夫って言ってたし。もし大丈夫じゃなかったら……その時は二倍増しで怒ればいいさ。二度とこんなことをしないように、ね?」



「……そうね」



 どうやら堪忍袋の緒は辛うじて切れなかったようだが、次は後がないな。気を付けよう。



「エリス、悪いけど前山を保健室に連れて行ってくれ」



「分かりました。その腕じゃ運べないですもんね」



「それと理事長に報告を。俺も後からするけど、一度家に帰ってこれの対策をしなくちゃいけないから」



 既に無くなった両腕を見る。そんな俺を見るエリスは悲痛な面持ちを一瞬見せたが、すぐに元の秀麗な笑顔に変わる。



「はい、それじゃ失礼します」



 気絶した前山をお姫様抱っこし《万里土城壁》を飛び越える。



「さて、俺らも退散しないとな」



 出来るだけ人目に付かないようにするため残しておいた呪力で《雪化粧》を使い透明人間になる。呪力を回すために《隠者》と《認識阻害》は解除。



「紅葉、ここ壊せる?」



 目線で示したのは競技場をぐるりと囲んでいる《万里土城壁》。今の俺じゃエリスみたいに飛び越えられない。通路を塞いでいる場所を壊さないと。



「余波に気を付けなさい」



 そう言って《炎天弓》を取り出し一射。《爆炎》で《万里土城壁》に穴をあける。

通路には人はいない。《炎天弓》で吹き飛ばされた訳でもなく、最初から人はいなかったようだ。



「ありがとう」



「礼なんていいからさっさと直しなさい」



 笑顔で礼を言ったら顔を逸らされた。これは怒りが根深いな……。指示を聞いてくれたから多少収まってると思ったらこれだ。まだ俺の顔は見たくない程怒っている。反省しないと。



「銀華は金鈴と秋奈のところに行って帰るように連絡してくれ。あ、幻術は解いてくれよ?」



「ん。分かった」



 銀華は早速二人の元へ走り出す。



「光明と紅葉は先導を頼む」



 こちらの姿は見えてないので普通に歩くと危険だ。できるだけ二人から離れないようにしないと。



「分かったわ」



「了解」



 こうして、予想外な展開が待ち受けていた俺の体育祭は幕を閉じたのであった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ