異能バトルロイヤル②
走って三十秒ほどで術者側の陣営、その後ろに位置する観客席に着いた。他の組陣営だけど、今は非常事態なので大目に見てくれ。
「作戦としては至って単純。結界をすり抜けて前山を探す。索敵はエリスに任せたいが……いけそうか?」
「はい、それぐらいなら」
良かった。銀華、光明、紅葉は索敵できないからな。
「よし。結界に入るのは銀華と俺。紅葉と光明は後方待機を頼む」
「分かったわ」
「僕たちじゃ過剰戦力だからね」
紅葉と光明では威力が高すぎて参加者の被害が大きくなる。その点、銀華なら幻術・封印系統の異能なので傷つけずに参加者を無力化できる。
「そういうこと。銀華は俺と、エリスは銀華と手を繋いでくれ」
「はーい」
「こうですね!」
三人で紐のように手を繋ぐ。
「それじゃ行くぞ」
結界は基本的に内と外を隔てるものであり、その境界を超えるのは難しい。
だが、不可能という訳ではない。
まずは《解析》を使うために結界に手を触れる。解析するのは呪力属性。結界をすり抜けるには同種の呪力属性をその身に纏うことで結界と同化する必要がある。術式開発のために十二種類全ての呪力属性を持つ俺にとっては朝飯前。
──なのだが。
「すまん、ちょっと作戦中止」
銀華の手を離す。それを見た銀華とエリスも握っていた手を離した。
「どうしたんですか?」
「……すり抜けるのは無理だ。これ特殊中の特殊だ」
「どういうことなんです?」
エリスはぽかんとしていたが、式神達には伝わったようで──
「……《陰陽》かい?」
光明が口を開く。
「正解。こりゃ難敵だぞ」
そう言いながらも《解析》で結界を調べる。今度は結界の機能について。
いやーこれは想定外。そう言えば理事長の呪力属性知らなかったわ。結界から考えて《陰》だと思ってたらまさかの《陰陽》かよ。
「《陰陽》って、一体何のことですか?」
「光明、説明よろしく」
《解析》で手一杯。
「《陰陽》というのは呪力属性の一つで、《陰》と《陽》が一つに融合した幻の十三番目の呪力属性
のことなんだ。
幻と言われる所以は、未だにその成立方法が分からなくて、生まれ持った呪力属性であること、そして《陰陽》の呪力属性を持つ人がとてつもなく少ないのが理由だね」
「なるほど、鳴神さんは《陰陽》の呪力属性を持っていないから結界がすり抜けられないんですね!」
手を合わせ納得するエリス。気づいてないかもしれないが心にくるものがあるんだぞ。ダメな子扱いされたみたいで。
「他の呪力属性は使えるのにね」
そこに紅葉が追撃する。《解析》に集中して顔を見れないが……絶対笑ってるよ。声質で分かるんだぞ。
「ちなみに《陰陽》の呪力属性を持ってる人は他の呪力属性を併せ持っているんだ。つまり全呪力属性が扱える訳だね」
「そうなんですね。欧州には《火》《水》《土》《風》しかないので全く知りませんでした」
そっちの定義だとそうなるのか。
「《解析》終了したぜ」
「あら、意外と早く終わったわね」
「金鈴の読み通りほとんど機能してなかったからな」
機能していたのは防御機能と修復機能のみ。耐性機能や保護機能などもあったが、呪力が足りていなかったのか全く機能していない。この結界かなり複雑な造りになっているので、一介の術者だけでは十全に扱うことはやはり難しい。結界の専門家が何十人も必要だ。
改めて理事長の規格外さを認識したところで、対策を考えよう。参加者たちが重症化しないうちに。
「エリス、一つ気になることがあるんだけど」
「なんでしょう?」
「この段階で索敵は可能か?」
作戦が決まってない間に索敵が出来ると楽なんだけど。
「えっと……できるはできるんですけど……」
エリスは煮え切らない態度で答えた。
「何か問題があるのか?」
「その、索敵ができるようにするには私の力を総動員しなきゃいけないんです。そうなると……その、変身しなきゃいけなくて」
「変身?」
何故ここで変身?
「あ、変身と言っても姿が変わる訳ではなくて……服装が、変わるんです」
「服装」
あれか、アニメでよくある魔法少女の変身みたいなやつか。
そしてエリスの煮え切らない態度に納得がいった。
「分かった、変身中はそっち見ないから」
つまり、異能を全力で出すには衣装チェンジが必要。
そして、こういう時のお約束。
一回全裸になる。
……万国共通なのか。変身シーンは。
「紅葉、銀華、光明。エリスを囲んでくれ」
「まあ、仕方ないわね」
「ん、分かった」
「了解、マスター」
一応ここは赤組の生徒陣営で、競技に参加してる人が多いのか人は少ない。だが少ないだけで人がいないという訳ではない。参加していない生徒もまばらだがいるし。
俺を除く身長がこの中で一番高い紅葉がエリスの後方へ。銀華と光明は両サイドに陣取る。
前方は俺が背を向けることで人の壁が完成。隙間もある壁だが、無いよりはマシだろう。着替える時の術式を考えておけば良かった。今度作ろう。多分使い時はほとんどないが。
「ありがとうございます!」
お礼を言ったエリスは、早速呪力を高め始めた。
背中から感じる呪力は、俺の通常最大値より多い。
「《聖人外装》」
そんでもって衣擦れの音がするもんだから気になる。なんか光ってるし。だからと言って後ろを向
いたりしない。だって信頼関係崩れちゃうもん。
「鳴神さん、終わりました」
「そうか──」
振り向くと、次に出す予定だった言葉を忘れてしまった。
それほどまでに、エリスは美しかった。
クラゲのような半透明な修道服。ただそれだけなのに神々しさを感じる。
そして同じく白藍の翼が一対と、頭上に浮かぶ白い輪。この二つによって神々しさが加味され、まるで絵画に描かれた天使のようだった。
局部以外ほぼ見えてるけど。
「……あの、あまり見ないで頂けると助かります」
「ああ、すまない」
流石に見惚れてたとは言えないので簡素に謝る。本題はこっからだし、気を引き締めてかないと。
「とりあえず索敵の方を頼む」
「分かりました。《聖杯》、《元素魔術・水冷温》!」
視線をエリスから結界に向ける。
「さて、結界をどうするかだな……」
とは言うものの、結論は既に出ている。
この結界をすり抜けることは不可能。ならば壊す以外の方法はない。
そのための方法はこの手の中にあるが、それを使うとなると……式神達を心配させてしまうことは確実だ。実は前にも似たようなことをして怒られたことがある。
俺が渋っているのは式神達に心配させてしまうから──その一点に尽きる。
だがこれは仕事で、時間が経てば犠牲者が出かねない状況であることは間違いない。時間を無為にはできない。
ここは怒られることは覚悟して──すべきことを成す。
「来い、《紫電》」
《天道印・地道紋》を戻して紫色の刀《紫電》を握る。
「ちょっとマスター!?」
「アンタ待ちなさい!」
「それはダメ!」
紅葉や光明はともかく、銀華が動揺するのは珍しいものを見た気分になるな。
「え、え?」
それを見ているエリスはよく分かってなさそうな感じだが。
「悪いな」
謝罪をして、抜刀の姿勢に入る。
ブワッ!
周囲に呪力の風が巻き起こり火花が散る。制止しようと近づいた三人を寄せ付けない。
両腕に呪力を纏わせる。準備は完了。
「──《一刀極閃》っ!」
シン、と時間が停まったかのような静けさが訪れた一秒後。
ズドドドドドドドドドッ! と暴風と衝撃波が撒き散らされる。
それと同時に、まるで紙を破るかのように結界が引き裂かれた。
「きゃっ……!」
「くっ……!」
「……っ」
辛うじて聞き取れた紅葉、光明、銀華の声。
まー多分三人は無事だろう。《紫電》の事は知ってるし、だからこそ止めようとしたのだから。止めようとしたときの位置は三人ともエリスを背後にしていたからエリスも無事だろう。……無事だと良いな!
我ながらガバガバな安全対策。三人の制止を振り切るために急ぎ足でやってしまったことが原因だ。反省はしている。
《紫電》の固有剣技《一刀極閃》。その正体はただのめっちゃ早い居合切り。
ただし《紫電》に組み込まれた異能《極限》によって、身体能力は己の限界を超える力を無理矢理発揮されるトンデモ呪具。装備者の呪力を僅かながら吸い取り蓄積し、抜刀する時に一気に放出される仕組みである。蓄積した呪力は約二年。
そんな《紫電》をに戻して次の段階に入る。
「うう……っ。って、鳴神さん!」
「見つけたか?」
「そんなことはどうでもいいです! その腕、どうしたんですか!」
「どうでもいいってことはないだろう……」
エリスが問題視した俺の腕。
《紫電》の膨大なエネルギーによって鞘を持っていた左腕は肘まで、柄を持っていた右腕は肩まで炭化し、炭が僅かながら粉状になって風に舞う。
「早く治療しないと……!」
「大丈夫治る治る。ほら手の形崩れてないだろ?」
普通なら塵となり跡形も無くなるのだが、《現人神》の《物質置換》のおかげで俺はありとあらゆる物質を自身の肉体にすることができるのだ。
それに加えて炭化した両腕を呪力でコーティングしてるからある程度の衝撃を受けても崩れ去る心配はない。流石に戦闘では使えないけど。
というか炭化した両腕は動かせず抜刀した状態で静止しているためすごい邪魔。これ一回崩した方が良いかもしれない。直り遅くなるけど。
「確かにそうですけど……!」
「アンタ、何馬鹿なことしてんのよ!」
「マスター、何を考えてるの!?」
「透、何でこんなことしたの」
エリスに続き式神達まで批難してきた。
正直、《紫電》を使いたくは無かった。今みたいに紅葉みたいに怒らせたくなかったし、光明のように心配させたくなかった。銀華のような悲しい顔をさせたくなかった。
それでも、人命を脅かす可能性を無視することはできず、最短距離を走らなければと思った。
だが、どう言い訳をしたところで、この現実が変わることはない。
「その反応は尤もだけど、今は問題解決が先だ。紅葉は《万里土城壁》の頂上で異能者たちを気絶さ
せてくれ。銀華と光明は術者を捕縛。エリスは俺と一緒に前山を確保する。いいか?」
「いいかじゃないわよ! 何で《紫電》使ったのよ! 腕をそんな状態にしてまですることなの!?」
「ああ」
紅葉の怒鳴り声に対して、俺は真剣な顔で返す。
「……悪い。話は後でいくらでも聞く。だから今は力を貸してくれ」
「……ああもう! 分かったわよ! やればいいんでしょ!」
怒りながらも《万里土城壁》に向かって跳躍する。
「銀華、光明」
「……分かった。お説教は後でする」
「許すと思わないでね」
二人も渋々観客席からグラウンドに飛び降りる。いやー想像してたけどキツイな! 取り繕わないとやってられん。罪悪感で一杯だわこれ。軽く吐きそう。
「……私はさっきの行動はどうかと思います」
「そうだな」
「確かにこのままでは人命が危うい状況ではあったでしょう。しかし鳴神さんの腕を犠牲にしてまですぐにどうにかしなければならない状況かと言えば……そうではありません。多少の考える猶予はあったと思います」
「その通りだな」
「あなたは人に頼ることを覚えた方が良いと思います」
「……結構頼っているはずなんだけどな。索敵とか作業分担とか」
「精神面での問題です」
「あー……」
エリスの言う通り思い当たる節が多すぎるな。なんだかんだで重要な場面は頼るという選択肢を放棄していた……と思う。
「つまり、何が言いたいかというと……相談くらいはしてください。昨日からですけど仕事仲間なんですからね」
どうやらエリスは心配してくれていたらしい。まあ急に知人の腕が炭化したら心配もするか。
「分かった。気を付けよう」
「ならいいんです。……ところで、その腕で確保はできるんですか?」
「勿論。動かせないだけ」
そうでなければ《紫電》を使わない。
「そうですか。あと話しているうちに索敵は終わりました」
「マジか。どこにいるんだ?」
「術者側集団の中心ですね」
「……それは困ったな」
中心にいる前山を確保するには周りにいる術者を引き剥がさないといけない。銀華と光明が引き剥がしてくれるけど、ある程度は自分でやることを想定しなければならない。
危害を加えるようなことはしたくないのだが、腕が使えない以上出来ることは通常時よりも限られてくる。《天道印・地道紋》を装備できないのが痛手だな。いや神経も焼き切れてるから痛みは無いんだけど。
……そうじゃなくて、それが無いと俺の呪力量じゃ異能や呪具が使えなくなるかもしれない。補充用の呪符は取り出せないし。
「どうしましょうか?」
「一応考えはあるけど……聞いてくれるか」
「はい!」
そう答えたエリスは、花が咲いたような満面の笑みだった。
その前に。
(銀華、光明。参加者たちの様子はどうだ)
二人に念話を繋げる。
(予想的中。三人程捕まえたけど全員洗脳状態)
(銀華の方も同じ。一応幻術封印しておいた)
(そうか、ありがとう)
それならば、何とか前山を炙り出すことはできそうだ。
「エリス、聞いてくれ。参加者──少なくとも術者側は前山に洗脳されている。そこで光明の異能で洗脳を解く。そうすれば洗脳されてた人は気絶するから──」
「ちょっと待ってください。今洗脳と言いましたよね?」
「ああ、それがどうかしたか?」
「それなら私の力で対処できるかもしれません」
「本当か?」
俺の問いかけにエリスはコクン、と頷いた。
「私の奥の手ですけど、戦闘には不向きなのでここは使い時かと。光明さんの余力はもしものためにできるだけ残しておいた方がいいでしょうし」
「確かにそうだけど……」
俺がこんな状況でもし何かあれば対処するのは難しい。
「良いのか? 奥の手なんだろ?」
「こういう時に使ってこその奥の手です」
得意げに胸を張るエリス。
「ただちょっと驚いてしまうかもしれません。安全ではあるんですけど」
「そうか。なら頼む」
作戦会議は終了。
戦闘真っ最中のグラウンドを見据える。
「それじゃ、行きますか!」
勢いよくジャンプし手すりを超えグラウンドに飛び降りる。着地は《衝撃拡散》を使って負荷を減らす。
俺の後に続いてエリスも飛び降りるが、俺とは違い翼があるので優雅に降りてきた。
ズゴゴゴゴゴゴゴゴッ!
それから数秒後、グラウンドを囲むように《万里土城壁》が現れた。どうやら結界の代わりにする
つもりのようだ。俺達以外にも乗り込もうとしていた大人がいたしな。だが遅かったな。
「マスター!」
「透」
光明、銀華が合流。
「捕縛した人は?」
「人がいないところに寝かせておいたよ」
「同じく」
「それなら良し。──エリス、早速頼む」
「はい!」
エリスが両手を前に出すと、手の上に青い杯が現れそれを手に取る。
「《神よ、罪を洗い流し給え(ノアズアーク)》!」
えっその名前は──
と突っ込む前に杯から大量の水が勢いよく溢れ出し、津波のように襲い掛かる。
当然四方を《万里土城壁》で囲まれているグラウンドに水の逃げ場はなく溜池のように水が溜まっていく。
いやこれ息できないじゃん。安全とは一体──
と思ったのだが全く息苦しくならない。既に周囲は水に飲まれ、俺達は水中にいるにも関わらず呼吸ができる。身体に浮力を感じないところを見ると、これは本当に水なのかと疑いたくもなる。
見ると、参加者たちがバタバタと倒れていく。総数にして約四分の三。全員洗脳されていた人達だろう。
「とりあえずこんなものですかね」
エリスは青い杯を消した。
「エリス、これ一体何だ?」
「これはですね、我らが主の力を限定的に借りるものです。効果としては悪業──つまり状態異常の浄化となります」
洗脳は異能学的に言えば精神干渉系統の状態異常だったなそう言えば。
洗脳は解除されると気絶するので、参加者たちはとりあえず命に関わるような状態ではないだろ
う。
そして、倒れた人達の周りに立っていたのは──前山だ。
「……《万里土城壁》への呪力供給をしていない人は、倒れた人たちを安全な所へ運んでくれ」
前山の指示で数十人の人が動く。この水に浸かっても前山の言うことを聞くということは、彼らは洗脳されていない。恐らく前山の賛同者。
「誰かは知らないが、やってくれたな」
倒れた人を踏まないようにこちらに歩いてくる。
俺の事を知らないのは《隠者》と《認識阻害》が発動中に出会ったから納得がいくが……。
「その腕どうした」
不自然なことに、歩いてくる前山の左腕は力なく垂れ下がっていた。まるで今の俺のように、腕に力が入っていないようだ。
「よくもまあそんな腕で乗り込んできたな」
「腕なんか必要ねえよ。こっちには仲間がいるからな」
「仲間か。俺だって仲間がいるぞ? しかもお前より多い」
確かに、今立っている人の数は約五十。こちらの十倍の戦力差だ。
「だけど戦えるのは三十人ぐらいだろ? 見たところ《万里土城壁》の土は呪力で作られてる。本来しなくていい維持のために呪力を使わないといけない訳だ。……残りの三十人でどれだけ持つかな?」
彼らの《万里土城壁》の土はこのグラウンド由来の物ではなく呪力によって作られた土だ。こうした
場合存在維持のための呪力がいる。これが元々の使い方である周りの土で作られたものであればそんな手間は必要なかっただろうに。
でもそれも仕方ない。このグラウンドが物理舗装だけでなく呪的舗装されているのが運の尽きだな。おかげでここから持ってこれない。
「さて、話は変わるが……俺達は別に敵という訳じゃない。こちらとしてはお前に異能を授けた奴の事を教えること、そして理事長に異能を返すことをしてくれれば別に敵対する理由はない。いじめの件についてはどうにかするつもりだから安心してくれ」
「……そんな話が信用できるとでも?」
「意見はご尤もだが、《万里土城壁》の上を見て見ろよ。異能者に向けて攻撃してる赤毛の女子がいるだろ。あれは俺の仲間でね。この事態を収束させるために異能者を止めようとしてる」
「……だから敵対していない、と?」
「ああ。こっちの目的は参加者の安全確保とお前に異能を与えた奴の情報。それだけだ。まあ、その為に理事長に異能を返してやって欲しいだけだ」
……さて、交渉してみたは良いけど上手くいくか? あんまり得意じゃないんだよなこういうの。最低でも時間稼ぎはしたいけど。
「仲間をこんなにしておいて、今更何を言う」
前山は移動させられた倒れた人達を見やる。
「そうでもしないと話を聞いてもくれないだろ。そもそも洗脳なんかしていじめ被害者に見せかけるのはお前の趣旨ともズレてないか?」
第二段階移行。これで前山を動揺させれば次の段階で有利になる。
というか、こちらとしては交渉で事態を解決しようなんて考えてない。最初から実力行使の一点
だ。
こんな大規模なことをしでかすには相当な覚悟がいる。そんな相手に今更説得なんて通じない。
もし交渉するならば、学園側の人間──理事長のような幹部級が一人はいないと成立しない。でも向こうは交渉に応じるつもりはないことは先の会話で分かった。
この交渉でやりたいことは気絶した参加者の安全確保。これができないと戦いに集中できない。エリスに頼もうとしたが、これは勝手に向こうがやってくれたからこちらがやる手間が省けた。
後はおまけのようなものだが、前山に精神攻撃をして戦いに有利な状況を作ること。前山が術者であることは状況から確定。
であれば防御に特化した術式では攻撃は不可能。つまり前山は耐えるしかない。そのためには絶対に耐えるという精神力が必要だから、最初にそこを揺らがせる。
そして揺らいだ隙を狙って沈黙させる。というのが今回考えた作戦。
急に考えたから雑だがそこはしょうがないと割り切る。こんなんばっかりですね。
「洗脳? 違うな。俺は胸の中にある感情を呼び起こしただけだ。元々不満が溜まっていたんだよ。表に出さないだけでな」
「だがお前がそうやって引っ張り出したせいでこんな事態を招いたのは事実。それの責任はどうあれ取ってもらうぞ」
「元よりそのつもりだ。だがその前にこの競技で勝つ。その為にもお前らを先に処理してやる!」
前山の身体から呪力が溢れ出す。戦闘態勢に入ったか。
まだ避難は終わってないっつーのに……煽るタイミング間違えたか。
残るは二十人弱、そっち結構優秀じゃないか。
「おいおい前山! まだ転がってる仲間がいるのに本気か!?」
「……さあな。気になるなら早く倒しに来いよ」
……これカウンター狙ってるな。術式にあったかなカウンター系。いや使いようによってはできるかも。
とにかく、カウンターを狙っているということは自分で攻撃できないと推測できる。
「どうした、来ないのか」
うーん煽りよる。間違いなくカウンター狙いだな。確定。
カウンター方法が分かれば簡単なんだけどな。エリスに頼むか。
「エリス、あいつの動き読めるか?」
「そうですね。やってみます」
エリスが目を閉じ集中している。
「……右手を突き出しているイメージが見えました」
ということは《反発》で吹き飛ばす算段か。あれ運動エネルギーも反射するからな。でもそれなら対処できるか。
真正面から行くと腕がボロボロになるだろうから……背後から奇襲するか。
「光明、捕縛準備」
「何かよく分からないけど了解!」
まず《縮地》をして前山の背後に移動する。
「消え──っ!」
気づかれたか。良い反射神経だ。
だが遅い。
「──ふっ」
蹴りで空気を塊の状態のまま打ち出す。
「グハッ……!?」
勢いよく低空飛行した前山はまっすぐ光明に向かっていく。
「そういうこと……っ」
光明の《光輪》によって飛んできた前山を縛り上げる。
「一丁上がりっと」
「《空破》やるなら言って欲しいんだけどー」
「すまんすまん」
先程の技は《空破》。《鳴神流現人神戦闘術》の一つだ。
歩いて光明達の下へ戻る。
「ちくしょう……よくも前山を!」
「あいつを倒せ!」
一部始終を見ていた前山の仲間たちが敵意の視線を送りつつ攻撃しようとした。
その前に《威圧》を使って精神的負荷をかけると、攻撃する前に気絶した。
……その気概は買いたいところだが、今はこっちを優先したい。雑な扱いで悪いが黙っててくれ。
「ナイス光明」
「ちゃんと説明してよ」
光明がむくれっ面で抗議の視線を送ってくる。
「悪いな。でもちゃんと分かってくれたろ」
「それは勿論。マスターの式神だからね」
「あの、お話し中のところ悪いんですけど……緊張感無さすぎません?」
「あー……今回は簡単な仕事だからかな」
術式が使えるとはいえ学生だからなあ。力量測りやすい。
「さて、異能を封印するか」
気絶した前山に左の二の腕から《絶対王制》の楔を取り出す。エリスから「えっ……」というドン引きした声が聞こえたが気にしない。
前山には洗脳の他に理事長の異能を奪った異能がある。今のうちに封印した方がいい。何かの拍子
でこちらの異能が奪われたらヤバい。
という訳で《絶対王制》を差し込──
ドッ!
急に前山から黒い呪力が溢れ出した。
「全員退避!」
咄嗟に距離を取るよう三人に促す。
一体、何が起こった……!?




