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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
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生き残れ! ゾンビパニック④

何とか間に合い青組陣営に到着した俺はちゃんと瞬間移動できた。陣営にいなければ転送されないので、間に合ってよかった。



 次の競技は《迷宮踏破》。俺はどこかの通路に飛ばされていた。



 左右には白い壁。目の前には十字路。振り返れば左折路。



 まさしく迷路だった。



「……さてと」



 この迷路を攻略するにあたって、いくつか考えていたことがある。それを一つずつ試していこう。

その一、壁を乗り越える。



 この壁は高さ約三メートル。ジャンプしても届かないことは分かる。



 なので、壁の材質を触って確認すると、ツルツルした感じだった。成程、壁はよじ登れないように対策はしてあるらしいな。



 だがそれはそれでやりようはある。



術式の中には逃げる時に使う《遁走術》というカテゴリーがある。その内の一つに手足と壁の間を真空にしてくっつく《吸盤(きゅうばん)(あるき)》というものがある。これは壁の材質がツルツルであればあるほど効果を増す。今回にはもってこいの術式だ。



早速《吸盤歩き》を使う。



 ちょっと歩きにくいが、力を入れれば離れる。ペタッと音がするのが難点。子どもがよく履いている歩くと音が鳴る靴を思い出して、自分がそれを履いているイメージが湧いてくるのでちょっと恥ずかしい。



……それは置いておこう。壁に手を当て、くっつくかどうか試してみると……くっつかなかった。

一応確認のため足も押し付けるようにしてみてもくっつかない。



術式が通用しないとはなんて材質だ……と思ったが、これは《箱庭の支配者》の効果だな。現実的に

考えるとこんな材質の壁を用意できるとは思えない。技術的なことではなく物理的な話だ。



……やり方を変えよう。



 今度は助走をつけて登ってみよう。



 左右の壁の間隔はおよそ一メートル。二人並んで歩ける程度の幅だ。まっすぐの助走は難しそうだが、斜めの助走なら行けそうだ。



だが、その距離を稼ぐためのまっすぐな道が無い。まあ対策はしてるよな。



 しかし、これだけ万全な対策をしているならそれ以上はないはず。これは抜け道かもしれない。



 《神風》で推進力を増し、右の壁を蹴り左の壁を蹴る。そうすれば淵が掴めるはず。そしたら勝ちだ。



 ルール的にアウトかもしれないが、《雪化粧》で姿を消せば多分バレない。



 ──よし、やるぞ。



《神風》を発動し、できるだけ距離が長い位置まで移動し、走る。



 まずは右の壁を蹴る──!



 力強く蹴ったことで滑るよりも早く飛び、左の壁を蹴る。



 ──高さは十分!



 壁の淵まであと少し……のところで伸ばした手が何かに弾かれた。



「なっ」



 そのせいで態勢が崩れ壁に激突しそうになるが、何とか持ち直し壁を蹴って地面に降りる。



 ……今のは結界か。



 手の感触はガラスに似ている何かにぶつかった。突き指しなくてよかったよ。



 壁の淵を上から掴もうとしたから、壁の上に結界、いや障壁が張られている。



 まさかここまで対策しているとは。理事長のことを甘く見過ぎていたか。身体強化能力者なら今のできそうだしな。



しかし、これだけ入念な対策をしていると二つ目と三つ目は意味がなさそうだ。



二つ目は壁をすり抜ける。三つ目は壁を壊す。



二つ目は《壁抜け》を使えばできるし、三つ目は《鳳凰鉄扇》を使えば何とか。この狭さだと自分を巻き込むけど。



ならば四つ目。俯瞰だ!



 これは上からの視点で自分とその周辺を見る索敵術《俯瞰》を使って上から迷路を見て構造を把握する作戦。



俺の呪力量の関係で直径四メートルまでしか見れないが、無いよりはましだろう。



そして視界は上からの俺を捉えた。上を見上げると、俺の顔がばっちり見える。ちゃんと機能してるな。



隣の通路も見える。相当入り組んでいるようで全てが見えている訳ではないが、多少有利にはなったか。



 攻略は……地道に歩いて地図を作ろう。出来るだけ方角を決めて歩けば一番外側に行けるはず。神遊祭を元にしているなら多分四角形だろうから、まずはそこを目指そう。



《劣化複製》で方位磁石とマッピング用の紙を作成し、なんとなく北に向かってみる。



いやー《異能工房》で色々作っておいてよかったな。突然必要になりそうなものを片っ端から作った

甲斐があった。



さて、いざマッピングしながら歩き出したのはいいものの……構造が変わるこの迷路では辿り着くのに時間がかかった。途中目の前が行き止まりになるのはもう勘弁して……マッピングも意味なくなるから……。



そうしてやっと外側に着いた。《俯瞰》で見えるのは迷路の外側とその内側にいる俺、そしてそれを隔てる壁。



壁にぴったりとくっつくようにすれば通路の向こう側の壁が見えるはず。それがないってことはここが外と内を分けていることが分かるって寸法だ。



さあ、ここからが本番。ゴールはここにはないが、あとはこの壁に沿うよう意識して歩けばいずれゴールが見つかる……はずだ。ゴールの位置を変えていなければの話だが。



 流石にそんな鬼畜仕様にはなってないと思うけど……こればっかりは確証が持てない。去年参加していればこんな心配をする必要は無かったんだけどね。



 今更後悔しても何も変わらない。大切なのは今どうするかだ。



 方針は決まった後は動くだけだ。



 入り組んだ迷路の中を歩いていく。勿論方位磁石を見ながら。



「あれ、鳴神さんじゃないですか」



「エリスか」



 その途中、偶然にもエリスと遭遇した。これまでも色んな人とすれ違ったが、知り合いと会うのは初めてだ。



「奇遇ですねえ、まさかこんなところで会えるとは」



「そうだな」



「良かったらご一緒しませんか? 一人だと心細くて」



 確かに出口の見えない迷路に一人きりという状況は心細い。俺だってそれは思っていた。急遽参加という形になり、異国の地で頼れる人の少ないエリスだ。心細くなって当然だと思う。



「いいよ、俺も一人は寂しかったしな。こうして知り合いといるだけでも安心する」



「意外と寂しがり屋なんですね。まあそれは私も同じなんですけど」



「そうだな。それじゃ一緒に行くか」



「はい!」



 思いがけずエリスが仲間になった。



「ところで何で方位磁石を持ってるんですか?」



「ああ、これはな──」



 俺の作戦をエリスに伝える。



「成程、それなら上手くいきそうですね」



「ああ、不確定要素もあるけど……これが俺にできる最大かなと」



「……鳴神さん、その不確定要素、無くす方法があると言ったら、どうします?」



 めっちゃ怪しい訪問販売士みたいなことを言ってきた。心なしか悪い顔しているように見えるし。



 だがエリスはこれでも世界最大の宗教団体の幹部。聖職者だ。こちらを騙す意図はないと思う。



「何か策があるのか?」



「私の力を使えば、必要な情報は集まるかと」



 その言葉に恐らく嘘はない。



「こんなことに使っていいのかよ」



「これも試練だと思えば……多分……きっと……メイビー……」



 それでいいのか試練って。最後の方自分でも自信ないんだろ。



「それでですね、もし上手くいったらお願いしたいことがあるんですけど」



 そっちが本命か。



「鳴神さんのことを教えて欲しいのです」



「俺の?」



 なんで?



「はい、鳴神さんのことを調べようとしても分からないことがあったので」



 ストレートな物言いは良いと思う。けど、それやってることストーカーと変わりないのでは?



「どうして俺のことを調べようとしたんだ」



色々と思うところはあるが、一番気になったのはそれだ。



「理事長さんからの情報では分からない点が多すぎたんです。流石に一緒に仕事していく人のことは知っておきたいでしょう?」



エリスの言いたいことは分かる。確かに仕事の上で信頼は最重要だが、そういうのは時間を掛けて理

解していくものではないだろうか。段階をすっ飛ばしているようにも思える。



「俺もそう思うけど、俺にも話せることとそうでないものがあるぞ」



 プライバシーは守られなければ。



「勿論、その線引きはお任せしますし、他言はしません」



「……信用できない」



 出会ってまだ一週間も経っていない相手に、ペラペラと話せることはとても少ない。



「迷路の攻略情報では釣り合わない。他に何かあれば別だけど」



「そうですね、私の本来の仕事についてなら、どうです?」



「アルカナ構成員の捜査以外に何かあるのか?」



 なんとなく予想はついていた。だって宗教団体がテロリストの調査って理由が良く分からかったからな。しかも距離的に極東と呼ばれる国のだぞ?



「ええ、ただし他言無用でお願いします。鳴神さんにとっても悪い情報ではないと思います」



つまり、俺が得する情報ってことか。あんまり思いつかないけど、知っておいて損はなさそうだ。



「それは約束するけど、ここでするのか?」



 お互いに他言無用なことを話すんだ。こんな誰が聞いてるかも分からない、遭遇するとも限らない



迷路で話せるものはこちらにはない。



「勿論、迷路の攻略情報を先にお伝えして、その後情報交換をするつもりですよ。安全な場所で」



「……それなら問題はない、か」



 エリスの本来の仕事と俺の情報。この二つが釣り合うかどうかの判断は俺にはできない。兄さんであれば即座に数値変換して決められるだろうけど、俺にはそんな異能はない。



 そうなると、大事なのは信頼関係だ。お互いに他言無用という条件ならなおさら。エリスは俺の事を信頼していると判断していい。そうでなければこんな話は持ちかけてこないだろう。



判断の決め手は俺がエリスを信頼できるか。それがこの交渉の鍵を握っている。



でも……。



そんな重要なものを他人に握らせるなよ。初心者か。



……もう少し情報が欲しいな。



「エリスが知りたいことってなんだ?」



これが輪郭すら見えていない状況では、こちらが提示出来るものはない。具体的にエリスが何を知り

たいのか。これが決め手になる。



「鳴神さんが所属している組織についてです」



 俺が所属する組織……?



 多すぎてどれのことか分からん。



 三日月の共鳴? 保障局? 現人神連合? 夏原学園?



 ぱっと思いつくのはこの四つ。この中で俺の判断で話せるものが多いのは現人神連合だが……。



何だかんだ言って喋ってダメージが一番少ないのそこだし。あれ同好会みたいなもんだもん。会議を

ファミレスでする組織だぜ? 情報管理? 何それ? レベルだし。



政府的には機密扱いだけど。それは現人神であって現人神連合ではないからな。



一番ヤバいのは保障局。あれ機密とかめっちゃ多いもん。日本三大異能組織だけのことはある。これが来たら一発アウト。お断り案件だ。



……夏原学園はないだろうな。理事長と協力しているエリスなら調べられそうだし。



三日月の共鳴は……ただの零細企業だしな。調べてどうすんの就職すんの? って感じだし。



「それってどこなんだ?」



 考えても分からないので聞いてみよう。



「──現人神連合のことを」



 よっしゃ来た!



「……まあいいけど」



 内心喜んでいるのは絶対に表に出さないように、仕方ないなあという空気を出しつつ承諾した。



「色々気になるところはあるけど、エリスを信用してその交渉乗った」



 もしかしたら損するかもしれないけど、エリスが言えないところは言わなくてもいいと言っていたし、多少の損なら受け入れよう。そうでなければ信用することにはならない。



「成立ですね。では案内します」



 エリスの先導で迷路を歩く。途中通路が変わることが何度かあったが、迷いは一切なく突き進んでいく。



「着きましたね!」



 そうして、一時間程余らせて俺達は迷路を突破した。



「ああ、ありがとう」



「どういたしまして。……それでお話はどこでしましょうか」



 ああ、そう言えば決めていなかったな。



「どっちかの家でどうだ? それなら聞かれることはないだろ」



 俺ん家来るか? とは言えなかった。何か誘っているようで恥ずかしかったから。



そして、エリスの家はどうだ? とも言えなかった。女子の家に行く経験がなく恥ずかしかったから。



なので、エリスに決めてもらうよう促した。我ながら情けなく思う。



「なら鳴神さんのお宅でしませんか?」



「オーケー、じゃあこの後来るか?」



「ええ、お願いします」



 という訳でエリスが家に来ることになった。



 ……何気にクラスメイトを家に招き入れるのは初めてだな。


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