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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
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生き残れ! ゾンビパニック③

『制限時間を過ぎました。競技を終了します』



 そんなアナウンスが学校中に響き渡る。



 そして俺は異能競技場に強制転移させられた。



『それでは只今より昼休憩となります』



 さてと、昼ご飯にしましょうか。



「おい、何をキョロキョロしている」



 この、棘のある低音は……。



「今日は蒼司か」



「なんだ貴様、俺様だと問題があるのか」



 白のスキニーパンツに青のジャケットをしっかりと着ている。なにこのイケメン。



「いや、蒼司自体に問題があるわけじゃないけど」



これで翔鷹と一緒に来てたらまた大騒ぎになるな。《隠者》と《認識阻害》は……ちゃんと発動して

るな。



にしても、任せた仕事の方は大丈夫なのか心配だ。いなかったら不審がられるだろうに。



あ、昼休憩だから別に良いのか。



「フン。まあいい。ついてこい」



 蒼司に促されてついていく。



「悪いな蒼司、案内役なんて」



「貴様の命令なら断っていたがな。今回は俺様自ら志願した」



「何でまた」



 普段の蒼司なら他に任せるはずなのに。自ら動くなんて一体どんな理由が?



「何、ここには人が多いからな。見て回るだけでも中々面白いことをしているではないか」



「つまり、俺の案内はついでか」



「当たり前だ。そうでなければこの俺様が動くか」



「そりゃそうか」



いつも通りの蒼司で安心した。これで俺のためとか言ったら精密検査を勧めていた。神霊に精密検査

の結果出るか知らんけど。



「着いたぞ」



 立ち止まると、そこにはブルーシートの上に座る翔鷹、雷夢、紫苑がいた。その他にも、翡翠が作

ったと思わしき重箱がおいてあり、紙コップも置いていた。



どうやら先に食べ始めていたらしい。



 ついでに人だかりもできていたが遠巻きに見ているだけ。話しかける雰囲気は全然なかった。



「おや、二人ともお疲れ様」



 紫苑が労いに入る。



「紫苑、暑くないのか?」



 それよりも気になったのが紫苑の白衣。長袖のそれは今日の気温からどう考えても暑い。



「確かに普段通りだけど、これは通気性が良くてね」



 紫苑が白衣のタグを見せてきた。コットン百パーセント。



「色々種類があるんだな……」



「白衣と言っても種類は豊富だよ。デザインはそう変わらないが、素材は多いからね」



 そう語る紫苑の顔には汗一つ流れていない。



「まあ紫苑に関してはそこまで心配してないから良いけど……問題は──」



「……何かしら?」



 見るからに暑そうな雷夢の方が心配だ。雷夢は黒のゴシックコーデでめかしこんでいて、元々の雰囲気と合わさり貴族っぽい印象を受ける。



「水分補給はしてる?」



暑そうだけど大丈夫か? と聞いたら全く問題ない、と雷夢の性格上言いそうなので省略した。



「ええ、抜かりはないわ」



 それなら安心だ。熱中症になったら大変だからな。



 ……精霊が熱中症になるかは知らないけど。知らん事ばっかりだな俺。



「思ったよりも早かったっすね」



 紙コップを片手に持つ翔鷹はいつもの作業着だ。



「……おいそのコップの中身、酒じゃねえか?」



「よく分かったっすね」



「酒瓶あるのに気づかない方がおかしい」



 隠しているつもりなのか、翔鷹の背後に酒瓶の口が見えている。



「誰が持ってきたんだそれ……」



「俺様だが?」



「学校に酒持ってくんな」



 大学部のコンビニでも売ってないんだぞ。



「心配するな。そう簡単に人に飲ませるか」



「そういう問題じゃなくてだな」



「俺様が造った酒だ。俺様が認めた奴しか飲ません」



 お前それ、密造酒じゃねえか……



 声に出すと問題なので心の中で突っ込んだ。



 神霊である蒼司が酒造ったところで法律にはひっかからない。法律は人間に適用されるもんだから。



「お前それ、絶対に外に出すなよ」



 神霊が造った酒、しかも水神の蒼司が造った酒なんて人間が作る酒と同じ舞台に立てない。



 そんなものが出回ったら酒造業の人の酒が売れなくなる。市場大荒れ。



「舐めているのか? 貴様と式神にしか飲ません」



「……あっそう」



 それは暗に俺達の事を認めているということである。それは嬉しいが、勝手に酒造ってんじゃねえよという呆れが混ざり複雑な心境を作り出していた。



「それはそれとして、透っちスゲー動きまわってたっすね」



「まあな」



「フン。俺様の主ならもっと目立て」



「そうね、もっと派手に活躍できたのではなくて?」



 蒼司と雷夢は不満そうだ。俺にそんなこと求められても困るんだが。



「あれが最善だと思ったんだよ。現場の判断に任せろ」



「そうっすよ~。あんまり派手な立ち回りは無理っすよ透っちは」



「だがな、俺様を従えている以上それなりの実力を持ってもらわなければ困る。雷夢もそうだろう」



「え!? え、ええ。その通りですわ」



 振られると思っていなかったのか声がどもる。俺もびっくりした。まさか蒼司が他人の意見を聞こうとは。酒を飲んでいたことを抜きにしてもそうそうあるものじゃない。



「感心しているところ悪いが、透のその感想は勘違いだよ」



「何で心読んだ」



「読めるような思考回路をしているのが悪い」



「で、どこが勘違いなんだ」



「雷夢が言葉をつっかえた理由さ」



「他に何があるんだよ」



「それは──」



「紫苑!」



「おっと、お姫様から制止されては話せないね」



 顔を赤くしている雷夢と、軽快な口調の紫苑。



 ……やはり、蒼司の酒が回っているようだ。



 蒼司の酒は、飲んでも顔が赤くなったりしない。見分けるのはアルコールチェッカーを使わないと

いけない。



いつもなら顔を赤くしながら制止せず、優雅にプレッシャーを与えて制止するはずの雷夢や、いつも以上に口が回る紫苑のように、普段とは違う行動を取るのが酔っている証拠。



 だが、周りの人からすればそんなこと分かる訳もなく。



「あの、良かったら俺も一緒していいっすか?」



 中々気難しい式神トップスリー(上から蒼司、雷夢、紫苑)でも、とっつきやすそうに見えてしまうのだ。



「そうねえ……せっかくだしよろしくてよ」



「よっしゃ! お、お邪魔します」



 見た感じ大学生で同じ組の男子が輪の中に入る。この流れ、またか。



「そ、それなら俺も!」



「あの、私達も良いですか!?」



 成功例が出たことで、我先にと人が押し寄せる。皆さん積極的で何より。



「ん? ああいいとも」



「祭りだからな、それぐらいは許してやる」



「こっちにおいで! これ美味しいっすよ!」



 そうなると《隠者》と《認識阻害》によって徹底的に影が薄くなった俺は押し寄せる人の波で居場

所が押し流され輪の外に。



式神達は俺の事をすっかり忘れているようで、お客さんと楽しそうに談笑していた。紫苑の化学話に

ついていける人がいるのか……。



 他にも、蒼司の態度についていける女子や、雷夢の女王気質にやられた男子。この三人は人を選び

そうで、実際そうであったが、その人達が翔鷹に引き寄せられるように集まっていた。チャラチャラしているようでしっかり者だから翔鷹は。



 輪から強制的にはじき出されたことで気が付いたが、昨日より人の集まりが多い。



 これはあれか。昨日の話が広がったのか。『美男美女が誰かの家族で来た』とか何とか。



 多分俺の関係者であることはバレていない。バレていたら朝に誰かが俺に訊いて来てもおかしくな

いのに、それが無かったから。



 ……しかし、俺昼ご飯食べてないんですけど。食べる前に弾かれちゃったんですけど!



 だが文句を言っても仕方がない。言って目立ちたくはないしな。



俺はその場を離れ、売店に向かうことにした。せっかくの翡翠の弁当を食べられないのは痛いが、空

腹のまま午後の競技に出るのは避けたい。次の競技は身体を動かすものではなく頭を使うものだか

ら、脳に栄養を送らなければ。



それにしても、鞄を置かなくてよかった。置いてたら昼ご飯買えなかった。



 なんて考えながらピークを過ぎて人気のない通路を歩く。



「これ、売店行っても売り切れてない……?」



 そんな不安が浮かび上がる。



 しかしいざ売店に行くとまだホットドックが残っていた。

 


早速買って、時間が心配になり食べ歩くことにした。



 丁度、最後の一口を楽しんだ子頃。



「……──、──!」



 言葉にはできなかったが、明らかに人の声が聞こえてきた。その声から察するに、言い争いをしているようだった。



 触らぬ神に祟りなし。関わらないようにしよう。



 俺は現人神なんだけどね!



 なんてしょうもないことを頭の中に浮かべて通路の角を曲がると。



「おっと」



「痛っ」



 出会い頭に男子とぶつかってしまった。



 タスキを見るに赤組の人だ。



「何すんだお前」



「ごめんなさい。こちらの不注意でした」



 雰囲気から察するに二組か一組の人だな。高校生っぽいからもしかしたら同級生かもしれない。



「お、何どうしたん?」



「何コイツ」



 影から緑のタスキの男子と黄のタスキの女子が出てきた。感覚的にグループ組んでそう。



「いやこいつぶつかってきてよ」



「どっちかっつーとお前がぶつかったんじゃね? 後ろ歩きしてっから」



「そうじゃね?」



 緑組の男子が言うと、黄組の女子が同意した。



「あー……すまんかったな」



「いえ、こっちも不注意だったんで」



「お前いい奴だな! 何組?」



「三組ですけど」



「へー、次の競技も頑張りな!」



「あっはい」



 そう言って三人が去っていった。



「……アンタ、三組で良かったね」



「え?」



 去り際に女子が呟いた。



 一体どういう──



「うっ……」



 三人が去った後、うめき声が聞こえて曲がり角を曲がると、そこにはボロボロの人がいた。



 タスキから赤組ということが分かるが、どうしてこうなってたのかは全然分からない。



「大丈夫か」



 すぐさま駆け寄り《外傷治癒》で傷を治す。



「ああ、大丈夫」



 意識はしっかりしている。傷も浅い。すぐに動けるようになるだろう。



「何があった」



「何、いつもの事さ」



「そうだとしても問題だろ。良いから話せ」



 すこし強引だと自覚はしているが、俺の予想通りなら多少強引でなければヤバい。



「……異能者による術者差別。まあいじめみたいなもんか」



 やはりか。さっきの女子が言っていた《三組で良かった》とはこういうことか。



 夏原学園高等部は一学年九クラス。一から五は成績順の先天性異能者で構成され、六から九は成績順に後天的異能者──つまり術者で構成されている。



 これは異能者と術者では同じ教育方針は難しいからだ。生まれ持った才能を伸ばし、質を高める異

能者と、努力して使える術式の量を増やしていく術者。当然同じ教育方針では成り立たない。



 だから異能者と術者ではクラスが違う。そしてそれが異能者の選民思想が色濃く残る一組や二組のいじめを助長する形になる。



ちなみに一、二組の生徒は代々異能者の家系生まれが多い。生まれてすぐ異能の修行を積んでいるため成績が良くなりやすいために自然とこのような形になる。



「とりあえず傷は大丈夫だな。立てるか?」



「ああ、すまなかった」



「お前が謝ることじゃない」



 本当に謝るべきはあいつらだ。



「ありがとう。……なあ、名前を教えてくれないか」



「……そう大したことはしてないぞ」



 普通なら名前を教えるところなんだが……俺の危機感がそれを拒絶した。



「大したことだよ。……俺は前山。よろしく」



「……鳴神だ」



 流石に向こうが名乗った以上、こちらも名乗らねば不作法というもの。



 前山は立ち上がり埃を払う。もう大丈夫そうだ。



「応急処置だから、調子悪けりゃ保健室行けよ」



「ああ、そうする。またな」



「おう」



 前山が去っていく。その後姿を見ても心配はなさそうだ。



 前山が歩いて行った方角は赤組の陣営。それを思い出し、俺も行かなくてはと思い急いで青組陣営に走り出すのだった。


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