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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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現人神とは①

翌日の朝、朝ごはんを食べた後メールで休校の連絡が来た。ドラゴンは斃したが、その後始末の影響で一か月ほど時間が必要とのことだった。



 ドラゴン相手にそんな配慮する余裕は無かったから、結構壊してしまったからな。こっちの仕事が終わったら、ちゃんと謝りに行こう。



「ちょっと出かけてくる。多分一日かかるかもしれないから、昼ご飯はいいや」



 翡翠にそう伝えると、



「分かったわ~。晩御飯はどうするの?」



「うーん……いるなら連絡するよ」



「は~い」



 家を出て、駅に向かい、電車に揺られ……。



 スマホをいじりながら三十分ぐらいして、国民安全生活保障局に到着。



 ここは異能者が社会に参加できるように設立させた行政の一つ、異能者専門の職業案内所。その性質から、異能者の間ではギルドと呼ばれることがある。



 だがその呼び名はあまり浸透しておらず、大体の場合保障局と略称で呼ばれる。



 今日ここに来たのは、明日の依頼と昨日のドラゴンについての報告があるからだ。



 ビルに入り、受付を済ませ、エレベーターに乗り局長室まで移動。



 おっと、携帯電話をサイレントモードにするのを忘れずに。



 エレベーターが付いたら局長室まで行って、扉を三回ノック。



「鳴神です」



「どうぞ」



 向こうの了承を得たところで、扉を開ける。



 局長室にいたのは、スーツ姿の二人。一人は女性で、もう一人は男性。



「おはようございます、鳴神さん」



「おはようございます、七瀬局長」



 男性の方が七瀬泰純。この人が保障局のトップであり、俺の雇い主の一人。



「お疲れのようですが……体調の方は大丈夫でしょうか?」



「いえいえ、体調の方は問題ありませんよ。最近は定時で帰れていますから」



 そう言う七瀬さんだが、やはり疲労があるのか声が少し弱弱しい。



「鳴神、用があるなら早く話せ。局長は多忙の身だ」



 棘がある物言いをした女性。彼女は秘書の朱雀院穂村。



 口調は荒いものの、七瀬さんを気遣ってのこと。それに関しては異論はないが……。



「同じ《十二神将》何だからもう少し態度を改めてくれてもいいんじゃないですかね」



 彼女と俺は七瀬さん──局長直属の部署である未達成依頼処理課、通称《十二神将》の一員だ。



 《十二神将》は局長が認めた人しか所属できない特殊な部署。その役目は、三か月以上経過もしくは危険性が高い、即時対応が必要な依頼を受け持つこと。



 こういう部署があるおかげて、保障局に寄せられた依頼は年間報告で約九十八パーセントを維持している。百パーセントではないのは、年を跨いだ依頼があるためだ。依頼達成率は一月一日から十二月三十一日の間に出された依頼を、その期間に達成された依頼数によって算出される。



 例えば、十二月三十一日に出された依頼を、年を越して達成した場合、その依頼は年間報告には達成と記載されず、受理として記載され、達成したら次の年間報告に回される。



 ちなみに九十パーセントを下回ると特別監査が入る。雇われの俺には保障局の内部事情なんて知ったことではないが、こうして数字に出すことで、国民に信頼して依頼を出してもらうという意図がある。



 《十二神将》という名称は、保障局の信頼を守るという意味でマスコミが言い出し、それに乗っかった名称だ。



 だが《十二神将》のメンバーは十二人もいない。今は十人だけだ。昔はちゃんと十二人いた時もあるし、何なら十二人を超えていた時もあるようだ。



「ならしっかりと職務を全うしろ」



 朱雀院さんは十二神将の《第三位》。俺は《第八位》で、この順位は保障局の貢献度を示している。俺より下の二人は学生だったりつい最近加入したばっかりという理由だが、実は貢献度で言えば俺より上。



 つまり、俺はほとんど保障局には貢献していない。



 故に七瀬さに畏敬の念を持っている朱雀院さんからすれば、『局長が認めてくださったのに仕事をしないとはどういう了見だ』ということで嫌っているのだろう。



 まあ俺の加入事情は単に七瀬さんと俺の義父さんの仲が良く、昔から知っていたからというコネの部分が大きい。それも朱雀院さんの俺に対する態度に拍車をかけているんだろう。



 正直な話、俺がいなくても《十二神将》の仕事は回る。



俺の異能《異能工房(ハンドメイド)》は異能が込められた道具──呪具を作り出すという、呪力具現化系統の異能。特異性を挙げるなら本来製作者にしか扱えない呪具を、俺が創った呪具は誰でも使えるという点だけ。



それを活かせる依頼なんて来ないから、貢献したくてもできない。そもそもそういう話なら俺の本業《三日月の共鳴》に来る。



討魔師として貢献しようにも、この前入った新人が浄化系統という超レア系統で討魔師適正はそっちが上。競っても勝てないのが現状だ。



それでも俺が《十二神将》に残れている理由は──



「まあまあ朱雀院さん。鳴神君はあちこちに仕事を抱えている身ですし、仕方ありありません。それに彼は《現人神》、貴重な人材であることには変わりませんし」



 現人神──それは人でありながら神の力である権能を操れる人間の事。俺が現人神だからこそ、七瀬さんは俺を手放したくは無いんだろう。



 何せ、異能者としては最上位に入る身だ。使う使わないの話は抜きにして、国がそんな危険人物を放っておく訳がない。



「まあ滝川さんがいるから、俺別にいらないんじゃないですかね」



 実は《十二神将》のメンバーに、もう一人現人神がいる。その人は《水神》の現人神で、神様にその素質を認められた《任命型》の現人神だ。



 だからと言って、現人神同士で上下の関係はない。結局のところ、過程が違うだけなのだ。



 ただ、他の要素での上下関係はあるけど。例えば《十二神将》での先輩後輩って関係とか。



「そんなことはありません。滝川君と鳴神君では方向性が違いますから」



「でも俺が必要な依頼って現状あります? 呪具師としての依頼は皆無。討魔師としても新人が入ったから俺の雇用料無駄じゃないですか? 護衛の依頼もそうポンポンと出てくるわけじゃないですし」



 朱雀院さんはまたか、という顔をする。実はこういう話をするのはこれが初めてじゃない。

 だからか、局長は特に表情を変えていない。



「鳴神君は辞めたいのですか?」



「というよりも契約内容変えた方がいいんじゃないですか? 年間契約よりも依頼という形でその都度契約してもらった方がそっちとしても経費削減できるでしょうし」



 七瀬さんは昔から世話になっているし、無駄飯喰らいになって迷惑を掛けたくはないからな。



 それに《十二神将》の仕事は基本的に激務。誰も受けたがらない依頼はともかく、誰も受けられないような依頼の場合、命懸けが前提なものがほとんど。そういう類の依頼は年に一回あるかないかだけどね。



 その際、駆り出されるのは大抵俺だ。貢献度が少なく、他の仕事が無いという理由で呼ばれているが、それは違う。だって俺《十二神将》以外の仕事もあるし、それを合わせたら割と忙しい。そのことは七瀬さん含め他の《十二神将》メンバーも知っている。



 だから本当の理由は──俺が死なないからだろう。



 現人神の特異体質(スキル)に《物質置換》というものがある。



これの効果は《自身の属性と一致するもので肉体を置換できる》こと。


 そして属性は、俺の現人神としての属性である、創造神。



 この場合、《物質置換》によって肉体の損傷を穴埋めできるものは、創造物と、その材料になるため……物質があれば肉体の損傷を修復できる。



物質の形態は問わない。気体であれ、液体であれ、固体であれ……とにかく、瀕死の状態であっても、周囲の物質が集まりだし肉体を修復する。



つまり、どんなに怪我を負っても死ぬことなく元通り、ということだ。とりあえず様子見ってことで出すにはこれ以上の適役はいない。



「まあそう言わずに」



「……まあいいですけど」



 こうは言ったものの、実は半分冗談だ。



 重要なのは、ここから先の展開。



「それはそうと朱雀院さん。この書類を総務まで持っていって貰えますか?」



「承知しました。……鳴神、局長と懇意なのは知っているが、節度を弁えろよ」



「分かってますって。親しき中にも礼儀あり、ってことでしょう?」



「ふん、分かっているならいい」



「じゃあこれを」



 七瀬さんが朱雀院さんに書類を渡す。



「では、行ってまいります」



 書類を受け取った朱雀院さんは局長室を後にした。



「……すみません局長。人払いありがとうございます」



「いえいえ、お安い御用です。それに人払いだけではないですから」



 今の話は、俺が七瀬さんと二人きりで話したいという合図。



 回りくどいが、だからって正直に出て行ってくれとは言いづらい。故にこんな手段を取っている。

 発案者は俺。七瀬さんには俺の我がままに付き合ってもらっている。



ま、本心だけどね! 



「それで、二人きりで話したいというのは?」



「実は、指名依頼が入りまして」



「それで相手は」



「風魔の里からです。それも速やかにと」



「……成程、それは大変ですね」



 風魔の里は、数年前に異能庁と揉めている。保障局は異能庁の内部組織ではなく厚生労働省の下部組織。直接的な繋がりは無い。一応《日本三大異能組織》と括られているからか、やり取りはあるけど。



 それなのに風魔の里と聞いた途端、七瀬さんが大変と言ったのには風魔の里の性質が関わっている。



 それは、風魔の里が《異界》にあること。



 《異界》とは、俺たちが今いる空間から位相が少しズレた場所にある世界。昔は隠れ里とか迷い家とか言われていたらしい。



 そしてその《異界》がどうして厄介なのかと言うと、《異界》の管轄は保障局ではなく異能庁にあること。



故に《異界》に行くには異能庁の許可が無いと行くことができない。これは法律で決まっている。

申請自体は俺でもできるが、そうすると最短一か月はかかる。



理由は身辺調査が必須だから。異界によっては危険な場所もあるため、観光気分で行けるもんじゃない。


特に俺は現人神の身分があるので、さらに厄介な状況になる。何をする気だと疑われまくる。



だが、それだと依頼達成には間に合わない。その手順をショートカットできるのは、俺の知る限りだと七瀬さんと、もう一人。



けどそのもう一人は少しでも動くと日本に影響を与えてしまうため、頼めない。



だからこうして七瀬さんに伝えに来た。



そしてさらに問題なのは、行先が風魔の里だということ。



風魔の里が異能庁と揉めた理由は、異能庁が風魔の里を管理下に置こうとしたこと。その際交渉が上手くいかず、戦闘に発展した。



聞いた話によると、風魔小太郎の頑固さが原因っぽいけど。



それはさておき、仮にも《十二神将》……つまり保障局の人間が異能庁の管轄で、未だ交渉が難航している風魔の里に行きたい、なんて言い出すと、これは保障局が異能庁に干渉してきたという見方をされ、越権行為と思われても不思議ではない。



そうなると、七瀬さんの立場が危ういのだ。



「すみません。無理難題は理解しています」



 実は他に方法が無い訳ではない。



 現人神は憲法上、《特務公務員》という位置づけをされていて、特務公務員法という法律以外の法律が免責されている。



 これは『人間のルールである法律が、神である現人神に適用されるのはおかしいよね』という理由で作られた憲法と法律。



 建前はそんな感じだが、実際は『現人神に暴れられたら人間に勝ち目無いよね。だから優遇して暴れないようにしよう!』という国防上の法律でもある。神様にお供え物をしたり生贄を捧げてご機嫌を取るのと一緒だな。生贄はいらんけど。



 これによって俺は、法律を無視出来るから異能庁の許可を取らなくても問題は無い。大分強引な手ではあるけど。



 ただ、現人神の存在は一応国家機密扱いなので揉み消す必要があり、その責任は内閣府が負うことになる。



 そうなると、これも七瀬さんの立場が危うい。これが理由で政界を去ることもあり得る。というかこれまでこういうことが何回かあったし。滝川さんのせいで。



 七瀬さん、娘さんが大学に入ったばっかりで学費とか稼がなきゃいけないのに失職はマズい。



 七瀬さんには恩義がある。迷惑は掛けられない。



 だが、人命を無視することもできない。



 今、俺が選択できるリスクが少ないのは、この手段しかない。



「いえ、問題ありません」



「え、問題ないんですか? いや、こちらから言った手前ありがたいんですけど……」



 もっと渋ると思ったが、意外にも早かった。



「少し時間が掛かりますが、少なくとも今日中には終わらせましょう。許可が取れ次第許可証を自宅に送ります」



「ありがとうございます」



 俺は七瀬さんに深く一礼する。



「そうだ鳴神君、二つ聞きたいことがあるのですが、時間は大丈夫ですか?」



「はい、問題ありません」



 あ、このためにか? 



「昨日の夏原学園のドラゴンについてですが、斃したのは鳴神君で相違ないですね?」



「ああいえ。俺は足止めしてただけで、斃したのは対魔部隊の方ですよ」



「そうなのですか?」



「ええ。……何か問題がありましたか?」



 七瀬さん、夏原の防衛システムが俺のことだって何で知ってるんだろう。俺言ってませんよね?



「大したことでは無いですよ。対魔部隊の方から不満があったそうですから少し気になっただけです」



「そうなんですか」



 確かに、世間では夏原の防衛システムが斃したってことになってるらしいからな。実際に斃した対魔部隊からすれば、そりゃ納得はいかないだろう。



 でも、そこまで追い詰めたの俺だってこと忘れちゃいないよな? 俺から直接言うことはないが、そこをしっかり考えて欲しい。



「分かりました。その件について一つお伺いしたいことがありまして」



「何ですか?」



「対魔部隊の出動が遅れたことはすでにご存じかと思います」



「確かに遅れてましたね」



 そのせいで俺がドラゴンの相手をしなきゃいけなくなったんだから。ホント何やってたの。



「実は対魔部隊の出動を妨害していた人物がいるそうです」



「そうなんですか?」



 対魔部隊の出動妨害って、一体どうやったらできるんだそんなこと。



「はい。しかし人数も性別も不明で、妨害方法は魔物を使ってのものだったそうです」



「……それって単に魔物が発生しただけでは? それかただの式神か」



 普通、異能では魔物は操れない。



 そもそも異能とは、知的生命体の生存本能と防衛反応を由来とする機能。



 異能の種類は様々だが、基本的には強化系統、言霊系統、動力系統、呪力物質化系統、精神干渉系統の五大系統に属する。



 魔物を操るとなれば、動力系統が近いがそもそも呪力で霊気の塊である魔物は操れない。ヒエラルキー的には、霊気の方が上だから。



 だから、考えられるのは魔物を模した式神。それならば呪力物質化系統で説明できる。



「その可能性もありますが、その時龍脈に異常があったこと、何人もの隊員が魔物の群れの中に人影を見たとの証言、斃した魔物に式神の核が無かったことを考えると、可能性としては無視できないのです」



 それは、そうかもしれない。人造式神には、何かしらの核となる物質が必要だ。それがないなら式神ではない。



 ただそれが本当だとすると、魔物を操れる人間がいるということにならないか?



「鳴神君はそのようなことはありませんでしたか?」



「ないですね」



 キッパリと答えた。ドラゴンを足止めしているときに瘴気産の魔物と戦ったが、別に違和感があるほど変な動きをしている魔物はいなかったと思う。ドラゴンに必死過ぎてうろ覚えだから確証はないけど。



「被害が出ないように周辺にも気を配っていましたが、周りにいたのは野次馬だけで怪しい人物はいませんでしたよ」



 ホント、あの野次馬たちを守るのがね。滅茶苦茶戦いづらかった。さっさと逃げろや。



 しかもその野次馬たちが夏原の生徒なもんだから猶更ね。魔物の危険性ぐらい初等部で勉強してるはずだろ。高等部から入った俺でもそれぐらい知ってんだぞ。



「そうですか……分かりました。朱雀院さんにはそう連絡しておきます」



 もしかして朱雀院さん異能庁に行ったのか。



「それで二つ目ですが、黒木さんのご様子はどうでしょうか?」



「問題なく過ごしてますよ。封印も綻びはありませんし」



 秋奈の封印とは、異能の封印を指している。それが原因で両親から捨てられたので、俺の《絶対王制》という、鎖と楔の呪具で封印している。



 秋奈の異能は《孤高の女帝(ソリデュードクイーン)》という、周囲の人間を自身に近寄らせない精神干渉系統の異能。小学生の頃いじめられていた秋奈は、そのストレスで異能を開花した。

 


だが急な異能の発現により、制御が上手く出来ず親しい人にも異能の効果を受けていた。



 必死に抵抗し秋奈に寄り添おうとする人たちもいた。しかし《孤高の女帝》は秋奈に近づけば近づくほど心身にダメージを負う。それが嫌だった秋奈はやがて引き籠るようになった。



 それでも諦めなかった両親は秋奈に寄り添い続けたが……やがて限界が来て、保障局に依頼を出し、俺が抜擢された。



 その理由は現人神の特異体質の一つ、精神干渉系統を無効化する《不可侵》により、秋奈の《孤高の女帝》を無効化できるからだ。この《不可侵》と《物質置換》は《現人神》の初期装備。現人神なら誰でも持ってる。

 


《現人神》のスキルは現人神に対する信仰、言い換えれば知名度によってスキルがドンドン増えていく。



 当時現人神としては新人だった俺でも、この二つがあるので何とか秋奈に近づけた。



 そういう理由で秋奈の家に着いた俺は、家の中で置手紙を見つける。



 そこには、養子縁組や施設に預けるための書類などがおいてあり、秋奈を助けてほしい、秋奈には両親が捨てたと伝えてほしいということが書いてあった。



 そのことを七瀬さんに伝え、俺は秋奈を説得の末外に連れ出すことが出来た。



 その後の顛末は、俺が秋奈の異能を封印呪具《絶対王制》で封印した。



それと秋奈が懐いてくれたこともあり俺が養子として秋奈の面倒を見ることになったのだ。



 それからずっと、七瀬さんは秋奈の事を心配している。多分年の近い娘さんがいるからだろう。



「そうでしたか。黒木さんも高校生ですし、色々大変でしょうからメンタルケアはしっかりとお願いしますね」



「そんなに心配ですか? 護衛もつけてますし、何かあっても対処できますよ」



「……そういうことでは無いのですが」



「どういうことですか?」



 さっきの答えにおかしなところは無かったと思うんだけど。



 いや、七瀬さんは実の娘を一から育てた経験者。俺が気づかないことにも気が付いているのかもしれない。



「いえ、こればかりは私がとやかく言っても意味が無いですね」



「?」



 それは自分で気づけ、ということだろうか。



 つまり、自分で気が付かなきゃ意味が無い類のものか。成程、勉強になる。



「まあ、それはそれはさておき、鳴神君も体調には気を付けてくださいね」



「俺もですか?」



「ええ、何せ星司と美鶴さんの忘れ形見ですからね」



「それなら俺じゃなく義妹たちを心配してやってください。血縁者はあいつらですし、俺が心配できる余地は無いですから」



 義兄さんと一緒暮らしているからする必要もないかもしれないけど。



……いや心配はした方が良いな。あいつらは何かと暴走しがちだし。



 義兄さんの言うことは聞くのだが、俺のことはガン無視だったからな。



「そちらも、もちろん」



「……あまり抱え込まないで下さいよ?」



 七瀬さんは俺と同じタイプのような気がする。



 具体的には、抱え込んで自滅するタイプ。



 七瀬さんも忙しいし、鳴神家の事情にあまり関わらせていらん気遣いをさせるのも気が引ける。



「それはお互い様ですね」



「……まあそうですけど」



 人の事を言う暇は無かったか。



「すみませんが俺はこれで。まだ用事もありますので」



「引き留めてすみません」



「良いですよこれぐらい。では失礼します」



 俺は局長室を後にした。

 

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