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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
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生き残れ! ゾンビパニック①

日が変わって体育祭二日目。雲が少しあるが気になるほどでもない。



俺は開始まで席でぼんやりと人の往来を眺めていた。昨日の騒ぎ(式神達と賀茂)のことがあったから絡まれたりするんじゃないかと警戒していたけど、実際はそんなこともなくいつも通り誰にも話しかけられずにぼっちを貫くことができた。



《認識阻害》と《隠者》のおかげだな。作っておいて良かった。



それはさておき今回行われる競技は、午前の部の《ゾンビパニック》と午後の部の《迷宮踏破》だ。

ゾンビパニックは三万ものゾンビの群れが襲い掛かり、それを時間制限三時間までゾンビに捕まらないように耐え抜く競技。



ゾンビは人工式神なので反撃は倫理的に問題無し。むしろ推奨されている。一定数のダメージを受けると消えるが、時間が経てば復活する仕組みになっている。だから殲滅はできない。持久力と戦略が試される競技だ。



この競技では呪具の使用はオーケー。実にありがたい。



そして午後の部の迷宮踏破は、神遊祭にもあった脱出ゲームを参考にした競技。選手は部ごとに分かれ、迷路から脱出する。



だがこの迷路は十分経つごとに地形が変化し、ゴール地点と迷路の構造が変更されてしまう。ゴールを見つけたと思った矢先にゴールが消えてしまう、なんてことはよくある話。



けれども本家とは違いバトルロイヤル形式はなく戦闘行為は禁止されている。身体は動かさなくてもいいが、代わりに頭を使う競技だ。



この競技のコツは仲間と協力すること。それがこの競技の勝利への近道だろう。



それはゾンビパニックも同じこと。今日の競技は個人プレーよりも協力プレーが攻略の鍵を握る。



……俺に仲間になってくれる人がそんなにいるかな?



『間も無く競技開始時刻です。選手の皆様はタスキ着用の上お待ちください』



 アナウンスが流れた。そろそろ時間か。



 そう言えば式神達は誰が来るんだろう。家を出るときは一緒じゃないし、昨日と同じ場所でスタン

バってるけど誰も来てないし。



昨日は四人で来たから今回も多分四人で来る。そんでその内の一人は光明か翔鷹のどっちかだ。あの二人は三日月の共鳴でのバイトがあるからな。来るなら交互に来る。



まあ、競技が始まる頃には到着しているだろう。てか来てくれないと困る。昨日のこともあって弁当は式神達が持ってきてくれることになったのだ。今俺の鞄には水筒しかないよ。



『お待たせいたしました。夏原学園体育祭二日目午前のゾンビパニックを開催いたします』

視界が暗転し切り替わる。



一日目のように転移された場所は高等部の中庭。普段俺が昼食を済ませている馴染みの場所だ。



 見渡すと俺以外にも十人程転移されたようだ。組も年もバラバラ。同じ組の人もいるが全然知らない人だ。勿論敵組にも知っている人はいない。



 見た感じではゾンビはいないが、遠くから悲鳴が聞こえているからゾンビ自体はいるのだろう。運が良かったな。



 だがすぐにゾンビはこっちにも来る。来なさそうなところに避難するか。



中庭から見た感じでは校内にゾンビはいない。逃げるなら校内……いや、もしも追い詰められたら逃げ場が無くなるな。《三千世界》や《十二枚刃》は使いたくないから出来る限り術式だけで切り抜けたい。



なら一日目の人生ハードモード(物理)の沿道にあった森に逃げるか? 悲鳴があった方に行かなきゃいけないけど……。



 ……仕方ない。行くか。



 俺は中庭を抜け出し森の方に走り出した。



 そしてすぐ戦闘中の人達を見つけた。小規模ながら各々異能を使ってゾンビを食い止めたり斃したりしている。



 頑張っているところ申し訳ないけど、陽動として利用させてもらおう。



俺は《神風》を発動して戦場を駆け抜ける。時にゾンビを飛び越え、合間を縫って戦闘域を通過。目立つがそれ以上に目立つ戦闘をしている人もいるので大したことではない。



しかし森まではまだ距離がある。森があるのは大学部の敷地。そこまで行ければ後は競技終了までに身を隠せばいい。



「……これはまずいな」



 しかしそんな考えは崩れた。大学部の敷地との境にゾンビが大量にうろついているのだ。……夥しい数だ。そして戦っているのは高等部の生徒と大学部の学生だ。



比率がおかしいなこれ。いくら何でも多すぎる。けれどここを突破できないと森まで辿り着けない。迂回すると逃げ道の確保が難しいし。



突破するには術式だけじゃ……無理そうだな。《神風》の跳躍力ではあの群れを突破できない。合間を縫うような隙間もない。



これは戦うしかないか。



 とは言え術式では戦えない。そもそも攻撃向けのものじゃないしな、術式。



……ならあれを使うか。



 《異能工房》から取り出したるは《鳳凰鉄扇》。赤を基調に中央に描かれている鳳凰が特徴で、振るうだけで炎、風、雷を起こす呪具だ。



広域攻撃に秀でており、威力も中々ある。《剣戟乱舞》とは違い汎用型広域魔物呪具で戦闘ではそこそこ使えるが一撃必殺の切り札ではない程度の威力だが、ゾンビ相手には十分。



けどできるだけ人と巻き込まないようにしないとな。これは人を巻き込まないとかそういう配慮が設計されている訳ではない。普通に使えば確実に敵味方の区別なく被害をもたらすものだ。



──あれ、あそこにいるのは、梅森さん?



 戦況を見極めて《鳳凰鉄扇》使おうと思い観察していたら、戦っている人達の中に梅森さんらしき人を見つけた。眼鏡を掛けているけど多分梅森さんだ。



見た感じ苦戦してるっぽいな。……助けよう。



「《鳳凰鉄扇・風の巻》!」



 《鳳凰鉄扇》を振るい、風を起こしてゾンビの群れだけを吹き飛ばす。これで少しは話せる程度の時間稼ぎはできた。



「梅森さん、大丈夫?」



「な、鳴神君!?」



驚いた様子の梅森さん。俺が現れるとは思っていなかったんだろうな。



「今の鳴神君が……?」



「これのおかげかな」



 梅森さんに《鳳凰鉄扇》を見せる。それを見た梅森さんは表情を変えず、視線をゾンビ達に戻した。



俺は釣られて視線をゾンビ達に送る。奴ら後退はしたが斃すまでには至っていない。だがその足取りはゆっくりで俊敏性がない。



ダメージを受けたから遅くなっているのではなく元々そういう設計、すぐに襲ってくる可能性は低いがこのまま放置するのもいただけない。他の人達も炎出したり電気出したりと戦っている。驚くこと

に同じ組の人はいないけど。



「梅森さん、少し離れていて」



「う、うん」



梅森さんは俺の後ろに身を隠す。



「《鳳凰鉄扇・炎の巻》!」



 《鳳凰鉄扇》を振るい、今度は火炎を撒き散らす。



 ゾンビ達には無防備なその身体に火炎を受け、飲まれていく。



 火炎が収まった頃には、既にゾンビの姿はなくぽっかりと空いた焼け焦げた空間が残るのみだった。



 おおおっ! と周りから歓声が上がる。まだ全滅させた訳ではないんだけどね。



ゾンビの群れはまだいる。出来ればそっちの方に意識を向けて欲しいところではあるんだけど、戦闘

ド素人っぽい人達にそれを望むのは酷なのだろうか。



「お前ら、見てないで手伝え!」



 赤のタスキを身に付けた人が、同じ組の人に向かって言った文句で弛緩した空気がまた緊迫さを取り戻す。



 その言葉を聞いてか他の組の人達も戦闘態勢に戻る。そうそう、その調子。



「梅森さん、戦える?」



「も、もちろん!」



 もう俺の頭の中には森に逃げるという選択肢は消えていた。勝つことも大事だが、その勝ち方も同じくらい大事だ。今ばかりではなくたまには先の事も考えないとね。



《鳳凰鉄扇》を構える。今度は範囲を抑えて一点集中に努める。



一方、梅森さんは眼鏡のブリッジをクイッと指で挙げる。すると眼鏡のフレームの色が金から水色に変わった。



あれが梅森さんの異能……詳しいことは分からないけど、戦闘をするには良い感じの異能なんだろう。でないとここで使う意味はないからね。



「よし、行こうか!」



 範囲を絞った《鳳凰鉄扇》を八の字に振るう。《鳳凰鉄扇・風の巻》と《鳳凰鉄扇・炎の巻》の連続攻撃。交互に行うことでそれぞれの威力を上げる。その分呪力消費が激しいが、効果は出ていて順調にゾンビを撃退できている。



「梅森さん、そっちは?」



「こっちは大丈夫!」



 ふと見ると、梅森さんはゾンビを凍らせていた。範囲は狭く、個別撃破といった感じだ。



他にも目を配ると、ゾンビの数はドンドン減っている。観察するとこのゾンビは火に弱いようだ。



火の異能自体攻撃力が高いということもあるのだろうが、それにしても燃えすぎじゃなかろうか。何かしらの属性やルールが存在するのか? 見た目的に乾燥してるから、そのせいなのかもしれないけど。



原因はともあれ分かれば後は簡単。火属性の異能で屠るだけだ。



 俺も《鳳凰鉄扇》を八の字から左右に振り直し、《鳳凰鉄扇・炎の巻》だけに切り替える。

そうして、皆が一致団結してゾンビを殲滅していく。



 時間はかかったが……何とかゾンビを一掃できた。多分脱落者はいない。



「あ~疲れた」



 周りはゾンビの群れを一掃した達成感か違う組にも関わらず肩を組んだりハイタッチししたりと戦勝ムード。



 こっちにも来たのでハイタッチ。流れで梅森さんともハイタッチ。



「あっ」



 ハイタッチした後にフリーズして少しずつ縮まっていく、そのような錯覚を覚えた。



「えっと……梅森さん、大丈夫?」



 疲れが出ているのか顔が赤い。このまま放置するわけにはいかないな。どこか安全地帯とか、救護

室みたいな場所あったっけ。



「それには及びません」



「うおっ」



突如虚空から現れたのは雨宮さん。普段と同じスーツ姿だが、首から何かを下げていた。



「この方は単にパニック状態なだけです」



「何でそんなこと分かるんですか……というか、さらっと心読みました?」



 おいおい《不可侵》はちゃんと発動してんのか?



「メディカルチェックは欠かさず実施していますから。それと私は普通の人間ですので心を読むのは不可能です」



「そうですか、なら良いんですけど。……ちょっと待ってください。ここにはどうやって?」



「運営スタッフには学園内の瞬間移動を可能にする呪符が配られていますので」



 胸に掛かったケースを持って見せる雨宮さん。その中に入っている呪符が《箱庭の支配者》の恩恵を享受できる許可証みたいな役割があるということか。



 ……くっ、結構いい出来じゃないか。俺の造った汎用性重視の呪符とは違い特化型だから比べるのはナンセンスだろうけど……良い腕してる。まさか他人の異能を他者が使えるようにするとは。でもこれセキュリティ大丈夫なのか?



 俺も式神とそういうことは出来るが、お互いの同意が条件でようやく使用権が与えられるようにするのが精いっぱいだったぞ。呪力はこっち持ちだし。



雨宮さんが使えるってことは呪力費用は綾乃持ちなのか? どういう理論使ってるんだ?



「という訳で、梅森さんはこちらで預かります。心配しなくてもすぐに元に戻りますよ」



「お願いします」



「はい。貴方は貴方でちゃんと楽しんでください」



「……はい」



本当にこの人心読めるんじゃないだろうか。方法は異能だけじゃないからなー。



 そんな疑問は置いといて……この戦いを経て、俺の心境に変化があった。



 逃げるのではなく、戦おうと。



 俺が表立って戦うことはない。目立つのを避けるためだ。



 ……これはちょっと危険な考えなんだけど、戦って楽しかった。相手はやり過ぎても問題がないゾンビ式神だし、レイドバトルのような感覚は普段味わえないもの。逸る鼓動を抑えきれず、謎の高揚感が生まれている。



現人神として、気を付けないとあっさりと人を殺してしまう恐怖と責務。



 今の俺はその感情から解き放れつつある。



 勿論、それを意識することは止められないが……少しは軽くなる。



「じゃあ……行ってきます」



「はい」



無表情の反応だけど、どこか優しさを帯びた声だった。



その声を受けて、気が付いた時には走り出していた。


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