突然の転校生⑤
大学部の探索も終わり、時間も時間なので解散した俺は正門に向かう道を一人歩いていた。
エリスは西口の方が近いらしく送ることは叶わなかった。家の場所知らないし俺に送られても迷惑なだけだろうから気にしてはいないけど。
歩き続け、ようやく正門が視界に入ると、そこの見知った後姿を見つけた。
梅森さんだ。この時間に帰るということは、図書委員の仕事をしていたということだろう。
そう言えば、図書委員会の仕事を休むと言いそびれていたな。クラスも違うし、放課後はエリスの案内で時間が取れなかったせいなのだが、それはそれとして無断で休んだことは事実。謝るべきだ。
……しかし、物事には効果的なタイミングがあるのも事実。ラーメン食べながら愛の告白をする奴は
いないように(多分)、謝るにも相応のタイミングが必要なのだ。
それが今なのか、俺には分からない。それに自分から謝りに行く時にどのような話しかけ方をすればいいのか分からない。何せ物事の重要性は人それぞれ。謝罪するときは、まずそこを測るのが効果的だ。
軽めに行くのか正解か、重く真剣に行くのが正解か。迷うだけで結論が一向に出ない。グルグルと思考が駆け巡り、空回りしているのが分かる。分かるだけで、それをどうすればいいのかが分からない。
「あの、鳴神君?」
「のわっ!」
気が付いたら隣に梅森さんがいた。
どうやら考えすぎて、気付かずに追い付いていたようだ。そんな俺に気づいて話しかけたっぽい。
「ああ、梅森さん。ごめん考え事していて気づかなかった」
「気を付けて、ね? 事故とかに遭ったら大変」
「そうだね。気を付ける」
交通事故に遭ったところで死ぬような身体じゃない。怪我してもすぐに治るが、一般的には大惨事だ。梅森さんの意見は正しい。
「ところで、何を考えてたの?」
おっ、これは謝る絶好の機会!
「委員会無断で休んだから、どう謝ろうかと」
「なんだ、そんなこと?」
白状した結果、あまり重大な感じじゃないっぽい。
「気にしなくてもいいよ。元々仕事がそんなにないし」
「でも……」
「真面目なんだね鳴神君は。大丈夫だよ? 学校の委員会ってゆるいから」
「……梅森さんがそういうなら気にしないけど」
「そうそう、細かいことは気にしない」
正直、梅森さんからそんな言葉が聞けるとは思わなかった。真面目だから怒られると思っていたけど、まさかお姉さん風を吹かされるとは。
労働者として真面目に仕事するのが当たり前だから、こういった生徒としてゆるい生活することとギャップを感じる。
「……それはそうとして、体育祭の組み分け……どうだった?」
「俺は青組だったけど。そっちは」
「わ、私も青組なの」
「そうか、そりゃ良かった」
「良かったって……?」
「流石に仲良い友達と戦うのは気が引けるからさ」
「仲良い……友達……」
梅森さんの空気が突如澱んできた。あ、これ地雷踏んだ?
あれか、仲良いと思ってたのは俺だけで、梅森さん的には全然仲が良くなくて返答に困っているのか!? さっき勘違いするなと言い聞かせたばかりなのに!
「ごめん、男苦手なのに仲良いとか言ったら嫌だよな」
「ち、違うの! そうじゃなくて……」
俺の早とちりか。良かった。
「もっと、深い関係になりたいなって……」
「もっと深い……ああ、成程。俺で良ければ」
「いいの!?」
さっきまで澱んでいた空気が一変、晴れ渡る空のような爽快さに変わる。
「親友ってことだろ? 勿論オーケーだよ」
まさかそこまで親密度が上がっていたとは驚いたが、嬉しい誤算でもある。仕事や立場を抜きにした
交友関係って結構少ないからな。特に損得関係が絡まない関係というのは。
「あ、うん……」
「さて、そろそろ帰らなきゃだし駅まで送っていこうか?」
普段絶対に言わないはずの台詞を言う。それぐらい親友ができたということに対して浮かれているようだ。
「う、うん。お願いします」
そうして、梅森さんを駅に送った。
「それじゃここで」
「ありがとう。あ、ちょっといいかな……?」
「何?」
「鳴神君のクラスに転校生さんが来てたよね?」
「ああ、エリスのこと?」
「……うん」
……何故だ、また空気が重く!
「昨日その子と一緒にいたのを見かけたんだけど……。もしかして彼女さんとか?」
「いやいや違うから。単に学校を案内してと頼まれただけだから」
これはエリスの為にも全力で弁明させてもらおう。
「そもそも出会ってまだ三日だし。それで付き合うことにはならないよ」
「じゃあどうやって付き合うの?」
どうやってとは、また抽象的な質問を……。
「うーん、考えたことないからなあ」
仕事で忙しくて彼女作る暇なんてないし、それに俺成人してるから高校生と付き合うのは社会的にどうかと思うしなあ。
けれど、梅森さんはそんなこと知らない訳で。となると説明には不向き。
「でも、付き合うなら素の自分を出してもいい人かな」
流石に俺の立場を知らずに付き合うのは危険だしな。これでも命懸けの仕事が多い身、それに式神たちの事もあるからその辺の理解も欲しいかな。
「まあ、今の所誰かと付き合うってことはないと思うよ」
そこまでの人なんてどこにでもいる訳じゃないしな。
「……そう」
これで良いんだろうか。嘘は言ってないしこれで駄目なら術式を使うことも考えたけど。
……多分大丈夫だな。良かった。
「気を付けてね」
「はい」
駅舎に向かう梅森さんを見送り、俺は家へと足を向けた。




