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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第三章 体育祭の規模じゃない気がする
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現人神連合③

 「ただいま」

 


行きと同じ経路を辿って家に帰ってきた。



 すると、玄関先なのにリビング──いや、キッチンからいい匂いが鼻腔に入ってきた。



「この匂いは……カレーか」



 答え合わせのためにリビングに向かう。



「ただいま」



 今度は聞こえるように言った。



「お帰りなさい透さん。お昼はもう少し待ってね」



 翡翠が鍋の中をお玉でかき混ぜながら答えてくれた。



 今日の翡翠はいつもの若妻スタイル。白のシャツブラウスにデニムパンツ、それにエプロン装備。



 しかしあれだな。シンプルだと胸が強調される気がする。



「カレー?」



「その通り。よく分かったわね。そんなにお腹減ってたの?」



カレーなのに白の服を着るなんて、随分と挑戦的だな。



「玄関先にまで匂いが来てたからな」



 匂いでお腹減ったから、翡翠は間違ったことは言っていない。



 ただ、肯定すると子どもっぽいかな? と思ったので言い方を変えた。



 理由は定かではないが、俺は翡翠相手だと子どもっぽいと思われるのが好ましくないらしい。



「何か手伝おうか?」


「その前に、手洗いうがいは済ませたの?」



「ああ、してくる」



 外から帰ってきたら手洗いうがい、常識だな。



手を洗うために洗面台に向かう。シンクですると翡翠の邪魔になるからな。まだ作業が残ってるぽいし。



そんな理由で、洗面台で手を洗っていると。



「透お帰りー」



 何も身に纏っていない金鈴が風呂から出てきた。



 洗面台と脱衣所が一緒になっているのは割と一般的だと思うから、少しは警戒心を持ってくれたっ

ていいじゃないか。



「……ただいま」



 お帰りと言われたらこうして返すしかない。



「何やって来たの? 翡翠から出かけてきたって聞いたけど」



「呼び出しだよ。連合の」



「現人神の? 珍しいじゃん。何かあったの?」



「新しい現人神が就任したからその勧誘と実習。まあ、実習に関しては午後にすることになって、これからまた行かなきゃいけないんだけど」



「ふーん。じゃあ髪の毛乾かしてよ。まだ時間あるでしょ?」



時間はあるにはあるとは思う。実習は現人神同士で行う以上、広い場所が必要になる異能庁が持つ実習場所で広い場所は近場でも結構離れているから、連絡が来るまで時間はかかるだろう。



「いいぜ、バスタオル取ってくれ」



「あいよ」



「流石に身体は自分で拭けよ」



「えーやだー」



 バスタオルで前を隠す金鈴。



 だが照れ隠しで隠したんじゃない。これはおねだりアピールだな。



「はあ、仕方ねえ。バスタオル」



「はいよ」



 金鈴からバスタオルを受け取る。



 我ながら甘いとは思うが……別に断るような内容でもないしな。



 それに金鈴は幼児体型だ。触っても興奮なんかしない。ロリコンではないんだよ!



「それじゃまず腕から拭くぞ。上げて」



「はーい」



 肌を傷つけないように擦るのではなくポンポンと押すように水滴を拭き取る。



「じゃあ身体拭くぞー」



「変な所触るなよー?」



 金鈴の背後に回った俺に、金鈴は振り向いて意地の悪い顔を見せる。



「触らないと拭けないだろ」



「やーん、えっちー」



「自分で頼んでおいてそれはないだろ」



 気を取り直して上から下に、腕と同じように拭き取る。



「ん、ありがと」



「じゃあ髪持ってるからさっさと着替えろ」



「はーい」



 金鈴の髪は結構長いので、持ち上げて金鈴が着替え終わるのを待つ。



 先に着替えさせたのは身体を冷やさないため。もうすぐ六月とは言え、油断してたら体を崩しかね

ない。



「終わったよー」



 金鈴は俺のシャツ一枚だけ。つまりいつも通りだ。



 果たしてこれを着替えたと言っていいのか。下着は付けてるっぽいが。



「よし、じゃあ髪を乾かすから、そこに座れ」



 ラタン製の丸椅子に金鈴を座らせ、髪とシャツの間に新しいバスタオルを挟む。そうしないと髪の毛に付いた水滴でシャツが透けるからな。



「はいよー」



 ちょこんと金鈴が椅子に座る。金鈴ぐらいの身長の子なら落ち着きがなく座っても左右に揺れ動くこともあるのだろうが、金鈴はそんなことは一切しない。



「それじゃ拭いていくぞ」



 肌の時と同じように優しく、マッサージをするような手つきで、水気をバスタオルが吸い取っていく。



 それを髪全体に行い、ある程度水気を取った後、



「ドライヤー行くぞ」



「よしきた」



 次はドライヤーの温風で残った水気を吹き飛ばしていく。



 その際に余った片手で髪を梳いていく。いわゆる手櫛だ。



 髪の流れに逆らわないように梳き、髪より少し離してドライヤーの温風を当てる。それを毛先までしっかりした後、今度は冷風で軽く当てていく。冷風を当てるのは寝癖が付かないようにするためら

しい。



 普段から毛先がボサボサな金鈴だが、これは癖毛らしく自分でもどうしようもないのだとか。特に気にしている様子は無かったが、ドアの隙間に気が挟まって痛がってたこともあるので、少しでも癖毛が抑えられれば良いのだけど。



「はい、完成」



「…………」



「金鈴?」



 返事がないので再度呼んでみるも、反応がない。



「……まさか」



 回って金鈴の顔を見ると、目を閉じたまま微動だにしない。



 これは……寝てる、のか?



 気持ちいいようにしようと心掛けたのが裏目に出たみたいだ。



「おーい起きろー」



 金鈴を揺すって起こす。気持ちよく寝ているところを無理矢理起こすのは申し訳ないが、このまま

の金鈴を放っておくわけにはいかないし、せっかく翡翠が作ってくれたカレーが冷めてしまう。



ただでさえ金鈴の髪を乾かしただけで三十分近く掛かってしまったのだ。これ以上引き延ばすのは翡翠に申し訳ない。こういう時、翡翠は笑って許してくれそうだけども、だからと言ってそれに甘えるなんてできない。



「……ん、ああ、あたし寝てた?」



「おはよう」



 運よくすぐ起きてくれた。



「ほら、昼ご飯食べるぞ」



「ふぁーい」



 あくびをしながら答える金鈴。



 ……そう言えば、金鈴はいつも通りの俺のワイシャツを勝手に着ている訳だが……カレーのシミとか、大丈夫なんだろうか?



「金鈴、今日はカレーだってさ」



「ふーん。いいねぇ」



 気分よさげな金鈴だが、俺はワイシャツを汚されないか心配だった。



そんな心配事を抱え、カレーを食べてる最中にも金鈴を観察していたら、暇だからと家に来ていた雷夢に自分に構えと怒られた。




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