異能テスト③
「いい加減教えてもらうわよ」
「いい加減にしてほしいのはこっちだ」
あの後、後半戦でも付きまとわれ、終わっても同じクラスなので教室で鉢合わせ。休み時間にすご
い追及された。
その追及はのらりくらりと躱し、何とか放課後まで逃げきった俺は、委員会の仕事で高等部図書館に逃げ込んだ。
しかし、そこに涼月が乗り込んできた。静寂な平穏が崩れ去った瞬間である。
今ここにいるは、俺と涼月。そして涼月の事が苦手なのか、奥に引っ込んでしまった梅森さんの三人
だ。俺も引っ込みたい。
「仕事の邪魔だから帰れ」
「誰もいないじゃない」
図書館はいつも通り閑古鳥が鳴いている。
「借りる人がいなくてもやることはあるんだよ」
図書委員の仕事は貸出だけでなく、返却された本を棚に戻したり、月一の本紹介の選定、その紹介にポップを作って読書を促したりと色々あるんだ。
「それならあの子にやらせればいいじゃない」
確かに梅森さん一人でもできる量だけども。
……どうすれば涼月は納得してくれるのか。ただの高校生といくら言っても聞く耳持たずだし。
「……全く、せっかくのオフなのに」
……オフ? 何のことだ?
気になるが、今はどう話をはぐらかすかの方が大事だ。
「そもそも、結界の出来だけで何でこんなに突っかかるんだよ」
涼月が、俺が何者か探る原因となったのは結界の出来。だが、結界の出来が良かったというだけでここまで追求するのだろうか? それが分からない。
一応、師匠に教えてもらったという説明を繰り返ししているのにも関わらず、だ。
ちなみにこれは事実である。
「それは……女の勘よ」
それだけでかよ。怖いなあ女の勘!
それが当たってるから尚更怖い。
それはそうとして、女の勘が理由ならそこを覆すのは難しい。
本当、困ったな。何なんだコイツ。めんどくさいな。言葉で言っても分からないなら……。
……いや、ダメだ。落ち着け。
発想が短絡的になってたな。イカンイカン。
依頼の事に触れることなく、俺の正体を明かさずにこの事態を収拾させる方法があるはずだ。
これ以上涼月に付きまとわれると、俺の正体や依頼の事がバレて広がることになりかねない。
それは契約違反だし、俺の流儀に反する。どうにかしないとな。
だがどうする? これまでかなりギリギリなラインを説明してしまった。これ以上は流石に……。
「あら、どうかした?」
「あ……理事長!」
渡りに船とはこのことかもしれない。理事長がやって来たのだ。予想外の登場に思わず本名を言ってしまいそうになってしまった。
「理事長、鳴神は何かを隠してます!」
初めて名前で呼んだな。まあ休み時間に教えたし、知ってるのに呼ばないってのは名家のお嬢様の礼儀ではないだろうしな。
「……落ち着きなさい」
その一言で涼月が黙り込む。
涼月を窘めた時理事長の呪力が一瞬揺らいだ、かもしれない。正直判別が難しく、気のせいレベルなのだが。
「いい? 涼月さん。貴女の疑問は気のせいよ」
あ、間違いなく異能使ってますわ。
「だから、今日は帰りなさい」
「はい」
さっきまでのしつこさは消え、理事長の言葉に従って涼月は荷物をまとめて帰っていった。
「理事長、助かりましたけどあんまり異能使わない方が良いんじゃないですか?」
「助けてあげたんだから文句言わないの」
「文句じゃなくて忠告です。理事長の異能は強力なんですから」
理事長がしたことは、学園内での自分の発言を《箱庭の支配者》で絶対的な命令に変えた。ただそれだけである。
理事長はこの学園内にあるもの全てを支配できる。理事長がしようと思えば。
理事長の呪力がほとんど揺らがなかったのは、既に《箱庭の支配者》が発動していたから。呪力消費
は定点境界のやり方でこの学園の下を通る龍脈から霊力を吸い取れば問題ない。実質、理事長は学園
内で最強の異能者だ。
一応《不可侵》があるから、支配力から逃れることができるけど、勝てるかとうかは分からない。
「分かってる。恋ちゃんから口うるさく言われてるから」
「なら良いんですけど」
「でも、男の子としては嬉しかったんじゃないの?」
「付き纏われて嬉しいわけないでしょう」
「でも、涼月さんアイドルじゃない」
「え、涼月アイドルなんですか?」
「知らなかったの? 結構有名よ」
全然知らなかった。結構有名ってことはテレビに出てるんだろうけど……。俺見かけたことないな。推ししか分かんない。
あ、涼月の言ってたオフって、休みのことか!
「音楽関係とか見てみるか……」
興味はなかったが、知人それもクラスメイトが出ているなら見てみるのもいいかもしれない。出てる
か分からないけど。
「で、理事長は何しに来たんですか」
「何か大変そうだから転移してきたの。異能使って」
だから不用意に異能を使うんじゃありません!
取り敢えず、雨宮さんに連絡入れよう。
背中で携帯を隠し、ブラインド高速タイピングで連絡を入れた。
そしたらすぐに来て理事長を連れて行った。どうやらまだ仕事が終わってなかったらしい。
……確か雨宮さんって異能持ってなかったよな。いくら何でも早すぎじゃないか?
などと思いつつ、俺は図書委員の仕事に戻るのであった。




