ボロボロの帰還③
「あ~~~」
晩御飯を食べ終えた俺は、待望の湯船に浸かっていた。
他の皆は各々やることがあるので完食した後に解散した。
疲れた身体にお湯が染み渡り、疲れが解けていく。思わず寝てしまいそうだ。
ガララッ。
何か聞こえた気がするが、お湯に溶かされたぼやけた思考回路では何の事か分からない。気のせい気のせい。
ハンドタオルを湯船につけ絞り、目に当てる。即席のホットアイマスクだ。
全身の血行が良くなるのを感じる。何だかお湯が柔らかくなってきたような感じさえしてくる。
モニュ。
……何か本当に柔らかくない? そんな感触が手のひらから伝わってきた。ナニコレ?
確認のため、ハンドタオルを取ってみる。
「透様、お身体の方はいかがですか?」
何で真正面に夜鶴がいるんですかね!? しかもタオルも何もない素っ裸で!
というか、さっきの柔らかい感触は……あっぶねえ、夜鶴の太ももか! 一瞬胸を揉んでるのかと思ってヒヤッとしたわ。
いや、セクハラ的には太もももアウトか? 教えて偉い人!
「夜鶴、何で入って来てんの?」
事態を理解したことによって、ぼやけていた思考が一気に鮮明になった。
めちゃくちゃ動揺してるし心臓バクバクだが悟られてはいけない。式神の主としての矜持、間違いがあった時の後の事とかがあるんだ。俺が童貞とバレれば夜鶴は襲い掛かってきそうだし。普段の言
動がそれを物語っている。
ストレスなのか急激な血圧上昇のせいか胃が痛い。多分両方だなこれ。
大丈夫、俺ならできる。義父さんとの修行を思い出せ! 大事なのはポーカーフェイスだ!
ガララッ。
「お邪魔するわね~」
いや何で翡翠までいるのさ! つーか何でバスタオルを巻かない!? そこは巻こうよ羞恥心どこ
に行ったのさ。
「夜鶴、腕を離せ」
「嫌です」
逃げようとしたが、夜鶴に右腕をガッチリ固定されてしまい、逃げることができなかった。これ以上抵抗すると胸が当たりそうで怖い。動くに動けん。
「よいしょっと」
何で翡翠は俺の左横に陣取るんですか? ここ後三人は入れるぐらいは広いんだから、わざわざ俺の横に来る必要ないでしょう?
「……お前ら何で入って来てんの? 常識忘れた?」
「私たちは精霊なので人間の常識なんて知りませんよ」
その口ぶりだと分かっててやってんな。質が悪い。
「私に至っては神霊だしね~」
そういうことじゃないんだけどな……。
「てか何しに来た? 風呂入るなら俺が出た後でもいいじゃんか」
「透様がお疲れのようなので癒して差し上げようかと思いまして」
「私も同じ理由よ?」
なぜその発想に至る。
「いや癒しどころかストレスなんですけど」
胃が締め付けられるようだ。吐きそう。お湯を血まみれにしたくないんですけど。掃除大変なんだ
ぞ。
「それは透様が我慢するからですよ。……しなくていいんですよ?」
「するに決まってんだろ」
俺は先のリスクを無視できるような性格してないんだよ! 誰が針の筵を望むものか!
「私はそういうのはよくわからないけど、ギュってするぐらいならできるわ~」
翡翠は神霊の分霊だからか、性知識に疎い。うちの式神で一番の豊満な胸部をお持ちだが、精神的には一番純情だから危険性は少ない。……こっちが間違えなければ。
「なら私が教えましょう」
「夜鶴、それ以上やるなら契約切るぞ」
危険性を上げる訳にはいかない。強硬策だが切らねばなるまい。
「……分かりました。これ以上はしません」
不満げで納得してくれた。
「それと少し離れてくれないか?」
「いいですけど、透様はまだ回復してないですよね? バスタオル持ってきますから、せめて一緒に入らせて貰えませんか?」
「そうね~。湯船で寝ちゃったら大変だものね」
翡翠の言うことは尤もだ。二人が来なかったら多分寝てたし。
こちらが先に言い出したことだ。二人の要求を飲まないとバランスが悪いな。
「分かった、そうしよう。……ついでに俺のバスタオルも取ってきてくれる?」
「分かりました」
交渉成立。これで危険性は下がった……よな?




