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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第二章 祭りだわっしょい神遊祭!
56/133

Extra Game③


眼前に広がっていたのは、微動だにせず一切の音を発しない観客たち。競技場に立たされた正装の大人達。



そしてその大人達の前に立つ五人の男女。



どこにでもいるような黒髪と茶色の目。異能者特有の色ではない、普通の人だ。



 だが、彼らが異能者であることには変わらない。



「誰だ?」



 大柄な男が口を開く。あれが井上か。



「おや、どうやら魅了に掛かっていないようだが……」



「そんなこと言われましても。わたくしはわたくしの仕事をしただけですよ」



それで三澤に文句を言ったのは小柄じゃないから北村か。でその隣の小柄な奴が櫛名で、黒ドレスが飯塚。



「俺達は国家特務公務員だ。お前ら、加重人質強要罪の現行犯で身柄を拘束させてもらう」



国家特務公務員は、憲法で規定されている現人神の立ち位置のこと。普通の公務員とは違うが、それは追々と。



「成程、現人神というやつか」



 井上がいの一番に反応したところを見ると、奴がリーダー格か?



「ふむ。三人で何ができると?」



「北村、油断するな。相手はただの異能者ではない」



「真面目だねぇ」



やれやれと身振りをする北村。



「大人しくしろ、と言っても通じる相手じゃなさそうだな」



「滝川さんそんなつもりないでしょ」



「まあな。さて、やるぞ二人とも」



「了解です!」



「さっさと終わらせるか」



 面倒事は手早く片付けるに限る。



「はっ、やってみやがれ!」



 北村が突進してくる。動きから見ると狙いは滝川さん。させるかっての!



 俺は《異能工房》ですぐさま液体を作る。



「滝川さん!」



「おう!」



作った液体をすぐさま《万物流転(フロープロデュース)》で操り、北村の突進を食い止めた。



「ちっ!」



「流石透、いい仕事するぜ」



しまった。滝川さんに今は逆神澪だってこと説明してなかったな。ポツリと言ったから聞かれてないかもしれない。そうであることを祈ろう。



俺が作ったのは水銀。滝川さんは異能で液体を操ることができても、液体を作ることはできないの

で、代わりに俺が作ることで弱点を解消できる。



 本当は水銀作りたくないんだけどね。処理に困るから。俺の異空間に置いておこうかな。



「透、山岸! 井上と櫛名を確保しろ!」



「「了解!」」



滝川さんは北村の相手を一人でできると判断したのだろう。俺と山岸は従い他のメンバーに向かって走る。



「行かせるか!」



「そりゃこっちの台詞だ!」



 北村が妨害しようとしたところを滝川さんが水銀を操って進路を塞ぐ。



(千秋! 山岸に繋げられるか!)



(こっちも準備してた。いけるよ!)



 今まで黙ってた千秋の何と頼もしいことか。俺のすることを読んで対策してくれたみたいだな。ありがたいことだ。



(山岸、聞こえるか!)



(えっ、先輩? ナニコレ?)



(それは置いといて、やってほしいことがある!)



 突然の出来事に動揺する山岸を落ち着かせる暇もなく、やってほしいことを伝えた。



(できるか分かりませんが、やってみます!)



(ありがとう)



 山岸ができないと言ったら俺がやろうかと考えたが、その必要はないようだ。



 さて、俺の相手は櫛名道行。井上は山岸を相手にした方が相性的にいいだろう。その為には二人を引き離す必要がある。



「《牽引》!」



 右手に引力を発生させ櫛名を引き寄せる。



「櫛名!」



 井上が櫛名の腕を掴もうとした。



「させません!」



 伸ばした腕は山岸が空間を捻じ曲げたことで届かない。



 俺は掌底の構えをして、射程範囲内に引き寄せた櫛名の腹部を狙って一撃。



 しかし、櫛名と俺との間に突如現れた巨大な本が掌底をあっさり受け止めた。



「やるな」



 掌底を受けても微動だにしないところを見ると、あの本に物理攻撃は通じないようだ。完全に衝撃を吸収されている。



 だが、当初の目的である引き離しは成功した。あとは櫛名を確保し、三澤と飯塚を捕えればいい。もしくは二人の援護とか。



「なるほどね。僕らを引き離して各個撃破って感じかな?」



「鋭いな」



「馬鹿にしないでくれ。僕はまだ十四歳だけど、それぐらい分かるさ」



 十四歳だったのか。それなら小柄というより年相応って方がしっくりくるな。



「知ってるだろうけど一応自己紹介を。僕は櫛名行道。貴女は逆神って言ってたっけ?」



「そうだ」



 よし、どうやら滝川さんの声は聞こえていなかったようだ。



「お前らの目的はなんだ? 身代金ではないだろう」



「あー、分かる? やっぱりカモフラージュにもなってないか」



「質問に答えておうか」



「別にいいよ。僕には関係ないことだし」



 やけに素直に白状したな。何か裏でもあるのか? 



 いや、どうもそんな感じじゃないな。本当に関係ないみたいだ。



「僕らの目的は特にないんだ」



「は?」



「勘違いしないでほしいんだけど、《アルカナ》としての目的はないよ。僕らは個人の目的で動き、利害が一致すれば協力するぐらいの関係しかないから」



「成程な」



 道理でこいつら仲間同士を苗字で呼び合ってた訳だ。心理的距離がなさそうなのは仲間意識が全然なかったからか。



「それで、お前の目的はなんだ」



「僕の目的は間近で戦うところを見たかった、かな。まあ、それも通過点に過ぎないんだけど、これ以上は流石にね」



「それだけ分かれば十分だ。だが、何故こうもあっさりと喋るんだ?」



「質問に答えないのは理不尽だろう?」



 櫛名は当たり前のように言うが、それはおかしい。わざわざ自分が不利になるようなことを言う理由が理不尽だから?



 どう考えても全うな人間の考えではない。



「不思議かな? ここまで話すことが」



「まあな。正直罠だと思っている」



「心配しなくても大丈夫。さっきも言ったけど僕はもう目的を達した。あいつらに協力する義理もない」



櫛名の周りに浮遊する本が開く。警戒し背中から《絶対王制》を見えないように出す。



 パラパラとめくれるページが止まる。



「でも最後まで付き合ってやるのもいいかもね!」



 本から火が立ち上る。その火はまるで意志を持つかのようにうねり、俺を飲み込もうと向かってきた。



「《水門》」



《絶対王制》を戻して水の壁で進路を塞ぐ。



「ならこれはどうかな!」



 今度は雷が襲ってくる。



「《盛土》」



 今度は土の壁で防ぐ。



「まだまだ!」



 次は四方からの雷撃。



「《盛土》!」



 残念ながら《盛土》は《土城壁》とは違い形を変えることができる。つまり動かせるのだ。



触手のように動く《盛土》で迫りくる雷撃を防ぐ。



「この程度か?」



威力はさほどないな。もしかしたら牽制で、狙いは別にあるのかもしれない。



こんなことをしでかす奴の仲間だし、注意しないと。



「いやいや、これからが本番だよ」



パラパラとページがめくれる。次も炎か、それとも雷か、もしくは他の……。



 とにかく、相手の出方が全然読めない。これではこちらも動きが取りにくい。



 ズンッ!



 この振動は……龍脈!?



「あ、実験は終わった?」



「ああ、思った以上に上手くいった」



……なぜ北山がここに!? 



なら、滝川さんが相手をしているのは一体……!?



「そうか、なら時間稼ぎはもういい? 風祭」



 北山の姿がブレ、風祭になっていく。



 ……成程、カモフラージュか。



「ああ、協力感謝するよ櫛名」



「じゃあ僕はこれで失礼するよ」



「っ、待て!」



 いつの間にか止まっていたページが光ったと思えば、そこに櫛名の姿は無かった。



 ちっ、逃げられたか。



 だが、ここに風祭がいるということは、こいつも《アルカナ》の一員ということ。櫛名には逃げられてしまったが、風祭を確保できれば何らかの情報は手に入る。櫛名は風祭に協力していたようなことを言っていたし、無関係ではないはずだ。



「風祭進一、ここで何をしていた」



「何故俺の名前を知っているのはさておき、その質問に答えよう。実験だよ」



「風魔の里の一件といい、君は魔物の実験でもしているのか?」



「何故そのことを? ……いや、君は鳴神透と何か関係があるのかな?」



本人だよ! とは流石に言えないな。何の為の女体化だって話だ。



「まあそんなところだ」



 ここは適当に流しておこう。



「そうかそうか」



 風祭の態度は大して変わらない。割とどうでもいいって感じだな。風魔の里の時とは大違いだ。



「しかし、こちらが押されているな」



 滝川さんと山岸が押しているのは事実だが、決定打に欠けているようにも感じる。特に滝川さんは攻め手にかけている。



 本来、滝川さんは戦闘向けの異能じゃないし、権能が無いと水を生み出せない。今ある水が無くなれば、俺が補給に行かないと危険。それを敵が許すとは思えない。長期戦になったら勝ち目がドンドン薄くなる。



 一方山岸の方は《歪曲空間(ディストーション)》で防御してるから井上の物理攻撃が全く当たらない。が、《空間衝撃波》のモーションのせいで攻撃が読まれている。正に千日手。



どちらも俺が加勢すれば状況がひっくり返る。それは間違いないが、目の前にいる風祭がそれをさせてくれない。



風祭の実力は知っている。討魔師である俺と魔物を操れる風祭とではこちらが有利だが、どちらかの加勢をしながら戦えるかとなると難しい。魔物と人では戦い方が違いすぎる。



ブロロロロロロロロ!



 風祭を凝視していたその時、空から響く重厚な駆動音。見上げると警察のヘリが真上、それも割と近い位置に飛んでいた。



 七瀬さんが間に合わなかったか……!



「邪魔だな」



 風祭が不機嫌そうに何かをヘリに向かって投げた。



 何の変哲もない普通な動き。野球のボールを拾って投げ返す時のような、ありきたりな速度。



 だが、それが異常に変わったのは一瞬だった。



 よく見ると、風祭が投げたのは米粒のように小さい紫色の石。それが膨れ上がり、形が変化していく。



 ──ギャアアアアアアアアア!



 最終的な形は俺が仕事上相手をする──魔物、飛竜型。



 飛竜は一直線にヘリへと向かい、もはや空気の塊であるブレスでプロペラを破壊した。



 あれは……魔石かよ! 霊気を弄れる風祭なら作るのは簡単だろうが、魔物を抑制する研究をして

いた風祭が魔物の核を作るとは思わなかった。



「山岸!」



 名前を叫ぶしかできなかったが、それだけでも山岸は墜落寸前のヘリをどこかに転移してくれた。



 これで一安心。転移されたヘリも恐らく安全な場所に転移させてくれただろう。



「そうきたか。俺としては墜落してくれても良かったのだが」



「良くないですわ」



 人質の影に隠れていた三澤が口を開く。



「墜落したら私たち死んじゃいますわ」



「それもそうだな」



 こいつら協調性が無いと言うか、個人主義が強いな。崩すならそこか。



「まあいい。俺のやることをやるだけだ」



 というか、コイツ《絶対王制》で異能を封じたはずなのに何で魔物を操れるんだ? 封印が甘かったか、それとも仲間に解呪のエキスパートがいたのか。



どちらにせよ、こいつは止めねば。闇堕ちした研究者なんてほっといたら碌な事しないし。



「準備は既に整っている。いでよ!」



 ドクンッ!!



 地面の胎動。またしても龍脈の鼓動だ。しかし、今までのものとは何かが違う。



 警戒していると、視界の端に黒いスライムのような物体を捕えた。



そのスライムは徐々に肥大化していた。



「滝川さん! 山岸! そこから離れて!」



まずいことにスライムは二人の近くで発生していた。あれが何かは見当がつく。



 瘴気だ。



 瘴気は魔物が発する霊力が漏れ出したもの。風祭の準備は整ったという発言から考えると、風祭の実験の目的はあれだ。



 一体、何をする気だ……!



「っふ、ふふ……!」



 瘴気を見ていた風祭が不気味に笑う。



「いよいよだ……もうすぐ宿願が叶う……!」



 風祭の発言も気になるが、瘴気が集まり出している。今は無視だ。



「《煉獄》!」



 《煉獄》は呪的エネルギーを燃やす炎。瘴気も例外じゃない。



 白い炎が瘴気の塊に焼き尽くそうと襲い掛かる。



「させるか!」



 飛竜のブレスが《煉獄》をかき消した。ブレスはただの空気。《煉獄》では燃やせない。



「まさか貴様も使えるとは驚いたぞ。だが、それは見たことがある。すでに対策済みだ」



「ならば!」



 今ならカメラも止まっている。俺は瘴気の塊に向かって走り出す。



「させん!」



 目の前を飛竜が行く手を阻む。



 ──《正純》!



 《正純》を召喚して飛竜を切り捨てる。



「その刀は……!」



 瘴気を吸わないよう息を止め、《正純》に呪力を流す。淡く、そして白く光る《正純》を瘴気めがけ振り下ろす──!



 振り下ろした《正純》は瘴気を斬り裂き、瘴気は霧散した。



「透、やったか!」



 滝川さんと山岸が駆け寄ってくる。



「何とか」



 正直危なかった。連鎖一歩手前まで進行していたし。



「あとはこいつらを捕まえるだけだな」



 滝川さんの視線の先には一か所に集まっている《アルカナ》メンバー。人質を盾にしていないところを見るともう諦めたか。



「っく、くくく……」



 またしても風祭が不気味に笑う。



「……いやはや、こうも思い通りに動くとは! 我ながら自分の才が恐ろしいな!」



「何だと!?」



滝川さんが風祭に怒鳴る。



「……何が狙いだ?」



「狙い? 気になるなら見せてしんぜよう!」



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ!!



 大地の胎動。


 しかし、今までの爆発のようなものではない。波のような持続性がある胎動。



 その原因は、すぐに正体を現した。



 ドバッ!



「会場の……外……!?」



 会場の周辺から間欠泉のように幾つもの霊力の柱が噴き出した。



 合計、十二本。完全にノーマークだった。



「フハハハハハハハ! 素晴らしい、素晴らしいぞ!」



「こんなものいつの間に……」



山岸は驚きを隠せない様子だ。それは俺も同じ。



(千秋、どういうことだ!? 状況はどうなってる!)



(ごめん、《第三者の視点》の範囲外だ!)



流石の千秋でも会場の外は無理か。



 クソッ。こんなの知らねーぞ!?



「山岸、外はどうなってる!」



「どうやら霊力が噴き出してるだけ……。魔物の姿はありません。……すみません。私が会場の外まで把握してなかったから……!」



「気にするな。俺が会場内だけと言ったからな」



 滝川さんが山岸を宥める。俺と会う前に山岸が感知してたのは滝川さんの指示だったのか。



「さあ、最終章の幕開けだ!」



 十二本の霊力の柱が、風祭の言葉に呼応し会場めがけて落ち、集まっていく。



「これは……!」



 霊力が融合し、巨大な一つの塊に変貌していく。



 そして、霊力の奔流が落ち着いた頃には──



「これが俺の最高傑作、邪竜ファブニール!」



 グゴオオオオオオオオオオオオオオオオオ!



 黒き竜の咆哮が大気を震わせる。その振動は身体だけでなく、会場自体が軋んでいるようだ。



 だが恐怖はない。ならば、行ける。



「星見! いるだろ!」



「……そう叫ぶな。聞こえているとも」



 ファブニールの頭の上に立つ風祭の呼び声に応えるように、虚空から一人の老人が現れた。



……あれは、風魔の里にいた老人。そうではないかと思ったが、やはりあいつも《アルカナ》か。



 どうやら星見と言うらしい。あとで七瀬さんに報告だな。



「あいつらの回収を。もう目的は達成してるからな」



「承った」



 すると星見が一瞬消え《アルカナ》の三人と共に、ファブニールの足元に再び現れた。



 ……これで確信が持てた。風魔の里の時、そして今回。



 星見の異能は転移。それも相当にレベルが高い。となると星見自体に攻撃力はなく、機動力に全振

りしてると考えていいだろう。



「ではな、風祭。──武運を」



星見達四人が消えた。



「山岸、あいつらの位置は?」



 風魔の里では追跡できなかったが、今こちらには空間を統べる《時空神》の現人神がいる。



 今は神格を解放していないから万全の状態ではないが、通常でも世界のどこかいるなら感知は可能だ。相当疲れるらしいが、それは不特定の人間の場合で、誰か分かっているなら大して負荷はかからないと言っていたし。



「……すいません。補足、出来ませんでした」



「……何だと? お前がそんなミスをする訳が──」



「いえ、感知はできているんです。ですが──」



山岸は恐る恐る口を開く。



「彼らはここにいます。いや、これは……世界の、どこにでもいます」



 冷や汗を垂らしながら、ゆっくりと、信じられないように山岸はそう語る。



「おいおい、どういうことだよ」



「その疑問には私が答えよう!」



 ファブニールの上で上機嫌そうに言う。



「星見は《隠者》! 故に奴はどこからでも現れ、どこでも消える!」



「……透。あいつの言ってること分かるか」



「分かりそうで分からないです」



 正直空間異能に関してはあまり詳しい訳ではない。転移や結界のことならある程度分かるが、感知については全然駄目だ。



「──成程、そう言うことですか……!」



「山岸、分かったのか?」



「はい先輩。星見という人の異能は世界と同化する異能です。だからどこからでも現れ、どこでも消える。そうでしょう!」



 ビシッ! と風祭に向けて人差し指を差す。



「……探偵みたいになってるぞ」



 俺のつぶやきには誰も反応しない。風に溶けて消えたか。



「フハハハハハハハ! その通り、流石は対魔部隊総隊長。見事な観察眼だ!」



 正解した。



 ……何と言うか、俺集中力切れかかってる? 茶番見せられたような感じで、とても戦闘中の精神状態じゃないんだけども。



 ここは切り替えて、改めて敵を見据えよう。



「なら警戒をしないとな。山岸の感知が働かないとなると」



「その必要はない青髪。星見は人を害することはできん。そういう在り方なのだ」



「そういうもんか」



「いや、あっさり納得し過ぎでしょ滝川さん」



 一応敵なんだから、疑うとか……。



「鳴神、俺の《天地流動》を忘れたか? 嘘ならすぐに分かる」



「……そうでした」



《天地流動》なら嘘を見破れる。真実と嘘を言った時の揺らぎを観測できるんだった。水を操るイメージが強すぎて頭から落ちてた。



 まあ、問題ないと言うのであればそれに越したことはない。そもそも星見が俺達に攻撃できるなら

最初からやってるし。



 はい、この話はおしまい! 次!



「滝川さん、あの竜倒しますよ!」



 山岸が吠える。



「いや無理だろ」



滝川さんが真顔で言う。



「ちょっと何言ってんですか!?」



「だってあんな高純度の霊力で出来た魔物、普通倒せるわけないだろ。専門外の俺でも分かるぞ」



この人、俺が思ってたこと丸々言いやがった! 気にしないようにしてたのに!



「滝川さん、それはそうですけど頑張りましょうよ!」



「いやいや、頑張ってできることじゃないだろ。せめてもう一人現人神がいれば……」



「はははっ! そうだろうとも! このファブニールは俺の最高傑作! そう簡単に退けられるものか!」



 いや、そうじゃない。滝川さんが言っているのは戦力が足りない、ということではなく、現人神がもう一人いなければ全力を発揮できない。ということだ。



俺達現人神は《現人神連合》という組織に加入している。その組織のルールで《現人神状態になるには自分を除いた三人の承認が必要》となっている。



 つまり、あと一人いないとこの場にいる現人神全員、全力を出せないということだ。



 ルールを破ると、異能の制限を受けてしまう。俺の《絶対王制》による封印、一か月前に解いた、あの封印だ。



 俺の場合状況が状況だったからあのような処置だったが、次もそうなるとは限らない。俺も山岸も滝川さんも、それを危惧している。仕事に直結するしな。



「さあ、そこで指を咥えて見物していろ。これが、俺の出した答えだ!」



 風祭の声に呼応するかのように、足元に魔法陣が現れた。この感じだと、恐らく会場全体に広がっている。



「何をする気だ!」



「そういえば、私の最終目標を言っていなかったな。……魔物の完全封印。これが俺の目的だ」



「魔物の、完全……封印?」



「その通りだ。何、発動までまだ猶予はある。暇つぶしに身の上話でも聞かせてやろう」



 風祭はファブニールの頭に座る。



「俺の両親は魔物に殺されていてな。その頃は討魔師にでもなって根絶やしにしてやると研究していたが、その方法では無理だと分かった。何せどこに出るか分からない。

それではどうやっても間に合わないし、現代の科学力では不可能だった。その時だよ。この力、《竿竹で星を打つ(ライジングホープ)》を授かったのは!」



授かった……?



「この天体の機能を我が物にできる方法を使えば、霊力を制御し魔物の出現を起こさせない。そう考え組み込んだ理論を立ち上げた。それがこれだ!」



いきなり立ち上がり両手を天に掲げる。



「このファブニールの高純度の霊力と、六万人分の魂! この二つを使い龍脈を強化し!二度と霊力の噴出、そして魔物の出現を起こさせない! どうだ、これで魔物の被害はなくなる。素晴らしいだろう!?」



「なるほど、ね」



 これで全体像が見えてきた。これが《アルカナ》の──いや、風祭進一の狙いか。



「素晴らしい訳ないでしょうが! どんな理由があったって、人の命を奪っていいことにはならない!」



 山岸が風祭に向かって叫んだ。



「ああ、その通りだとも! 故に俺はこの計画の為に死ぬ。俺の命も勘定に入っているし、その為に飯塚がいる!」



飯塚……あの黒ドレスか! 星見の異能で転移したと思っていたが、まさかここにいるのか!?

だが、どこを見渡しても飯塚はいない。



「そうキョロキョロするな。飯塚の役目はもう既に終わっている。三澤が観客を魅了し人質に取った、その瞬間に──ゴフッ!」



つい先ほど前まで傲岸不遜だった風祭が、急に吐血した。



「……ちっ。飯塚のがもう発動したか。急がねば」



 風祭が俺達を睨む。



「《──告げる!》」



 この発声――詠唱だ。まだ何かする気か!



「《我が願い、掲げるは魔滅! 我の御霊、喰らいて成せ! 人身御供 大願成就!》」



 風祭の身体が発光し、ファブニールの中へ消えていく。



「──グルアアアアアアアアア!」



 そして、置物だったファブニールに命が入ったかのように咆哮する。



 さらに、その咆哮に呼応するかのように瘴気が漏れ出し《連鎖》が発生、次々と魔物が生まれようとしている。



「《空間歪曲(ディストーション)》!」



 観客席をなぞるように結界が展開されていく。



「先輩、滝川さん! 申し訳ありませんが戦闘は任せていいですか!」



 山岸の額には脂汗、姿勢も今にも倒れそうで、呼吸も荒い。



「任せろって!」



「山岸、観客席の方は頼んだぞ」



「勿論です!」



滝川さんと山岸もやる気だ。山岸の方は心配してなかったが、滝川さんがやる気になってくれてよかった。



「滝川さん、ちょっといいですか?」



滝川さんに作戦を伝える。山岸が動きにくい以上、ここは俺の出番だ。



「風祭の作戦の要はファブニールの持つ高純度の霊力と六万人の観客だ。そのどちらかを失えば奴の目論見はご破算だ」



「つーことは、あのファブニールを潰せばいいんだな?」



「はい。《連鎖》で出てくる魔物は俺が何とかします。滝川さんはファブニールを頼めますか?」



「良いけどよ、権能無しであれに勝てるとは思えねーぞ」



 確かに。あのファブニールは夏原で戦ったものとは比べ物にならない霊力の純度だ。討魔師フルセットで戦っても勝てる気がしない。



「それは同感です。ですので、援軍を呼びます」



「援軍って、生半可な奴らじゃ……あ、そういうことか」



 流石、察しが良い。



「来てくれるかどうかは分かりませんが、やってみます」



「透、そこは嘘でも来るっていうとこだぞ」



 呆れ顔で言う滝川さん。



「ちょ、二人ともー! 早くしないと魔物が生まれますから早くしてーっ!」



 息絶え絶えで魔物の発生を食い止めていた山岸が叫ぶ。



 ……早くしないと山岸がぶっ倒れるな。



(お前ら、突然で悪いが出番だ。一分以内に準備しな)



さて、頼むから着てくれよ?


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