三日月の共鳴、出陣④
そして準々決勝。
相手の情報は相変わらず分からない。時々聞こえてくる歓声を控室から聞くだけしかできない。
ほら、丁度歓声が聞こえる。えーと、回数から言って次が出番だな。
そう考えていた時、モニターに報せが表示された。
それをみんなで確認し、転移陣で競技場に向かう。
すでに相手側は来て……。
「んっ……!」
「おいどうした」
「すみません、知り合いがいたもので……」
「知り合い?」
「真ん中の眼鏡と左端の制服着た人です」
「ふーん」
ヤバいヤバいヤバい!
何で兄さんがいるんだよ!
あと何で多智がいる訳!?
「えっと、大丈夫ですか? 呪力が揺らいでますけど……」
心配そうに野々花さんが尋ねてきた。
「何か知り合いがいるってよ」
「ああ、それで……」
察したような野々花さん。それを見た月島さんと千秋も納得したような表情だ。
「大丈夫です。この姿の事は知られていないはずなので……」
兄さんには前に気づかれることはなかったし、多智の前ではこの姿は見せたこともない。だから身バレの心配は無いのだけど……。
「澪ちゃん、二人の異能は知ってる?」
「……あっ、はい。知ってます」
不安と呼ばれ慣れてないので反応が遅れた。しっかりしないと。
「まず真ん中の眼鏡は《数秘系統》の異能です」
「《数秘系統》か……。概念系の異能者は厄介だな」
「主な異能は《黄金比率》。数値で表されるものであれば、数値を介することで現実を一定時間書き換える異能です」
この一言で野々花さん以外の雰囲気が変わる。
「おいおい、そりゃないだろ……」
「……強敵ね」
「いや勝てないでしょそれ」
「え、どういうことです?」
野々花さんだけ分かってないので説明すると。
「兄さんは戦闘においては補佐になりますが、使い方がえげつない。《黄金比率》で敵味方の《数値》を操作して能力値を改竄します。つまりこちらの防御力を限りなく低くしたり、逆に向こうの攻撃力を最大限上げたりすることができます」
「要するに、あの兄ちゃんがいる限り俺達の攻撃力と防御力は駄々下がりってわけだ。逆に向こうは鰻登り」
「じゃ、じゃあどうするんですか!?」
「能力の隙を突くしかねえな。これだけ強く応用が効く能力なら分かりやすい弱点があるはずだ。そうだろ?」
「はい。《黄金比率》は操作する対象の数値を把握しないと発動せず、また限界値が存在しそれ以上を超えることはできません。一応数値を測定する《能力測定》という異能もありますが、正確な数値を出すために時間がかかり即時性はありません」
「なら短期決戦だな」
「……そうとも言い切れません」
「何だと?」
「あの制服の少年は──」
名前を言う前に試合開始のブザーが鳴った。説明する暇もないか。
「とにかく、俺は白髪眼鏡をやる! 援護しろ!」
「分かったわ」
日鳥さんは突撃した。それを見た相手はこちらと同じ陣形を取る。
やっはり多智と兄さんはセットか。そして前衛は音無君と戦った倉敷達也。彼が日鳥さんを正面から迎え撃つ。
兄さんがいるってことは、相手は全員異能庁職員と見ていい。多智がどうかは分からないが、用心するに越したことはない。
「ぐっ……」
「ほう」
どうやら日鳥さん劣勢。パワーは向こうが上っぽい。
それを日鳥さんも分かったらしく距離を取った。
「《重圧》!」
「これは……」
月島さんが《重圧》を掛けて動きを鈍くする。
「今よ直和君!」
「応よ!」
鈍くなった倉敷に向かって日鳥さんが殴り掛かる。
が、
「っ!?」
日鳥さんに謎の光線が襲い掛かる。寸でのところで回避できたが、その隙に《重圧》が無理矢理弾かれた。
光線は相手側の異能、恐らくあの松葉色の少女からの攻撃だ。今のは援護射撃と言ったところか。
それにしても、遠距離型か。倉敷は日鳥さんと月島さんで対処できると思う。だが、そこに相手側が増えるとかなり難しい話になるな。
先に狙撃手を抑えておくか。
「日鳥さん、月島さん。ここは任せます! 私は他を!」
「行ってこい!」
「頼んだわ」
まずは狙撃手と、その横にいる護衛と思しきもう一人の女性の排除。
「野々花さん!」
「は、はいっ!」
「出番です。思いっきりやっちゃってください!」
「分かりました!」
「千秋!」
「分かってるって! 《第三者の視点》、《五感共有・思考接続》!」
これで味方全員を繋ぎ、戦況を見渡せるようになった。
「《神風》!」
《神風》で移動速度を上げ松葉色の女性に突撃。途中光線が飛んでくるも難なく躱す。
「はっ!」
「くっ!」
目の前まで接近し蹴りを入れるが、読まれていたのか腕でガードされた。ただ《神風》の推進力が
あったから衝撃を受け止めきれず少し後ろに後退した。
「術式……。そうか、あんたらは術式を開発した組織だったわね」
「組織ではなく、企業と呼んでもらいたいがな」
兄さんの解析が終わるまでの時間稼ぎのつもりか? 悪いがそれに乗ってやるつもりはない。《能力測定》が終わる前に兄さんを倒さないとこっちの負けだ。
「真城ちゃん、援護入るわ!」
もう一人の女性が割り込んできた。
二人から距離を少し空け、再び攻撃。対象は真城ちゃんと呼ばれた少女。
《神風》は推進力を得るだけではない。風を纏うことで防御力を上げ、簡単な風による術式をノーモーションで発動可能だ。
「《属性放出)》!」
真城が叫ぶと人差し指から光線が出た。
だがそれがどうした。俺はあんた達の相手をしている暇はない。
光線を避け、後ろの野々花さんを確認。よし、この距離なら間に合う。
「《蒙霧》!」
呪力を霧に変換。本来徐々に広がっていく《蒙霧》だが、《神風》を発動中であったことで一気に広
がっていく。
《蒙霧》と似た術式で《濃霧》があるが、これとの違いは幻術要素があるかないか。目くらましと時間稼ぎには丁度いい。今頃俺の幻影とにらみ合っていることだろう。
(野々花さん。ここはお任せします)
(私で良いんでしょうか……)
(大丈夫ですよ。《蒙霧》で観客からは何やってるかは見えませんし)
(いえ、そういうことではなくてですね。相手の方は……)
どうやら自分の異能を人間相手に向けることに抵抗があるらしい。悪霊には容赦ないのにな。
でも、それは野々花さんの優しさだし、野々花さんの長所だ。
(あまり気が乗らないようなら時間稼ぎに徹してください。《蒙霧》は野々花さんの意志が反映するように設定しておくので、自由に使ってください)
(そんなことができるんですか!?)
(これでも術式開発者ですから。では任せます。何かあったら教えてください)
(はい! ありがとうございます!)
これで二人の足止めができる。後は多智と兄さんの相手を俺がするだけだ。
《蒙霧》から抜け出し、二人の姿を捉える。
先に相手するのは多智だ!
「《反発》!」
まずは二人を引き剥がしにかかる。
が、
「《前衛反撃》!」
至極冷静に《反発》が返され、逆に俺が吹っ飛ばされた。予想通りだったので威力弱めにしといたから大してダメージはない。
俺が教えた通り以上に成長したようだ。教えたことなんて基礎程度だからこれで師匠面するのもどうかと思うが、中々感慨深いな。
「あ、貴女はあの時の」
「え、恭也さんまた女性引っかけてきたんすか?」
「その言い方止めて村津くん! 僕が女たらしみたいじゃないか!」
「え、違うんですか?」
「違うよ!」
いや、多智の言う通りだろ。何で視線を合わせてもいない人の顔覚えてんだよあんた。
「それはともかく、そこの女性の方! 手加減はできないんで覚悟してくださいっす!」
何か知らんが多智がいっちょ前に紳士ぶってるな。
「それはこちらも同じこと。気にせずかかってくるといい」
「よろしくお願いします!」
どうせそっちからは攻撃してこないだろうに。
多智の異能は《反撃》。いわゆるカウンターだ。よって自分から攻撃しなければ何の害もない。俺の狙いはあくまでも兄さん。鳴神恭也その人だ。
しかし、多智が兄さんの護衛役に徹しているこの状況では兄さんに攻撃は通らないと考えていい。最悪の場合、《黄金比率》で強化済みかもしれない。
突破の方法はいくつかある。一つずつ試す時間がないのが残念だ。
方法、一つ目。
「《神風》!」
二人の周囲を、推進力を上げた疾走でどの方向から攻撃が来るのか分からなくする。割とGがかかって身体がちょっと辛い。それもすぐ慣れたけど。
近距離攻撃をする前に牽制として呪放弾で弾幕を張る。
呪放弾は異能ではない技術。呪力を異能として使わず、呪力として放出する、呪力制御ができれば誰にでも出来るが、速度は遅く攻撃力は低い。
(これが少しでも当たれば、異能を封じられる)
だが狙いはそこではなく、当たった後だ。
呪放弾に使う呪力は《氷》。抽出した性質は《封印》。
これにより封印効果のある呪放弾が作れる。呪力制御の一種、呪力性質抽出だ。
多智は呪放弾の攻撃力が低いことを知らないのか律儀に《不可視の護謨膜》でガードし続けている。
それとも本能時に危機を感じているのかな?
跳ね返ってくる呪放弾を避け放ち続ける。
……そろそろいいだろう。
(──《星穿》!)
《星穿》を使う。約二・五メートルの金色に輝く直槍だ。 これを両手で持ち多智を貫く。
《前衛反撃》はその性質上、一方向からの攻撃しか反射できない。呪放弾飛び交う中、こちらを真正面から捉えようとすれば呪放弾が当たり、異能が発動できない。そうなればその隙に《神風》の推進力を得た《星穿》が当たる。
とりあえず多智は脱落……と思った矢先。
「《球体反射》!」
多智を中心に隣にいた兄さん以外吹き飛ばされた。
命中を確信していたせいで全力を出してしまいもの凄い吹っ飛ばされた。運よく呪放弾は当たらなかった。もし当たっていたら《神風》が解けクッションにならなかった。いやホント危なかった。地面で擦り下ろされるかと思った。
というか、俺はてっきり《前衛反撃》で呪弾を防いでいたと思っていたけど、どうやら《球体反射》で防いでたっぽいな。
《神風》を解いて再度《星穿》を構える。向こうは相変わらずの棒立ち状態。
先程の異能は俺が教えた時には習得していなかったものだ。情報が古かったな。でも、そのせいで
今度はあれをどうにかするしかなくなったわけだ。
全方位型カウンターとかどうやって対処すればいいのかさっぱりわからん。他の方法の大部分は今のカウンターには通用しないし。
「おい、こっちは終わったぞ」
背後からの声に警戒心マックスで振り向くと、倉敷がいた。咄嗟に飛び退け《星穿》の切っ先を倉敷に向けるが、当の本人は全く変化がない。
「どうやら向こうは相打ちのようだが」
倉敷の言葉に《蒙霧》を見やると、《蒙霧》はきれいさっぱりと消えておりそこには誰もいなかった。
《蒙霧》は野々花さんの呪力と同期するよう設定していたから、野々花さんが脱落したのは確実だろう。だが、他の二人が脱落したとは言えない。
相手さんの内のもう一人の女性は異能も何も知らないのだ。もし隠形系の異能だったら隠れているだけかもしれないし。どちらにしろ、楽観できる状況でもなければ気を抜ける状況でもないのは確かだ。
「倉敷さん、お疲れ様です。こちらはもう解析終わりましたので」
「そうか。なら早くやれ」
これは分が悪いな。だが諦める訳にはいかない。こちらにはまだ千秋がいる。
(千秋、戦えるか)
(いや僕に戦闘を期待されても困るんだけど)
(そう言えばお前姿が見えないけど)
(《雪化粧》で隠れているだけだよ)
千秋《雪化粧》使えたのか。知らなかった。
と、感心している場合でもない。千秋は戦闘には参加できる程の力はないから、俺がどうにかするしかないことには変わりないのだ。
「いやあ僕戦闘とか無理なんで」
嘘つけ《神格刻印》使えば一撃だろうに。
「なら俺がやろう。異存はないな?」
「できるだけ丁寧にお願いしますよ。異能庁代表で来てるんですから」
「善処する」
「……ああ、これやらないパターンだ」
話を聞く限り、手加減してくれるような相手ではないようだ。それも女性だからとかじゃなくて、多分手加減とか苦手な人だ。
倉敷のことは音無君との闘いを見て調べた。倉敷の所属は異能庁の異能犯罪対策部。その中でも一流の戦闘能力を持つものしか所属していない異能取締課のエース。
今回は手加減してほしかったなあ! 制限時間五分で後二人は確実に脱落させないと勝機が見えないんですけど!
……仕方ない。やるしかないか!
「闘気が澄んだな。迷いは拭きとれたか?」
「お心遣い感謝する」
「何、同じ武の道を歩む同士のよしみ、という奴だ。それに、相当な実力者と戦えるのは稀だ。存分
に楽しませてもらう」
「……未熟な身で良ければ相手を仕ろう」
実際、俺の武術というか戦闘技術は鳴神流を基盤にしているがほぼ完全な我流だ。それが一流にどれだけ通じるか。槍を構える手に思わず力が入る。
「来い」
「ではお言葉に甘えて!」
《星穿》の鋭い一撃。音もなく、予備動作を徹底的に削いだ動きは倉敷の胴体を貫く、と思いきや倉敷はそれがどうしたというように最小限の動きで避けていた。
でもそれは予想通り。最初から一撃で沈められるとは微塵も考えてない。狙いは次、刺突と薙ぎ払いの光速連続攻撃!
ヒュ、ザッ、ヒュ、ヒュザッ──!
不規則な組み合わせで相手に慣れさせず、攻撃のリズムも変える。
が、それをしても倉敷はのらりくらりと見事に避けきる。
当然避けるだけでなく攻撃をしてくるが、その一撃一撃がとても重い。《衝撃拡散》を使う暇もなく、《星穿》で何とかガードしているがこちらが不利。
状況をひっくり返すため《星穿》の能力を発動したくなって気が抜いてしまったその時、倉敷の一撃をガードできず腹部に喰らってしまった。
「ぐっ……!?」
吹き飛ばされる程の威力ではなかったが、隙を作るのには十分だった。
ガァン!
《星穿》を持つ手を蹴られ、《星穿》が宙に舞う。
「《障へ──》」
前面に《障壁》を展開し次の攻撃に備えようとした。
「ふっ──」
しかし、《障壁》を展開する前に再び殴られ、吹っ飛ばされる。
「がは……っ!?」
肺の中の空気がすべて吐き出され、受け身も取れずに競技場をゴロゴロと転がる。
……何だあのスピード、人間業じゃねえぞ。
もしこれがルール無用のガチ戦闘だったら、今の俺では瞬殺だった。もし全力を出していたとしても勝てるかどうかわからん。負ける自信はないけれど。
(透!)
(……今は澪って呼んでくれよ)
(それどころじゃないだろ馬鹿! 無事なのか!?)
(骨は何本か折れたし、この痛みだと内臓がやられたっぽいな。まあ結界の外に出たら治るし。心配いらんよ)
倉敷の攻撃は確かに人間業ではなく、言うなれば達人技。鍛え磨かれた力ではあるが、それでも人間の枠組みから外れていない。俺が多少戦えたのがその証拠だ。
なんて、指一本も動かすこともできない無様な状態で分析してみる。というかこれしかできない。
「……渾身の一撃だったのだが、まさか意識が残っているとは驚きだ。死んでもおかしくないはずだったのだが」
「……生憎と、頑丈な身体でな」
全身の痛みを堪えながら声を出す。呼吸するたびに激痛が走るが、そこはほら、返事をしないのは失礼だし?
……というか、そんなものを人にするな。俺でなければ死んでるぞ。
「ああ、恭也に見せてもらったよ。貴殿の耐久数値は判定不能だった」
そりゃこっちは曲がりなりにも神の肉体、それも創造に特化した肉体だからな。耐久力とかで測定できるレベルじゃないし。異能者認定証明書に書かれてるやり方じゃ判定できないぞ義兄さん。
「それでもこの様だがな」
「いや、大したものだ。俺が一撃で仕留められない人間は数えるほどしかいない」
「……トドメは刺さないのか?」
「もう時間切れだ」
その言葉を待っていたかのようにブザーが鳴る。
勝者は……相手側だった。
まあ、当然だな。相手の方が人数多いし。
「転送が終わる前に、名前を聞いておきたい」
「……逆神澪」
「俺は倉敷達也だ」
知ってるつーの。
毒づく前に、俺は控室に戻っていた。




