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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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ボロボロの帰還②

「さて、依頼についてだけども」



 リビングに勢揃いした同居人で、依頼について話し合うこととなった。



 ただ、依頼を受けることは確定しているので、細かな内容の精査と打ち合わせがメインだ。



「今回は風魔の里の長、風魔小太郎からの依頼で魔獣を斃して欲しいとのことだ」



 風魔に目配せすると、風魔は顔を真っ赤にして目をそらしてしまった。気まずいとは思うが、仕事だから我慢してくれ。俺もするから。



「詳しい話は風魔の里に行って、依頼主である風魔小太郎から直接聞くってことで良いんだよな」



「は、はい。そうです」



 声の調子から緊張していることがわかる。そんな緊張することないんだけど、風魔にとってはそうもいかないらしい。



 気持ちは分かるけどね。何せ人間どころか生物の上位種、星の代弁者こと精霊種ばかりだし。さっき簡単に自己紹介を済ませたらこの調子だ。気を損ねたら瞬殺されてもおかしくない。そんなことさせる気はないけどね。



「ということで、メンバーの確認をしたい」



 魔物退治なら俺一人で事足りるのだが、魔獣となると勝手が違う。しかも人ベースの魔獣なら殺すわけにはいかない。生け捕りが大前提となる。



「とりあえず紫苑と」



「私かい?」



「お前がいる前提で作戦組んでるからな」



 役割分担は大事だしな。



「そして紅葉(くれは)で行く」



「え、あたし?」



 名前を呼ばれ振り向く紅葉。振り向きざまに短く、炎を連想させる程赤いツインテールが揺れる。



「編成は俺が前衛、紅葉がその援護、紫苑は捕縛した後の対処を頼む」



「成程。私は魔獣となってしまった人の霊力抜きという訳だね」



「ああ。できるか?」



 この作戦の要は紫苑。俺と紅葉で魔獣を拘束したとしても、紫苑の薬が無ければ後遺症なく人間に戻すのは不可能だ。



「私を誰だと思っているのかな? 無論、できるとも」



 自身たっぷりな表情。そうでなくては困る。薬学や化学物質に関しては、俺より上の紫苑だ。できなかったらどうしようかと思ってた。



「そうか。ならよろしく頼む」



「任せたまえ。とはいえ、準備には時間が掛かる。明後日の朝までには仕上げるつもりだが、それでいいかい?」



「分かった。出発は明後日の朝九時ごろでいいか?」



「私はそれでいいが、紅葉君はどうだい?」



「あたしはいつでもいけるわよ。むしろ透の方が大丈夫なの?」



 心配そうな顔でこっちを見ている紅葉。



 心配の理由は、俺の疲労が見抜いているからだろう。目が良いしな。



「しっかり休めば大丈夫だ」



 回復速度は速い方だから、一晩しっかり休めば翌朝には八十パーセントは回復していると思う。そのためには早く風呂に入りたいけど。あの騒動で、結局入れず仕舞いだからな。



「ならいいわ。あたしの足を引っ張らないように」



 言葉と態度はきついが、何だかんだ優しい紅葉であった。



「大丈夫ですよ紅葉さん。透様は肩書きが多すぎてどれを使っていいのか迷うぐらいのすごい人ですから」



 夜鶴の言う通り、肩書きを全部名刺に入れようとすれば自分の名前を書く場所が無くなるぐらいはあるけど。それフォローになってんるですかね?



「そんなこと分かってるわよ。あたしが言いたいのは、そんな状態で大丈夫かってことよ」



「確かにフラフラ気味だけど大丈夫。一晩休んで準備を整えたら何とかなるからな」



「ホントふざけた体質よね。現人神だっけ? 御大層なもんよね」



「紅葉、そのことは……」



「あっ……」



 一応それは禁句と言うか、国家機密だ。式神や養子、家族になら問題ないと言われているが、ここ

には部外者がいる。



「現人神? 何ですかそれ」



 やはり食いつくか。そこは聞き流して欲しいところなんだけどな。場合によっては、二度と太陽が見れなくなるんだし。



「それよりも風魔、お前泊まるところとかあるのか?」



 どうにかして話題をずらす。



「野宿するつもりですけど」



「いやそれはダメでしょ」



 紅葉が返す。



 失態は自分がカバーするということなのか、紅葉はこちらにアイコンタクトを送ってきた。



「そうですよ! 夕夏さんのような可愛らしい子が野宿なんてしてたら襲われますよ!?」



 そして夜鶴の援護射撃。



「でも私人間相手なら強いですよ? 今までもそうでしたし」



「いやそういう問題じゃなくて、お前に何かあったら依頼どころじゃないんだよ。今日明日はうちに泊まっていけ。客室あるから」



 それに襲われて返り討ちにしたとしても、それはそれで事件だ。そっちの対応に追われて依頼ができませんとか、そんなことをしている暇はない。



「ちゃんと体調整えなきゃダメよ。別にお金取ろうなんて考えてないから。そうでしょ?」



 俺、紅葉、夜鶴が風魔を言いくるめる。



「ああ。しっかり休まないといざという時に動けないぞ」



「そう、ですね。分かりました。お言葉に甘えさせていただきます」



 よし、これで話題は逸らしたな。あと一押しあれば……。



「皆さん、ご飯が出来たわよー」



 良いタイミングでさっきまで晩御飯を作っていた緑の三つ編みが特徴の式神、翡翠がカレーを持ってきた。ナイスタイミング!



「ご飯できた?」



 そしてさらに、俺の養子の秋奈がリビングに入ってきた。左目が黒髪で隠れているから表情が読みにくいが、お腹が減っていることは間違いない。



「今出来たところよ。配膳手伝って貰えるかしら~?」



「もちろん」



 秋奈はすぐさまキッチンに向かい、翡翠の手伝いに入った。



「……あの方は?」



 よし、興味が秋奈に向いたな。秋奈には悪いが、利用させてもらうぞ。



「秋奈は俺の養子だ。ちょっと複雑な事情があってな」



 とは言え、流石に事情を本人の許可なしに個人情報を喋るのはダメだろう。必要な分だけ使わせてもらおう。



「そうなんですか……」



 風魔の秋奈を見る目が柔らかくなったな。



 これは、現人神のことが頭から抜けたと見ていい、のか? 俺が精神干渉系統を得意としていたら、こんなことで悩む必要も無いんだけど……適性が無いもんはしょうがない。



「透、何の話してたの?」



 カレーを持ってきた秋奈が俺の隣に座り話しかけてきた。



「仕事の話を少しね」



 秋奈にはぼかして話す。



 守秘義務ってこともあるが、秋奈にはあまり仕事の話をしたくない。内容的に際どいものもあるからな。



「そう、無理はしないでね」



 表情一つ変えていないが、これが秋奈なりの心配をしているサイン。無表情ではるが、その分しっかりと言いたいことは言ってくれる。こちらが変な解釈をしなければ、これほど分かりやすい人もいない。



「ありがとう」



「じゃあ今日は私が一緒に寝るね」



 その発言にお茶を飲んでいた風魔が咽る。



「ちょ、何言ってるんですかご飯前ですよ!?」



 変な解釈をするとこうなる。動揺しているようじゃ、まだまだ修行が足らんな。



「貴女誰?」



 一方の秋奈は風魔の存在に気が付いていなかった様子。そこは気づいて欲しかった。



「私は風魔夕夏で、依頼人の代理……じゃなくて! 男女が同衾していいのは七歳までですよ!」



「添い寝することがそんなに変?」



「……添い寝?」



「透は何だか疲れているみたいだから。こういう時は信頼できる誰かと一緒に寝た方が安心して眠れるでしょ?」



 いや全然眠れませんが? いや信頼していないってことじゃなく、むしろ信頼はしている。問題はそこではない。



 秋奈は着痩せするので見た目では分からないが、体形がボンキュッボンなので抱き着かれるとドキドキして寝るどころじゃないんだ。逆に目が覚める。



 だが俺も秋奈も互いに信頼していると、俺は勝手に考えているので、その信頼を裏切るような真似はしたくないというだけの話。



「それはそうかもしれませんが……鳴神さんからも何か言ってくださいよ!」



「秋奈のメンタルにも関わってくることなんで……」



 小学生の時に両親に捨てられてから、やたら甘えることが秋奈にとって癒しになるようで……あまり強く出れない。俺の精神衛生的にはブラック環境なので止めて欲しいけど。



「大丈夫、風魔が思っているようなことにはならないから」



 俺の鋼の理性があるうちは。



 もし溶け切れてしまっても、秋奈には俺の式神の一人がボディーガードとして、秋奈の影にひっそりと潜んでいる。今、こうしている間にも。



二段構えの防壁で秋奈は守られているのだ。安心と安全を兼ね備えている。



「みんなご飯あるわね~?」



 そんなことが喋っている間に配膳が終わったようだ。



 紅葉、夜鶴、金鈴、翡翠、紫苑、風魔、秋奈、俺。全員座っている。



 ならばやるべきことは一つ。



『頂きます』


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