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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第二章 祭りだわっしょい神遊祭!
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式神タッグバトル②

──た。



視界には競技場から溢れんばかりの観客と、鼓膜が破れるかと思うぐらいの歓声。



どうやら無事に召喚されたようだ。



『黒鋼直人選手、式神を召喚しました!』



『どうやら剣にまつわる式神のようですね』



スピーカー越しから男性の声が聞こえる。多分試合の実況と解説の人だろう。神遊祭はテレビ中継だけでなくラジオでも放送しているからか?



そのような考えを表に出さないように佇んでいると、



(主殿、どこか不具合はないか?)



(完璧だよ。何も問題はないよ)



(そうか、拙者は術式が苦手な故、主殿に何かあったらと心配だったのだ)



(俺が調整したんだから心配することないのに)



(いや、怒られそうなのでな?)



(誰に)



(夜鶴や雷夢にな、念を押されているのだ) 



へえ、夜鶴はともかく雷夢もか。こりゃ驚いた。夜鶴は過保護だから分かるけどあの雷夢がねえ……。そんなイメージなかったな。まだあいつ自己中的なところあるから。



(あとはそうだな……他全員だな)



(全員かよ!?)



俺式神たちに心配されるようなことしてないんですけど!? そりゃたまには仕事で腕一本とか吹っ飛ばしてるけどそんな心配されるほどのことじゃないだろうに。



『さあ、対して今石陽一選手の式神を召喚して頂きましょう!』



 実況が司会進行してるけど、良いんですか審判。



 そんな疑問を言う暇もなく、相手選手が式神の名を呼んだ。



「来い、キマイラ!」



ボフッ!



コミカルな音と共に白煙が舞う。俺の場合と召喚の際の演出が違うのは個人差です。煙が出たり光の

中から現れたりするし、火の中から召喚されたりもする。



 そして煙が晴れると、そこにいたのは異形の怪物。伝承通り、獅子の頭に山羊の身体、毒蛇の尻尾を持ち、胴体からは翼が生えている。



 キマイラと言っていたからまさかとは思ったが……マジモンじゃんか。初めて見たけど。よくもまあ見つけて式神にしたもんだ。妖怪の上位種、幻獣クラスだな。しかも幻獣大国ギリシャ出身だし。



「グオオオオオオオオオッ!」



 キマイラが突如叫びだし、空間が震えだす。さっきまで元気だった観客も黙り込んでしまった。



 威嚇のつもりだったのかも知らないが、その程度の咆哮では威嚇にはならないな。ちょっとびっくりして身体が震えたが、そのぐらいのなら経験済みだ。討魔師舐めんじゃない。キマイラから目を離せないので分からないが、多分黒鋼も何ともないと思うし心配ないな。



『す、凄いですね』



『ええ、驚きました。咆哮もさることながら、本物の幻獣を見たのは初めてです』



実況の人はびっくりしているが、解説の人はキマイラの方に驚いたようだ。相当慣れていると見える。声からして大体四十代ぐらいか? こちらから放送席が見えないので確認できないのが残念だ。もしかしたら名のある異能者かもしれないのに。



『それでは、試合スタート!』



 おっと、それは後にして試合に集中しなきゃな。



「キマイラ、お前は式神をやれ!」



 命令されたキマイラは、一直線に突進してくる。その度に振動が伝わってくるから、当たったら結界まで吹っ飛ばされるな。



 ま、当たったらだけど。



スピードはあるが、躱せないほどじゃない。余裕をもって最小限の動きでキマイラの突進を受け流す。



 その時に視野の狭い仮面越しに、今石何某くんが黒鋼に向って云った。その手には長細い紐──いや、棘が付いている。しかも緑色だ。あれはただの紐じゃない。



 鞭だ。



 今石何某はそれを黒鋼にめがけて攻撃するが、黒鋼はそれをどこからともなく現れた盾で防いだ。



 黒鋼の異能《大盾(おおたて)防壁(ぼうへき)》。全身を隠せる巨大な盾を物質化し攻撃を防ぐ。



ただそれだけの異能だが、黒鋼は付喪神であり、鎧武者の精霊だ。防御力は並大抵じゃない。



──っと、黒鋼の心配をするよりも、まずはこっちを片付けないとな。



 突進を回避されたキマイラは、再びこちらに突進してきた。俺はまるで闘牛士になったような気分で躱そうとすると、キマイラは大口を開け飛びかかってきた。俺はそれをバックステップで躱すが、

キマイラは追撃をかけてきた。



これじゃ避けきれない。なので背中にある金色の大剣を盾代わりにしてガード。ガギンッ! とまるで金属同士がぶつかったような甲高い音がした。だが、攻撃は防いだのはいいものの、衝撃が凄まじく踏ん張り切れず吹っ飛ばされてしまった。



しかも大剣を弾みで手から放してしまう始末。中々強いな。ちょっと調整しないといけない。



 これを逃すキマイラではなく、再び俺を噛み砕こうと牙を向ける。会場からも悲鳴が聞こえた。



 しかし、現実は観客の予想とは外れる結果となる。



 それは、俺の手に金色の大剣が収まり、キマイラの牙から守る盾役となっているからだ。



『おーっと、危ない所でした! 辛くもキマイラの攻撃を剣の式神が防ぎました!』



『……ん? ちょっと待ってください』



『どうしました中西さん』



『あの式神の大剣は弾かれたはず。なのに何故あの式神は大剣を持っているんでしょう?』



『そう言えばそうですね。見落としていましたが……』



 実況も解説も、俺の手に弾かれたはずの金色の大剣があるカラクリが分からないようだ。というかあの解説の人、中西さんって言うのか。全然知らん人だった。



 つーか実況、見落とすな実況の意味ないだろ。



それはともかく、二人がカラクリに気づけないのは仕方ない。だって二人の一からじゃ見えないんだから。キマイラの影に隠れて。



サービスするつもりはなかったが、せっかくの祭りだ。ちょっとぐらいは盛り上げさせてやろうか。



俺はキマイラを吹っ飛ばすつもりで顎めがけて蹴り上げた。



けど、想像以上にキマイラが重くてあまり浮かせられなかった。



それでも、観客の皆さんはまさかの出来事に興奮しているようだし、パフォーマンスとしては上々じ

ゃないか? 普通人間サイズが巨大生物を蹴り上げて宙に浮かせるなんて想像できんよな。キマイラの主も驚いてるし。



ドシャアアアアアアッ! と音を立て転がるキマイラ。どうだ、これで見えるか?



『す、すごい! 剣の式神があの巨体を蹴り飛ばしました!』



『あんな力があるとは、想像できませんでしたね。……ん?』



『ど、どうしまし──あ、あれは! 大剣です! 金色の大剣があります! ですが剣の式神が既に持っているはずの剣が!』



 どうやら見えたようだ。



『こちらからはキマイラの身体で見えなかったんですね。しかし、最初は一本のはずの大剣が何故二本あるのでしょうか?』



 ……そりゃ、それだけじゃ分からんよな。仕方ない、大サービスだ。大いに盛り上がってくれなきゃ困るぜ? 



(──《無限を以って 我の敵 障害を断ち切れ 無限豪雨!》)



心の中で呪文詠唱を済ませると、金色の大剣が輝きだし無数の大剣が空を覆う。その剣先はキマイラに向ける。



『これは、何という光景でしょうか! 無数の黄金の剣が太陽に照らされています! まるで神話のようだ!』



『成程、あの剣はただの剣ではなく魔剣だったんですね』



『魔剣、ですか?』



『はい、魔剣と言うのは両刃剣に異能が付与されたものを言います。そして、あの剣に付与された異能は、数を増やす異能でしょう』



『それで同じ剣がこんなにもあるんですね!』



 ご明察。この剣──《久遠(くおん)》は、その身に宿す《複製》の異能によって無限の個を有する。故に銘は《久遠》。永遠の黄金剣である。



 それが今キマイラの頭上に展開しているのだが、キマイラは横たわったまま動かない。



「おい、動け‼」



 今石何某が鞭を黒鋼に向けながら起こそうとしているが、一向に動き出す気配がない。顎を蹴り上げたから脳震盪を起こして動けないのだ。



 可哀そうだけど、試合だし……致死量のダメージもすぐに回復するから……ごめん。



 俺の意志と同期し、無数の《久遠》がキマイラに降り注ぎ、体躯を針のように突き刺した。



 そして全ての《久遠》が突き刺さり、キマイラの身体は白煙となり消えて行った。



 キマイラ──脱落である。



「くそっ、役立たずめ! こうなったら……」



 今石何某が鞭を両手に握り、さながら二刀流のような態勢になる。まだ勝利を諦めていない目だ。

はっきり言って、黒鋼の盾を破れなかった時点でもう勝ち目は無いのだが、それでもまだ諦めないの

は愚策でしかない。



 そんなみっともない姿を晒させるのは気が引けるので、大人しくしてもらおう。



 俺は今石何某がこちらに向けて《棘の鞭》を振るう素振りを見せたので、当たる前に楓と音無君の特訓の時に見せた《縮地》で音もなく今石何某の背後を取る。



 《縮地》は異能でもなければ術式でもない。単なる歩法、すなわち技術。《鳴神流現人神戦闘術》の応用技の一つで、一応やろうと思えば誰にだってできる。けれどここまでするには現人神の肉体がないとできないので真似しないように。



「なっ!」



 俺の姿が一瞬で消えたことに驚きの声を漏らす。



 俺が背後にいることに気づいていない、その無防備な首元を手刀で叩くと、今石何某の身体の力が抜けたように前のめりに倒れた。それと同時にホイッスルが鳴る。



「そこまで! 勝者、黒鋼直人!」



 審判の声で会場が沸き上がる。



 これで一回戦はクリア、と。あと三戦で優勝か……。頑張らないとな。でも、式神術師の能力は所有する式神の強さで決まるのは承知してるけど、黒鋼が勝ったような言い方はあまり好きではないな。



『~とその式神!』くらいは言っていいんじゃない? 少なくとも俺らは対等なんだから。



 そんなことを気にしつつ、予めセッティングしておいた呪符の《召喚術》で、黒鋼より先に控室に戻る。これやっとかないと式神っぽくならないしな。



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