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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第二章 祭りだわっしょい神遊祭!
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神遊祭、開幕①

次の日、世間的にはゴールデンウイーク初日に神遊祭が開幕した。



空砲が鳴り、テレビクルー達が一斉に競技場で行われる開会式を待ち望んでいた。そんな様子を、俺はテレビで見ている。



 俺が参加する式神トーナメントは二日目、トーナメント団体戦は最終日なので、初日は英気を養うためにも自宅で過ごすことにした。何かあったら《三千世界》ですぐに行けるし。



 ぼーっとテレビを見ながら朝食の食パンを齧っていると、



『只今より、神遊祭開会式を始めます』



 午前九時丁度になって、競技会場でアナウンスが流れる。それを聞いてレポーター落ち着いた様子で喋っている。



 そして、競技場の観客や視聴者が待ち望む中、突如壇上から勢いよく煙が噴き出す。



 観客が騒めき、レポーターも『何事でしょうか!?』と混乱している様子。



「このレポーター新人だな」



 かくいう俺はそんな感想を抱く。演出を知っている訳じゃないが、これぐらいのことはやるだろうなとは思っていたし、例年に比べるとかなり落ち着いている。この騒めきの理由はこれかもしれない。 



やがて煙が晴れると、そこには三人の人物がいた。まるで瞬間移動のような現象に観客が湧いた。レポーターも興奮したような様子でレポートしている。



 まあ、異能を知らない人は勿論、異能者からみてもクオリティは高い。特に何かしらの仕掛けがあったわけでもないのに突然三人が現れたのだから。



本来瞬間移動は難易度が高く、大掛かりな仕掛けや膨大な呪力など、様々な準備が必要なのだが、こうもあっさりやられてしまうと空間系異能者のハードルが上がるな。



「山岸、これはやりすぎじゃね?」



 こんな短時間で瞬間移動を成せるのは山岸ぐらいなもんだ。他にいるなら教えてほしい。



「七瀬さん、頑張れー」



 テレビに出演していたのは七瀬さんと知り合い程度の付き合いしかない異科研の所長、あと名前ぐらいしか聞いたことのない異能庁長官だ。



『ハッハーッ! みんな元気してるか―ッ‼』



……スゲエ。たったあれだけであんなに活気があった会場を静寂な海に沈めた。



あの白衣を着ている人が異科研の所長、名前は石橋(いしばし)健二郎(けんじろう)と言う人だ。

見た目は筋骨隆々で科学者っぽくない。あとテンションが科学者というよりかプロレスラーの方がしっくりくる。



『……どうするんですかこの空気』



 もう一人は目つきが悪い女性。眼鏡をかけているが、あれは度が入ってない。つまり伊達眼鏡だ。



あの人が異能庁会長の津田(つだ)葉月(はづき)か。三十代前半という若さで異能庁の長官に上り詰めた女傑。山岸や兄さんの上司でもある。



そして真ん中が七瀬さん。



『えー、少々手違いがありましたが、改めて開会式を始めたいと思います』



 ……どうやら落ち着いたらしい。七瀬さんの介入が遅かったら、多分あの二人喧嘩してそれどころじゃなかったな。



 などと呆れつつ、開会式をテレビ越しに眺める。ひと悶着あったが、開会式は滞りなく行われ、無事終了した。



 そしてこの三十分後に一日目の種目《乱戦(らんせん)迷宮(めいきゅう)》が始まる。



《乱戦迷宮》は迷宮の中で行うバトルロイヤルで、他の選手と遭遇したら異空間に飛ばされ戦う。それが最後の一人になるまで行われる。



迷宮は朱雀院さん監修で、様々なギミックが施されている。なので観客が飽きることなく、選手にとっては神経をすり減らし続ける。



 朱雀院さん、愉悦部だったか……。



 ともあれ、始まるまで三十分あるので、その間に身支度を済ませておく。



 で、済ませたがあと十分余った。さて何をして時間を潰そうか……。



 と、思った矢先、ピンポーンとインターホンが鳴る。



「はいはーい、ちょっと待ってね~」



 翡翠が出ていく。特にやることもないのでソファに座る。



「配達かな?」



「残念ながら、配達ではありませんわ」



 首を動かして見る。



「……珍しいな。お前がわざわざくるなんて」



 我が家に訪れたのは配達員ではなく、俺の式神の一人であり、金髪縦ロールという如何にも高飛車キャラの特徴を持ち、白を基調とし、山吹色の刺繍が誂えられている西洋ドレスを着ている少女。属性盛りすぎ。



彼女こそが、黒鋼が言っていた雷夢だ。



「何ももてなせなくてすまないな。雷夢」



「全くですわ。あ、翡翠紅茶お願いしますわ」



「はーい」



顎で翡翠を使うなよ。忙しんだぞ翡翠。家事を殆ど一人でやってんだから。俺たちも手伝うけど、それでも翡翠の負担は大きんだよ。



「で、何しに来たんだ」



「随分な言い方ですわね。わたくしがせっかく来たというのに。感涙に咽びいてもまだ足りないぐらいですわよ?」



「いや、流石にそこまでじゃないと思うけど」



「全く素直じゃないですわね」



 雷夢は不機嫌そうに隣に座る。



「紅茶どうぞ~」



 翡翠が紅茶とお菓子を持ってきてくれた。あ、俺の分もある。



「ありがとう」



雷夢は翡翠からカップを受け取り、紅茶を飲む。その一連の動きは無駄がなく、まるでバレエのような流麗さを感じた。まるで絵画のモデルのような、深窓の令嬢という言葉がしっくりくる。



「で、わたくしがここに来た理由は分かるかしら?」



 カップを置きこちらを見る。



「遊びに来たんだろ?」



 菜の花色の瞳に見つめられ、ちょっとドキッとしたので茶化した。



「違いますわ! 抗議に来たんですの!」



「うおっ」



 怒りと共に電流が飛んできた。漏電してますよお嬢様。



「ちょっとした冗談じゃないか」



「それだけフラストレーションが溜まっているのです。いい加減わたくしにもお仕事をくださいな」



「別にないってわけじゃないぞ?」



「では何故わたくしに振られないのですの?」



「単純な話、雷夢向きの仕事がない」



 雷夢は街を歩けば老若男女問わず目を引く美貌の持ち主だから、人前に出すと集まって仕事にならない。



 なら事務仕事はどうかというと、機械音痴なのでパソコンを壊しかねない。現に俺の部屋にあるノートパソコンを壊した。今あるのは二代目である。



壊す方法は電撃。精霊としての格が高い雷夢は電気そのものであり、機械も一発で煙を吹かせられる。



じゃあ討魔師の仕事は? 



──無理。雷夢の異能は高威力かつ超広範囲。魔物が出る度にそんなのをしてたら地形が変わる。手加減とかしないタイプだから尚更だ。



よって、雷夢を活かせる方法が現状思いつかない。高スペックが完全に仇となっている。



「ではわたくしは何をすればいいんですの」



「……そうだなあ、モデルとかいいかもしれない」



 なんとなく言ってみたが、割といいかもしれない。雷夢のルックスとスタイルなら引く手数多だろうし。目を引くならいっそ引いてしまえ、というやつだ。



 異能方面の活かし方はモデルではないけど、何もしないよりはマシかもしれない。そうすると年齢層は大人の女性になるだろうな。雷夢のルックスは可愛いというよりは美しい方だから。



「モデル? ああ、光明さんの雑誌によく出てるマネキンみたいな人のことかしら?」



その言い方はどうかと思うぞ……。



「うーん、ですが……」



どうにも煮え切らない態度。自分がモデルとして活躍するヴィジョンが見えていないようだ。



「大丈夫だと思うぜ? 魔眼が封じられていても雷夢は──」



 魅力的な女の子だから、と恥ずかしい台詞を言いそうになり口を噤む。雷夢は気づいていないようで「?」と疑問符を浮かべている。



雷夢には《従僕の魔眼》というスキルを持っており、その目を見た人間は雷夢に快感情、言い換える

と可愛いだとか綺麗だとか思うと、雷夢の言いなりになってしまう。



だが俺には《不可侵》があるので、魔眼の効果を無効化したことが原因で俺と雷夢の間で一悶着あった。



その結果式神契約を結ぶことになり、今は日常生活が不便なため魔眼が封じている。魔眼が封じられたことで高飛車で自己中心的な性格から一転、反動で若干気弱になってしまった。前は人を見下しがちだったが、今はそんなことはなく気遣いを覚えた。



以前の雷夢ならともかく、今の雷夢なら何も問題はないだろう。少し自信がないのは、これからどうにかすればいい。



「まあなんだ。雷夢なら大丈夫だって。俺が保証する」



「……そう? なら、挑戦してみようかしら」



「その意気だ」



「じゃあ貴方、宜しくね?」



「え?」



「え? って、仕事。持ってきてくれるんでしょう?」



 しかし、人に何かしてもらって当然と思っているところはあまり変わらない。根っこはそう変わらないということか。芸能界にコネがあったけど……使えるかなあ?



「……分かった、何とかしておくよ」



「そう、ありがとう」



 柔和な笑顔を俺に向ける。……その笑顔があれば、魔眼なんて使わなくても人を魅了するぐらい簡単だろうよ。


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