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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第二章 祭りだわっしょい神遊祭!
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雷電の申し子⑤

俺たちが昼飯を食べに来たショッピングモールは、周辺地域の中でもトップクラスの規模を誇る。近くにある商店街も負けてはおらず、互いに拮抗状態にあり良い競争関係を築いている。ショッピングモールは量、商店街は質で勝負しているから出来ることだ。



今回は食事をするのでこっちに来た。ここのフードコートなら三人の食べたいものが違っても対応できるからだ。焼き肉は……流石に対応できないが。 



「──っ! …………」



三人でフードコートに向かう途中、喧噪の中でも一際目立つ声がした。この声は……子どもか?



大方、子どもがお菓子かおもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねているんだろうと、気にせずエレベーターに乗ろうとしたとき、



「──このひと、おかあさんじゃない!」



何故かそれだけはクリアに聞こえた声に、反射的に声の元へ身体が動いていた。



「師匠、乗らないんですか!?」



人前で女子高生が師匠とか言うなと文句を垂れるのも忘れていた。



流れる人ごみを潜り抜け、大手おもちゃメーカーの店舗の前、そこだけさけるように不自然な人の流れがあった。



そこにいたのは、リュックを背負った泣きじゃくる小さい女の子と、それを宥めている男性と女性。



「こーら、そんなこと言ったって買ってあげないわよ?」



「あまりお母さんを困らせるんじゃないぞ」



 どちらも優しそうに諭している風で、周りの人たちも子どもがおもちゃを買ってくれなくて駄々をこねていると思っているのか、女の子のことなど気にせずスルーしている。



「ちがうもん! おかあさんじゃないもん!」



 何人か足を止めるが、男性が「すみません」と頭を下げ、状況を察してかその場を去っていく。



 俺も他の人と同じような行動を取る。が、その声、表情が恐怖で埋め尽くされていなければの話だが。



さて、《認識(にんしき)阻害(そがい)》は発動した。監視カメラはなし。さらに《電磁(でんじ)妨害(ぼうがい)》で電子機器を一時的に使用不可にして……と。これで身バレの危険はないな。



行くか。



「ちょっといいですか?」



「あっ、すいませんうるさくて」



「いやそうじゃなくて、お二人に聞きたいんですけど」



「? 何でしょうか」



「二人とも、この子の親じゃないでしょう?」



 その言葉を言った瞬間、柔和な雰囲気が一気に緊迫する。



「急に何を言ってるんですか。警察呼びますよ!」



「それには及びません。もう呼びましたから」



 呼んだのは俺じゃなくて、後ろで事を察した楓だけど。



「君、大丈夫?」



「……うん!」



 女の子が俺の後ろに隠れると、二人は苛立ちを隠せなくなっていた。



「おいお前! こんなことして許されると思ってるのか!」



 男が怒気を含んだ声で叫んだ。周りの人たちも足を止めてこちらを見ている。



「そりゃこっちの台詞だよ。あんたらが親だと言うなら、この子の名前言えるよな?」



「名前? その子の名前は里中(さとなか)(あんず)だ」



「ちがうもん! こさかななみだもん!」



「らしいが?」



 良く堂々と言えたものだ。



「くっ……。いや、その子が嘘をついているんだ! さあ、こっちに来るんだ!」



「やー!」



 俺の服を掴む力が強くなる。



「ちょっと失礼するよ」



 女の子のリュックを開けてごそごそと探す。



「おい、何してる!」



「何ってこれを探してるんだよ」



 俺が女の子のリュックから取り出したのは、通話しかできない子供用の携帯電話。



「この携帯電話には、ちゃんと《小坂(こさか)七海(ななみ)》と書いてあるが?」



「ぐっ……それは……」



「まだ引かないか。ならこの携帯の電話帳にある『お母さん』にかけてみるか? それではっきりするだろ」



携帯の画面を見せる。



「これだけの観衆だ。言い逃れはできないぜ」



 よし決まった。これで投降するだろう。



 と思っていたら、



「七海!」



 観衆の中から女の子を呼ぶ声がした。あれが本当のお母さんだろう。



「おかーさーん!」



 その声を聞いて女の子が走り出す。



「今だ!」



「しまっ……」



 急に走り出したので隙が生まれ、男が女の子を抱きかかえる。



「動くな!」



 男はポケットから折り畳みナイフを出して、女の子の首元に刃先を当てる。それを見た観衆に動揺

が走り、何処からか悲鳴が聞こえた。



「道を開けろ! この子の命が惜しければな!」



 女の子を人質に取られてはどうすることもできず、観衆も男に従うしかなかった。呪具を使おうに

も女の子が抱えられてる以上、巻き添えになる可能性が高い。



「いやー! はなしてー!」



「大人しくなさい」



 もう一人の女が、女の子の額に手を当てると、女の子の瞼が重くなり項垂れた。何かの異能か。



……くそっ、このまま指をくわえて見てるしかないのか。どうする。捕縛術式も巻き添えを食いかねないし、片方捕まえられたとしてももう片方が何をするか分からない。



「やれやれ、何をしてるんだい君達」



 観衆が道を開けた先に、英国紳士のような風貌をした男が立っていた。



 この声……あの格好……。



 まさか、あいつは……!



八十神(やそがみ)様!」



男が名を叫んだ。間違いない。やつだ。



「全く、何をしてるんだい君達は」



 肩をすくめて呆れている。



「八十神!」



 観衆の目を気にせず叫ぶ。



「おや、もしかして鳴神君かな?」



 しかし全く気にしない態度。相変わらず飄々とした奴だ。いや、落ち着け。



「久しいね、随分と大きくなった」



 冷静になれ。感情をざわつかせるな。向こうの思うツボだ。



「や、八十神様? お知り合いで……?」



 女がオロオロして尋ねる。口ぶりからすると、この二人は奴の部下のようだ。



「ああ、すまない。懐かしくなってしまってね。正直忘れていた」



「お前、何しに来た」



「ん? 部下の不始末を拭いにね」



「八十神さ──」



 奴が指を鳴らすと、男が言い切る前に消失し、抱えられていた女の子が膝から落ち奴が受け止めた。



「あ、あなた──」



 それに一番早く反応したのはもう一人の女だったが、先程の男と同様に消失した。



「この子の親はいるかな?」



「は、はいっ」



 何が起こったか分からず動けない観衆を、母親と思しき女性がかき分けてきた。



「この子は無事だ。だが念のため病院で検査をすることをお勧めします」



 女性に女の子を渡す。



「本当にありがとうございます!」



 女性はその場を去り、ようやく事態を理解したのか観衆は賞賛の拍手を奴に送る。



 確かに傍から見れば誘拐犯を退け人質を救ったように見えただろう。事実として、それは間違いない。



だが、誘拐犯のあの二人は奴の部下だ。誰でもない、本人が言ったことだ。それに奴は……。



「おい、八十神」



「なんだい、随分他人行儀じゃないか。昔のように陣さんで良いよ?」



「俺の両親殺しておいて、よくそんなこと言えるな。ここに何しに来やがった?」



 俺の言葉に観衆がざわめく。



 そう、奴、八十神陣は俺の義両親を殺した張本人だ。



 しかし、そんなことを気にするようすもなく、奴は淡々とした態度だった。



「何、失態を犯した彼らを始末しに来ただけさ」



「……奴らは」



「彼らは幼い一人娘を事故で亡くし、失意のどん底にいたところに出会ってね。いやはや、見るに堪

えなかった。憔悴しきっていて、今にも死んでしまいそうだった。だからかな、思わず手を差し出してしまった」



「差し出す?」



「なに、簡単なことだ。彼らの一人娘を転生させてあげようとしただけさ」



「相変わらずお前の善意は碌なことをしねえな」



 悪意は防げるが、善意は防げない。それをしてしまったら人間を止めることになる。



「そのためにあの子を誘拐したんだろ? 転生させるための材料として」



 死者を転生させる、もしくは新たに生命体を生み出すには何かしらの材料がいる。対象にもよるが、人間を転生させるなら同じ人間が材料となる。



だとしても、成功率は一パーセントより低く、失敗すれば甚大な被害を周囲に与えかねないため、現在では禁忌指定されている呪術。



「僕はあの子を材料にしろと言った覚えはないよ。方法は教えたがね」



「要するに、お前が元凶じゃねーか」



「そうかな? 遡れば彼ら夫婦の一人娘を殺した事故が元凶と言えるのでないかね?」



「ふざけるな。お前はあの子の前でもそんなことが言えるのか?」



「言えるね。僕は間違ったことは何も言っていないだろう?」



 不思議そうに奴は言う。そうだった。奴は善悪の区別のない狂人だった。



「さて、用事も済んだしさっさと帰ることにしよう。警察に来られても厄介だしね」



「待て!」



「嫌だね。足元の呪力で何をするかは知らないけれど、ここでは被害が出てしまうが……それでいいかね?」



「くっ……」



返す言葉もなかった。それだけ奴言い分は正しかったのだ。ここで俺と奴が戦えば、間違いなく被害が出る。しかもそれは小規模どころではない。下手をすれば街が滅ぶ。



だが、ここで奴を逃す訳には……。



「もうよしたまえ。時と場所を選ばなければいけないよ。僕も昔馴染みを手にかけたくはない。ああ、もしかしてあの夫婦を捕まえたいという腹かね? それなら気にしなくていい。彼らはもうこの世にいない」



奴の宣告に観衆がどよめく。



「では、縁があったらまた会おう」



 奴はそう言い残し、姿を消した。



 俺は呪力を元に戻す。



 結局、立ち尽くすしかできなかった。想像ではもう少し冷静になれると踏んでいたが、結果は大失敗。奴の情報を引き出すことさえもできなかった。



 今でもまるで迷宮のように感情が出口を求め彷徨っている。正直辛い。やっぱりトラウマになってんのかな。怒りが湧いてこないのが不気味で吐きそうだ。



「師匠!」



 心配そうに楓と音無君が駆け寄ってきた。



「大丈夫ですか! すごい顔色悪いですよ!?」



「……ああ、平気だ」



「しかし、これじゃ食べるどころじゃねえな。ってか、警察遅くね?」



「あれはブラフですよ。わざと彼らから見える位置で時報に話しかけてただけです」



 ははっ、そうだったのか。俺も騙されたな。



「とりあえずここを離れよう」



 流石にこんな騒ぎを起こしておいて堂々と昼ご飯食べられる性格はしていない。



「そうですね。でも何処に?」



「ここからなら俺ん家が近いから、そこに行く」



「師匠の家ですね。分かりました」



「《記憶を 忘却の彼方へ》」



 元々使っていた《認識阻害》だが簡易詠唱でさらに効力を増す。これで観衆の認識がずれ、立ち止まっていた人が動き出し人の流れが生まれる。あと少しすれば先程の出来事も思い出せなくなるだろう。



そして《認識阻害》の効果で人々が思い出せなくなった頃を見計らって《電磁妨害》を解いた。



「んじゃ行くか」



《三千世界》のマーキングは前に使ったから消えているため、俺たちは徒歩で我が家に向かうのであった。



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