雷電の申し子④
「さあ、特訓の後は反省会の時間だ」
「「おおー」」
特訓が終わった後、俺たちは二階の事務室にいた。いつもいる社長は何か用事があるとか言って何処かに行ってしまった。なので《決戦遊戯》でするつもりであった反省会を事務室に移したのだ。
「反省会と言ってもこれからの課題を俺なりに考えただけだから、軽い気持ちで聞いてくれ」
そういう趣旨なら分析が得意な光明に任せたほうがいいのだが、仕事があるので一階の店の方に行ってしまったので分析ができないのだ。誰か他の式神に入ってもらえば良かったと今更軽く後悔している。人当たりのいい夜鶴や女性受けがいい蒼司を呼んで店番させときゃ良かった。
「まずは楓だが、上手く音無君をサポートしていたと思う」
「ありがとうございますっ、師匠!」
プライベートモードに戻ってる楓を見ても全く動じていないように見える音無君。それどころか俺が渡した社長の結構高いアイスを食べてる。
「タイミングも良かったし、呪力も安定していた。そこは良かったが、サポートに回りすぎだな」
「でも音無君の方が攻撃力ありますし」
「確かにその通りだが、だからと言って攻撃をしないのはダメだ。音無君に合わせて動くんじゃ行動が読みやすい。現に俺に防がれたし」
「うっ……」
「お前は無防備な相手に一撃必殺を決めるタイプだけど、だからこそ冷静に状況を見極めること。もし一発で仕留められなかったらって場合をちゃんと考えとけよ?」
どうも楓は自分の攻撃力のなさにコンプレックスを抱いているきらいがある。異能的にはテクニカルタイプなのでどうやっても音無君のようなパワータイプにはなれない。それは最初に教えたけど、そう簡単に拭えるものじゃないか。俺にはそうなった原因すら分からないのだし。
「けど最初に比べたら格段に強くなった。もう並みの異能者なら十分に戦えるさ」
「……っ! はい、師匠!」
弱点というか欠点を言ったからちょっと落ち込んでいたようだが、前向きになれたようだからもう大丈夫かな。
「次に音無君」
「はいっ!」
元気よく手を挙げた。
「光明と戦った時よりも呪力量とパワーが上がっていたのは凄いと思ったよ。よくこの短期間であれだけ成長したもんだ」
「へへっ、特訓したからな」
得意げに語る音無君。口調も素に戻っている。俺はこっちのほうが気楽でいいかな。多分音無君は口調の事に気づいてないだろうけど。
「ちなみにどんな特訓をしてたんだ?」
「呪力を限界ギリギリまで消費する特訓を」
「それ誰かに教わったの?」
「建御雷神様に教えてもらったぜ!」
「ああ、あれに……」
俺のイメージではただの酔っ払い暴力オヤジだが、一応あれも神霊だったな。しかも雷神だけでなく戦神としての神格もあったんだっけ。
「ど、どうしたんだ? なんか遠い目をしてるけど」
「いや、何でもないよ。ちょっと嫌なこと思い出しただけだから……」
「はあ……」
俺が建御雷神と出くわしたのは、術式を開発し現人神になった直後だ。現人神になったら、一度高天原という日本神話の神々が住まう異空間に行き、そこで最高神である天照大神に謁見することで現人神として認められる。本来はそれで終わりで帰れるはずだったのだが、時期がまずかった。
その時は丁度十月、つまり神無月であり神々が一堂に会しあーだこーだと議論する時期だった。メインは縁結び。
俺が建御雷神と出会ってしまったのは丁度会議が終わりを迎え、宴が始まろうとしていたのを天照大神が丁度いいとか言って俺を神々に紹介するという、神々がいるのに地獄という訳の分からん状況に追い込まれた。
それで紹介され何故か既に酔っぱらっていた建御雷神に絡まれ勝負を挑まれてしまったのだ。
勝敗は言わずもがな、俺が負けた。当然である。現人神になったとはいえ成り立てだ。マジの神霊に勝てる道理なんてあるわけない。
一応何とか五体満足で持ちこたえたのが評価されて建御雷神を始め神々に賞賛された。
それを機に建御雷神に絡まれ続けては負けを繰り返す羽目になった。
まあ、今は置いといて。
「特訓方法自体におかしな点はないよ。むしろ理にかなっている方だ」
「本当か!」
「ああ、急いで呪力量を増やすならその方がいい」
一歩間違えれば死ぬバカみたいにリスクが高い方法だけど。
「呪力は十分にあるから、あとは呪力の制御のための動体視力と反射神経の強化をするといい」
「どうしてなんだ?」
「《荒れ狂う雷雲の嵐》だったか? あれを筆頭に雷撃というのは光に次いで早い攻撃だけど、俺に《白飲淘汰》で止められたのは何故か」
「先読みしてたんじゃねーの?」
「それもあるけど、決定的なのは雷撃の速度。これが遅かった。本来の雷撃なら《白飲淘汰》を出せない程のスピードがあるはずなんだ」
俺の鍛えられた反射神経なら《正純》でガードぐらいはできるが、それだと威力を軽減する程度で間違いなくダメージを受けるだろう。
「では何で雷撃が遅かったのか? それは呪力の制御が上手くいかなかったからだ」
「確かに雷雲を具現化するのに大分時間が掛かってましたね」
「そんなもんなのか」
ふーん、と納得している音無君。その反応に、俺は一つ疑問を覚えた。
「……音無君、一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「もしかして、他の雷撃系異能者と会ったことない?」
「そうだけど。強いて言えば建御雷神様ぐらいだな」
「……それは拙いな」
「え、何か変なこと言ったか?」
「いや、いいんだ。気になっただけだから」
「そうか……?」
成程、腑に落ちた。比較対象がないんじゃどこが良くて何が悪いかなんて分かるわけがない。神霊なんて比較対象にするもんじゃないし。
要するに、音無君は自分の異能に対する知識が欠けている。良かった、このままじゃこんな有望株をみすみす逃すどころか芽を摘むことになるところだった。
「話を戻すけど、呪力の制御ができていないのは、単純に身体がついていけてないからだ」
まだ肉体が成熟していない十四歳の少年の身体がついていかないのは当然のことだが。
「それで何で動体視力と反射神経なんだ? 身体が付いていかないなら筋トレでもすればいいじゃん」
「それじゃ神遊祭には間に合わない。だから絶対に必要な動体視力と反射神経を先にする」
変に急ぐと身体を壊してしまうしな。
「それは分かったけど、どうしてその二つなんだよ」
「動体視力と反射神経を鍛える理由だが、雷撃や火炎、さらには光線といった異能の速度は異能者の認識処理速度で決まる」
「にんしき、しょりそくど……?」
「簡単に言えば、どれだけ早くはっきりと、そしてどういう動きをしているかが見えるか、ってことだ」
「つまり……どういうことだ」
音無君がわなわなと震えだした。中学生には難しいのかなこの例え。
「そうだな……。じゃあ音無君はこれどう見える?」
俺は掌に稲妻マークの雷を出して見せた。
「どうって、どういうことだ?」
「これは動いてる? それとも止まってる?」
「そんなの止まってるに決まってるじゃん」
「残念ながらこれは動いてる。早すぎて止まって見えるだけ」
雷の流れをゆっくりにすると回転が弱まり段々薄れていき、形が留められずに消えていった。
「音無君が止まって見えたのは速度を認識できなかったからだ。つまりこの速度を実現するには呪力の速度を認識しなきゃできないんだ。これは身体の方が完全に制御できない速度の雷撃は出ないようにストップをかけているせいなんだけど」
自分の認識できる速度以上の速度を出そうとすると、制御下から離れて暴走する。それを防ぐため脳が勝手に呪力制御を行っている。
「つまり、自分の認識以上の速度は出ないってことか」
「そういうこと。で、その認識を鍛えるためには、五感を研ぎ澄まし、全身で認識する必要がある。
そして認識した物をどれだけ早く理解できるかを異能学的には認識処理速度と言うんだ」
「それを鍛えるために動体視力と反射神経を鍛えるってことか?」
「その通り。で、それ鍛えるための呪具がこれ」
《三千世界》から呪具を取り出す。
「……これ、ゲーム機?」
出した呪具は画面の横にボタンが付いているものだ。ゲームはできない。
「その画面に一瞬で映る数字を当てることで動体視力を、一瞬で色が変わるのと同時にボタンを押すことで反射神経を鍛えられる。要するに目を鍛えるわけだ。難しいようなら、難易度を調整して休憩しながらやってみて。それがクリアできたら雷撃のスピードは格段に上がるはずだ」
「はい!」
音無君は呪具を受け取り早速取り組み始めた。ここでやるのか。てっきり家でやるのかと思ったが、待ちきれなかったのかな?
「それじゃ俺は帰るけど、二人はどうする?」
「私も帰ろうかと」
「…………」
音無君は特訓に夢中で聞こえていないようだ。良い集中力を持ってるな。今はちゃんと答えてほしかったけど。
「じゃあ一緒に帰りましょうか! ついでに何か食べていきましょう!」
「そうだな……、もう昼だし、適当に済ませておくか」
「やったー! じゃあ師匠の奢りで! ありがとうございます!」
ハイテンションで言葉を挟む余地もなく奢ることが決定し、遂にはお礼まで言われた。俺、一言も奢るなんて言ってないんですが……。
まあ、そうなるだろうと薄々感じてはいたが。
「音無君も行くか?」
こうなると音無君を誘わない訳にはいかない。勿論俺が奢るハメになるだろうが、財布的には大丈夫だ。そう負担にはならない。中学生に払わせる程金に困ってないのだ。
しかし、音無君からは何も反応がない。
「おーい、音無君。一緒に食べに行こうよー」
楓が音無君と画面の間に手を挟むようにして遮った。
「うわっ! ……びっくりさせんじゃねえよ」
「気づかなかったそっちが悪いじゃん? てかいいからご飯食べに行こーよ! 師匠が奢ってくれるってさ!」
「え、いいんすか?」
「別にいいぞー。適当に何か食べに行こう」
「じゃ行きます」
「決まりだな。それじゃ近くのショッピングモールでも行くか」
「えー、焼き肉じゃないんですか?」
「それは流石にダメ」
近くに焼き肉屋ないし。というか、帰るついでだろうが食べに行くのは。
「っと、ちょっと待って。家に昼いらないって連絡するから」
「はーい、ごゆっくり♡」
あーあざといあざとい。
携帯で家に電話を掛ける。しかしコール音がいつまで経っても終わらない。
もしかして今家に誰もいないのかと思った矢先にコール音が途切れた。
『はーい、鳴神ですよー』
「金鈴か?」
電話に出たのは金鈴だった。珍しいな、金鈴が電話に出るなんて。
『ん? なんだ透か。どしたん?』
「昼外で済ますから翡翠にいらないって言っといて」
『え、なに、焼き肉食べに行くの? あたしも一緒に行きたい』
「ちげーよショッピングモールだよ」
何で皆焼き肉を食べに行くと思ってんの?
『あーそう。ならいいや。んじゃ翡翠が帰ってきたら伝えとくねー』
「やっぱり翡翠いないのか。もしかして紅葉と夜鶴もいないのか?」
『そうだよ。なんで分かったん?』
「だってお前、三人が居たらもっと早く電話に出るだろ」
『そりゃそうだ。紫苑は電話が鳴ってることすら気づかないもんねえ』
翡翠の部屋は防音仕様だからな。実験するときに爆発するから他の部屋より頑丈にできてるし。
『それじゃ、そういうことで』
「おう。帰りに肉買ってくるわ」
『透愛してる。超愛してる』
「はいはい、俺もだよ」
適当に買ってくるか。七人分。
「師匠、電話終わりました?」
「ああ」
電話を切った直後に待ちきれんとばかりに楓が待っていた。
「さてと行くか」
事務室の鍵を閉めて、俺たち三人はショッピングモールに向かうのだった。




