雷電の申し子①
傘が異世界(暫定)に旅立ってから次の日。俺は三日月の共鳴にいた。
ここに来た理由は傘を取りに行ったのもあるが、今回の目的は頼まれていた音無君の呪具を渡すためだ。一応どれくらいの力が出るのか見てみたかったので、テスト要員として光明と共に三階の《決戦遊戯》にいるのだが……。
「何でお前がここにいるんだ」
何故か《決戦遊戯》の中に、何故か既に楓がいたのだ。
「だって師匠がいつになっても連絡くれないからいけないんですよ」
拗ねたような口調で言う楓は、依頼で使う仕事着、忍者のようなピッチリとした服で仁王立ちしていた。
「ああ、忘れてた」
「ひどくないですか!?」
だってなあ、色々と忙しかったんだもん。
けど、それは俺の理屈で約束したのも俺だ。楓がこのような行動をしたのも俺の責任と言える。
「まあ仕方ない。どうせだから付き合ってけ」
「はい!」
満面の笑みで答える楓。まあ格好からしてやる気満々みたいだし、その格好で帰れとは言えんし。変な噂が立つわ。
てかその格好でどうやってここまで来たんだ? 職質とかされなかった?
「さてと、早速だが音無君。頼まれていた呪具を渡そう」
小さめの《三千世界》を召喚すると、音無君がギョッとした。こういうのは初めてだったのかな?
その《三千世界》の門を開いて腕を突っ込み、呪具を取り出した。
「これがご注文の品でございます」
「……これは?」
「説明しよう! これは籠手だ!」
三千世界》から取り出したのは黒色の波線が描かれた金色の籠手。
「名付けて《雷神の義手》。能力は……装着してからでいいか。光明、装着手伝ってあげて」
「了解、マスター」
光明に雷神の義手を渡し音無君に取り付ける。
「……思ったより軽いですね」
「そりゃまあ、音無君の場合は破壊力というより速力に重視したからな」
「なんでですか?」
「うーん、それを説明すると時間が掛かるけど……まあいっか」
ちゃんと説明をしておかないと後が怖いからな。
「あ、ヤバくないですかこれ。師匠変なスイッチ入ってません?」
「中八九その通りだと思うよ。マスターは術式と呪具の話となると止まらないから」
楓と光明がひそひそと話しているが全部聞こえてるぞ。
「……まず、音無君のステータスを前に見たけど、音無君は自分のステータス欄の異能特性と呪力属性は何か覚えてるかな?」
異能特性とは異能者が持つ異能の方向性のこと。そして呪力属性とは呪力の種類のことだ。
異能者は異能庁の検査でステータスが測定され、それを基に異能者であることの身分証明書である異能者認定証明書が発行される。これは異能者としての身分証になるだけでなく、さまざまな行政サービスを受けるために必要なものだ。
例えば、保障局で依頼を受ける時はこれを提示しないと依頼を受けられない。
「はい、確か《電気/雷・陽》って書いてました」
よう覚えてるな。偉い。これ意外と覚えてる人そんなにいないんだよね。半々ぐらい?
さて、音無君の例を基に異能特性と呪力属性の説明をしよう。
まず音無君の異能特性は《電気》。これは電気に関係する異能が使えるという証拠だ。
ただ、言い換えれば電気に関係しない異能は使えないよということでもある。この異能特性は生まれた時に異能が使えるのならその時点で決まっている。
極稀に異能特性と外れた異能を使う人もいるが、この場合は異能特性を複数持っているか、異能を枝が伸びるかのように他の領域まで成長させた人だ。
そこにいる楓は前者。《隠形》と《記憶》の異能特性を持つ。
そして呪力属性は、異能を発動させるために必要な呪的エネルギーである呪力の性質を十二個に大別したものだ。この呪力属性は異能特性とは違い後から習得することができる。
ただ、生まれつき性別によって《陰》か《陽》の呪力属性のどちらかと、異能特性に適応できる呪力属性を持っている。
音無君の場合だと、男性なので《陽》の呪力属性を持ち、《電気》という異能特性から《雷》の呪力属性を習得している。
また、呪力属性同士に相性があり、相性が悪く打ち消してしまう関係を《相克》、逆に相性が良く活性化する関係を《相生》と呼ぶ。《雷》の場合だと《氷》の呪力相生関係になり、《風》の呪力と相克関係になる。
そして呪力取得方法は四通り。一つは太極図と十芒星を組み合わせた《太極十芒星》に書かれている右回りの隣合わせの呪力に変化させること。《雷》の呪力属性なら《土》と《火》が隣だ。
二つ目は呪力の持つ性質を抽出し、他の同じ性質を持つ呪力属性に変化させる。
三つ目は元々持っている《陰》または《陽》の呪力属性を訓練して解放し、《陰》または《陽》の分類関係にある呪力属性を抽出する方法。
四つ目は三つ目の逆。先程説明した《陰》または《陽》に分類される五種の呪力属性を融合させて《陰》または《陽》の呪力属性を発現させること。
「それで、音無君は現人神を目指しているだろ?」
「そりゃもちろん!」
「現人神になると、困ったことに呪力属性が習得できなくなるんだ。雷神の現人神になるなら《風》の呪力属性の対策を練っておくことをお勧めするよ」
例えば、現人神になる前に《風》の相克である《氷》の呪力を習得するとか。現人神になる前だったら習得は可能だしな。それは俺が証明してる。
《氷》の呪力を使った異能は使えなくても、直接《氷》の呪力をぶつければ相克はできなくても弱めることなら可能だ。
ただ、呪力を呪力のまま運用するのは高度な呪力制御技術が必要になるけど。
「はい!」
うん、いい目だ。これなら多分現人神になってもやっていけるだろう。素養は十分といった感じかな。気が付いてたら現人神になってた俺が素養どうこうを語るのに資格があるのか不安なところだけど、音無君の憧れとしてそこはちゃんと理想の現人神というものを演じるのも悪くない。
まあ、雷神の現人神になったとしても、《風》の呪力属性を持つ異能者と対峙して負けることはそうないと思うけどな。今天敵の《風神》の現人神は空席だし、現人神を倒せる異能者って、それはもう人間やめてるだろうし。そんな人はそういるものではないし。
何か盛大にフラグが立った気がしたけれども。
「で、結局速力重視の理由は言ってないよマスター」
「あっ……」
光明の指摘で確かに説明してないことに気が付いた。遠回りし過ぎて目的地を見失っちまった。
「ごめん音無君。つい回りくどくなって」
「いえ、いいですよ。タメになりましたし」
……なんといい子なのだろうか。普通怒らない? こういうことされると。早く要点を言えーっ、て。紅葉なら怒るよ間違いなく。割と短気だから。
「で、速力を重視したのは、《雷》の呪力属性の性質である《貫通》と相性が良くて、さらに音無君は破壊力が十分にあるから、足りない速力補って近接格闘もできるようにと思ってね。自分でも分かってたんじゃない? 近接格闘苦手だって」
「それはそうですけど、なんで分かったんですか?」
「前の戦闘見たときに近接格闘してなかったからもしかしたらと思ってね」
ほとんど勘に近いけどな。
「《雷神の義手》は打撃による貫通力向上と腕周りの防御力強化、そして全身の動きの速度を上げる効果がある。是非使いこなしてくれ」
「はい!」
「それじゃ説明も終わったことだし、摸擬戦始めようか。マスターもいいよね?」
光明がこちらを見る。
「ああ、俺も試したいことあるし……楓と音無君の二人同時でいいぞ。相手は俺がする」
「えっ、光明さんが相手じゃないんですか!?」
「ん? 光明の方が良かった? それとも俺じゃ物足りないかな?」
「いえ、そういうことではなく……」
リベンジしたかったんだろうか。前回引き分けだったからな。良い挑戦心だと思う。使い方を間違えなければ成長の糧になるだろう。
「じゃ、いいだろ? ついでに楓の特訓もやる」
つまり二対一。ハンデというつもりはなく、単にそっちの方が俺の訓練にもなりそうだったから。最近対人戦やってないからね。そのせいで風祭に逃げられたかもしれないし。
「私はそれでいいです」
「俺もいいです」
「んじゃ、そういうことで。五分後に始めるから、準備しとけよ?」




