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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第二章 祭りだわっしょい神遊祭!
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久しぶりの学校

夏原学園にドラゴンが襲来してから約四週間後、個人的には風魔の里の一件が過ぎた今日、ようやく登校できるようになった。



校舎や設備自体は三週間前に作り直されたのだが、敷地内の龍脈が安定しなかったのでこんなに時間が掛かってしまったらしい。単なる予想だが、ドラゴンから出た瘴気のせいだろう。



前はああ言ったが、俺も何か手伝えることはないかと綾乃に聞いてみるも「これぐらいなら大丈夫よ」言ってたので素直に従った。



依頼者がいいと言っているなら俺の出る幕はない。



そんな今日はまさかの大雨。傘を差しても横から雨が当たって濡れる。ズボンと靴下がビチョビチョだ。



それは俺だけではなくクラスのみんなも同じようで、教室ではこの話で埋め尽くされていた。主な中心は男子だったが。



しかしそれも、チャイムが鳴り響けばすぐに収まった。



ガラッとドアを開けて入っていたのは巽先生。先生は当り障りのない業務連絡を済ませたら、すぐに教室を出て行った。



 すると再びクラスメイト達が騒ぎ出す。ただ、先程と同じように雨に濡れたとか、そういう話ではなく、授業について各々話していた。



内容は授業だりー、とか、そういう話だったけれど。



それよりも鞄の中身が雨で濡れているか心配だったが、何とか無事だった。



教科書とノート、筆箱を広げる。



 後は授業をし、休み時間の繰り返しだ。昼休みだけは別だが、特に語ることもない普通の昼休みだった。いつも通り一人で食べてましたよ? 正彦は学食派だし、普段は外で食べてるしな。付き合ってくれるような友達はいないのだ。



ただし、今日は雨が降っていたために外で弁当を食べられなかったのは少し不満だった。



今度天候を操る呪具でも作ろうかとも思ったが、天候は天候神の現人神の管轄なので手を出してはまずいと思い踏みとどまった。それに好き勝手やったら気象庁にも怒られるだろうし。天候神空席だからやったら真っ先に候補に挙がるの俺だし。



こうして教室で昼ご飯を済ませると、五限目が始まる。



だが、ここで問題が起こる。誰もがこのような状況でなら経験したことがあるだろう。



 そう、睡魔だ。



 もし五限目が理数系であれば、頭を使うしそうそう眠くならないので問題視しない。体育も同様。



 だが残念なことに今日は国語。それも古文だ。



文系の科目は嫌いではない。むしろ好きの範疇であると俺は自信を持って言えるのだが、それをこのタイミングでけしかけられると、どうしても眠くなってしまう。



何故なら、高校レベルの文系科目ぐらいなら術式製作の時に大体マスターしている。術式製作のために全国各地の伝承や古文書、歴史などの様々なオカルトに手を出してきたからだ。



同じ理由で、日本史もまずい。大体知ってる。



 けれど、世界史のことはよく知らないし、国語も現代文となるとあまり読んだことはないので、そこは心配いらない。



 そんなこんなで、睡魔と戦い、先生の話と板書を何とか書き写すと、ようやく五限目が終わった。



 ……後から見直したら全く読めなかったので、正彦にノートを見せてもらったが、こちらもひどい有様だったので他の人に見せて写させてもらった。



 六限目は数学だった。その授業を受けているうちになんと雨が止み、太陽の光が差し込んできた。



 そして、授業の終わる頃には雲一つない快晴になっていた。朝の天気予報では一日中雨が降ると言っていたので気分が沈んでいたのだが、いい意味で裏切られた。



 しかし、そうなってくると傘を持って帰るのがメンドいな。まあ、しょうがないか。



 こうして、今日の授業は終了。クラスのみんなは部活に帰宅と教室を後にする。



 かくいう俺もその一人であることは言うまでもない。ただ、帰宅するわけでもなく部活に勤しむというわけでもない。



 そう、委員会の仕事である。参加人数が少ないため、どうしても俺が出ないと委員会が回らないのだ。もし委員会の仕事が無かったら俺はどうしているのだろうかと思うが、間違いなく部活には参加しないし、依頼を受けているだろうという根拠のない確信があった。



 まあ、委員会の仕事は嫌いじゃないし苦でもない。基本座ってるだけだし。



「……鳴神でーす」



 図書室に着いた俺は、小声で来た事をアピールする。結果的に言えば、俺以外誰もいなかったので

小声で入るという配慮が無駄になってしまった。無駄になっただけだから良いけど。マイナス分はないし。



「……こんにちは」



 背後から声がしたので振り向くと、黒髪三つ編みに萌葱色の瞳にメガネという、いかにも文学少女のような女子生徒が佇んでいた。



「……こんにちは、梅森さん」



背後に気配もなく立たれたことに驚きを隠しつつ挨拶すると、柔らかく、ニコッ、と返してくれた。



 彼女の名前は梅森(うめもり)千里(ちさと)。俺と同じく二年生で図書委員会委員長である。ただしクラスは別で、彼女は二組。つまり俺より成績が良い。



その清楚な雰囲気と、誰にでも優し気に話す口調、さらに読書をしているときに醸し出す(多分無意識)女神の如くオーラから、《図書室の女神》と呼ばれる美少女である。でもそれは表面的で、実際は小動物のような人だ。



実はこの図書委員に人が来ないのは彼女が理由である。



一体どういうわけかと言うと、彼女目当てに図書室と図書委員会に人が集まったのだが、図書室に入った人は梅森さんばかりで本を読まず、委員会に入った人は仕事そっちのけで梅森さんにちょっかいを掛けてきたことから、理事長が禁止令を出し、そいつらを締め出し、委員会に入るのにきつい条件を出し、委員会に入っていた輩は仕事する人以外辞めさせられた。



これが、夏原学園における七大事件《図書室の乱》である。



「それじゃ、始めましょうか」



「そうだね」



 ……だが、誰一人として図書室に来ないため全く仕事がない。本の整理はドラゴン襲来の片づけの時に済ませてしまったし。



ふと梅森さんはどうしているのかなと思い見てみると、梅森さんは自分で持ってきた文庫本を読んでいる。



 そんな梅森さんから溢れ出る神聖感に思わずドキッとして、俺、場違いなんじゃないかなと思ってしまう。



 しかし、こうなってしまった梅森さんは本を読み終わるまで他の作業はできない。集中力が半端じゃないのだ。いや仕事中に本読まないでよ……。暇なのは十分分かるけど……。



 どうしよう……と思索していると、図書室のドアが開いた。



 やって来たのは……理事長だった。



 なぜ理事長が来るのか。それには心当たりがあった。《図書館の乱》の時に担当教員が理事長に変更されたから、様子を見に来ることは何ら不思議じゃない。



 しかし、それはあくまでも名ばかりのもので、こうして図書室に来るのを見たのは今日が初めてだった。



「……理事長、何しに来たんですか?」 



今は生徒としての立場なので。綾乃とは呼ばすに理事長と言う。



「と、……鳴神君、お疲れさま」



俺に合わせて苗字で呼んだ。名前の方呼びそうだったけど。



「いえ、やることないんで」 



アハハ、と笑い誰もいない図書室を見渡す。それにつられて理事長も見渡し「そうね」と呟く。



「で、何しに来たんですか。理事長の仕事は終わりましたか?」



「雨宮さんですか貴方は……」



普段からこういう風なこと言われてるんかい。



 聞いた話によると、雨宮さんと理事長の付き合いは、海外先で出会ったのがきっかけで仲良くなり、秘書を任せたのだとか。



 公私を理事長以上に分ける人で、理事長の話では大体が愚痴なところを推察すると、仕事はできるが時々面倒臭がる理事長の手綱を握っている敏腕秘書であることは間違いないと思う。



「もしかして、逃げたんですか?」



「…………」



 目を逸らす理事長。どうやら正解のようだ。



「何やってんですか」



「だって、ドラゴンの件で先延ばしになったスケジュールがきつくて……」



 それは大変なのは分かるけど、逃げるようにサボっちゃだめでしょ。妙に子どもっぽいところあるんだよなこの人。



「とりあえず、立ちっぱなしってのも何ですし座ります?」



「そうね」



「じゃあ椅子持ってくるんで、ちょっと待ってください」



 そう言って近場の椅子を持ってくると同時に、理事長から見えないように携帯で『理事長は高校の図書館』と高速かつノールックでメールを打つ。



 宛先はもちろん雨宮さんだ。



「はい、どうぞ」



「ありがとう。……って、何か疲れてるみたいだけど」



「そうですか?」



 何のことかとごまかす。そりゃ気づかれないように集中力をかなり使って心臓の鼓動が急激に上が

ったからな。もう帰りたい。



 でもその成果はちゃんと出たようで、理事長は全く気付いていないようだ。あとは雨宮さんがここに来るまで理事長を足止めしないとな。



 けど話題がないんだよな……。こういう時は天気の話でもするか。



「今日は朝雨が凄かったですけど、理事長は大丈夫でしたか?」



「私は車で来たから何ともなかったわね」



 知ってた。



「そうでしたか。俺は徒歩通学なんで大変でした。靴にまで雨水が入ってきて、靴下もびちょびちょで」



「そうなの? なら今度こういう時があったら迎えに行きましょうか?」



「いえ、流石にそれはどうかと思います」



一介の生徒が理事長と一緒に学校行くとか、どう考えても目立つ。きっと周りから根掘り葉掘り聞かれるだろう。そうなってしまうと理事長の依頼の妨げになってしまうし、何より俺が嫌だ。



「……そう」



 しかし理事長はそんな考えは無かったようで、シュンと落ち込んでいる様子だ。まるで子犬が主人に構ってもらえないような、そんな感じだ。



それを見て俺は思わず苛めたくなってしまう。だって可愛いんだもの。まあ堪えたけど。まさかここで異能の鍛錬で精神統一した経験が活きてくるとは思いもしなかった。



 しかし、理事長がこのままだと俺が耐えきれなくなりそうなので、話を変える。



「それはそうと、理事長免許持ってたんですね。知りませんでした」



「いえ、運転手の方が送り迎えしてくれるのよ」



……ああ、そういえば金持ちでしたね。ならそういうこともあるか。俺には縁遠い話だな。



「と、ところで鳴神君は……彼女とか、いるの?」



 やけに言葉を詰まらせ、もじもじしながら言う理事長。若干頬が赤く見えるのは気のせいだろうか?



「どうしたんですかいきなり」



 俺としては予想外の切り出しに驚きを隠せた。何故このような話をするのかは全く分からないが……。



 というか、仮にも教職に就いてる人が生徒にそんなことを聞いて大丈夫なのか。同性の間柄なら何ともないような気もするが、流石に異性同士はどうなんだろうか。



「もしかして、友人が結婚でもしたんですか?」



「え!? あっ、うん、そうなの!」



身振り手振りが多いがそういうことらしい。テレビでやっていたが、女性は周りが結婚すると焦りを覚えるらしい。俺にはよく分からない感情だ。



「俺に彼女はいませんよ。いたら式神たちになんて言われるか……」



 確実に騒ぎ立てる。少なくとも何もないということはないだろう。特に夜鶴はかなり騒ぎそうだ。



「つまり、式神たちの許可がいるのね……?」



「いやいりませんて。もし彼女連れてきてあまり迷惑になるようなら黙らせます」



自分の好きな人の嫌がることなんて絶対にさせたくない。



「……かっこいいじゃない」



 何故か熱っぽい眼差しを向ける。それがあまりにも妖艶なので、



「自分がしたいだけですよ」



といい目線を逸らす。あんなの直視できるか。梅森さんが隣にいるのに、思わず理事長を抱きしめたくなったじゃねえか。魅了の術式でも使ってるんじゃないだろうな。俺は《不可侵》で精神系の異能は無効化できるけど。



「っていうか、理事長はお綺麗ですし、まだ二十歳前半でしょう。そう焦ることもないと思いますし、いい人も見つかると思いますよ」



「そ、そうね……」



 前半はものすごいいい笑顔だったが、後半になるにつれて曇っていった。俺何か変なこと言ったか? 当たり障りのないこと言ったつもりなんだが……。



そんな理事長の背後にいつの間にか人影が。



「お話は済みましたか?」



「……っ!?」



背後からの突然の声にバッ! と振り向く理事長だったが、その人影の顔を見上げるとサーッ、と顔が青くなる。まるで幽霊を見たような顔だ。



「人の顔見てその反応ですか……」



呆れ顔をする雨宮さん。スーツ姿が似合うクールビューティーで、眼鏡をかけているからそれも二割増しな印象を受ける。理事長のサボり癖を制御できる数少ない人物であり、また理事長に一番信頼されている人物でもある。



「な、なんでここが……」



 その信頼してる人がいることを恐れてるっぽいが……。雨宮さん、理事長に一体何したんですか……?



「ある人からのリークがありまして」



 雨宮さんが俺を見てくる。それに気づいた理事長も俺をジーッ、と見てくるので気まずくなり、視線を避けるため顔を逸らす。



「鳴神君、いつの間に情報を」



「椅子を持ってくるときにこっそりと」



「むぅ~。何でそんなことを……」



「仕事しないからですよ」



 仕事をし過ぎるのは良くないが、だからといって全くしないのも問題だ。



「理事、もう充分休んだでしょう。さっさと仕事に戻って下さい」



「え、もうちょっと待って……?」



 子犬のようなウルウルした瞳で雨宮さんを見つめる。



 男女関係なくその訴えに応じそうなものだが、相手が悪い。



 公私を完全に分ける雨宮さんには効果はなかった!



「そんな目をしたって駄目です」



 冷めた目で理事長の首根っこを掴む雨宮さん。



「ご無体な~~~っ!」



「いいから行きますよ」



 そのままズルズルと理事長を引き摺って行く。この二人、一体どういう力関係なんだ……?



「お騒がせしました。それと情報提供ありがとうございます」



「は、はい……」



 静寂に包まれる図書室。台風一過ってこんな感じなのかな……。台風というほどのものじゃなかったけど。夜鶴が三人に増えたらそれぐらいかな? などと考える。



「……鳴神君、どうしたの? 様子がおかしいけど……」



 本を読み終わり閉じた梅森さん。顔に出てたか。



「いや、大したことじゃないよ」



「……そう、ならいいけど」



 ニコッと微笑み、本を鞄にしまう。そして新しい本を出して読み始める。どれだけ本持ってきてるんだ……。



 それよりも、今までの話ぶりから理事長のこと全く気付いてなかったのか……!? もの凄い集中力だな。



そんなこんなで何事もなく時間は過ぎていく。ついに下校時間まで。



 結局、理事長と雨宮さん以外誰も来なかった。あまりにも暇すぎて課題やってた。それもすぐに終わっちまったからすでに整理されている本棚の整理をしたが、何の足しにもならなかった。



 残り一時間ほどは自分でも何をしていたか覚えていない。気が付いたら夕焼けが図書室に差し込んでいたので、もしかしたらタイムスリップしてしまったのかもしれない。時空神はできないこともないらしい。



 まあそんなことはどうでもいいので帰るけど。



「じゃあ俺は帰るわ。また明日」



「……ちょっと待って」



「ん?」



 荷物をまとめていると、梅森さんに呼び止められた。



「どした? 何か用事?」



「……大したことじゃないんだけど、良かったら一緒に帰らない?」



 まさかの提案に一瞬返答に困ってしまう。が、すぐに再起動した。



「俺で良ければ」



「……ありがとう」



 まあ、まだ明るいとはいえ夕暮れだ。すぐに暗くなるだろうし、そうなれば梅森さんのような美少女が一人でいるというのは、自衛的に問題だろう。世の中どんな人間だっているものだ。



一応依頼でボディーガード経験もあるし、人選は間違ってないと思う。このこと知らないだろうから偶然なんだろうけど。



そうして、梅森さんと一緒に帰ることになった俺は、手に傘を持ち歩いている。安全のために車道側を歩き周囲を警戒するが、その結果梅森さんをチラチラ見る人がいるが近づいてくるような奴はいない。



「…………」



「…………」



しかし、他の喋りながら帰る高校生とは違いただただ無言。あるのは車と人の騒音、そして夕日の日差しだけだった。



ボディーガードとして、護衛対象が護衛中に快適に過ごせるようにするのが俺の流儀。これは護衛対象にプレッシャーやストレスを与えないようにするためだ。命だけでなく、心身の健康も守るのがボディーガードの役目だと考えている。



が、この現状は、それを果たしていると言えるのだろうか?



普段なら式神たちを総動員させたりするのだが、今回は依頼でもなく、俺が勝手に決めたことなので急に呼び出せない。式神たちの都合を考えると憚られる。直接護衛するのが俺ではなく夜鶴とか紅葉(くれは)なら楽しく過ごせそうなものだけど。



「あのさ、梅森さん」



「……? 何?」



苦し紛れに話しかけてしまったが、全く話題がない。



「いや、梅森さんは何で夏原に入ったのかなって」



「……私、初等部からだけど」



「ああ、そうなんだ」



 はいしゅーりょー!



どうしようか。何を話せばいいのか全く分からん! 仕事の話とか異能の話ならいくらでもできる自信はあるが、そんなの話してもつまらないだろうしな。



例えそうでないにしても仕事のことなんて素性がバレて理事長との依頼規約に反してしまう。その理由を聞いたが、理事長は生徒たちを不安にさせないようにとのことだ。



「私は比較的早く異能に目覚めたから。鳴神君はどうして夏原に? 確か高等部からだったよね?」



「そう大した理由じゃないよ。自分の学力で行けるところで一番近い学校が夏原だっただけ」



あらかじめ用意していた答えを返す。仕事で、とは口が裂けても言えないし。



その理由のために、家は学園の近くにわざわざ建てた。元々は《三日月の共鳴》が所有するマンションに住んでいたが、遠いので建てた。



《三千世界》を使えば距離なんて関係ないが、あれ目立つからやめた。急に赤い城門が現れたらパニックになるだろ?



「……ごめんなさい」



「急にどうしたんだ?」



「つまらなさそうだったから。……私口下手だし、声も小さいから」



「そんなことはないよ。俺としては梅森さんと一緒に帰れるってだけで嬉しいし」



 女の子と一緒に帰るって、男なら一度は憧れるシチュエーションだしな。美少女の梅森さんなら尚更だ。



……よくよく考えると、成人してるんだよな俺。社会的に危なくない? この台詞。



「……本当?」



「ほんと。それと梅森さんは確かに声が小さいけど綺麗だから聴き取りやすいよ」



 こういうのを透き通る声と言うのだろう。



「き、きれ……っ!?」



「だからそんなに気にしなくても……って、梅森さん、顔赤いけど大丈夫?」



「う、うん。大丈夫……」



疲れとかストレスが出てきたのかな? 学校も久しぶりだったし。まあ本人が大丈夫と言っている以上は、あまり突くのは良くない。俺から見ても遠慮したようには見えなかったし。



だからと言ってここで引くのはどうかと思うので、



「一応手でも繋ぐ?」



「えっ……!?」



 驚かれた。説明が足りないか。



「もし倒れたりしたら大変だと思って……余計だったかな?」



「ううん! そんなことないよ! ただ……」



「ただ?」



「……私、男の人と手を繋ぐのなんて初めてだから、どうしていいか分からなくて……」



 指をもじもじしながら視線を逸らす梅森さん。



「別に気にしなくてもいいと思うよ。俺も女の子と手を繋ぐなんて初めてだし。そんな俺で良ければの話だけど……」



「そんなことないっ!」



「え……?」



「あ、いや、なんでも……ないです……」



「ありがとう。……じゃあ、行こうか」



「うん……っ!」



 梅森さんと手を繋ぐと、まるで満開の花のような可愛らしい笑顔をするのを見て、思わず可愛いと言ってしまいそうになるところだったが、寸でのところで耐えた。



……周りから嫉妬や羨望の眼差しのようなものが降り注いでいるが、気にしない。



 そうして、周りから好奇な目で見られつつも、手を繋いで夏原駅まで辿り着いた。



「それじゃ、ここまでだね」



「あっ……」



手を離すと、何だか名残惜しそうな表情と声を漏らす梅森さんだが、きっと気のせいだろう。



「ありがとう、鳴神君。我が儘聞いてもらって」



「どういたしまして、お姫様?」



 仰々しく茶化して言うと、梅森さんは「ふふっ」と笑ってくれた。



「また明日だね」



「ああ、また明日学校で」



 別れの挨拶をして、梅森さんはそのまま駅の構内にへと歩いて行った。ボディーガードとしては最後まで面倒を見るのが筋だとは思うのだが、普段徒歩で通学しているので電車賃がないのと、依頼ではなく自主的にしたことなのでこれ以上は迷惑がかかる。



「さてと、帰るか」



 梅森さんを見送り、家に帰ろうと振り向いたその時。



「っ!?」



 足元に、見たことのない魔法陣が眩い光と共に展開されていた。



「くっ……!?」



咄嗟に目を覆い魔法陣の外に出る。その直後に謎の光が増大し、視界が真っ白になった。



「……なんだったんだ?」



 謎の光が消え、視界が戻る。そこには、先程足元に展開されていた魔法陣は跡形もなく消えていた。



俺も、近くにいた人たちも一体何が起きたのかさっぱり分からなかったようでざわついている。

駅前は騒然としたものの、少し経つとそれも忘れ去られたかのように何事もなく人の波が動き始めた。



 ……なんだかよく分からないが、まあいいか。身体に害はなさそうだし、僅かに見えた魔法陣の構造からして、多分転移陣っぽかったし。見たことない系統の奴だったけど……もしかして異世界関連だったり?



最近流行ってるからな。異世界召喚。あ、物語の話じゃなくて現実の話ね。



 時空神の現人神から聞いた話によると、本当にあるらしい。異世界。



「……今度こそ帰るか」 



正直そんなことはどうでもいいので歩き出すと、手に握っていた傘が無くなっていたことに気づい

た。周りを見渡しても傘は見当たらない。



「もしかして、さっきの魔法陣の中に……?」



 だとすれば、俺の傘はどっかに飛ばされた? 



 本当にあれが異世界からの召喚陣で、俺の事を召喚しようとしていたものだとしたら向こうの人はさぞかしがっかりしていることだろう。



まあでも、あの傘は俺が作った呪具だ。カバーは特殊繊維でできていてライフル弾なら何とか耐えきる代物だし、衝撃も拡散してくれる。



さらに石突部分の先端は隠し刃となっていて、手元のアタッチメントを使えば刃が出るので近接戦も可能だ。しかも刃こぼれは滅多にない上、呪力で刃の射出と生成も可能。自動修復機能も搭載。



近世ヨーロッパ時代とほぼ同じぐらいの文明レベルの異世界なら、それなりに活躍できるんじゃないかな。整備めっちゃ大変そうだけど。



「また作るか」



 今度はGPS機能付きの傘でも作ってみるか。異世界だと無意味だけど。



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