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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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報告が終わるまでが仕事です③

風魔の里での一件から数日過ぎたある日、家に風魔がやって来た。



「こんにちは、鳴神さん」



「こんにちは」



「こちら、電話した通り依頼料を持ってきました」



 風魔から依頼料の入った封筒を受け取る。基本的に振込で受け取るのだが、風魔の里には銀行もATMも無いので、仕方ない。それどころか、電気ガス水道(ライフライン)が通っているのかも怪しい。



「うん。確かに」



 封筒の中身を確認し、ちゃんとあるかどうか確認する。



「お疲れ様。疲れただろうし、上がってく?」



 《三千世界》で行けるから忘れがちだが、風魔の里の境界は山奥で、ここに来るには山道を歩いて電車に乗る必要がある。



 電車は三十分ぐらいだが、山道の方は三時間ぐらいかかるはずだ。



 体力的にも負担が大きいし、式神達と仲が良さそうだったし。せっかくだから遊んで行けばいい。秋奈は学校でいないけど。



「ありがとうございます! でもこれから別の用事があって……ごめんなさい」



「そうなのか。頑張ってね」



「いえ、それほどのものじゃないんです。実は風魔の里が正式に異能庁に登録されることになりまし

て、私が異能庁との橋渡し役になったんです」



「そうか。良かったな」



 これで風魔の里が消滅せずに済むな。



「はい! 今日はその関係で異能庁に行くことになりまして」



「そういうことか。……でも、服装とか大丈夫なのか?」



 今の服装は白のロングワンピース。異能庁に行くには無理がある。



「大丈夫ですよ。これでも私、こっちの学校に通ってますから。後で制服に着替えようかと思いまして」



「それは知らんかった」



 風魔学校行ってたのか。



「ちょっと待って。着替えってどこでするつもりなんだ?」



「その辺の公衆トイレで済まそうかと」



「それはダメだ! 家でやれ!」



「え、えええっ?」



 強引に家の中に入れて、脱衣所に押し込む。



 ったく、こいつ自分が美少女ってこと忘れてるんじゃないのか? そうでなくても、貞操観念と言うか、危機意識が無さすぎる。こいつ本当に忍者なのか?



「着替え終わりました……」



 学生服姿の風魔が脱衣所から出てきた。



「お前さ、もうちょっとでもいいから自分が女の子であることを自覚してくれない?」



「失礼な。ちゃんと女の子ですよ」



「ちゃんとした女の子は、公衆トイレで着替えたり野宿はしません」



「そんなことは無いです。里の皆はそんな感じでしたよ」



 納得いかないといった感じの風魔。



 成程、風魔になかったのは貞操観念とか、危機意識とかではなく常識だったようだ。



「風魔の里の常識は都会じゃ通用しません」



「えー」



「えーじゃない」



 子供かよ。……いや、まだ子供だったな。



「少し気になったんだが、今日学校サボったの?」



 今日は平日。学校に通っているといおう風魔の言葉を信じるならば、今日は学校に行っててもおかしくない。



「違いますよ! ちゃんと学校には欠席届出してます!」



「ならいいけど」



 無断で休むと内申点に響くからな。



「学校って、里から通ってんの?」



「そうですね」



「何時間ぐらいかかるの?」



「何で時間単位何ですか……まあその通りですけど。片道四時間です」



「……まじ?」



「まじです」



「……なあ風魔。少し提案があるんだが」



「何ですか?」



「実はうちの会社……《三日月の共鳴》って言うんだが、そこでマンション経営しててな。もし良かったら入居しない?」



 片道四時間ってことは、大体の学校は九時から始まるから身支度の時間を合わせると起きるの四時ぐらいになる。



 もし風魔が部活動に入っているなら、帰宅時間は遅いやつは七時とか八時になる。そうなると、帰宅時間はもう深夜だ。



 最悪の事態を想定すると、睡眠時間は……約三時間。



 成長期の子供がそんな睡眠時間ではダメだ。



「敷金礼金は無いし、家賃も部屋によるが最安値は三万円から。組合に入るのは自由だ。どうだ?」



「……考えさせてください」



「もちろん。時間に制限はないから、いつでも返事をくれ」



 内見も必要だし、未成年だから保護者の同意もいる。今すぐ決断しないところはちゃんとしてる。



「時間取って済まなかった。話し合い、頑張ってな」



「はい!」



 風魔は元気に去っていった。あの元気があれば、異能庁の話し合いもきっと何とかなるだろう。こ

っちも手回しをするし。悪い事にはならない。



「透様~?」



玄関から戻ると、夜鶴が固まった笑顔を張り付けて詰め寄ってきた。



「な、なんだよ」



「……夕夏さんと随分仲が良さそうですね?」



聞いてたのか。それより夕夏さんって、お前の方が仲良さげじゃないの? いつの間に名前呼びするほど仲良くなってんの。



「そんなことねえよ。俺にとって風魔は依頼者だっての。それ以上でもそれ以下でもないよ。」



「ほんとに~?」



「疑り深いな。本当だ」



やれやれ、それ以外にないだろうに。



さてと、次の依頼の準備に取り掛かるか。音無君の呪具の製作にも取り組まなきゃいけないし。



 全く、やることが多いな!



「ちょっと、逃げないでくださいっ!」



「あーもう、しつこいな!」



 この後家中に逃げ回り、翡翠に二人一緒に正座させられて怒られた。



まあ、こんな日常も悪くはないけどな。



「透さん? 何を笑っているんですか?」



「は、はいっ! すみません!」



 騒がしくも愛すべき日々は、まだまだ続いていく。



 ──一抹の不安と、火種を抱えながら。


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