表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
24/133

報告が終わるまでが仕事です②

コンコンコン、とノックをしたら中から「どうぞ」と声が返ってきた。



「鳴神透です。魔物の一件で来ました」



「約束通りね。時間ぴったりだわ」



そこにいたのは私立夏原学園理事長、篠宮綾乃その人。



「ところで喉乾いたんで何か飲み物あります?」



「雇い主に言うことじゃないわね」



俺は理事長の依頼で、夏原学園に高校生として通っている。普段は高校生として夏原に在籍し、緊急事態の時は討魔師として仕事をする。



「同級生のよしみってことで」



 実は俺と綾乃は同い年。二十三歳だ。



「……仕方ないわね。(れん)、用意してあげて」



「かしこまりました」



 理事長秘書の雨宮恋さんが、すっと姿を現し、また消えた。



 幽霊か何かですかねあの人。



「じゃあ仕事の話をしよう」



 俺は夏原学園襲撃事件についての話をした。話の都合上、風魔の里での一件も説明したが、あくまでも必要最低限の説明に留めた。



「そう、風祭って人が主犯なのね」



「本人が言うには、だけどな。自白だけじゃ証拠が足らないぞ。あ、ありがとうございます」



「いえ」



 雨宮さんから紅茶を受け取り飲む。



「ご馳走様」



 報告もしたし、帰るか。休みたい。



「じゃあそういうことで」



「待った」



「……何?」



 ちっ、逃げられなかったか。俺逃げの失敗率高いな。向いてないのかな。



「そんな嫌そうな顔しないでよ。少し話しましょ」



「……話題はそっちで決めてくれよ」



「もちろんそのつもりよ。……透君、今度の行事には参加してくれるのよね?」



「今度? ああ体育祭か。……やれるの?」



 校舎やグラウンド、その他諸々の施設は、ドラゴンの襲撃によって壊滅的な被害を受けている。



 とは言え、被害があったのはほとんど高等部の敷地。隣接する中等部と大学部の敷地はちょっとだけ被害があり、初等部に関してはほぼ被害が無い。



「これから一か月高等部は修繕して、授業はリモートで行うつもりよ」



「一か月で出来るのかよ。言っておくけど俺は手伝わないぞ」



 神遊祭の設営でそっちには関与できない。そもそも俺は討魔師として雇われただけだ。最終学歴が中卒だったせいで高等部に入る形になったのは甚だ遺憾ではあるが。



「私の異能を使えばそのぐらいにはできるわ」



「万能だなあ《箱庭の支配者(ゲームマスター)》」



 綾乃の異能《箱庭の支配者》は、自陣内の全てを支配する結界。



 結界内部を自分の思うままに支配できる《独法境界》という、特殊な結界の分類だ。



 即ち、結界内部であればできないことは何もない。強いてできないことを挙げるならば精々、綾乃

がしないことぐらいだ。



 綾乃と俺が戦ってもこの学園内では勝てない。



 例え、現人神の力を使おうとも、使う前に殺される。こっちは詠唱しないといけないが、向こうはノータイムノーモーション。勝てるわけがない。天才ってそういうもんよ。嫌になっちゃうね。



「気になってたんだが、今回の騒動で生徒側の被害は無かったのか?」



「それは大丈夫よ。誰かさんのおかげでね。というか、生徒が無事じゃないのに行事なんてできないわよ」



「まあ、確かにその通りだな」



 行事なんてしてる場合じゃないよな。



「それよりも、行事には参加するの?」



 ちっ、逸らしきれなかったか。



「参加は……しろとは、言われている」



「あら。てっきり今年も参加してくれないかと思ってたけど」



「甚だ、不本意ではあるけどな」



 龍脈が真下に通っているせいで、いつ魔物が出るか分からないこの学園で、呑気に行事を楽しんでいる余裕はそんなにない。いつでも出動できる状態にしないといけないのだ。俺が目立つのを嫌っているから、そのせいで難易度跳ね上がってる。



「と言うか、理事長として良いのかよ。仕事しないで遊べって言ってるようなもんだぞ」



「理事長的には、生徒には学校生活を楽しんでもらいたいのよ」



「……あっそ」



 雇い主がそういうなら、雇われの身としては何も言うことはない。



「それに、透君は私のせいで──」



「綾乃。そのことはもういい」



 ビシッと釘を刺す。



「もう終わったことだし、綾乃が責任を感じる必要なんてないだろ。



 ──なんて事はない、中学時代の話。



 目立たない男子が学校一の有名人と関わりを持ち、妬み、恨まれ、いじめられる。



 そんな、とっくに過ぎ去ったつまらない話だ。



「綾乃は何も悪くない」



綾乃が誘拐されそうなところに偶然出くわし、助けた。



綾乃はそのお礼をしたかっただけだ。



「それにあれは俺が理由を伏せたから燃え広がったんだよ。つまり俺の自業自得だ」



 憶測が憶測を呼び、いつしか事実として認知される。



 いやはや、恐ろしいものを見たよ。



「だから、気にしないでいい。それより、これからの話をしようぜ」



 大事なのは、過去ではなく今だ。



「術式科の様子はどうなってる?」



 この学園には《術式科》という選択コースがある。



 これは非異能者を異能者にすることを目的とした教育課程だ。



 ただ、俺が創ったわけでもなく、夏原、というか綾乃がいち早く術式の有用性に気が付き、世界に先がけて導入したコースだ。



 一応、術式の開発者だから、どうなっているのか興味がある。



「順調……とは言えないわね。術式の理解度が高い講師があまりいないせいか、あまり人が集まって

いないわ」



 データを集める以前の問題か。術式に興味を持ってくれる人はいると思うのだが、まだ敷居が高

く、魅力が伝わってないのかもしれない。



「それに、術式科の生徒と異能科の生徒との確執がね……」



「ああ、そこも問題か」



 異能は環境よりも遺伝で決まるため、代々異能者の家系も多い。故に変なプライドを持つ異能者も少なくないのだ。確かに続いているってのはすごい事なんだけどね。



 そういう異能者にとって、生まれ持った才能を持たない非異能者は差別の対象になり、異能者になりたい術式科の生徒は半端者として邪見に扱われる。



 この確執は社会問題にもなっており、社会的少数の異能者の社会参加を阻む壁になっている。



 それを解消するのが異能庁の仕事なのだが、現場と施策との乖離があり、解決には至っていない。



 まあ頑張っている方ではあると思うけどね。双方に過激派がいるもんだから、そいつらが邪魔をすることもあるし。



「どこかにいい講師がいれば、敷居も低くなるのかしらね……」



「悩みは尽きないな」



 俺が術式の開発者であることは、綾乃には言っていない。表向きの開発者は国立異能科学研究所の職員となっている。一応、異能の研究を趣味でやっていることは綾乃に明かしていて、その興味の一環として術式が使える、と説明はしている。



 これは作成者が俺、つまりは現人神なので機密事項として扱われているのと、俺の要望でこのような形で公表された。



 ただ、丸っきり嘘と言う訳じゃない。俺が術式を作る時に国立異能科学研究所、通称異科研を見学させてもらったし、途中まではそこの職員さんと共同開発していた。



 まあ、諸事情あって独断専行したもんだから、向こうには頭が上がらないんだけどね。



 ちなみにその人は、当時陰陽と五行で呪力が構成されていると言われた時代に、裏五行なるものを発見し、今となっては当たり前になった《呪力属性は十二種類》というのを発見した人だ。



 俺の術式もそれに合わせて作られたものなので、実質開発者みたいなもんよ。



「透君、いい人知らない? 結構顔広いでしょ?」



「いやー、そういう人はあんまり知らないな」



 俺以上の術式を使う人(術者)はいないと思う。



 じゃあ俺が講師やるわ! ともならないしな。これ以上肩書増やすと名刺に乗り切れないと《三日

月の共鳴》の事務員さんに注意されたし。



 これ以上この話を続けるとボロが出るかもしれないな。話題を変えよう。



「ところで、魔物感知網ってどうなった?」



 魔物感知網とは、霊気の噴出を龍脈の流れを感知することで、魔物の発生を予知する装置の事だ。

要するに地震計の魔物バージョン。



 たしか異科研と共同開発していたはずだ。政府主導なのに俺に声が掛からなかったので不思議に思った案件。俺が知ったのネットニュースでだったよ。



 あれが完成すれば、魔物が出てもすぐに逃げられるし駆けつけられる。魔物被害が最小限に抑えられる代物だ。



 緊急出動については、対魔部隊の時空神がいるから問題無し。



「まだまだ精度が低いわね。システムに不具合ばかりで」



 頭を右手で押さえる綾乃。



 どうやら、相当参っているようだ。物が物だけに、色んな所から圧があるんだろう。



「あまり根詰めるなよ。なんかあったら力になるから」



「そう……。ありがとう」



不意にニコッ、と笑う綾乃。美人はこれだからずるい。中学時代、こういうふとした笑顔や人当たりの良さで一体どれほどの人間が告って振られたことか。俺のクラスは確か全滅だったような。



当時の俺は自分の異能を制御するのに必死で告るどころの話じゃないけど、もしそれが無かったら告ってたかもしれないな。まあ、綾乃は兄さんが目当てらしくてある時期から家に来るほどだったから、どの道俺もクラスメイトと同じ道を辿ることになってたと思うけど。



「そうだ、今度の神遊祭って学園はどうするつもりなんだ?」



 実は毎年神遊祭に夏原の学生が出場している。時には推薦枠というのがあり、学園から大会に参加させることもある。



「何もしないわ。学生たちに任せてる」



学生たちの自由にさせているのか。



まあ学園側は体育祭の準備があるからそっちにまで回らないか。校舎の修復もあるし。



「そ、ならよかった」



「良かったって、何かあったの?」



「いやさ、保障局の局長が勝手にエントリーしちゃってな。もし学園側で参加するならそれは言っておこうと思って」



もし学園側で何かするならダブルブッキングになるしな。まあ、推薦枠がもらえるのは一組だけ。三組の俺じゃどうやってもお声はかからないけどね。



「勝手にって……それブラック企業じゃないの?」



「まあ、こっちにしても悪いことだけじゃないし、それは割り切ってるけどさ」



 研修みたいなもんだよ。納得はしてないけど理解はしている。



「それならいいけど……。でも久しぶりに透君の晴れ舞台が見れるのは楽しみね」



「俺のじゃなくて、式神の晴れ舞台だけどな」



「えっ、透君が出るんじゃないの!?」



綾乃がグイッと身を乗り出す。こういうところは子どもっぽいな。可愛いからいいけど。実のところ、これが綾乃の素だ。昔はこういうところがよく出ていたが、大人になってからはめったに見られなくなった。



仕事ができてクールなのも綾乃の一面ではあるが、こうした好奇心旺盛で子供っぽいところもまた、綾乃の一面だ。



「ああ、式神トーナメントの方。というか顔が近い」



「ご、ごめん!」



 神風のような速さで対面のソファに座り、深呼吸する。まあそんな速度を急に出したら酸欠になるよな。



「透君式神持ってたんだ……」



ああ、言ってなかったっけ。仕事に関係ないから忘れてた。



「持ってるゆーな」



その言い方はあまり好きではない。



「ご、ごめん。それで、どんな式神さんなの?」



「どんなって言われてもなあ……。いっぱいいるし誰から言えば」



「呪力持つの!?」



またも驚く綾乃。現人神の事も言ってなかったなあ。



「大丈夫、総量の六割で何とかなってる」



 契約維持に必要な呪力は、契約の種類や契約対象によって変わるけど、うちの場合全員神霊と精霊だからなあ。《鉄血契約》で対等な扱いにしていなかったら、十二人も契約できなかったよ。



「それ大丈夫なの?」



「日常生活が送れてるから大丈夫だろ」



 残り二割で何とかなってし。ちなみに謎の二割は《異能工房》で呪具を作る分。《異能工房》は呪具が出来上がるまで呪力を注ぎ続けなきゃいけないからな。



「理事長。そろそろお時間です」



 雨宮さんがタブレットを持ち話す。何か予定入ってたのか。



「じゃあそろそろ帰るわ」



 仕事の邪魔をしちゃいけないからな。これから大忙しだろうし。



「そう、また来てね」



「校舎直ったらなー」



 理事長室を退室して自宅へと帰るのであった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ