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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
18/131

討魔師として、研究者として①

ドゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ!!



突如として《北山》から霊気が爆発した。



「うおっ!」



「きゃっ!」



「おっと!」



余波で大地が揺れる。まるで地震だ。



転んで怪我をしないよう(特に風魔祐介)《絶対王制》を風魔祐介、紅葉、紫苑に巻き付け、楔を地面に刺し固定する。



しばらくすると揺れは収まった。もう必要ないと《絶対王制》を解く。



だが霊気の噴火が収まったわけではない。むしろ徐々に強まっている気がする。



「……いったい何が起こってるんだ」



「さあ?」



こんな時でも冷静な紫苑。



「だが、相当危険な状態であることは間違いない」



「確かに」



 霊気の噴出。生で見るのは初めてだが、この世の終わりのような光景だ。



「紅葉、お前《蒼炎》であの霊気を抑えられるか?」



 このままだと、霊気が里に向かい人々が浴びる。風魔祐介のように魔獣になることはできないだろうから……死ぬだろうな。



「出来るか分からないけど、やってみるわね」



 《炎天弓》が青く燃え、紅葉は《炎天弓》を横向きに構える。



《炎天弓》が青い炎の状態は《蒼炎》と言い、着弾時に爆発し、青い炎が波のように押し寄せる。



 さらに《炎天弓》が横向き、これを《連矢モード》と言うが、クロスボウのような状態で矢を射る時、同時に放てる矢の本数が三本になる。また、縦向きよりも威力と速度は落ちるが、射出してから

の矢の軌道を操れるようになるため、精密性が増す。

 


三本同時に放たれた《蒼炎》は《北山》と里の間に着弾。青い炎が《北山》を取り囲む。



 とりあえず、霊気の奔流は止められた。魔物が出てくるのは確実だが、それはこちらで対処すればいい。



幸いにも、霊気の噴出を止める方法は知っているし、止める道具も用意できる。霊気の噴出を聞く度、自分ならどうするか、霊気の噴出とはどういうものなのかを調べておいてよかった。これが初めてという点を除けば心配はない。あまり自信も無いけど、やるしかない。



「鳴神さーん!」



 誰かがこちらに来ている。この声は風魔か?



 俺の予想通り、風魔が必死の形相で走ってきた。



「皆さんご無事ですか!?」



「ああ、何ともないよ」



「それは良かった。でも早く逃げてください! 事は一刻を争います!」



「逃げるって、どこに?」



 ここは異界。逃げ場などない。



「え、でも鳴神さんなら逃げられるんじゃ……」



「そうしたいのは山々なんだが、霊気の噴出のせいで場が乱れてる。これじゃあどうやっても《三千世界》では帰れない」



 霊気が邪魔で、座標指定が出来ない。こんな状態では《三千世界》を出してもどこにも繋がらない

し、仮に繋がったとしても、その先が安全であるとは限らない。



「そんな……」



 顔面蒼白になる風魔。頼みの綱が切れたって感じか。



「そうだ、とりあえず風魔はそこの人を連れて里に戻ってくれる?」



「そこの人って……祐介さん!? 随分と萎んで……」



 ひどい言われよう。というかやっぱり元々の体形じゃないのねそれ。



「お前……」



 風魔祐介も思うところがあるようだ。身体が正常なら文句の一つでも言いそうな雰囲気だ。



「あと、里の人達にあの青い炎に近づくなって言っといて」



 うっかり燃やされたら大変だし。



「鳴神さん、何をする気ですか」



「決まってるだろ? 止めるんだよ。一応、対処法は知ってるから。やらなきゃ死ぬだけだし、やってみるよ。あ、これは依頼料金には入らないオマケみたいなもんだから気にしないで」



「無茶です!」



「じゃあこのまま死ぬのを待つか?」



 人生、無茶でもやらなきゃいけないこともあるもんよ。



「それは……紫苑さんも紅葉さんも、鳴神さんを止めてください!」



 風魔は二人に説得するよう言った。



「いや、止めないよ」



「そうね。行ってきなさい」



 ああ、お前らはそう言うよな。人選が悪いぜ風魔。止めるなら夜鶴か光明だ。



「そんな……」



「大丈夫よ。アイツはこの程度で死なないわ。殺しても死なないようなやつだもの」



 ひどい言われよう。その通りだから言い返せないけど。



「他に方法が無いからな。……じゃあ行ってくる。紅葉と紫苑も二人を守りつつ里に避難してくれ」



 呪力は十分に回復した。



 ──《十二枚刃(じゅうにまいば)》展開。



 背部に白い三対六翼を出す。



 これで《蒼炎》の壁を越え、霊気の噴出点に行くことができる。そうしたら原因を探り処置をする。



 頭の中で大まかな作戦を練り《十二枚刃》を羽ばたかせ浮かぶ。



 猛風を起こしながらある程度の高さまで到達し、呪力スラスターで《北山》まで一気に加速する。



 そうして《蒼炎》を超え、着陸できる霊気が薄く開けた場所を探し、見つけたので着陸。《十二枚刃》を畳み、緑の対魔刀《剣戟乱舞》シリーズの《地龍》を出す。



 これには霊気を制御する能力があり、生物にとって害のある霊気が満ちたこの空間でも、これがあ

れば霊気を遮断できる。



 また《地龍》を霊気の噴出口に突き刺せば、穴を塞ぎ霊気を正常な状態に戻すことができる。これが、霊気の噴出の対処法。



 問題は、霊気の噴出口がどこにあるのかということ。上空からある程度目測はついている。けれど森の中では風景が変わらないので方角が分かりにくい。《術式》の感知術を使おうにも、霊気の乱れで上手く作用しないし。とりあえず直感で動くしかないか。



「あれか」



 数分歩いた先に見つけた斜面の上にある霊気の柱。上からは霧のように霊気が降り注いでいる。見た目は間欠泉のようだ。



 そして、その周りに狼型の魔物が六体。取り囲むように歩いている。



「まずはあいつらを斃すか」



 作業中に襲われたらそれどころじゃないし。



「おや、こんなところに人がいるとは」



 あり得ない人の声。



 俺の前に、一人の男が現れた。つーかこっちのセリフだ。



 見た目は二十代後半。何かこだわりがあるのか白を基調としたスーツに白衣、白手袋ととにかく白さが目立つ。



 だが、この男の異質は外見ではなく。



「お前、何者だ」



 この猛毒の中、さらに魔物がいるのに襲われず、平気で突っ立っていることだ。



「人に名を尋ねるのなら、先に身分を明かしてからではないかね?」



 やけに上から目線だな。だがこの状況からして、相当の実力者であることは間違いない。警戒を怠ってはいけない。



「断る」



 不審者に名乗る身分などない。



 《地龍》で霊気を集め、刀身を振るい放出する。様子見程度の威力、だが対魔刀の中で比類なき一撃。さて、どう出る?



「いきなりなご挨拶だな」



 男は何もせず、ただ立っている。



 しかし、男の周りにいた魔物が盾となり攻撃から男の身を守る。



「…………」



 あり得ない。魔物が人を守るだと?



 驚きはあるが、それを奴に悟られてはいけない。



 一切表情を変えることなく奴を観察する。



「まあ、私は君を知っているのだがね。鳴神透君」



「っ!?」



 ……これは、絶対に油断できない。警戒度を上げる。



 俺は現人神という立場のせいで、情報管理は国家レベルで徹底されている。



 また、異能者としては五段階評価の真ん中。Cランク。名が通っている訳じゃない。



 三日月の共鳴からでも、社長の名はホームページに記載しているが、他の従業員は載っていない。



 そして、夏原学園では日陰者。去年はクラスメイトも俺の名前を憶えていたのは登尾と、同じ図書委員の三人だけ。



 漏れる要素はない。一体どこで漏れた?



 いや、それを考えるのは後だ。



 とりあえず、この胡散臭い男から情報を引き出す。俺の事を知っているのなら、もしかしたらアイ

ツが関わっているかもしれない。



「自己紹介が遅れたね。私は風祭進一。魔物の研究をしているものだ」



 自分から情報提示してきた。相当自身があるようだ。戦闘において、情報戦は避けては通れない。



これに勝ったら戦いに勝つ、とまでは言わないが、勝ったなら相当優位に立つことができるのは間違いない。



 それを風祭が知っているのかいないのか。どうも研究者っぽいし、もしかしたら戦闘に関する知識や経験が無いのかもしれない。



「ここで何をしている」



「説明しよう!」



 急にテンションが上がった。うん。こいつただの研究者だ。



「ここは私が見つけた魔物の実験場でね。ここでは魔物の発生を抑制する研究を行っていたのだよ」




 嬉々として自分から話し出す。



 確かに、魔物研究をするなら、異界は絶好の環境だ。人がいないから、危険な実験もできるし、異界を維持する龍脈が必ず通ってるからな。夏原学園にも地下に異界に通じる道があるし。



「そして、研究の末……私は霊気を操れる力を手に入れた!」



「つまり、この騒動はお前が原因か」



「その通り、話が早くて助かるよ。流石私が見込んだライバルだ」



 何か勝手にライバル認定されてるんですけど。



「君の成果は素晴らしいものだ。かの《術式》を開発し、私が生み出したドラゴンを窮地に追いこんだ。

君は異能の研究者で、私の分野とは違うが……素晴らしい才能を遺憾なく発揮している。これを素晴

らしいと言わずに何という!」



 俺が《術式》の開発者ってことまで知っているのか。しかも趣味の異能研究まで。



 ……いや待て。ドラゴン?



「夏原学園に現れたアレは、お前の仕業か」



「その通り! あれは私が現時点で出せる最高の作品だった。だが君はアレを瀕死まで追い込んだ! 最終的に斃したのは対魔部隊だったがね。

対魔部隊の足止めがもう少し長く出来ていたら、きっと斃せていただろうに! そして私もまだまだということを認識させてくれた。

だが! それはまだ私が成長できるということ! これほど素晴らしい成果があるかね?」

 


夏原での一件を事細かに知っているってことは、こいつ相当近くにいたな。対魔部隊を足止めしてたのもこいつか。



「どうしてそんなこと……そうか、口封じか」



 あの場には、風祭が実験場と称した風魔の里の人間がいた。



 風魔夕夏。



 自身の研究が外に漏れることを危惧した風祭は、口封じのため風魔がいる夏原学園にドラゴンを放って始末しようとした。



 にしては、戦力過剰に思えるが、本来の目的を隠すために、あえて被害を甚大なものにしたと考えれば納得はいく。



「……やはり、素晴らしい! その思考の速さ! そして真実へ辿り着く頭脳!」



 ……何でこいつはこれほどテンションが高いのか。喉が痛くならないの?



「だが惜しい! 私にはもう一つ目的があったのだよ!」



「何だと?」



「私は元々夏原の研究所に勤めていたのだよ! ……だが、あの理解の無い奴らのせいで私の研究は踏みにじられ、私は研究所を去ることとなった。まあ、その後すぐにパトロンが現れ研究は続行できたが……それでも、私の怒りは収まることはない!」



 つまり、夏原学園自体にも恨みがあったってことか。



 つーか、あまりにも喋り過ぎる。魔物の研究の末、使役する技術を身に着ける程の才覚を持ちながら、こんなに口が軽くていいのか? 勝手に答え合わせまでしてくるし。



 単に研究成果を発表したいならそれだけに留めりゃいいものを、聞いても無い身の上話までするか?



 侮れない相手であることに間違いなさそうだけど。



「故に私は、私の最高傑作を使って、彼らを見返すため破壊の限りを尽くそうとしたのだよ! ……

それは叶わなかったが、おかげで良きライバルを見つけることができた。それで良しとする!」



 もう夏原学園に未練はないようだが、この件が片付いたら理事長に伝えておいたほうが良いな。



 ただし、無事に帰れたらの話だが。



「さあ、お喋りはこのぐらいにして、勝負だ鳴神透君! 私の研究と君の研究。お互いの成果を発揮

する時だ!」



 それが戦いの合図となり、狼型の魔物達が生み出され一斉に襲い掛かってくる。



 だが戦略性も無く真正面からの突撃など、冷静に対処すれば大した脅威にはならない。



 《地龍》を振るえば、放出された霊気で一網打尽にできた。



 そこで、地面に違和感を覚え後ろに飛び下がると、俺がいたところが爆発した。



「成程、霊気か」



 先程の爆発の正体は霊気。魔物は囮か。やはり、油断してると痛い目を見そうだな。



「お前の異能、段々分かってきたぞ」



「そうかい。だがこれだけとは思って欲しくないね!」



 風祭の周囲に続々と魔物が生み出される。そしてその魔物達は統率が取れた動きで再び襲い掛かってくる。



 数で押し切るつもりのようだ。



 《地龍》で対処しようとするも、少しづつ劣勢になってきている。ここは一度引いて、体制を立て直すか。



「《十二枚刃》展開!」



 《地龍》を戻し六翼分を展開、刃の性質を持つ翼で魔物達を引き裂く。



「何と! それにはそのような使い道があったとは!」



「見せたくなかったんだけどな」



 これ、一応隠し玉だからな。



 だが、せっかく出したのにこれだけでは撤退ができない。



「攪乱術《砂塵天幕》!」



 霊気のせいで安定した術式行使はできないが、一時的な目くらましならできる。



 周囲を砂塵が覆い、視界を奪う。さらに不規則な《十二枚刃》の羽ばたきで攪乱。



「くっ」



 風祭が怯んだ一瞬を逃さず《十二枚刃》で飛び、戦場を離脱。着陸できる場所を探す。

だが、後ろから何かが追ってきている。



「あれは……燕か!」



 ただの燕じゃない。魔物だ。狼だけじゃなく燕もいるのか。バリエーション豊かだなおい!



 しかも結構な数だ。どうしたものか。



「ちっ!」




 反転して燕と対峙し、《十二枚刃》を羽ばたかせ刃の羽で光の弾幕を張った。



 《十二枚刃》はその色によって性質が変わる。今は白色なので《十二枚刃》は光の性質を持つ。

《十二枚刃》の一部である羽も同様に。



実は《十二枚刃》は翼であり砲でもある。空中戦を想定して作ったからな。本来の用途とは全く違うんだけど……機能入れといて良かった。



「よし、全部落としたか」



 だが、このままでは終わらないだろう。そのうちまた来る。それまでにどこかに降りて身を隠さないと。



しかし、安全に降りられる場所がない。



「……仕方ねえ」



 意を決し《十二枚刃》で全身を包み込み樹木とのショックを和らげる。



 ドガガガガガガガガガッ!!



「……よし」



 何とか着地成功。《十二枚刃》を解除しすぐさま場を離れる。



そして周りを見渡してみると、洞窟があった。丁度いい。あそこに隠れさせてもらおう。



洞窟はそんなに奥深くなく、壊れた小さな祠があった。取り敢えず拝んでおく。ちょっと失礼しますよ。何もしないから祟らないでくださいねっと。



……さて、どうするかな。



 流石にあの数の魔獣を相手取るとなると《地龍》と《十二枚刃》だけでは手数が足りない。



不意を突こうにも状況的に不可能。魔物が警戒しているだろうから、接近することさえできないだろう。



 《十二枚刃》で上からの奇襲も考えたけど、風祭が森の中にいたら視認できないし、出来たとしても向こうからも見えてしまうからこれも駄目。



夜鶴の《雪化粧》のように姿を隠す術式も使っても《十二枚刃》まで隠せる術式はないからこれもダメ。ああいった姿を消すタイプの術式は身に着けているものに制限があるからな。《十二枚刃》は対象外だ。



地中からの奇襲も駄目だ。霊力を操る以上、感知ぐらいはできそうだし、何より相手は霊気を噴出できる。逃げ場のない地中では危険すぎる。



そうなると木々で姿を隠して《絶対王制》を使えば何とかなるかもしれないが、狼型の魔物がもし本物と同じ能力をもっていたとしたら、匂いでバレてしまう。



……ダメージ覚悟で特攻した方がいいかもしれない。肉体的損傷であれば《物質置換》でどうとでもなるしな。



でも、それやるとあとから式神たちや秋奈に凄い怒られるんだよな。自分をもっと大事にしろって。



……もうしないって約束したし、これもなしか。最終手段にしておこう。



だとすると、相手の能力をまだ把握しきれてないから博打になるけど、あの方法なら最善の結果になりそうだ。




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