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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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風魔の里①

日付が変わり時刻は午前九時。太陽が程よく登り始めた頃。



俺は戦闘服である黒ずくめ軍服風のコートで、背には陰陽対極図が描かれている《暗黒鎧衣(あんこくがいい)》を着て、そろそろ風魔の里に行こうと装備を準備し始めたその時、ピンポーン、とインターホンが鳴った。



「あ、私が出ます」



翡翠が玄関に行って少しすると、また戻ってきた。



「透さん」



「ん、俺?」



 誰が来たんだと思い玄関に行くと、そこにいたのは一人の少女だった。



「師匠、おはようございます!」



「……おはよう」



訪れたのは、黒髪ポニーテールで茶色の虹彩を持つ少女。



彼女は俺と同じ十二神将の松村(まつむら)(かえで)。十二神将《第九位》で新参にも関わらず、俺のことを師匠と呼び慕ってくれているいい子。



楓が十二神将に入った経緯を俺は知らない。ある日突然、七瀬さんが連れてきた子だ。



当時下っ端だった俺が教育係で一年ぐらい一緒に仕事したことがある。その当時から気になっていたのが、戦闘能力。



十二神将では討魔師の仕事しかないので、必然的に楓も討魔師の仕事についてきていたのだが、魔物を斃すのにかなり苦労していた。



単純に戦いが不慣れなだけだろうと思い、一度だけ模擬戦の相手をしたことがあったが、魔物の時とは打って変わって、俊敏だわ急所ばかり狙ってくるわで、魔物相手の戦いに慣れていないだけで、対人戦闘であれば相当手慣れている印象を受けた。



しかも戦い方を見るに一撃必殺を旨とした戦闘技術。七瀬さんがどこでスカウトしたのかは知らないが、現代日本でこんな戦闘技術を教えている組織は鳴神家だけだと思っていたから面食らった。



なお、その技術は鳴神家のものではなかった。所感だが、暗殺術に似たような何かだとは思う。これでも定期的に暗殺者を送られている身だ。大体分かる。そんな配送サービス頼んだ記憶は無いんだけどね。



話を戻して、楓は今こうしてニコニコしているが、いざ戦いになると人格が変わったかのように冷酷で合理的な戦い方をする。



 恐らく、相当な環境で育ったんだろうと思うが、口にしたら俺の身が危ないと思ってその時は言わなかった。



 だが、これでも現人神。戦闘訓練では楓は俺に傷一つ付けることができず終わり、それ以降師匠と呼び慕ってくれているのだ。



 俺も人に教えるのは慣れているので、楓の得意分野で使えそうな鳴神家の技や術式を教えたら、案の定活躍して俺の戦果を軽々超える逸材になったけどね。



 ただ、討魔師としてではないみたいなんだけど、本人は当然として七瀬さんもその活躍を教えてくれない。



 まあ、言わないってのが答えを物語ってるんだろうけど。



「局長からこれを預かってきました!」



 楓が鞄から取り出したのは大きめの茶封筒だった。



「ああ、依頼の」



茶封筒を開けてみるとの中には依頼に関する書類の束が入っていた。よくこれだけの量を一日で出来

たもんだ。また七瀬さんが不眠不休で作ったんだろうか。いつ家に帰ってるんだろう。家族関係は上手くいってるのだろうか。そんな疑問と心配が脳裏によぎる。



「ありがとさん」



 書類を茶封筒に戻し楓に礼を言う。



「では師匠、いつ特訓しましょうか!」



「やだめんどくさい」



 師匠として教えるのは成長に必要な、楓の得意分野で使える術式や技のはずだったが、いつの間にか戦闘訓練まで見ることになっていた。果ては摸擬戦の相手まで……。



 教えるのは良いんだけど、戦闘訓練と言うなら、俺より戦闘が得意な人がいると思うんだけどなあ。滝川さん……は手加減ができないから無理か。朱雀院さんは戦闘向きじゃないし、マーエルは仕事が忙しくてそんな余裕はない。



 色々考えたけど、十二神将全員特化型ばかりで専門外の事教えるの向いてないな? 



 ああ、だから俺が重宝されているのか。大抵のことは何とかできるから。



「そこを何とか!」



「あー、じゃあ後で連絡するから」



「本当ですよね? ごまかしは効きませんよ?」



「んなこと知っとるわ」



 楓は異能者としてかなり特殊で、本来一つしかない異能特性を二つ持っている。



 異能特性とは、異能者の根源的な概念で、異能者に定められた異能の源泉。これと違う異能は基本的に習得できないとされる。言い換えれば異能者の成長方針を表すのが、異能特性だ。



 楓の場合《記憶》と《隠匿》の二つを持つ。



 その《記憶》から来る異能《完全記憶(データベース)》は、記憶の種類を問わず、あらゆる情報を保持する異能。



 つまり、こちらが忘れたと主張しても、楓は一言一句、何ならその時の状況や環境まで記憶している。楓の前では誤魔化しは通用しない。



「約束ですからね!」



「はいはい」



 元気いっぱいといった様子で楓は帰っていった。



 さてと、改めて準備準備っと。



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