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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第五章 校外学習行ってきます!
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現人神使いが荒くない?②

「それにしても、式神操作が上手くなりましたね」



「いえいえ。鳴神様に創っていただいた式神の性能のおかげですよ」



 車に乗せられ……というと怒られそうだが、内心そういう気分なのでこう表現するが、この車を運転しているのは先程の黒服で、これは俺が創った式神だ。



 名を《家政執事》と言い、上位一個体(バトラー)と九人の家政式神(メイド)で編成された人造式神だ。術式の《影法師》をベースに作成した生活安全確保呪具(ライフラインシリーズ)



 やってることは名の通り使用者の身の回りの世話。その範囲であれば何でもできる。



「この車も、鳴神様が提供された素材で製造されているとお聞きしております」



「あー、そう言えばそうでしたね」



 この《護送車》も呪具……と言っていいのか?



 見た目は普通の四人乗りだが、これ自体が核シェルターと同程度の防御性能を持つ。



 俺が創っても良かったのだけど、当時これを量産するだけの時間が無かったので素材だけ政府に渡した代物だ。



 それが良かったのかは、未だに分からん。



 結局は呪具師。卸した物の行方なんて悪用されなければ然程興味はないのだ。



 一応初めて乗ったので感想を言うと……これ本当に動いてる? 全く振動も無ければ音も聞こえない。反動も感じない。



 窓を見ようとも真っ黒で、外の様子も分からない。運転席を見ても同様に。何か仕切りがあるみたいだが……。



 こんな恐怖感で包んでくるな。第三演習場ってそんなヤバい場所なの?



「話は変わりますけど、今回久世さんを駆り出さなきゃいけない程の案件なんですか?」



 久世さんはみことさんお抱えの卜占神。その人が出張る案件なんて絶対重要度高いじゃん。何で教えてくれなかったのさ神林さん。



「そうですね。重要度は高い、と言えます。しかし緊急性は低いでしょう。神林様が第三演習場とだけ伝えたのは、そのためです」



「ええと、もしかして、なんですけど」



「はい」



「俺が逃げることも織り込み済み、だったりします?」



「はい。その方が確実ですので。私が参ったことも含めて、です」



「マジかー……」



 まあ裏に久世さんがいる時点で詰みだな。どうしようもない。



「はい。まじです」



 ふふふっ、と微笑む久世さんを見て何にも言えなくなる。



 こんな可愛らしい清楚な人だが、年齢不詳である。それどころか俺は久世さんのことは見た目で分かる情報と卜占神であることしか知らない。正直、味方かも怪しい。



 同じ現人神ではあるけど、過去には現人神同士で争いがあった。現人神連合はあれど、一枚岩であるとは限らない。そもそも、まだ現人神全員が発見されたと断定することはできない。確証も何にもないからね。



 現に久世さんは現人神連合には所属してないっぽいし。会合に出ることが無いし。初めて会ったのは就任の時だったから、恐らく他の現人神もそうなんだろう。



 せっかくだし、それとなく聞いてみるか……。



「そう言えば久世さん」



「はい?」



 きょとんと小首をかしげる。



「久世さんから見て、音無君はどうでした?」



「建御雷神様がお決めになったことなので……私からは申し上げることはありません」



 成程……久世さんの立場からはそうなるか。けど、この回答だと面識あるのか微妙だな。



「俺としては全面的に発展途上なのでこれからに期待ですね」



「それでしたら、鳴神様がご指導しては如何でしょうか? 私からもお口添えすれば、恐らく可能でしょう」



 ふんわりと俺に押し付けようとしてない? 確かに俺がやるのが一番良いとは思うんだけど、現人神の弟子とか荷が重いって。



「勢力図かなり変動しますけど、大丈夫ですか?」



 俺の人脈がとんでもないことになりつつある。ただ俺についてきてくれる人達がいるとは思えないけどね。



「そうですね。あまり気にしてはいらっしゃらないと存じますが」



 恐らく『気にしていらっしゃらない』のはみことさんの意見だな。確かにみことさんからしたら俺達なんて塵芥同然だろうけど。太陽神は伊達じゃない。



「まあ確かに、どんなに人集めても勝てる気はしないです」



 ははは、と笑うと久世さんは不思議そうな顔をしていた。



「いえ、鳴神様なら正しき事を成すでしょう。貴方様だけですよ?《力の再分配》を実行した方は」



 力の再分配。確かに意識していたけども。



 例えば、呪具を誰かに与えたり、術式を創ったのもそれが理由。それは権力者からしたら邪魔と言える行動だ。まさかこの国の頂点であろう人に認められるとは思いもしなかった。



「いやいや。そう大したことはしていませんよ」



 《術式》自体は呪術をベースにしている。俺はそれを誰でも使えるように改良した過ぎない。



「ですが、自らの命を犠牲にしてまでの献身は尊敬に値します」



「そう思って頂けるのは嬉しいですよ」



 さて、そろそろ本題に入るとするか。



「それはさておき、今回の要請についてお聞きしても良いですか?」



「ええ。そのための送迎なのですから」



 この車は物理的・異能的防音処理が施されているので、音が外に漏れる心配はない。



 久世さんが出て来た時点でとんでもないことやらされそうな気はしていたが、この車の存在で確信に変わっていた。



「こちらを」



 久世さんはA4の茶封筒をドアポケットから取り出し俺に渡した。



「これは一体」



「本日の受験者です」



「受験者……何のですか?」



 嫌な予感しかしねえ。すぐさま封筒を開けずに尋ねる。



「《執行官》の選抜試験です」



「……よりにもよって」



 特務公務員には種類がある。俺や久世さんは《現人神》だし、神林さんは《神官》だ。



 そして《執行官》とは、特務公務員の花形。国家を守るためなら手段を問わない化け物。この国きってのヤバい奴らだ。そこそこ人脈が広いと自負している俺でも《執行官》の知り合いはいない。



 その選抜試験を、俺にやれと……?



 何で?



「つかぬ事をお聞きしますが、どうして俺に白羽の矢が立ったんですか?」



「異能者認定昇格試験の事を風の噂でお聞きしまして。その実績を評価しての事です」



「いやいや、俺何にもして無いですよ。筆記試験のどの辺に《執行官》の試験を任せられる程の実績があるんですか」



 この程度で決定が覆るとは思ってないが、精一杯足掻かせてもらう。



 だって本当に務まると思えないもん。責任を背負いきれない。



「いえ、そちらではなく試験官試験の事です」



「え、そっちですか」



「今回は鳴神様にしていただきたいのは、模擬戦闘です。私共はそれを見学させて頂き、判断を下します」



 日永と無良との戦いを判断材料にされたのか。



「もしかして、俺を都合の良いサンドバックか何かだと考えてます?」



 《執行官》に志願するぐらいだから相当の戦闘能力はあるだろう。そして俺は滅多なことでは死なないし再生もする。ぶつけるには丁度良いと考えたのか上の連中は。



「だとしたら、これからの取引に影響が出ますよ」



 俺は政府にこの国に必要な物資を売っている。しかも超格安で。この車がいい例だろう。



 もし俺が考えているような事であれば、取引先に対して不誠実だと思う。



「まさか。鳴神様を軽んじているような方が私共の中にいるのであれば、即刻排除致します」



 ──殺気。



 突き刺すような冷たいものではなく、広く薄い衣のような殺気。時すでに遅し。そんな言葉が似合う殺気だ。



「久世さんが言うなら信用します」



「ありがたく存じます」



 殺気が消えた。俺に向けられたものではないと分かっていても、少し怖い。



「じゃあ俺は普通に戦えば良いんですか?」



「いえ、全力でお願いしたく」



「……流石に全力は止めた方が良いと思いますよ。死人が出ます」



「それはご心配なく。九重様の結界がありますので」



「……師匠も絡んでるんですか」



「はい。今回の試験で鳴神様を強く推薦しておられましたよ?」



 微笑んでいる久世さん。



「きっと美しき師弟の絆とか考えていらっしゃるかもしれませんけど、俺と師匠はそういう関係でもないんで……」



 俺が師匠から教わったのは結界術の基礎ぐらいで後は独学。期間にして三か月程度の師弟関係だ。



 というのも、義父さんと師匠は現人神同士で繋がりがあり、偶然俺が結界術の本を読んでいたら横から口出ししたり師匠と呼べと言ってきたりしただけの、かなり強引な関係。



 俺が師匠と未だに呼んでいたのは、言わないと仕置きされたからその名残でしかない。



 今考えると滅茶苦茶理不尽だな……。美味いもの食わせてくれたことには感謝してるけど。



「今回も変な思い付きでしょ。そういうの多いんです師匠は」



 《剣戟乱舞》シリーズの《紫電》あるじゃん。あれ師匠に『結界の強度見直したいから結界壊す呪具作れよ。あ、あの刀の奴良いじゃん。あんな感じのでヨロ!』と言われて作った奴だからな。



 ちょっと意地悪して理論上は次元切れる奴作ってみようとしたら全部切れないし。なんなのあの人。こっち両腕消し飛んだのに。



 『そこまでしなきゃいけなかったのか……?』と心配されたけどね。こっちとしちゃ守護神の結界斬るんだからこれぐらいは必要経費だと割り切ってたが。それでも切れなかったけど。



「確かに、九重様は突飛な方でいらっしゃいますから」



 クスクスと久世さんが笑う。



「たまには皇宮から出してあげてくださいね。ストレスたまると訳分かんないことしでかすのが人間ってもんですから」



 師匠は皇宮警邏隊の隊長を務めるお偉いさんだ。しかしその実態は皇宮を守るための要石。師匠に限らず結界というのは内側に使用異能者がいないと強度が落ちる。そのため師匠は守護対象がいない時にしか外に出られないのだ。



 師匠が昔そのことを嘆いていたので、誕生日プレゼントとして師匠がいなくても結界の強度を一週間保つ呪具を渡した時の喜びようは凄まじかった。おおよそ年齢と一致していない、子供のような喜び方だったし。



「承知しました。私から上奏致しましょう」



「上奏って……」



 あれ、なんかとんでもない話になってきた? 話題変えた方が良さそうだな……。



「とりあえず、試験の方はやりますんで。《執行官》相手ならフェーズ3ぐらいで妥当だと思いますし」



「ふぇーずさん、ですか? それは一体どういったものなのでしょうか」



 久世さんが目を輝かせて俺を見る。声も弾んでいた。



「……自分ルールみたいなものなので、あんまり気にしないでいただけると……」



「じー……」



 擬音言わんでくださいよ……もう。



「力の出力のことを俺なりに五段階に分けて運用してるんです。それがフェーズです」



 現人神の力は強すぎるので、区分を設けて制御している。俺は《絶対王制》の封印で調整しているが、多分他の現人神もそれに似たことはしているはず。



「そうでしたか。私の枷と同等のものなのですね」



 理解していただけたようだ。てかやっぱあるんすね久世さんにも。



「ちなみに、具体的にはどのようなものなのでしょうか?」



 ええ……それ聞いちゃいます?



 でも、久世さんだからなあ。あんまりノーとは言いたくない。後が怖いから。



「面白い話じゃないと思うんですけど」



「鳴神様のお話は何でもとても面白いですし興味深いですよ?」



 ……当然のように言ってくれる。もう断れないじゃんこれ。



「ファーストフェーズは術式と道具だけで何とかする感じです」



「呪具はお使いにならないのですか?」



「それはフェーズ2で解禁ですね。大体の戦闘じゃフェーズ2です。それと体術もここで解禁です」



「今回はフェーズ3が妥当ということですが……」



「禁忌指定解禁です。あ、第二の方ですよ?」



 禁忌指定には第一種と第二種がある。



 第一種は、国が指定した異能・呪術の禁止を意味していて、取り扱うには国の許可が必要になる。



 そして第二種は、個人が定めた禁忌指定を意味する。こちらは使用者自身が勝手に決めていいので、特に許可と罰則があるわけじゃないが、影響が大きいので報告します、程度のものでしかない。



「つまり、神格刻印と呪詛ですね。フェーズ4は現人神モードでファイナルフェーズは権能の使用と禁じ手です」



「ふむふむ。興味深いですね。鳴神様程細分化された方は久しぶりかもしれません」



 ああ、やっぱみんなやってんだね。少し安心した。



「それほどまでに律されているとは……鳴神様にご依頼して正解でした」



「いやいや、そう買いかぶらんでもらえると、こちらとしてもやりやすいです」



「ふふっ。承知致しました」



 ──キッ。



 車が止まった。



「着いたようですね。では鳴神様、試験をよろしくお願いします」



 ……腹くくるか。



「承知しました。出来る限りの事はさせてもらいます。とりあえずこの封筒はお返しします」



「よろしいのですか?」



「あんまり興味ないので」



 嘘である。めっちゃ興味ある。



 けれども、知ったら機密保持やら何やらで面倒くさいことになるのは容易に想像できるので見ない。危ないものに近づかないのが最大の自衛ってどっかで聞いた。



 久世さんに手渡すと封筒が燃えた。



 しかし熱くは無く、炎は消えたが封筒は燃えていない。



 その炎の正体、俺には分かる。



 久世さん《焚書》使えたんか……。




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