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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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現人神とは⑥

呪具を調達し、今俺は家の前にいる。



倉庫の片づけをしてから帰ろうとしたのだが、光明に「ここは僕がやっておくから、マスターはしっかり休んで!」と言われて渋々承諾した。



確定していないが倉庫の荒れ具合は《決戦遊戯》の機能ミスだから、作った俺が責任を取るのは不自然ではないと思うのだが、今回は光明の優しさに甘えることにしたのだ。



「ただいまー」



 と言い玄関を開ける。



だが反応がない。普段であれば誰かしら(翡翠と夜鶴)がおかえりと言ってくれるのだけど。みんな何処かへ出掛けたのかな。伝えた時間より早く帰って来たからすれ違いになったとか。



そう思ったが奥からかすかに声がする。単に聞こえていないだけのようだ。我が家は二階建て一軒家で奥に長い構造をしているから、賑やかじゃないと声が届かないことがある。まあ、別に返事がないからと言ってどうということはないけどさ。いつもと違って気になっただけだし。



「お、透じゃんお帰りー」



リビングに向かう途中で、全裸の金鈴がいきなり脱衣所のドアを開けてきた。



だが、こんなことは日常茶飯事だ。もう慣れた。



「金鈴、身体ぐらい拭けよ。翡翠に怒られるぞ」



髪からポタポタと雫が落ちて、足元に小さな水たまりができている。せめてタオルぐらい身に付けててもいいんじゃないですかね? 大事なところは髪で隠れてるけど。



 いやそういう話じゃなくて、せめて身体拭いてから出てこいっていうことなんだけど……ツッコミどころ間違えたか。



……慣れてはいるけど、頭は混乱してるっぽいな。冷静にならないと。



「……あのさあ、一つ気になったんだけど」



「なんだよ」



 藪から棒に金鈴が尋ねてきた。



「透は男が好きなのか?」



 真剣な眼差しを俺に向けて言ってきた。内容と状況が全く噛み合ってないのは俺の勘違いなのか?



「いきなり何言ってんだ」



「だってさあ、あたしの裸見ても大きくなってないし」



 そう言いながら自分の胸をさする。そして視線は俺の股間へ注がれている。



「何堂々とセクハラしてんだよ」



こいつ頭大丈夫なのか? それとも普通の女子ってこんなにオープンなのか? あ、こいつ普通じゃなかったわ。



「お前の裸見ても何とも思わねーよ」



 精々身長の割には発育がいいとは思うぐらいだ。



「言ってくれるじゃないか。だけど、あたしは身長低いが胸はある方だぜ? 具体的にはBはある」



「いらねーよそんな情報」



 ああ、それぐらいはあったのか。覚えておこう。



主として、式神のことは何でも知っておきたいが、身体に関することはやはりデリケートなことで聞きづらい。こういうこと聞くと信頼関係が崩れてしまう可能性があるし。なので自己申告はありがたい。



繰り返し言うけど、エロ目的で知りたいんじゃないからな? 健康上の理由だから。



「そもそも胸の大きさで女性の価値が決まらないだろ」



 悟られないようにかっこいいこと言った。本心でもあるのだが、こうして茶化さないと言えんわ。



「へえ、てことはあたしのことを女って認めてんだねぇ」



「当たり前だろ。お前みたいな美少女をどうやって男と間違えるんだ」



「……透はさらっと殺し文句を言うよね」



 何故か顔を伏せる。何か起こらせてしまったか? それとも呆れられた? 本心から言ったのだが、まずかったか?



 女子の扱いっては本当に難しい。



「事実だろうが」



「だから性質が悪いんだよ。話を戻すけど、ほんとは男好きなの?」



「性的な意味でなら女好きだよ。俺にBL要素は無いぞ」



中性的な顔立ちをしているせいで、一年に一回ぐらいはチャラそうな男グループにナンパされたことはあるが。



あれは鳥肌が立った。口で言っても信じてもらえないので股間蹴って逃げるのがパターン化しつつある。勿論手加減はしてるよ。



それよりも、今俺とんでもないこと言ってない? 大丈夫? 曲解されない?



「ならあたしはともかく、他の四人の裸見ても何で何にも反応しないのさ」



「慣れた」



 これがただ一つの真理。……なのかもしれない。



人間ってやつは、最初は刺激的なことでも、繰り返しているうちに何とも思わなくなるもんだ。耐性が付くのよ。



「おおぅ……枯れてるねぇ」



「そんなことは無いと思うぞ。性欲は普通にある」



 時々処理してるしな。もちろんバレないように皆が寝静まった頃を見計らって。疑われたら仕事か学校の課題やってたって言えば気づかれないし。ちゃんと鍵も掛けているから対策は万全だ。



「じゃあ尚更分かんないよ。六人も美少女揃いじゃんか」



「いやそれとは話が別だろう」



あとさりげなく秋奈をカウントするな。俺の秋奈に対する感情はそういうもんじゃないんだよ。こう、護らねば、みたいな感じ。



「俺達の関係はあくまでも主と式神。契約の上で成り立ってるんだ。それに俺は信頼してくれている相手を裏切りたくはないんだよ」



 本当に信頼してくれてるかどうか自信ないけど。



「でも性欲はあるって言ったじゃん」



 食い下がることを知らんのかお前は。いつものダウナーっぷりはどこに行った。周りをもうちょい見ろ。



「裸を見ることは、慣れている」



「……ああ、そういうこと」



強調して言ったら、気づいたらしい。



 見るのは慣れたが、それ以外──例えば胸が当たるとか、触覚からの刺激には全然慣れてない。ある程度は抑えられるけど、どうしてもドキドキしてしまうのだ。



「何で直接そうと言わないのさ」



「そりゃあ、お前の後ろで下着姿の風魔に配慮してだな」



「あ……」



「やっぱりお前、気付かずにドア開けたのか」



そう、金鈴の後ろには、恐らく一緒に風呂に入っていたであろう風魔がいたのだ。



 当の彼女は俺と金鈴が話していた間も顔を羞恥で塗った状態で固まっていた。そんな状態なので出来るだけ無視していた。何かの拍子に再起動して暴れられたら困るし。



 無論俺はできるだけ視点合わせないようにしたよ。最初ちょっと見ちゃったけど。



「金鈴さあ、周りにもうちょっと配慮してもいいんじゃないか? 前もこんなことあっただろ」



実はこのようなハプニングは度々起きている。被害者は金鈴と一緒に風呂に入っていた他の式神四人と秋奈。うちの風呂は結構でかいので五人入ってても余裕。そこらの銭湯より金掛かってるかも。風呂場に関しては、全て金鈴の趣味だ。



ちなみにそれぞれの反応として、夜鶴は風魔と同じく硬直。押しは強いくせに押されるのは弱いらしい。



紅葉はその辺のものを投げて撃退しようとし、紫苑はすぐさま服を着て平静を装う。しかし思いっきり着崩れている。



秋奈は無表情でパニくって棚にぶつかり散らかす。



 そして翡翠は何もしない。



「そうだねえ。気を付けるよ」



 と笑いながら彼女は言うが、この台詞を聞くのは一体何度目だっただろうか。そしてこのやり取りも。



「いいから早く閉めろって」



「そだね。髪を拭いてもらいたかったけど……こればっかりは仕方ないか」



 そう言って渋々ドアを閉める。つーか髪ぐらい自分で拭いてくれ。






場面変わってリビングへ。何をしているかというと晩御飯を食べているのである。



風魔も一緒に食べており、目が合う度に顔を赤くし睨んでくる。俺のせいではないんだけどなぁ……。



「そういえば透さん。七瀬さんとはお話はどうだったの~?」



 翡翠が箸を置いて話しかけてきた。



「手続きは向こうがやってくれることになった。それが終わったら連絡くれると思うから、来たら風魔の里に行くつもり」



「じゃあそれまで作戦会議でもする~?」



「いや、その必要はないよ」



 翡翠の提案を断る。



「そうなの~?」



「作戦って程でもないし」



 そう言うと、紫苑が話に入ってきた。



「ふーん、聞いてもいいかい?」



「相手が魔獣、それも一体だからまず俺が動きを止める。紅葉はその援護で、紫苑は魔獣の浄化を頼む」



 割とある、いつもの流れだ。今更話すこともない。



「分かった。それでは色々と準備をしないといけないね。翡翠、ご馳走様」



「お粗末様です」



 紫苑は自分が使った食器を流し台に持っていく。ちなみ洗うのは翡翠だ。そして紫苑は準備のため自室に戻っていった。



「じゃアタシはどうしようかな。準備も何もないんだけど」



 いや、コンディション調整とかしないの? 



「ならあたしとゲームやらない?」



 紅葉にコントローラーを渡す金鈴。



「金鈴、紅葉。ゲームは良いけどやりすぎんなよ」



「ご馳走さま」



 金鈴、紅葉、秋奈も続いて食器を持っていく。



「そうだ。風魔には里の案内を頼む」



 お茶を啜っている風魔に話しかける。



「い、いいですよ」



 まだたどたどしい。



「俺は部屋に戻るよ。色々と疲れたし」



「ゆっくり休んでね~」



翡翠の言葉に甘え、食器を流し台に持っていって、部屋に戻る。



「準備は……まあいいか。これだけあれば十分だろ」



 確認したのは使い捨ての呪符。呪具の一種で、長方形のお札だ。



これがあると術式の行使が楽になる。基本的な仕組みは呪符に対して術式をぶつけるとそれが封印され、呪符を破れば誰でも術式を気軽に使える。ただし、物理的干渉が可能な術式に限るし、異能は封印できない。



さらに呪符の容量を超えると封印できなくなる。この場合は複数の呪符に封印させるとできる。使うときにはそれらが無いと使えないけどな。



異能の他にも、呪力や霊力を封印できるので、魔獣に使えば元に戻せる可能性がある。封印した呪力や霊力は異能同様破れば解放される。



ただこの方法は失敗すると死んでしまうリスクがあるので、みんなは真似しないように。勿論生き物にも使っちゃダメだからな。お兄さんとの約束だぞ。



ちなみに、売り場にあるのは五枚で五百円(税抜き)で販売している。術式封印済みのものは五枚で二千円(税抜き)で、内容はランダム。人を傷つけられないようなものしか封印されていないので安心。パーティとかで使ってくれ。使えるかどうか知らんが。



「さて、どうすっかな……」



手持無沙汰になってベッドに寝転ぶも、何もやることがない。七瀬さんの連絡を待つにしても、暇を潰せないのは結構苦痛だったりする。風呂は……翡翠たちの後でいいか。風呂洗うのは俺の仕事だし。



今はまだ午後八時半ちょっと。寝ると言ってもまだ早く、かと言って何をしようとしても時間が足りない。



 所謂、暇。



「透、今暇?」



 そんなタイミングを図ったように部屋の外で声がした。



「売れそうなぐらい暇」



「そう、じゃ入るね」



 そう言って入ってきたのは、ミニスカ巫女服を着た銀髪ショートで赤目の美少女で、俺の式神の一人の銀華。見た目は美少女だが、人間の耳に当たる場所に狐の耳が生えている。



銀華は依頼を受けたときにとある山奥の寂れた神社で、一人でいるところを保護した。だが銀華的には俺のお目付け役として接触してきたのだった。



その時俺は駆け出しの現人神だったので、高天原の誰かが監視目的で銀華を寄越したんだろう。誰かは銀華も教えてくれなかったけど。



 という経緯があるのだが、監視期間が終わったにも関わらず居心地がいいという理由で銀華は今も俺の式神となっているのである。



ちなみに夜鶴も銀髪だが、夜鶴が氷銀なのに対し銀華は白銀である。



銀華は普段は秋奈の身辺警護をしていて、影の中に潜んでいる。秋奈には銀華の存在を教えていない。勝手に身辺警護をしている。



これにはちゃんとした理由がある。それは秋奈の封印が緩み《孤高の女帝》が発動した時に俺の代わりに封印を施すためだ。



 何故銀華がその役を担っているのかというと、俺の式神の中で封印が一番上手いからだ。時点で夜鶴。



このことを秋奈に知られたら変なストレスを与えてしまうのではないかという思いで黙っている。

別に、不安だからとかそういうことではない。



「何かあったのか?」



銀華がこうして自発的に姿を見せることは滅多にない。金鈴ほどではないがマイペースな面がある銀華だが、その一方で自分の仕事をきっちりこなす真面目さがある。



いや、金鈴も仕事はするのだが、基本ぐうたらなのでしてくれることの方が少ない。その点銀華は何でもやってくれる。そういう意味での真面目さだ。



「いんや、特に用事があったわけじゃないよ」



 銀華がベッドの上に寝転がる。足をゆっくり上下に動かしてるから、綺麗な毛並みの尻尾が揺れ、袴のようなミニスカートの中が見えそうになる。



 光明といい銀華といい、ちょっと無防備じゃないですかね? 俺みたいにすぐ見ないようにできる人ばかりじゃないんだぞ。神徒はこんなんばっかりか。



「ただ何となく、手持無沙汰だっただけ」



俺と同じく暇なだけのようだ。こうして銀華が影から出てきたってことは、秋奈の警護がおろそかになっているということなのだが、いつもちゃんと仕事をしてくれているしなにより家の中だ。少しぐらい大目に見てもいいか。



「何かあったみたいじゃん。また面倒事でも抱え込んだ?」



 銀華はまだ知らないのか。秋奈の影に潜んでいたからか?



「魔獣退治をすることになった」



「へー、お土産宜しく」



 他の式神とは違い、軽い反応だった。信頼の表れなのか、それとも興味が無いのか。



 ……風魔の里にお土産あったかな? 前に行ったときは無かったけど。



「学校での秋奈はどうだった?」



 会話が切れてしまったので話を変える。



「どうだったって言われても特に変わりなかったよ。友達は何人か出来そうだったけど、あれは友達っていうより親衛隊みたいなものかな」



 なんと、そんなことになっていたのか。



「男子からエロい目で見られていたところをクラスの女の子に助けてもらった的な? 秋奈は初対面の人には引っ込み思案だけど優しいし、何よりおっぱいが大きいから」



 それは言わなくてもいいんじゃないかな。相手は思春期だぞ。



「思春期男子には刺激が強いか」



 何より秋奈は可愛いからな!



「だろうね。秋奈は鈍感だから気づいてないっぽい。全く、羨ましい限りだね」



 平坦な声で胸を擦る銀華に、俺が言えることはなかった。こういうデリケートな内容に簡単に踏み込んではいけないと、経験で分かっている。



「それはさておき、銀華はこれで失礼させてもらうよ。そろそろ大丈夫そうだし」



 大丈夫……? それはどういう意味なんだ?



「退屈は紛れたか?」



「いや全然? でもこのぐらいにしておかないと、秋奈の影に入り込めそうにないんでね」



「よく分からんことはあるけど、お前がそうしたいというなら止める気はないよ」



「それじゃあ、お仕事頑張ってね」



 結局、銀華が何しに来たのかは分からずじまいだった。いや、目的は分かっているんだった。暇つぶしだ。仕事の話を聞いて心配……はないだろう。銀華はあの時点でそこまで俺に詰め寄ったりはしなかった。



 普段秋奈の影に入っているから、話す機会も中々無かった。だからわざわざ俺のところに来たんだろう。



「……もう寝るか」



 明日は早い。俺は寝る支度をして、ベッドに潜り込むのだった。


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