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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第五章 校外学習行ってきます!
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食後の運動③

「いやーお疲れ様」

 


《決戦遊戯》から退出した俺が目にしたのは……。



「鳴神君……」



「君……」



「とおるん……」

 


三人が出迎えてくれたが、その雰囲気はよろしくない。

 


流石に、怖がらせちゃったかな。今回、圧倒的な差を賀茂に示して二度と俺達に近づかないように警告をした。

 


だが、それを見ていた彼女達は……俺をどう思うか。

 


考えていなかったわけでもない。ただ、俺と距離を取ることは彼女達にとってマイナスにはならない。むしろプラスになることの方がある。

 


こちとら現人神だ。余計な面倒や厄介ごとなんてものに付きまとわれる定めにある。それに無関係の彼女達を巻き込むわけにはいかない。

 


そう考えていた。



「鳴神君、凄かったよ!」



「まさか三人を相手にこうも大勝とは……私の予想以上だよ」



「とおるん、めっちゃカッコよかったよ~!」

 


……あれ、思ってたのと違うな?

 


てっきり距離取られると思って身構えてたんだけど……歓迎ムード?



「兄ちゃんやるなあ! スカッとしたぜ!」



「かっこいー!」



「お父さん、ぼくもあのお兄ちゃんみたいになれるかな……!」



「ああ、きっとなれるさ……!」



「あの人ちょっとタイプかも……!」

 


観客の面々も何だか好印象持たれたっぽいぞ。梅森さん達がいるから近寄っては来ないが、好奇の視線が送られている。

 


しまった。この状態じゃ《隠者》や《認識阻害》も通用しない。《暗示》は効いてるから撮影はしてないけど、このままじゃ記憶に残っちまう……!

 


やむを得ない、か……!



(銀華! 今異能貸して!)

 


念話を繋いだのは銀華。本当なら本人がやってくれるのが一番効果的ではあるのだが、秋奈の護衛に就かせている以上、迂闊に呼び出せない。



(ん。どれ?)

 


繋がった。にしても用途確認しなくていいのかと少し思う。今は急ぎなのでその辺の説明を省いてくれるのは助かるけどさ。



(《幻想語る銀の(シルバーベル)》で頼む!)



(記憶消すの? 頑張って)

 


許可と激励を貰ったし、さっさく取り掛かろう。



「《観客の皆様、今日起きたことは忘れろ》」



呪力を込めて放つ。

 


銀華の異能《幻想語る銀の鐘》は、聴覚に作用し対象に幻覚を見せる。

 


つまり先程までの戦いを幻想にして《認識阻害》と組み合わせることで記憶を定着するのを防ぐ。過去にもやって成功しているやり方だ。呪力残しておいて助かった。

 


ただ、結構強引な手段でもあるので、あまり気は進まない。安全には最大限配慮はしているけどな。後から問題になると面倒だし。

 


それに加え、幻術に掛けるとなると、テンション高めの観客が一斉に大人しくなるので、三人に不審がられる。

 


……まあ、それはコイツの登場で納得できる方向に持っていけるだろうが。



「──テメエ!」



「……何だよ。負けたら関わらないって話だったろ」

 


賀茂が少しおぼつかない足取りで叫ぶ。《決戦遊戯》は退出時全回復するのでダメージが残らない。動きが悪いのは精神的なものか。

 


一応圧倒してもう関わりたくない、と思わせるのは出来たと思っていたのだが、なんだこいつの執着は。俺が思っていた以上にヤバい奴なのかもしれない。



「あんなもの誰が守るかってんだよ!」

 


うーん。やっぱり《宣誓契約》しといた方が良かったかなあ?



「はあ!? 何言ってんの!?」



「敗者がみっともないな」

 


桜木さんと東雲さんが苦言を呈す。



「うるせえ! 関係ない奴は黙ってろ!」

 


と、怒鳴り声の後に炎を出す。

 


──いや、それはダメだろ。

 


あまりのバカさに笑いそうになるが我慢。三人を守らなきゃ。



「──やめろ」



「……んなぁっ!? 何だよこの炎は!?」



《煉獄》で賀茂の炎を握りつぶす。

 


正確には、呪的エネルギーを燃やす《煉獄》で、賀茂の異能噴出点を全て覆い、異能を発動しても即座に燃やせるようにしただけ。



「こんな安全策も何もないところで異能を使うな。特にお前のは炎なんだ。周囲の被害を考えてないだろ」

 


怒りに任せても、大抵碌なことは無いんだ。その先にあるのは破滅。自分だけじゃなく、無関係な人も。



「もう帰りな。実力差は分かっただろ」

 


そのために《煉獄》を使った。炎使いとしての力量差を教えるために。俺炎使いでもなんでもないけど。



「クッソッ! ふざけんな!」

 


異能を封じられても尚、殴りかかってくる賀茂。



「──はあ……」

 


《煉獄》をキャンセル。代わりに《絶対王制》の楔部分だけを射出し賀茂に打ち込む。



「があっ!?」



「その根性は認めてやるから、しばらく反省しとけ」



「何言って……炎が出ねぇ……!?」

 


《煉獄》が消えてチャンスと思ったのか? 甘ぇよ。



「半年。お前の異能を使えなくした。その間にちょっとは精神修行でもして成長しろ。人間性をな」



「訳わかんねえことを……」



「実際使えてないだろ? お前は俺と違って異能の才能あるんだから、まともに努力すりゃちゃんと伸びる。基礎を大事にして人間性を磨けば大成するさ」

 


言うつもりは無かったんだが、これも現人神の使命なのか? それとも俺の性分か。



「《今日はもう帰れ》」

 


《暗示》を掛けて行動を促すと、見事なまでに効いたのか何も言わずに賀茂が去っていく。《絶対王制》で異能を封じたから抵抗力が落ちたのか。

 


何にしても、事態は収束した……かな?



「なんかもう、お昼食べるどころじゃなくなったな……」

 


と呟いて振り向くと、そこには誰もいなかった。周りを見渡すと帰っていく観客の中に三人を見つけた。



「……あ、しまった。《暗示》の対象指定してなかった」

 


《暗示》は対象の名前を言わないと、声を聴いた全員が対象となってしまう。

 


だから、三人も観客も皆帰っちゃった。多分帰ることに何の疑問を持ってないから、俺に声を掛けずに帰っちゃったんだと思うけど……一言あってもいいんじゃないかなー。精神操作はしてないし。てかできないし。



「しゃーない。俺も帰ろ」

 


《暗示》の対象指定が無い場合、実は使用者自身も少なからず影響を受ける。

 


昼ご飯は家にあるもので何か作ろう。何て考えながら帰路につくのであった。


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