食後の運動②
「逃げずによく来たなあ」
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている三人。
俺は今《決戦遊戯》の中。真っ白い空間に男三人とは……あまり見たくない光景だな。顔が良い訳でもないし。
「いやホントにね」
俺一人だったら《影法師》でも使った身代わりで時間稼ぎをして逃げてるところだ。それが《術式》の正しい使い方だしね。
「でも、まあ……逃げると後が怖いからなあ」
それは今後の話。梅森さん達を見捨てて自分だけ楽な道に進むか? 答えはノーだ。
ま、精神的に疲れてるし腹減ってるしこいつらと関わりたくないしで、さっさと終わらせたいのだけど、こいつらには自分のしでかしたことを反省してもらわなきゃいけない。
「苦楽ってのはさ、川なんだよ」
「ハァ? 何言ってんだテメー」
「恐怖で頭おかしくなったんじゃね?」
「それはありそう」
賀茂、金髪男、茶髪男が何か言ってる。笑いたきゃ笑えよ。
「まあ聞いてくれ。川の流れに苦労し逆らって努力すれば外敵の少ない安全な上流に行けるが、楽して流されれば危険な外敵が多い下流に流される。そういうこと」
「……何言ってんだコイツ」
金髪、茶髪男はよく分かってなさそうだが、賀茂は何となく分かってそうだな。これが分かれば多少更生の可能性があると判断できる……らしいよ。義父さんが言ってた。
何でも、言っている内容が重要ではなく、話を聞いてるかどうかの方が重要とのこと。
さっき言ったのは鳴神家の家訓で、まあまあ重要な奴なんだけどね。ごめんねご先祖様こんなとこで使って。血は繋がってないけど。
「それじゃあ、言いたいことも言ったし……始めようか」
《決戦遊戯》が外部操作されていない場合、内部にいる人間、つまりプレイヤーが全員開始宣言をすることで起動する。起動していなければ、例えどんな手段でも怪我は一切することはない。そういう仕組みに作った。
俺としては、こいつらが怪我しようがどうでもいいが。死ななきゃいいのよ。誓いを立てた身ではあるが、迷惑行為をした人間を戒めるのも現人神の役目、という認識だ。
『決戦遊戯、スタートします』
え、もうそっちしてたの?
「オラァ!」
電子音声の後金髪男がすぐに動き、こちらに向かってくる。動きからして強化系統だろう。
「っと」
とは言えそんな大したスピードじゃない。殴りかかろうとしてきたが簡単に避けられる。不意打ちのつもりなら、前提を見直した方がいいんじゃないかな。
賀茂の取り巻きだから学生としてはそこそこ強い部類かと警戒していたが、今の動きと呪力の流れからしてあんまり──
ブオン!!
「っ」
空を切ったパンチから大きな音がした。
ああ、パワーに重きを置いているタイプの強化系統か。見た感じ一点集中型ね。
「知ってるぞ。お前も強化系統なんだろ?」
もう一人。茶髪男が風を纏って突進してきた。金髪男より速い。
見た感じ動力系統かな。でも動力系統は近距離戦闘ではなく中長距離戦闘がセオリーなんだけど。
違和感を覚えるが、やることは回避だけわざと食らって《解析》しようにも、三対一の状況では隙があり過ぎるのでやめた。
「どうした防戦一方かあ!?」
「くだらねーことしてないで、さっさと死ね」
回避を続けて観察してみると、分かることがある。
まず金髪男。こいつは学生からしたら中々練度が高い。強化系統のお手本みたいなやつ。
だが、茶髪男の練度が低い。せっかく風を操れるのに攻撃方法が打撃ばかり。もう少し搦め手を使って欲しい。
最初は打撃がブラフで何か隠してると思ったが、ずっと同じことを続けていることを考慮すると、強化系統になりたい動力系統、という印象を受ける。
こういうタイプは結構いて、自分のなりたい系統ではないことにコンプレックスを持ち、どうにか近づこうとしている努力の方向性を間違えてる人だ。
可哀そうだとは思うが、とりあえず茶髪男の底は見えた。
そして賀茂は……何もしていない。ただ傍観してるだけ。
呪力を練っているのかとも思いきや、本当に何もしてない。
もしかしたら、俺の実力を測ろうとしているのだろうか? そのために連れを捨て駒にするのは、選民思想持ちの異能者にはよく見られる傾向だけど……。
それがお望みなら、そうしてあげようかね。どの道俺が戦わないと勝てないし。
まずは──
「興味のない方から」
工夫もなく突っ込んでくる茶髪男を視界に捉える。
「捕縛術──《氷華》」
「──」
茶髪男が何か言おうとしたみたいだが、薔薇の氷像に閉じ込められた。
《氷華》は捕縛術の中でも上位に位置する術式なので、そう簡単には攻略できない。もしこれが突破できたなら評価を改めるけど、それができなければ《決戦遊戯》のルール上、封印系統の異能はスリップダメ―ジとして扱われる。
故に、そのまま死んで退場だ。
「ちっ、簡単にやられやがって……」
賀茂の嫌味が聞こえた。
「お前《術者》だったのか?」
金髪男は《氷華》を見て攻撃を止めた。自分も不用意に近づけばこうなると判断したのだろう。《氷華》のことを知ってるのには驚いたが。これ結構難易度高めの術式だから、教本ぐらいしか見る機会ないと思うんだけど。結構勉強家なのか?
ともかく、その判断は間違えてはいないが、《氷華》は術式の中でも呪力消費が多いので、俺では出来てあと一回まで。そしてその残った呪力で賀茂と戦うのは面倒なので使うことはない。
《天道印・地道紋》を装着したり呪符で回復すればその辺の問題は解決できるんだが、今回の目的達成には勝つことに加えて、圧倒してもう絡んでこないようにする必要がある。
何せ《宣誓契約》した訳じゃないもんで、相手が約束を破ることは十分に考えられる。だとしても今日の所は何が何でも引き下がってもらうけど。
そのためには、呪力回復という弱みは見せちゃいけない。
勝つのは大事だが、勝ち方は大切なのだ。
「何だ、情報共有もしてないのか?」
それ以上に気にしなきゃいけないのは、金髪男が俺の事何にも知らないっぽいこと。
いや戦う相手のことぐらい共有してほしいが? 《図書館の乱》の時バリバリ術式使ってたじゃん。
俺が鳴神流現人神戦闘術で強化系統と偽ってることに引っかかってるから、情報共有はしているものと思ってたけど……。
いや、まだ断定はできないか。茶髪男は知ってて金髪男が話聞いてなかったってこともあり得る。……可能性は低そうだけど。
「んなもんする必要あるか? ねじ伏せればいいだけだろ」
遠くから偉そうに。お前が言うな。金髪男に聞いてんだ。
あれか、数的有利だからどうとでもなると思ってたのか。
……こいつら、異能者としてダメじゃね? 自分に自信を持つのは良いことだけど、やるべきことをしないのは自信じゃなくて傲慢だからね? プライドを持つにしても、傲りじゃなくて誇りの方を持ちなさい。
……呆れはするが、敵であることには変わりない。
人間性も加味して、実験台にするには丁度良さそうだし。
「なら、頑張ってねじ伏せてくれ」
「ああ?」
何言ってんだコイツ? って顔してるな。
「《挑戦者の壁呪具──反発黒道》」
詠唱により召喚したのは光を反射しない程黒い野球ボールと真っ白なバット。
「んなっ……お前それ呪具かよ!?」
「そうだけど?」
右手でバットを持ち、左手でボールを持つ。
「……テメェ、強化系統じゃなかったのか」
口を開いた賀茂。どうも苛ついている様子。
「誰も強化系統とは言ってないし」
「おい賀茂! こいつ強化系統じゃねーじゃねーか!」
「むしろ好都合だろ。強化の前じゃ呪力具現化なんて大したことねーよ」
確かにね。賀茂の言う通り真っ向から対峙してる時点で呪力具現化の基本戦術である奇襲はできない。それが戦闘に一番向いている強化系統を相手にするなら、なおさら分が悪い。
だが、それは《反発黒道》の効果を知っているならの話だ。奇襲は出来なくとも、初見殺しは出来るんだよ。
でもこれは、そもそも戦闘用の呪具じゃない。
「よっと」
ボールを宙に浮かせ……バットで打つ。
片手で打ったことで速度は然程ない。普通のバットとボールで打つのと同じだ。
「はっ、どこ狙ってやがる!」
そのボールは金髪男に当たらず、横にワンバウンド。
──さあ、スタートだ。
「──悪いね、こういうの苦手でな」
「……はっ?」
金髪男が気の抜けた声を出す。
無理もない。
目の前にいた俺が、いつの間にか後ろにいたのだから。
「よっと」
俺がいる位置にボールが飛んできて、バットを両手に持ち金髪男に向けて打ち返す。
──先程よりも速く。
「ちっ!」
金髪男は避けるも、それは悪手。ここでキャッチしてれば良かったのにね。
「まだまだ」
ボールの先に俺が転移し、またさらに打ち返し、ボールの速度が上がっていく。
これが《反発黒道》の機能。
術式《黒道》と《反発》を呪具化したもので、黒いボールには《黒道》の効果、つまりボールの先に使用者が転移する異能が含まれている。
「しまっ……!?」
「まだ避けれるんだ」
そして、バットには《反発》の力が含まれているので、打ったボールは反射し速度が打ち返すたびに上がっていく。
「でも、いつまで付いて来られるかな?」
それを何度も繰り返すことで、威力はどんどん膨れ上がる。
「いやあ、実は俺ノーコンでね」
ボールがバットに当たる音が、大きくなってきた。
本来なら衝撃波が出てもおかしくない速度だが《反発黒道》は《術式》由来の呪具なので、物理法則とは別の法則が適応される。《決戦遊戯》の中では重複される場合は《決戦遊戯》のルールが優先されるけどね。
要するに、ダメージは受けないが、ダメージを受けたこととして判定される。
「どうせなら有効活用しようと思ってさ」
自分の残像が視認できる速さになって来た。金髪男は目で追いかけていたが、次第についていけなくなったようで固まっている。
表情を見るに、戦意喪失状態。自分の未来を悟り、諦めてしまったようだ。
……ここまでするつもりじゃなかったんだけど。
どうにも、呪具の性能試験となると加減ができない。悪い癖だな。別に彼、自分から立候補したわけじゃないもんね。それはそれとしてあまり俺と相性が良くない人種であることには、間違いないんだけど。
圧倒的に、という目標はクリアしたし……終わろうか。
「よっ、と!」
ドガッッッ!!!!
ボールが金髪男の腹部に直撃。この世のものとは思えない程大きく不気味な音を響かせたのと同時に、金髪男の姿が消え残ったのは、先程のような動きとは無縁の、地面に置いてあるボールだけ。
つまり、金髪男は退場した。ボールはバット以外の物に触れると運動エネルギーが消失する作りになっている。俺が施した安全装置は、しっかりと機能している。
「さて、今のを見ても、まだやる?」
賀茂に尋ねる。
取り巻きはやられ……あ、今もう一人も退場したね。残るは仁王立ちしている賀茂だけ。
確か、呪術にあったな。真似ることで神仏の加護を受ける呪術。真言陀羅尼は聞こえなかったから、少なくとも加持呪術ではない。
仁王立ちしてるってことは、執金剛伸の類感呪術だな。護法かあ。めっちゃ対策してんなあいつ。つまり、やる気はあるっとことか。
だが、ここで自分の異能じゃなくて呪術か。あいつの異能どんなもんか知りたかったから残念だ。それにこの状況でそれやってもあんまり引き出せないと思うんだけど。基本的に自分以外の守る存在があってこそ発揮される呪術じゃん?
「……返事がないなら、続けるよ」
ボールを拾いに行って、構える。ボールを回収しないといけないのも《反発黒道》の弱点だな。回収機能を盛り込めなかったのが残念だ。《黒道》は六発生成できるけど、これ呪具だから生成ができないんだよな……。
再召喚で回収しようにも、一回戻したら一日経たないと召喚できないし。
それができたら球数気にしなくても良いんだけどね。
先程と同じように、ボールを打つ。
案の定賀茂には当たらない。
──が。
「はっ」
賀茂がボールをキャッチした。
あー、気づいたか。
「お前の呪具には決定的な弱点がある。どうやら徐々に加速していくことで威力が増すようだが、それなら最初に捕れば大した事にはならねえ」
その通り。
「しかも拾いに言った辺り、他の球はねえな?」
それもその通り。やっぱコイツ呪術には詳しいな。もしかしてさっきのはブラフか? 俺が呪術の知識があることもバレてるかもな。実に戦闘慣れしている。
「テメエの下らねー呪具なんか、種が割れればこんなもんだ」
まあ呪具ってそういう物だしね。むしろよく見抜いた。《挑戦者の壁呪具》は名の通り、乗り越えることを前提に作られたとはいえ、一回見ただけでその発想が出来るのは凄い。
こういう状況じゃなきゃ褒め称えてるよ。
ただ……。
「んなこと分かってっから」
気にせず転移し、賀茂の前に立つ。
「……は?」
気の抜けた声を出す賀茂を無視し、バットで《空破》をする。
「ゴハッ!!?」
腹に直撃したバットが賀茂の肺の空気を全て押し出し、身体が吹っ飛ぶ。勿論体に損傷はないが、ダメージ判定は出る。
賀茂はボールに威力が集約されていると思ったのだろうが、残念ながらバットは鈍器になりえる。術式由来なので傷はつけられないけど。
そこに《空破》を乗せればこれぐらいの芸当は出来るんだよ。
「……テメェ!」
「驚いた。意識あるんだな」
呪術のおかげか、意識はあるようだ。
《術式》は肉体に損傷を与えられないように設計されているが、気絶はする。相手を傷つけることなく自分の身を守るための技術だからね。気絶はその範囲内に位置付けている。《遠当》とかが良い例だ。
仕組みとしては、最大でも気絶に留めるというのが正しいのだが。
「やっぱ強化系統じゃねえか!」
「何キレてんだ。俺そんなこと言ってないんだけど?」
最近の若者怖いわー。
「ちっ……なめやがって……!」
「舐めてたのはそっちでしょ」
しかし、今のを耐えられるのはあんまり起こってほしくなかった事態だな。
こちらの手札を一枚でも多く切るのはよろしくない。俺の手札なんて、使いたくないものを含めてバレれば対策可能なものばかり。今後戦う事もあるかもしれない相手に、それを見せることは弱点を晒すのと同義だ。
「で、どうするの? まだやる?」
余裕を見せつけることで諦めて貰えるならそれでいい。《決戦形式》でも負けを認めれば退出できるしな。
……その負けを認めるってのが自決なんだけど。まともな奴はやらんわな。
「ふざけてんじゃねえ……!」
そう言い放った賀茂の身体が燃え上がった。
……ようやく異能が見れそうだな。それならこちらの手札を切っても問題ない。良い買い物になりそうだ。
「テメエは絶対に殺す!」
「殺人犯になるのはどうかと思うよ。てか《決戦遊戯》の中では死んでも死なないけど」
「うるせぇ!」
賀茂は身に纏った炎を飛ばしてきた。
「おっと」
一発だったので躱したが、背後で着弾した炎が爆発して消えた。
ふむ。賀茂の異能系統が少し分かった。もう少し見てみたいな。
「食らいやがれ!」
次々と炎弾を発射される。どうも当たったら爆発するようなので《反発黒道》で反射を──
バフッ!
「ぐあっ……!」
爆発の威力で吹っ飛ばされた。幸い燃えはしなかったが。
「はっ! ざまあみやがれ!」
調子に乗ってバカ笑いする賀茂。
そっか。着弾判定は接触ではなく衝撃。一定の衝撃を与えると爆発するのか。
「まだまだぁ!」
賀茂が飛ばしてくる炎弾を避けつつ、考察する。
……だとすると、どういう異能か絞れて来るな。異能系統は変質系統か呪力具現化系統のどちらかと考えてたが、多分後者だな。呪力を炎に変質させたのではなく、呪力を炎の燃料にしているっぽい。
でなきゃ爆発はしないもんね。変質させる場合、呪力から炎は出来ても、そこから爆発させるには相当難しい。自分から離れた呪力を変質させるのは、相当意識持ってかれるけど、賀茂はそんな素振りないし。
一方で呪力具現化系統なら、炎自体を呪具とすれば爆発もできる。どの道さっきみたいに飛ばせるってことは動力系統が入ってるのは確実かな。
呪力具現化系統をベースに、動力系統を配合した複合異能。それが賀茂の炎って訳か。
まあ、よくある話だな。複合型異能は俺の《異能工房》もそうだし。
しかし、呪力具現化系統だとこれで終わりとは考えにくい。他にも手札はありそうだし、警戒しなきゃな。
とりあえず《反発黒道》は有効打にならなさそうなので戻す。
炎ってことで呪力属性は『火』で確定。これが『陽』とか言われたら相当な実力者だろうけど。とりあえず『水』の手段を使うか。
「《滝壺》!」
召喚したのは、小脇に抱えられる程の大きさの黒い壺。水不足問題を解決するために創った呪具だ。滝川さんが代わりにやってくれたので、今は別の役割で使っている。
それが『水』の術式の補助具。前は生活安全確保呪具だったのが、現在では呪術補助呪具に分類している。
呪力量にも依るが《滝壺》は『水』の呪力を燃料に『水』の呪力を使う術式を誰でも使える。
念じるだけで使えるから不意打ちにも使えるし、置けば罠としても使える。とは言え、一度に使える術式は一つだから、毎回切り替えなきゃいけないけど。
召喚したのは、五個創ったうちの二つ。それを両脇に抱えて賀茂に突っ込む!
「んなバカみてぇな格好で勝てると思ってんのか!」
激昂しながら炎弾を撃ってくる。
格好に関しては自分もそう思うんだけど……。
「勝てるかどうかは……別だろ!」
右の《滝壺》から《消火水》を出して、迫りくる炎弾を消す。
爆発の後水蒸気が出て視界が悪いが、それでも距離を詰める。
……消せて良かったと、内心ビビってたのは内緒ね。あれ普通の火じゃないもんで、通用するか賭けだったんだよね。
「ちぃっ! 来るんじゃねえ!」
炎弾で対処できないと考えたのか、今度は炎の波で押し流してきた。成程、範囲攻撃に切り替えた訳か。
だが、広範囲はそっちだけが出来る訳じゃないぞ?
右の《滝壺》を切り替えて《大海嘯》で対抗。《大海嘯》は調伏術だから、単純な火は勿論のこと呪力をも洗い流す。
炎の波はかき消されて《大海嘯》は賀茂まで到達したが、賀茂の周りを覆っている火は消えない。あれはもう呪具として認識していた方が良さそうだな。
情報は集まった。懸念材料である賀茂の炎も大体分かったからプランは立てられる。
さあ、決着をつけようか。腹が減ったしな!
海割りのように《大海嘯》を動かして、一直線の賀茂への道を作る。
賀茂は《大海嘯》に流されて肩肘をついていたが、立ち上がろうとしていた。まだ体力がありそうだな。意外とタフ。
だが、これで終わらせる。
《縮地》で一気に距離を詰め《滝壺》から《水牢》で閉じ込める。
「ンだこれはァ!」
「《術式》だよ。調伏術だが人間相手でも使える。殺すことはできないけどな」
現に水の中だと言うのに喋れているだろう? 呼吸が出来ている証拠だ。
「ただ、足掻いても脱出は無理だけど」。
《水牢》は調伏術。つまり呪的エネルギーを対象とした術式だ。異能ではすぐに浄化されて突破は出来ない。
身体能力で突破しようにも、水の形は不定形。形が変わるだけ。
残された道は。
「じゃあ、これで終いだ」
至近距離の《空破》で、賀茂の身体を吹き飛ばし、ゲームセット。