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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第五章 校外学習行ってきます!
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どうも、荷物持ちです①

現在の時刻は九時三十分。雑踏が行きかう中、スマホの画面を見て確認した。



ここは、大手ショッピングモール。前に楓と音無君の三人で来た所と同じ場所。



さて、なぜ約束の時間の三十分前に着いてしまったのか。



別に十分前行動の三十分バージョンとか、女性を待たせるなんてとかそういう理由ではなく……。



単に、電車の都合です。なので早くに来ちゃいました。



(適当に歩いて時間潰すか……)



 そんで十分前にこの待ち合わせ場所に戻ればいいでしょ。ここ《決戦遊戯》が導入されてる訳わかんねえショッピングモールなんで、誰かがバトってるのを観戦してれば暇は潰せる。



 ……ショッピングモールに必要な設備なんかな? アミューズメント施設とか、フィットネスクラブのような身体を動かすっていう名目で異能バトルするなら話は分かるんだけどね。



 社長が何でここに卸したのかが謎。



 じゃあその謎の解決するために、現地調査と行きますかぁ!



「あれー? とおるんめっちゃ早くね!?」



 足を《決戦遊戯》に向けた途端、三人がやって来た。



「何そんなうちらの水着見たかったん?」



「そんな滅相もございません」



 法に触れるからやめれ。



「私達も早めに来たつもりだったが、先を越されたな。やるじゃないか」



「東雲さんは何で誇らしげなの?」



 そうなる理由が分からん。



「何、君は私が認めた男だからな」



「いつ認めたんですか……?」



 認められるイベントあったか……? 東雲さんとは図書委員の付き合いしかなかったはずだけど。



「その話は……ここですることではないな。それより見たまえ」



 と、二人の後ろにいた梅森さんを前に出す。



「可愛らしいだろう?」



「愛理ちゃん、そんなことないよ……」



 俯いて視線を合わせてくれない梅森さんだが、確かに可愛らしい。



 白いTシャツの上にグレーのワンピースを着ている。夏らしさがあって、とてもいい。



「シンプルでいいんじゃない? あんまりファッションの事は分かんないけど」



「だよねー!」



「千里らしさが存分に活かされているな」



「……三人とも、その辺で……」



 恥ずかしがっているところも可愛らしい。



 ちょっとこのまま見ていた気がするが、今日の目的は買い物。梅森さんを鑑賞するのは、また今度の機会にしよう。あるか知らんけど。



「じゃあレッツゴー!」



「強引だ……」



 へそ出しとミニスカスタイルな桜木さんは、ゆるふわピンクロングの髪を翻しながら梅森さんの腕を引っ張って歩き出す。



「まあ、そこが佳苗の良いところでもあるからね」



 後を付いて行きつつそんな感想を呟いた俺と歩いているのが、白シャツにデニムパンツの東雲さん。



「それは確かに」



 桜木さんは人の気持ちを察するのが上手く、梅森さんは細やかな丁寧さがあり、東雲さんは全体を見通す広い視野を持っている。



「……俺必要か?」



 このメンバーなら俺の意見など必要ないだろうに。三人いれば文殊の知恵とは言うが、この三人なら何だってできそうだ。



「そんなことはないさ。私達には無い知識や経験を君は持っているんだから」



 そりゃもう成人してますから。とは言えなかった。



 というか、そんなもん三人ならおのずと身に着けられるでしょうに。



「ま、荷物持ちとして頑張らせていただきますよ」



「アドバイザーとしての君の活躍を期待させてもらうよ」



 ウインクと笑顔と共に返してきたぞ。なんだこのイケメンは。女子だけど。



「捻くれたセリフにそんなかっこいい返しをされたら、こっちとしては打つ手なしなんですが……」



 人間としても男としても負けた気分だよ。



「そうか? 君が本気になればいくらでも打つ手はあるだろう? あの時みたいに」



「……あの時、ねえ」



 東雲さんが言う『あの時』とは《図書館の乱》のことを言っているのだろう。



 大した事した覚えが無いんだけどなあ……。



「あれは皆で力を合わせたから何とかなったんだよ。俺一人の力じゃあんな綺麗に片付かなかったって」



 《図書館の乱》なんてかっこつけて言ってはいるが、あれただの恋愛トラブルだからね?



 ただ梅森さんに好意を寄せる奴らが多すぎて大規模に発展しただけで。最終的に肩を付けたのは理事長で、やったことと言えば時間稼ぎだけだ。



 俺のしたことと言えば、その時間稼ぎのための作戦立案と実行。言うなれば指揮みたいなもの。護衛の依頼は結構受けてたので、そのノウハウを生かしただけである。



「それでも、君の力が無ければ早期解決は不可能だった。千里の友人として、改めてお礼を言わせてくれ」



「すまんが今窓口受け付けて無いから」



 俺がやりたくてやったことだ。礼なんて必要ない。



「……そうか。だが君が困ったことになった時には必ず力になろう」



「ま、その時は頼むよ」



 その時が来ないことを願うばかりだけど。東雲さんの気持ちを考えるとひどい話だとは思うんだけど、俺の困った時って多分巻き込んじゃいけない案件だから。



 いや、今考えるのは止めよう。そんな心配は彼女たちに全く関係ない。



 気持ちを切り替え、エスカレーターに乗り売り場のある二階へ目指す。



「ねえねえとおるん」



 先行していた桜木さんが、エスカレーターの上で振り返る。



 声を掛けられ見上げて、瞬時に目を逸らした。



(白にフリル付き水色リボン……)



 もうばっちり見えた。くっきり見えた。



「とおるんってさ、彼女とかいるの? ……って何こっち見ないワケ?」



 気づけ。俺の口からは無理だって。ちらっと見ても見えるんだぞ。嬉しいが勘弁してくれ。



「……っ!」



 梅森さんが桜木さんと俺の間に入った。



 どうやら俺の行動を見て察してくれたようで、桜木さんのスカートの中はもう見えない。



 そんなやり取りをしている間に、エスカレーターを昇りきった。



「鳴神君……見た?」



 こそっと、桜木さんには聞こえないように耳元で尋ねられた。



 ……ここで嘘ついても意味ないよなあ。



「……はい」



 ここは素直に答えよう。



「佳苗ちゃんには、言わなくていいからね?」



「え、謝らなくていいのか? 土下座するけど」



「それはそれで困っちゃうよ。佳苗ちゃんも気が付いてないし、事故だから」



「そうだ。変に伝えて今日が台無しになるのは避けたい」



 東雲さんも入ってきた。



「二人が言うなら……とりあえず、密着してるから離れてもらっていいか?」



 傍から見ると美少女二人に挟み込まれてる冴えない男性と言う目立つ状況。それは勘弁してもらいたい。



「あっ……」



「すまない」



「いいってことよ。これに耐えられないようじゃこの先生きて帰れないからな」



 そう。今から行くのは正しく戦場(当社比)。これで狼狽えていたら死んでしまう(社会的に)。



「覚悟持ち過ぎでは?」



「持ち過ぎ上等だよ。舐めてかかるよりマシだ」



 戦場では何が起こるか分からない。むしろ、何が起こってもおかしくない。この地球上で、最も可能性に満ち、最も混沌で、最も訳わからんのが戦場なのだから。



「みんな何してんの? 早く行くよ! 青春は待ってくれないぜ!」



 先を進む桜木さん。あんたそんなキャラだっけか……?




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