登校日っているの?③
全く、居心地が悪い。
とは言え、不満があるわけでもなく、嫌ということでもない。
純粋に、ここにいていいのかという疑問が、頭を駆け巡っているのだ。
「やっぱこれじゃん?」
「ふむ、些か派手ではないか?」
「私も、ちょっと……」
「えーいいじゃん! とおるんもそう思うでしょ!?」
「……話を振られても」
女子三人が、机で雑誌を見ながらあーでもないこーでもないと議論していた。
その邪魔にならないよう、ひっそりと本の整理をしていたのだ。
《術式》は使っていない。仲間には失礼だから。
雑誌を持っているのは梅森さん。その左側から雑誌を覗き込んでいるのは、やたらとテンションが高い桜木さん。
そして桜木さんの提案に疑問を示していたのは東雲さん。梅森さんの左側にいる、ちょっと古風な人だ。
「ノリが悪いぞ~? もっとアゲてけ?」
「図書館ではお静かに」
距離があるので声が大きくなるのは分かるんだけどね。
「……しゃーなし、おりゃ!」
「うわっ!?」
身体が一瞬だけ動き、強制的に三人の方へ向けられた。
「ほらとおるんもこっち来て!」
「……分かったよ」
渋々、三人の元へ行く。
桜木さんの異能は……というより、桜木さんはこういう時頑ななので素直に従った方が良いのだ。
「それで、何の話を……」
と言いかけたところで、危機察知センサーに引っかかり身体が止まる。
それは、視界に入った水着雑誌っぽいのが原因だ。
「うちら臨海学校に行くんだけど、水着選んでてさー。とおるんはどれ好き?」
雑誌に載っている、水着モデルの写真を見せられる。
「……正直、良く分からん」
「いやいや、なんかあるっしょ? ほれほれ~」
「押し付けられても見えないだけなんだけど……」
視界が塞がるだけなんだよなあ。
「佳苗、ちょっと落ち着いて」
「そうだよ佳苗ちゃん。鳴神君困っちゃうよ」
二人が止めに入ってくれた。助かる。俺からは言い出しにくかったところだ。
「ありがとう二人とも。桜木さん。水着は自分が着たいのでいいんじゃないか? おしゃれって、そういうもんだと思うけど」
うちの式神達見てて思うことです。
「だけどさあ、やっぱターゲットに合わせるって重要じゃん?」
「ターゲット?」
「そう。うちは絶対彼氏を作る!」
「すまない鳴神君。佳苗の勝手に巻き込んでしまって」
「いや良いよ? 何で俺……というより、男性の意見を聞きたかったかが分かったから」
確かに、調査は大事だ。目的を果たすという点で、一番手を抜いてはいけない要素だし。
見た目はふわふわ系ギャルだが、頭は回るのが桜木さんだ。
「でも、桜木さんなら何でも似合うと思うけど」
見た目もさることながら、性格も良いのでモテるとは思う。俺も成人してなかったら好きになってたかもしれん。
「!?」
「とおるんサンキュー。でもそのセリフはちーちゃんに言って欲しかったなー?」
そう言われて梅森さんを見ると、何やらショックを受けているような表情だった。
「えっと、梅森さん、大丈夫?」
「あっ、うん……」
見るからに大丈夫ではない。しかし、その原因が分からない。
俺の発言で梅森さんがショックを受けたのは確かなのだが、何で今のでショックを受けたんだ?
「……佳苗」
「……オッケー、あれやっちゃいますか。──ねえとおるん」
「何?」
「明日暇?」
「予定はないけど」
「じゃあ買い物付き合ってよ。こうして雑誌見てたって、着ないとやっぱ具体的にならないしさー」
「無論、荷物持ちにはさせないし、昼ご飯も奢ろう。どうだ?」
「それは構わないけど」
それよりも、梅森さんをどう立ち直らせるかってことを優先したい。
「じゃあ決まり! 場所はショッピングモールで十時待ち合わせでヨロ!」
「ああ、うん」
やはり、桜木さんに何でも似合うと言ったところだろうか。でも、それでショックを受けるのは違くないか? 事実だし、多分梅森さんもそう思ってるだろうし……。
「こんにちは。鳴神くんいるかしら?」
理事長が来た。ってことは、何とかなったか。
「貴方に電話が来たから返すわね」
「ありがとうございます」
スマホを受け取り図書館を出る。
(綾乃、適当に流してくれ。本当の事は言うなよ?)
(生徒の前で言う訳ないでしょう)
三人に事情を訊かれることは、綾乃も勘付いていたようだ。念話をする必要なかったかな。
とにかく、仕事の事を知られることは防げたので良しとしよう。
ってか、誰からの着し──
「もしもし」
画面を見て即座に出た。
『神林です』
俺達現人神の補佐官、神林さん。
皇宮庁特務課に在籍する、ただ一人のまともな人間だ。
「珍しいですね。神林さんの方からなんて」
普段神林さんはこちらに干渉することはない。
逆を言えば、神林さんがこうして直接連絡を寄こすのは、厄ネタ案件ということだ。
神林さんには法律関連でお世話になっている人なので、あんまり態度に出さないようにしている。
『勅命が下りました』
抑揚無く告げられた。
ほらやっぱり。現人神としての仕事だ。
『明後日、第三修練場に集合してください』
「何するかは……教えてくれませんよね」
『はい』
通信傍受の恐れがあるので、明確なことは言えない。
こっちとしては準備も何もできないので非常に困るのだけど……まあ、仕方ない。先ほど言った第三訓練場なんて俺にもどこか分からないし。こういう時は大抵迎えが来るんだけどね。そこで内容が分かる。
「了解です」
『では』
と言って電話が切れた。
「……やりたくねえなあ」
とは言え、現人神として勅命には逆らえないし、神林さんには俺が目立ちたくないという意思は伝えてある。
だからそういう事態にはならないと思うんだけど……。
「……やりたくねえなあ」
スマホの画面を見ながら再度呟く。
いつもの資材卸じゃないことは確か。そんなものに勅命は出ないし。
「……やりたくねえなあ」
スマホをポケットに入れ再度呟く。
スケジュール被りがないから現実的に可能なのが、本当に嫌。多分こっちのスケジュール把握してるよね?
「戻りました」
何食わぬ顔で図書館に戻る。
「お帰りとおるん。……何か嫌なことあった?」
やっべ、顔に出てたか? 桜木さん、良く見抜いたなあ。
「ちょっとね。あ、明日の事じゃないから気にしないで」
だからと言って本当のことは話せんけど。
「そうなん? なら良し!」
グッ! と親指を向ける桜木さん。
……気遣い上手いのに、何でこの人モテないんだ?