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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第五章 校外学習行ってきます!
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登校日っているの?②

普段は日曜日の夜という、誰も見てないだろって時間帯に投稿していたのですが、誰も見てくれないのは寂しくなったので土曜の夜にしてみました。

……成人男性が何寂しがってんだって感じもしますが、寂しいもんはしょうがないんですよ。許して。


「さて、何か言うことはあるかしら?」



理事長室にやって来た俺を待ち受けていたのは、理事長からのありがたい質問だった。

いや全然ありがたくないけど。ただの皮肉だけど。



「何のことだかさっぱりだが」



 討魔師の仕事はきっちりこなしているはずだ。夏休み中も図書委員という身分で学園には来ているし、仕事じゃない日は六月頃から 翔鷹や陸斗に任せている。



 翔鷹は学園の清掃員、陸斗は魔物研究室の研究員としての身分を持たせているから、別に怪しいという訳ではない。



 ……チャライケメンと筋肉ダルマという見た目を除いては、あの二人は式神の中でも常識人のはず。何か問題を起こしたとしても、蒼司と違いちゃんと報告してくれる。



 一体何が、理事長の逆鱗に触れた……?



「透君、何で校外学習旅行の行先を提出してないのかしら?」



 ああ、そっちか……。しかも理事長としてでなく綾乃個人として?



 え、じゃあこれ越権では? 良いの?



「行かないからだよ」



「何でよ!」



 バンッ! と机を叩いた。



 おいおい、今の外に聞こえてないだろうな……? 変な噂が立つのは嫌だぞ。



「仕事があるからに決まってんだろ」



 校外学習旅行は、どれも日程が三泊四日だ。そんな長期間学園空けられるか。魔物に時間は関係ないんだぞ。



「有給使えばいいじゃない」



「そーいう軸じゃないんだよ。俺のいない間誰が魔物退治するんだって話」



 式神を使った警備システムもあるけど、費用が掛かり過ぎて夜間だけしか稼働できてないじゃん。



「それなら代役を……」



「立てられるの? 俺の時でさえ、理事会であんなに揉めたのに」



「あれは透君のランクがCなのが悪いのよ」



 綾乃に討魔師の仕事を依頼された時、理事会での承認が必要だったのを独断で通したせいで理事会が荒れに荒れたのだ。



 確かに、俺がCランクじゃなくてAランクだったら最小限に抑えられただろうが、何を勘違いしたのか、綾乃は俺のことをAランクと思い込んでいたのだ。



まさかその辺の調査もせずに決めるとは思わないじゃん? 俺も当時理事会に話を通してあるもんだと勘違いしてたから、強くは言えないが。



そういうことがあったもんで、理事会としても綾乃にしても、同じ失敗は繰り返したくはないはずだから、すぐに代役が決まるとも思えない。だって校外学習旅行来週よ? 何故か夏休み中にやるからなこの行事。



「一応ここ魔物研究で国内トップクラスだから、機密もいっぱいある。そうした情報を外に流さずにいられるのを探すのは、とても来週の締め切りじゃ無理があるだろ」



 俺の場合、本業が討魔師じゃなくて呪具師だったから、その辺の情報に必要性を感じないのと、企業に籍を置いてる上保障局からのお墨付きがあったから、何とかねじ込めた感ある。



 つまり信用の話。ソロ活動している討魔師では候補にすら上がらない。



「そんな機密性の高い仕事を任せられるのは、並みの討魔師じゃ無理だぞ」



「うう……」



「項垂れてるところ悪いが、それを考えるのは綾乃の仕事だからな」



 この学園の敷地面積と、どこから魔物が出現するか分からんってことを考えると、一人じゃ足りない。俺は式神もいるし、何なら《術式》使って分身作れるからカバーできるけど。



「透君の知り合いに頼める人いない……?」



「そこまでして俺を校外学習旅行に連れていきたいのか……?」



 なんでそこまで固執するのか分からんが、ちょっと可哀そうになってきた。



「だって、せっかく……ううん何でもない!」



「……? よく分からんが、朔夜君じゃダメなのか」



「朔夜にはもう声は掛けたわよ。忙しいから無理って断られたわ」



「そうなのか」



 俺の知る討魔師じゃトップクラスだけどな……朔夜君レベルとなると、日永と無良、山岸、多智、音無君、督堤さん、御岳……は無理か。あいつの連絡先知らん。今頃何やってんだろ。



「……誰も彼も忙しそうだな」



 俺が不在で、式神二人配置を前提にすると、最低一人は欲しい。



「そんなあ……ダメ元でどうにかならない?」



「うーん、一応連絡してみるけど、期待すんなよ?」



 しゃーなし。依頼主兼友人の頼みだ。



「うん」



 まずは日永と無良に声かけてみるか。



 スマホを取り出し、SNSアプリを開く。



『八月二十四日から二十七日の間にオフの日ってあるか?』



 とりあえず文面はこれでいい。送信っと。



 仕事中かもしれないし、返信を待つ間に他の人にも連絡しよう。



「……随分と乗り気じゃない」



「そりゃ、依頼主が頼んできたら断りにくいだろ」



 仕事と関係ない話ならバッサリ切り捨ててたけど、一応仕事に関わるからなあ。



「! じゃあ、参加してくれるのね!?」



「受けてくれる人がいるならな。それでも第一段階突破で、理事会通さなきゃいけないことを忘れるなよ? そこはそっちの領分だからな」



「ええ、勿論分かっているわ。まあ、透君の紹介なら実力は問題ないでしょう?」



「随分と評価高いな……」



「透君の人を見る目はしっかり分かってるから」



「認めてくれるのは嬉しいけど、買いかぶり過ぎないでくれよ? ……っと、さっそく返信が来たな」



『師匠のためなら他の仕事キャンセルしてでも行くよ』



 いやダメだろ無良……。



「電話掛けてもいいか?」



「ええ」



 許可も出たし、さっそく電話を掛ける。



「……もしもし?」



『師匠? さっきのメッセージ見た?』



「ああ。無良、悪いがさっきのはオフの日に依頼を受けてくれないかってことで、何が何でもやらなきゃいけないってことじゃないからな?」



『冗談だよ。……流石にね』



 何だ今の間は。



「分かってんならいいけど……で、その期間にできそうな日ってあるか?」



『そうだね。二十五日ならオフの日だよ。ちなみに梓は二十六日』



「じゃあその日に依頼を頼めるか? 俺の都合で、その間仕事から離れなきゃいけなくなってな」



『私達に声を掛けたってことは、討魔師としての?』



「そう。二人の実力なら問題ないからさ。受けてもらえるか?」



『勿論。師匠の頼みなら』



「そう言ってくれると助かる。今依頼主に代わるから」



 保留状態にする。



「ほい。詳しい話は当人で頼む」



 その状態のスマホを綾乃に渡す。



「通話料金は大丈夫?」



「データ通信だから問題無し。俺使い放題プラン入ってるから」



 気になるのは電池ぐらいかな。結構お古だし。



「そう。なら借りるわね」



 スマホを受け取る綾乃。



 俺はやることないし、テキトーに座っとくかね。



「鳴神さん。よろしければこちらをどうぞ」



ソファに座ったと途端、どこからか雨宮さんが現れ、紅茶が入ったティーカップを、俺の前にある机に置いた。



「いつからいたんですか?」



失礼だとは思ったのだが、さっきまで影も形も無かったので、つい言ってしまった。



「給湯室にいました」



 ……確かに。じゃないと用意できないもんなあ。



「すみません。変なことを聞いて」



「いえ。気配を消していたのはこちらでしたので」



「さらっと言いましたね。何でそんななことを」



「鳴神さん程の実力者に、私の技術が通用するのか試したくなりまして。申し訳ございません」



 銀の丸いトレイを抱えつつ、頭を下げる雨宮さん。



「いやいや。謝るようなことでは……」



 と、紅茶を飲む。



 むしろ何者なんだという疑問が浮かび上がってくるが。まあ、訊くのは野暮だろう。紅茶うめー。



「透君。話ついたから返すわね」



「ん」



 綾乃からスマホを受け取る。



「一つ聞きたいんだけど」



「何?」



「何で透君シャインロードと知り合いなのよ!?」



 バン! と机を叩く綾乃。咄嗟に《防音風壁》を出して声が漏れないようにした。



「全く、なんという危ない事をするんだ」



 噂になったら俺の平穏な学園生活が破綻するじゃねーか。



「まだ治ってなかったのか? その癇癪」



「昔からこうなのですか?」



「そうなんですよ。お嬢様ってこともありますが、綾乃は才能もばっちりあったんで周囲から甘やかされてたらしくて」



「……ちょっと、無視しないでよ。泣くわよ?」



「別に無視してたわけじゃないぞ。お前の行き場のない感情を彼方へ飛ばすためにやったんだから」



 昔からこれが効くのだ。綾乃は寂しがりやなので、構ってくれないと寂しさが勝つのだ。



「鳴神さんも、その領域に辿り着いてましたか」



「ええ。雨宮さんもこの領域だと思ってましたよ」



 ガシッ! と固い握手を交わす俺と雨宮さん。



「……ホントに泣くわよ?」



 そして、理事長としての威厳が全くない綾乃。始業式のお前は何処行った。



 泣かれたら困るし、この辺にしとくか。



「悪い悪い。で、俺が《シャインロード》と知り合いになった経緯だが」



「電話の相手は《シャインロード》だったのですか!?」



 あ、この感じ雨宮さんファンかな?



「二人ともアイドルになる前からの付き合いでな。俺が二人を討魔師に育てた。いわゆる師弟関係ってやつだ」



「いつからなの?」



「ざっと四年前。保障局の仕事帰りに依頼掲示板の前で会ったのがきっかけだな」



「また人助けしてたのね……」



「いやいや、助けたつもりは無いんだよ。俺も掲示板に用があって邪魔だったから、少しどいてもらえます? って言ったら急に男たちが襲い掛かって来たもんで身を守っただけなんだ」



 そしたらやり過ぎちゃって倒しちゃったせいで、日永に絡まれるようになったのだ。



「相変わらずだね、透君は」



 すごく優しい目をしている。何か、懐かしんでいるような感じだが……何を思い出してんだ?



「無良の方は、日永とユニオン組んでた時に倒れてるのを見かけて助けたら、なんやかんやでユニオンに入ってて……俺がユニオン抜けて、残った二人が《シャインロード》を結成して……って感じだな」



「ちなみに、三人が活動していた時のユニオン名は何だったんですか?」



 成り行きを簡単に語っていたら、雨宮さんが尋ねてきた。



「《シャイン》でしたね。リーダーは日永にしてました」



「それは、どうしてまた? 話を聞いている限りだと、鳴神さんがリーダーになるのでは」



「それはですね。本来一年限りのユニオンだったんですよ。あいつらとは。俺が一年の間に二人を鍛えるって条件で結成しましたんで。そんで一年経ったから俺が抜けたんです」



「そのためにリーダーを日永さんに?」



「詳しいですね」



 その発想は、ユニオンの仕組みを知ってないと出ない。



「? どういうこと?」



 一方、綾乃は知らないようだ。



「ユニオンのリーダーは、基本的にメンバー三分の二からの嘆願書が必要なんだ。でもメンバーは自分の意思で抜けられるから、日永にリーダーを譲ったんだ」



「つまり、最初から抜けるつもりで?」



「ああ。二人が引き留めることも考慮してな」



 あいつらの性格を考えるに、辞めようとしたら引き留められるだろうと思ったので、日永にこのことを隠してリーダーに仕立て上げたのだった。



「でも、どうしてそんなことを。リーダーやればよかったじゃない」



 綾乃の意見は尤もだ。俺だって事情が無ければリーダーになっても良かったんだ。



「もうすでに、俺は別のユニオンに入っててな。基本的にユニオンは複数所属ができないから、せざるを得なかったんだよ」



 そう《十二神将》だ。



 一応形だけのユニオンだが、存在する以上は規則に従わないといけない。



「それでも一年は一緒にいた訳でしょ?」



「ユニオン後進制度、ですね?」



 雨宮さん、詳しいなあ。感心するよ。もしかしてどこかのユニオンに入ってたりしない?



「そう。一定ランクのユニオンは、後進育成のためメンバーを他のユニオンに派遣できる。その期間の上限値が」



「一年、ということね?」



「そうそう。てか綾乃知らなかったのか?」



「仕方ないじゃない。海外暮らしが長かったんだから。興味も無かったし」



「ですので、私が代わりにお答えした次第です」



「成程、良いコンビっすね」



 お互いの弱点をカバーしている。まあ、雨宮さんの弱点を綾乃がカバーしてるかどうかは知らんが。



 ブルッ。



「あ、ちょっとゴメン」



 スマホに通知が来た。どれどれ……。



『師匠の頼みとあらば有給使って駆けつけますよ!』



 よし、多智は自由枠としよう。後一日分は誰にしようか……。



『すみません! 俺夏休みの宿題が終わってないので無理です!』



 音無君はダメか。てか、夏休みの宿題最後に片づけるタイプなのね。



『悪いが合宿中でな。すまん』



 督堤さんも無理かー。



『スイーツ奢ってくれるなら有給取取りますよ?』



 よし。山岸もよさそうならこれで確定だな。



 山岸には二十四日、多智には二十八日を頼むようメッセージを送った。



 ありがとう、有給組。君ら公務員だからお金渡せないけど。



「綾乃、とりあえず二人行けそうだから、確認よろしく」



 と先程と同じようにスマホを渡す。



「じゃあ、俺と図書委員の仕事してくるから。終わったら返しに来て」



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