暗闇にて……──
「ただいまー……って、誰もいないようだね」
「儂は戻る」
老人は消えた。
「──まあいいか。私は私のやることをするだけだし」
女がポケットから取り出したのは、一般的に売られているUSB。
しかし、その中身は一般的とは程遠い。
「由妃のやり残しは、清算したいしね」
パソコンにUSBを差し込み、データを見る。
「うんうん。ちゃんとコピーできたみたいだね」
そのデータは、神遊祭の被害者ファイル。女が注目しているのは、その中でも法で裁かれなかった者達の個人情報だ。
彼らは《人を呪わば穴二つ》で悪事を裁かれたものの、死亡せず、なおかつ法で断裁できなかった……彼女が裁きたかった生き残りある
彼らが法にて裁かれなかった理由は多岐に渡る。
証拠不十分、時効、揉み消しなど……。
推定無罪の原則によって、罪と見なされなかった悪人。
「さてと、どう使おうかな……」
女に彼らを裁く力はない。だが……彼らを裁きたいと思う人たちはいる。
「ま、今は様子見かな。やるとしても小出しにしてかないと」
どうせ異能庁には情報を抜かれたことが露呈している。あの馬鹿みたいに高性能なロボット? サイボーグ……いや、もっと変な人に掛かれば、すぐバレる。
それを前提に、あの人はネットを監視しているのだろう。情報を出せば、簡単に見つかってしまう。
悔しくはないが、そっちの技術では完敗するほどの差がある。
だが、異能なら勝てる。だから手に入れられたのだ。
「気長にやっていきましょー」
「はー……やってらんねーよホント」
男が暗い廊下を歩きながらぼやく。
「仕事なんだから仕方ないじゃないですか」
その隣に歩く女が窘める。
「でもよー。本当は情報吐かせるために生け捕りする手筈なのに、精神ぶっ壊れてて情報抜けないから殺せってとんでもなくね?」
「戦力を削ぐのは大事ですよ?」
「でも俺殺すために仕事してねーのよ」
「《特務公務員》ですから」
「そりゃそうだけどよ……俺は程々に、気分良く働きたいね」
「じゃあなんでなったんですか?」
「そりゃ師匠に推薦されてあっという間にこの位置よ。……まあ、今回メリットが無かったわけじゃねーけどな」
「あったんですか。こんなに不満垂れ流してるのに」
「師匠の師匠に会えたのは良かったと思ってるぜ」
「あの人ですか。弱そうでしたが?」
「いやいや、あの人確かに呪力は一般量だと思うが……まだ何かとんでもないもの隠してるぜ。何してくるかさっぱり分からん。いつの間にか死んでてもおかしくねーなあれ」
「へーそうなんですか」
「ちょっとは興味持てや」
「気が向いたらそうします。それよりも今回の仕事を報告しますよ」
「へいへい。……お前ひとりで良くない?」
「二人で仕事したんですから二人で報告しないとダメでしょう。私の視点だけでは全体は見えないですし」
「久世部長なら全体像ぐらい分かってるだろーに……はあ、ホント無駄な時間だよ」