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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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試験の後始末②

プルルルル……。



「もしもし、無良?」



 四人と別れた後、待っていたエレベーターに乗り一階へと戻った。



 制御室は四階にあるのだが、普通の方法では辿り着けない。



 制御室に行くには、エレベーターホールのエレベーターではなく、制御室直行のエレベーターに乗る必要がある。



 その入り口がここ。スプリンクラー室の一角。



 セキュリティ上、図面にも載ってない秘密のエリア。俺も知ったのはついさっき。津田長官との交渉の末に手に入れた情報だ。



『もしもし師匠』



「無良か。交渉ありがとうな」



 津田長官との交渉には無良と朔夜君に任せた。



 俺が現人神権限使って無理矢理教えてもらうのは今後の軋轢になりかねないので二人にやってもらった。



「いいよ。私もこの電話番号がちゃんと通じるって分かったから」



 まだ根に持ってんのかよ……。



 まあ、今はそんなことはいい。



「で、パスワードは?」



 このエレベーターを動かすには、ワンタイムパスワードが必要となる。それを知る権限を持つのは津田長官ただ一人だ。



『えーと、ちょっと待ってね』



「早めに頼む」



 パスワードを知るには相当時間が掛かると局長から聞いたことがある。保障局も同じシステム使ってるから間違いない。ソースは局長。



『えっと、四六四九だって』



「了解」



 偶然なのかヤンキーみたいなパスワードだったが、それを液晶に打ち込むと──



 ガゴンッ!



 と、エレベーターが動いた音がして、目の前の扉が開く。



「開いたぞ。じゃあ行ってくる」



『私達は長官室でモニターしてるから』



 津田長官からの条件で、俺の動きは監視されている。俺が余計なことをしないよう、そして、俺が斃れたら即座に動けるように。



「ああ。分かった」



 電話を切りエレベーターに乗り込む。ボタンは一つしかなかったのでそれを押すだけでいい。



 ボタンを押すと扉が閉まり、エレベーターが動き出す。



 ここに来るまでにある程度の準備はしてきた。何が起きたとしても対応はできるはず。



 意を決して、扉が開くのを待つ。



 そして、扉が──



 ──誰かいる!



 即座に《障壁》を展開すると同時に、向こうも攻撃を仕掛けてきた。



 ──あれは《呪力砲》? いや、あの距離で威力が減衰しないなら呪力制御というより異能によるものか。

 


分析が終わったと同時に着弾。



 バンッ、という大きな音が響いたものの、こちらに外傷はなし。



 全く、呪力で良かったぜ。これが物質だったら《障壁》貫通してたぞ。



 廊下を埋める程の《呪力砲》なら連発は不可と考え《障壁》を解く。



 案の定、向こうは次弾を放ちはしない。



「……お前か、やっぱ只者じゃなかったな」



「お前は……」



 試験会場にいた、督堤さんとこの大柄な男。



「全く、運が無い。こんな奴と戦わなきゃいけないのか」



「……何者だ?」



 不服そうな奴に問いかける。



「俺か? ただの敵だ」



 と、言い切る前に呪力砲を放ってきた。



 ──こいつ戦い慣れてるな。話しながら次の準備か。



 だが、それはこちらとて同じこと。



 《障壁》で防ぐ。



「──ッ!」



 呪力砲を退けた瞬間、男が突撃し《障壁》を割る。



 そしてそのまま俺に殴りかかるも、寸でのところで避けカウンターを決めようとするが、男は後方に勢いよく飛んだ。



 ……厄介だな。戦闘センス俺よりあるんじゃないか?



「これもダメか」



 試験の時は打って変わってテンションが違う。こっちが本質か。



「普通なら、今ので死んでるはずなんだが」



「……お生憎様だな」



 その程度で死ねるようなら、どれだけ楽か。治っても痛いもんは痛いんだぞ。



「だが、ここを通す訳にはいかん」



「そうかよ」



 もしかして、こいつは門番か? なら共犯者がいる訳か。



 そしてその共犯者は制御室で何かをしていると仮定できる。



「お前らの目的はなんだ」



「…………」



 無視か。《お前ら》と複数形で呼んだが、目立った反応は無し。



ならもう少し切り込ませてもらおう。



「制御室に何かメカメカしい奴がいたはずだ。そいつはどうした?」



「……お前は、あの女の仲間か」



 ──食いついた。



「ああ。そいつから救援が来たんでな。それにしても、あの《督堤団》のホープがこんな犯罪やってるとは思わなかったぞ」



 こいつが単独犯か複数犯かはまだ不明。どちらにしろやることは変わらないが、やり方は考えなくちゃな。戦いながら作戦練るのは討魔師の必須技能だ。というか勝手に身に付く。



「……そういえば《仮面》を取り忘れていたな」



 男が右手を顔にかざすと、男のシルエットがボロボロと崩れ去っていく。



 そして残ったのは、スリムで引き締まった体型の男と、右手に持つ血痕が付着している白い仮面。



 成程、あの仮面で変身してたってことか。俺の探してるやつじゃないが、あれは呪具か。



「全く、あの時素顔を晒すべきではなかったな」



「あの時……?」



 そう言えば、コイツの顔どっかで……。



 ──神遊祭の時、山岸と戦ってたやつか!



「まあいい。ここは誰も通す気は無い。死にたくなければ戻れ」



 ってことは、こいつ《アルカナ》かよ……。こんなところで現人神案件とは。



「悪いが、仲間の命が危険だってのに、助けに行かないのは《理不尽》だろ」



「……っ」



 だが相手が《アルカナ》と分かれば話は早い。こいつらの目的は《理不尽》の打倒。故に《アルカナ》は自ら理不尽な真似はしない。それは風祭の一件でよく分かっている。



 こちらの第一目標はマーエルの救出。こいつらを捕らえるのは俺自身気乗りしないし、後回しでも十分だ。



「悪いが、そこをどいてくれるか? お前も、死にたくはないだろう?」



 試験と同じように、三割の殺気を放出。これで引いてくれれば──



「残念だが、そうはいかない」



 ──目論見は見事に外れ、殺気に耐えられた。



 なんだよ、試験の時はわざと気絶したのか? 意図的にできるもんなのかアレ。



「何が何であれ、俺は《裏切り》を許さない。それが、俺自身であっても」



「……そうか」



 残念ながら言葉での説得は無理みたいだ。全く、どいつもこいつも《アルカナ》の輩はブレねぇな。輩って言うほど知らんけど。



 さて、どうするか。



 こいつを倒さなきゃいけないのは確定したが、ここは室内。狭くて俺の手札じゃ有効打が非常に少ない。



 こちとら手札の豊富さが強みだってのに、それを潰された形になる。



「お前が《裏切り》で動くなら、俺は《仲間》のために動くとしよう!」



 俺はその場に座る。



「何をする気だ」



 男……井上は怪訝な表情を浮かべながらも警戒を怠らず、俺を見ていた。



 うん。そういう反応になるだろうよ。突破するってのに座り込んでんだから。



「そうだな。……《紙芝居の 始まり始まり》って訳だ」



 俺の周囲に、六つの漆箱が現れた。



「……《勝利の祝砲(サルート)》!」



 即座に呪力砲か。判断が早いな。



 にしても《勝利の祝砲》っていうのかそれ。さっきより呪力砲が砲弾のような形になっているな。威力も上がってそうだし《認識補強》を使ってきたか。



 ってことは、あれ爆発しそうだな。異能の性質と的外れの名前つけると弱体化するし、逆に合ってれば強化されるし。



 爆発させずに防ぐには……。



「《封蓋符・障子紙》」



 右手側の漆箱の蓋が外れ、その中から正四角形の呪符が飛び出し、俺の前に展開。障壁を作り出す。



 そして、砲弾が着弾した時、封印し防いだ。



「危ないな。こんなところで爆発物とは」



 呪力じゃなかったら封印できなかったぞ。改めて物質じゃなくてよかった。



「いや爆発はしないが……」



「あ、そうなの?」



 何だ。警戒損か。



 ……って、これはこれで《認識補強》掛かっちゃうじゃん。うっかりうっかり。



「ま、次はこっちの番だ」



 右前方斜めの漆箱の蓋が外れる。



「《汎用符・紙吹雪》」



 長方形の呪符が何枚も飛び出し、細切れになって男に襲い掛かる。



「くっ……」



 まあこれはただの目くらまし。向こうもすぐにそれを理解しちゃったようで、大して警戒をせず姿勢を崩さない。次が来ることが分かっているのだ。



 戦闘経験あると相手取るのが面倒だなあ本当に。やること変わらんけど。



「《封蓋符・貼紙》」



 紙吹雪の中に紛れ込ませた封蓋符を男に張り付ける。



 これで動きを封印し、全身を覆えば確保完了。俺はこの先を通れるし《アルカナ》を捕まえて一石二鳥。



「くっ……おおおおおっ!」



 それに気が付いた男は抵抗して一度張り付いた封蓋符を剥がそうとするも、その間に次々と張り付いていく。



 決まったな。動力系統の異能者のようだけど、ただ打ち出すだけじゃ俺には勝てん。



「…………」



 これで勝ち。



「……《暴走突撃(トランブル)》!」



 ボンッ!! と男が爆発し、紙吹雪と男に張り付いていた封蓋符が剥がされる。



「何しやがったアイツ……」



 男は、赤い呪力を身に纏って立っていた。



「オオオオアアアアアアッ!」



 雄たけびを上げ、こちらに迫ってくる。



「早ッ……!」



 動きがまるで違う。先程までの洗練された動きとは違い、荒々しい動きだ。



「《封蓋符・障子紙》っ!」



 咄嗟に障壁を作ったものの、物質である肉体にはそれほど効果が無く、数秒で破られてしまう。



 だが、その数秒が俺の狙い。



「《反発》!」



 左手をかざす時間と、照準を定める時間を稼ぎ、男を後方へ吹き飛ばす。



「グルアアアアアアッ!?」



 男は叫び、空中で姿勢を正し着地。



「……こっちが本来の異能か」



 先程の呪力砲はサブウェポン。こっちの強化がメインか。



 ってことは、あいつは動力系統の異能者じゃなく強化系統の異能者ということだ。うっわ相性悪いのこの上ないじゃん。こっちがいくら小細工や搦め手をしようとも、パワーでねじ伏せられたら意味が無い。



 状態を見るに、あいつの強化は分散均衡型(バランス)。精神力を下げて他の能力値を上げたか。



 確かにこいつの役目は番人。それなら複数の能力値を上げることで様々な対処ができる分散均衡型は相性が良い。



 ただ、精神力を下げるということは、脳の機能が下がるということ。現に理性が飛んでいる。



 精細さが欠けている今なら、使える手札が増えている。何も悪いことばかりじゃない。



 こっちの勝利条件は、あいつを捕縛しマーエルを助けること。



 まずは第一条件をクリアしないとな。



「《人形符・水蛇》」



 左後ろ斜めの漆箱が空き、一枚の人を模した呪符が飛び出したのち、水で出来た蛇に変化する。



 人形符は式神の核となる呪符だ。何になるかは俺の気分と呪力属性次第。



 水蛇は男の方へ一直線に伸びていき、男に絡みつく。



 すると、男の身体から湧き出ている赤い呪力が、少しずつだが減っていく。



 これは《水克火》という相克現象。要するに火は水と相性が悪く、水の呪力が火の呪力を打ち消しているのだ。



 男が水蛇を振り払おうとするも、実体のない呪力で構成されている水蛇にはそんなもの効かない。



 このまま弱体化させたいところだが……水蛇の呪力も消費されているので次の一手を打たねばならない。



 俺の戦闘スタイルは持久戦だが、今はそんなことを言っていられる状況じゃない。安全性は劣るが、巻きで行こう。



 ブブブブブブブッ。



 俺の周囲に、野球ボールサイズの黒い球が六つ、羽虫の音のような音を立てながら現れた。



 水蛇で男を覆う呪力は薄くなった。だが足りない。これの効果を発揮するには、あの呪力が邪魔だ。まるで鎧みたいだなあれ。《呪鎧》思い出すわ。



 本当なら《天道印・地道紋》で呪力補給したかったが、室内で使えないんだよなあれ。まだ敵がいそうだから、呪力を貯めてる封蓋符は温存しときたいし。



 一発足に当たればいいのだけど、射撃系は苦手だから、よく狙わないと……。



 赤い呪力が薄くなるのを待ち──今!



「《転移術 黒道》!」



 六つの黒い球が、黒い軌道を残し射出される。



 それぞれ狙いは頭、右腕、左腕、胴体、右足、左足。



 黒い球の軌道はコントロールできるが、動力系統が苦手な俺では滑らかな動きは出来ない。できて直角軌道が精々だ。



 だがここは狭い廊下。それだけで十分だ。



「グルアアアア!」



 男は叫びながら《黒道》を四つ避けたが……。



「グッ!?」



 右足と左腕にヒット。よし、結果は上々だ。



 外れた《黒道》を消したのとほぼ同時ぐらいに、男の右足と左腕の部分が真っ黒になった。ただ、軌道はそのまま残っている。



 これが《黒道》の効果だ。



 そして、これで終わらない。



 俺が残った軌道に触れると──



「ッ!?」



 軌道が無くなり、その出発点──すなわち俺の手に真っ黒となった左腕が移動していた。



 そして、もう一つを左手で触れると──



「グルアアアア!」



 男が察したようだが、もう遅い。



「グガッ!?」



 軌道が消え、代わりに右足が俺の左手に。そして支えを失った男は前のめりに倒れた。



 これが《黒道》。当たった部位を転移させる《術式》である。



 俺は両手に掴んだ真っ黒な左腕と右足をその場に落とす。



 ガッ。



 と床に落ち音を立てるも、男の表情に痛みなどは感じられない。



 《黒道》は黒く塗りつぶした部位を転移させる強力な術式だが、できないこともある。



 それが転移させた部位の攻撃。



 一度黒く塗りつまされてしまえば、それが結界となりあらゆる攻撃を通さない。例え《正純》でも弾く。



 故に、相手の動きを阻害するだけの術式なのだ。



 しかし、その阻害効果は絶大で、足に当たればこうして動きを封じることもできるし、腕に当たれば異能を制限される。胴体や頭は言わずもがな。



「さて、しばらくはそのままでいてもらうよ」



 左手側の漆箱が開く。



「《禁厭符・封鎖結界》」



 男の周囲を呪符が囲み、結界を生成する。



「これでよし」



 《黒道》は転移させられた部位の持ち主が触れると解除されてしまうので、こうして時間稼ぎをするときは隔離する必要がある。



 俺がこの先に持っていければいいのだけど、何があるか分からん状況で両手を塞ぐ真似は出来ない。《封鎖結界》にしたのもそれが理由。結構硬いから時間稼ぎにはちょうどいい。



さて道は開けた。このまま進もう。


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