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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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試験の後始末①

本当はスッキリ簡潔に終わらせたいところではあったんだけど、想定よりちょっとだけ長くなりました。

「あー終わった終わった」



 一次試験が終了し、俺と無良、朔夜君は控室でお茶を飲んでいた。



「……にしても、やりすぎでは……?」



「あれくらい普通ですよ。師匠の場合」



 俺の殺気に当てられ椅子の背もたれに全体重を預けぐったりしている朔夜君と、何ともなかったようにお茶を飲む無良。



 ……いや、汗かいてるな。



 一次試験合格者は十七名。蓋を開ければ一割も満たなかった。あの大柄な男もすぐダウンして医務室に強制転移してたし、意外と口ほどでもなかったな。



「普通にしてればよかったんだけどねえ」



「それができれば苦労しませんよ。俺吐きそうでしたもん」



「俺の殺気三割で吐きそうなら、朔夜君もちゃんと実力者ってことだよ」



 なにしろ、現人神の殺気である。自分で言うのも何だけど、耐えられるのは凄いことだよ?



「精進が足りませんね……」



「これ以上精進したら人の枠超えちゃうけどいいの?」



 そこに無良みたいになっちゃうぞ。もしくは俺。



「いえ、姉さんを超えるためですから!」



 綾乃を超える、か……相当難しい挑戦だけど、朔夜君のポテンシャルならできないことは無い。ちょっと工夫が必要だし、結界の綾乃と討魔の朔夜君ではステージが違うから単純比較はできない。



 でも、その意気だ。若いうちは苦労を買ってでもしろとは言うが、ありゃ正確に言えば苦労じゃなくて挑戦だ。そうすりゃ目標としていたものと苦労という経験、その他諸々が手に入るからな。そっちの方がコスパ良い。



「なら、具体的に綾乃のどこを超えるのか決めないと。朔夜君、その辺のビジョンは見えてる?」



「……正直、自分にもはっきりとは分かりません。なので、今進むべき道を歩いてみようと思います」



「そう。なら目標にするとしたら……第一位かな?」



 Aランク第一位。朔夜君の場合ソロでの一位となる。それなら綾乃も持ってないしな。



 ってことは、いつかは無良や日永を超えることが必要かもしれない。俺無良と日永がソロで何位か知らないから、可能性の話になるけど。



 ……あ、今聞けばいいのか。本人いるし。



「なあ無良、今ソロ何位?」



「私は十六位ですけど」



「ってことは、朔夜君の方が上か。ちなみに日永は?」



「六位ですね」



「え、あいつそんなに高いの」



 予想では確かに十位以内だったけど、俺八位ぐらいを想定してたよ。



「梓は討魔師の他にもボランティア活動で依頼を受けてますから」



「そうなの?」



 ボランティアの依頼は数が非常に多く、実績作りにはもってこいの依頼だ。



「でも、評価は低い依頼ですよね?」



 朔夜君の言うとおりだ。



「数が多いからな。それにボランティア依頼はEランクから受けられるってこともあって相当低く設定されてる」



 有償ボランティアだとDランク依頼になるけど。



「でも、指名されたらそうとも限らないんだよな。そうだろ?」



「はい。梓は事務所に届いた依頼の中から抽選で選んでいるので、形式上は指名になりますね」



 指名となるとCランク以上の依頼になる。



「中には企業からの依頼や行政からの依頼もあるので、それで実績を重ねてますね。勿論、そういう仕事は事務所を通しているので、依頼が仕事のようになってますけど」



「後は依頼を達成して保障局に依頼達成証を送れば、それで実績になるもんな」



 何も依頼を預かるのは保障局だけではない。うちの《三日月の共鳴》も依頼は請け負っている。音無君のがいい例かな?



「そういう方法もあるんですね。けどやっぱり自分は、討魔師の務めを果たして上がりたいです」



「ま、そりゃそうだよな」



 日永はランクなんて気にせず、やりたいからやってるだけだろうし。それだけが道じゃない。



 あんな才能と人柄と努力を努力と思わない精神性の化け物を真似しちゃいけない。



「自分のやりたいように頑張った方が近道だと俺は思うよ。だから頑張れ」



「はい、先輩」



 まーCランクが何言ってんだって話だけどな。



「そろそろ、二次試験が始まった頃か……」



 茶を啜り思案にふける。



 二次試験は実技のため《決戦遊戯》を使用してのものになる。



 日永と土屋が中で受験者たちと戦い、マーエルは制御室で《決戦遊戯》を監督している。



 というのも、日永と無良の一件で、再び何者かの介入によって《決戦遊戯》が制御不能になるのを防ぐための処置だ。



 異能庁の《決戦遊戯》は《三日月の共鳴》のものと違って電子制御で統制されている。であればマーエル程の適任者は他にいない。



 そして異能庁には申し訳ないけど、マーエルの邪魔になるので制御室にはあいつ一人しかいない。



 これは俺の判断だけでなく、異能庁と警察の判断でもある。



 何せ、異能庁のセキュリティは外部向けだけならマーエルが認める程だ。



 つまり、日永と無良の時は内部から工作されたと考えるのが妥当。



 その結論からして、犯人は内部の人間。異能庁の制御室の人間は、現状信頼に値しない、という判断だ。



 それと戦闘にマーエル入れたら過剰戦力になるという理由もあるけど。アイツは手加減を知らないから。



「さてさて、誰が合格になるかなっと」



 合否の判定基準は日永に一任している。あいつはAランクだし、俺よりAランクに必要なものは分かっているはずだし。



 ピコン。



「……?」



 スマホに通知が届いた。



「マーエル?」



 バナーを見るとSNSにマーエルからメッセージが届いていた。



 いや今試験中なんだけど。



 と思いながらも確認する。



『助けて』



 バッと椅子から立ち、反動でお茶がこぼれるのを無視して控室から飛び出す。



「先輩!?」



「師匠!?」



 驚いたような声を出す二人を放置。なんなら外で警備していた森田さんも無視してエレベーターホールへ一直線に向かう。



 そして、エレベーターホールに到着するも、タイミング悪く、エレベーターが一階や二十二階とい

う中途半端な場所にあったので足止めをくらう。



「先輩、どうしたんですか!?」



「師匠、何があったの!?」



「ま、まってくださいぃ~」



 朔夜君、無良、森田さんに追いつかれる。



 事情は、説明すべきか。



「マーエルから救援要請が来た」



「あの人から? いつもの悪ふざけでは?」



 朔夜君は懐疑的なようだ。確かに、いつものマーエルならこういう冗談も言うだろう。



「それはない。何せ、あいつ冗談は言うけど嘘はつかないから」



 これが冗談と言うなら、その後に新しいメッセージが即座に来る。



 しかし、新しいメッセージはやってこない。



「それに、これが嘘ならそっちの方が良いけど、本当だったらヤバいからな」



 あいつの身体は俺とマーエル自身で作り上げた最高傑作にして機密の塊。



 中には、あいつしか知らない情報をたっぷり溜め込んでいる。情報統括室室長は伊達ではない。



「私にできることはありますか?」



「無良……」



「私はマーエルさんのことはよく知りませんが、師匠は信頼していますので」



 それはそれでどうなの……?



 でも、力を貸してくれるのは有難い。人手はあった方がいいし。



「なら、無良は津田さんに連絡して制御室の入室許可を貰ってくれ」



「……それだけですか?」



「ああ。でないと後々面倒になるからな」



「戦力ではなく……?」



「制御室はかなり緻密な作りになってるから、悪いけど無良は戦力にできないよ」



 だって無良の異能広範囲だもん。それで機材が壊れたら弁償しなきゃいけないし。



 それよりも、無良と津田さんのコネを使って俺が入れた方が良い。俺なら壊れても作り直せるし。



「なら自分は……」



「うーん。待機してもらった方が良いかな」



 生粋の討魔師である朔夜君では、対処できない案件かもしれないし。



 現状、何も分からないのに突入するのは、よっぽどのことが無い限り死なない俺が適任だ。



「……分かりました。ですが、自分にできることがあればいつでも呼んでください」



「私も。もう置いていくのはダメだから」



「分かってるって。てか、俺にもしものことがあったら動けるの二人だけだから。その時は動いてよ?」



 俺が知る限り、この状況下で動いてくれるのは二人だけだろう。



 何せマーエル……実力はあるが信頼が無い! アイツのために動こうって人が本当に少ないんだ。人の個人情報調べまくるのが趣味だから。



 むしろ、消えてくれた方が良いって人が大半だと思う。本当、人徳ないのよ。



「縁起の悪い事言わないで下さいよ先輩」



「そうだよ」



「そうならないように頑張るけどさ。保険は大事じゃん?」



「えーと、あの私は無良さんの護衛ですので力は貸せませんが……頑張ってください」



 俺達の邪魔をしないように気を遣ってくれた森田さん。



「はい。それじゃ……行動開始」


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