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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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一次試験は穏便にしたい④

とりあえず、一か月に一回のペースは守れそうです。良かった良かった。

ですが、それよりも大事なことがありまして……。



なんと、10000PVを超えました!!!

異世界モノが主流(と私は思っています)のなろうで、現代モノが10000PVを超えるとは思っていませんでした。本当想定外です。誠にありがとうございます。

こんな妄想が溢れ出した作品で、皆さんが楽しんで頂けたこと、本当にうれしく思います。

これからも書き続ける予定ですので、これからもよろしくお願いいたします。

 今回、受験クラスは六つに分かれている。



 クラスと言っても、単に担当者が違うだけで優劣はない。



 俺達が担当するのはソロで活躍するBランクの異能者たち。計三百二十八人。



 そんな猛者たちが一つの部屋にまとめられているという事実に少し緊張してしまう。だって俺Cランクだもん。



 しかも目の前にいるんですよ。だって俺壇上に立ってるもん。



「はい皆さん、おはようございます」



 まずは挨拶だ。とりあえず挨拶。



「今回第三クラスの一次試験を担当します鳴神透です。そして──」



「無良空です」



「篠宮朔夜です。よろしくお願いします」



「「「うおおおおおおおッ!」」」



 横にいる二人が挨拶すると、受験者の皆さんから歓声が上がる。



 受験者の皆さんも美女とイケメンが試験官になるなんて夢にも思わなかっただろう。



 方や国民的アイドルの片割れ、方や異能業界では名の知れたAランク十四位(ソロ)の討魔師。



 受験者の視線はこの二人に釘付けだ。数人俺にも視線を向ける真面目な人もいるが、それも想定内。



「試験開始時間は後十分になります。開始時間までこの部屋にいなかった場合、失格とみなしますのでご注意を。また、試験内容は時間が来たらお知らせします。不明な点がございましたら試験官にお聞きください。それまで準備の程をお願いします」



 説明が終わり、二人の傍を離れる。



 これで、受験者の意識はこの二人に向く。要するに身代わりだ。二人も部屋の左右壁側に移動したが、吸い寄せられるかのように受験者が分断されていく。



 勿論二人には了承(無理やり)してもらったし、これだけが理由じゃない。試験にはこの二人が必要だ。



 俺は一番後ろに陣取り、試験を始めた。



 ここで重要となるのは情報収集。試験官から試験内容をいち早く聞き出すこと。



 ただし、直接的なことを試験官は口にしない。ヒントから推察し、十分後に始まる一次試験でAランクとして必要なものを見つけ出す。



 これができれば、一次試験ができなくても二次試験に上げる。



 そのために、話術ができる朔夜君と無良を選んだ。他三人はこういうのできなさそう。



 そして想定通り、俺のところには誰も来ていない。今の俺は試験官なので《隠者》も《認識阻害》も使ってないのにこの結果。とても満足。



「師匠! お疲れ様っす!」



 ──と思ってたんだけどなぁ。



「……多智。久しぶりだね」



「ハイっす!」



 まさか知り合いがいるとは思わないじゃん。



「……多智、この人知り合い?」



 隣にいた松葉色の少女。ああ、知ってる。



 神遊祭で会った、真城と呼ばれた少女だ。



「この人がオレの師匠っす!」



 おいそんな大きな声で言うな。無良が反応したじゃないか。



「……この人が? そうは見えないけど」



「あはは……」



 見えたら見えたで《術式》の意味ないけどね。



「確かに普段はパッとしないけど、師匠はスゲーんだ!」



「それ褒めてる?」



「師匠はオレを救ってくれたんだ!」



「ああ、うん」



 こっちとしちゃ救うなんて意識は無かったけど。放っておいたら世界滅ぼす系の異能に目覚めそうだったから軌道修正しただけで。



「師匠とはな、師匠が魔物退治してるときに偶然会ってな!」



「その話もう百回は聞いてるけど」



 うんざりしたような表情から、比喩でもなく本当の事なんだろう。



「うん。何かごめんね。多智が迷惑かけてるようで」



「全くその通りですけど、私もコイツに何度も助けられてるので」



「そっか。よくやったな多智」



「……っ! ありがとうっす師匠!」



 涙を浮かべて震えている。え、そんなに嬉しかったの……?



 感情豊かだとは思ってたけど、まさかこんなことで感激するとは……。



「ところで、多智の師匠ってことは……強いんですか?」



「いやぜんぜ──」



「何言ってんだ真城、師匠はめっちゃ強いぞ! 俺じゃ勝てないぐらいに!」



 いや負けましたけど。……一対一じゃなかったけど。



「へぇ……」



 真城さんの俺を見る目が鋭くなった。



「じゃあ今ランクはどのくらいなんですか?」



「何言ってんだ真城、師匠なんだがらAランクに──」



「悪いが俺はCランクだぞ」



「そうなんですか?」



「えっ、嘘でしょう師匠……?」



 真城さんは意外そうな顔をするが、多智は信じられないような表情をしていた。



「ホントホント。ほら」



 と証明書を二人に見せる。



 そこにはばっちりCと書かれている。



「何でですか! 師匠ならAランクでもおかしくは……」



「ストップ多智。声がデカい」



 こっちに人目が集まってきている。



「……多智、一つ言っておくけど、俺は好きでCランクでいるんだ」



「でも……」



「お前がこのことでどう思ったかは知らないけど、今は試験に集中しろ。何のためにお前はここに来た?」



「それは……Aランクになるために」



「なら、やるべきことはさっき言った通りだ。どんな試験内容でも気を抜くなよ?」



 その試験実施すんの俺だから何言ってんだって感じだけど。



 ……ハッ、これはまさか多智の話術!? 成長したじゃないか!



「分かりました師匠! オレ、頑張ります!」



 涙を浮かべながら決意を決めていた。



 うーん。どうもそんな感じじゃなさそうだぞ? ただの偶然かな。



「オイオイオイ、試験官がCランクだって?」



 大柄な男が多智と真城さんの間に割り込み、俺の前に立つ。



「何でCランクの異能者に、俺達Bランクの試験官が務まるんだ、ああ!?」



「それな」



 全く以てその通りです。津田さんに言ってやれ。



「師匠!?」



 肯定するとは思ってなかったのか、多智が驚いている。



「でもさあ、やることになっちゃったんだよ何故か。だから嫌々だけどちゃんとやるしかないんだよ……」



 仕事だし、お金貰ってる以上やらなきゃいけないんだよ。



「多智、貴方の師匠ってこんななの?」



「こんなとは何だ! 師匠の通常運転だぞ!」



「さらっと失礼なことを言うね」



 否定できないから文句を言うしかない。



「……無視してんじゃねえ!」



 大柄の男が叫び出す。



「いや、無視してたわけじゃないんだよ?」



「Cランクの分際で俺を無視するとはいい度胸だな?」



「そんな度胸ありませんて」



 こちとら巻き込まれただけなんだよ。これに関してはホント。自分の意思じゃないんだ。



「俺を督堤団のホープと知っての狼藉か!?」



 ああ、この人督堤さんところの人なのね。道理で態度がデカい訳だ。あそこユニオンAランク二位だもんね。そこのホープなら、まあその上から目線も分からんでもない。



「それなら、それに似合った立ち振る舞いをすべきではないかしら?」



 口を挟んだのは真城さん。



「ああ? 何だとテメェ!?」



 男が真城さんの胸倉を掴もうと手を伸ばす。



「ちょっと待って」



 それをすかさず、男の手を掴んで止める。



「そんな乱暴はダメだ」



 正当性があるならともかく、真城さんの言ったことは正しいと思う。わざわざ争いの火種を持ち込んだのはどうかと思うけど。



 逆にこの男の振る舞いは正しいとは言えない。



 この場限りではあるが、俺は真城さんの味方をしよう。



「Cランクの分際で……」



 男は俺の手を振りほどき、俺に身体を向ける。



「邪魔すんな!」



 と、殴りかかってきた。



 ──考術《思考加速》



 呪力の流れを見る感じでは、この男は強化系統。呪力は拳に集中しているが、全身を覆うように呪力が展開されている。



 よく訓練されている。《督堤団》のホープと言うのは嘘ではなさそうだ。



 でも、これ相当な威力ですよね? 気軽に人へ使っていいものじゃないよ?



 単純にキレてるだけなのか、それとも俺を試しているのか。



 理由は定かじゃないけど、何かしら手を打たないと──



 ──あ、いいや。多智が動いてる。



「《前衛反撃(フロントカウンター)》っ!」



 多智が俺と男の間に入り、男の打撃を受け止め。



「うおっ!?」



 はじき返した。



 男は驚いているものの、衝撃で吹き飛ばされる、ということはなく態勢が揺らいだ程度で持ち直した。



「はいはい、そこまで」



 男と多智の間に入り込む。



「いつの間に……」



 真城さんは驚いてるようだけど、これただの体捌きだからね。



「君の言いたいことは分かる。けど試験官を任せてもらってる身だから。──これがどういう意味か、分かるよね?」



 分かりやすく脅しをかける。



 これ以上やったら落とすぞ、と。



「……分かったよ」



 渋々と、全く納得はしてなさそうな表情で男は呟く。



「さて、それじゃ時間になって来たし、試験を始めようか。皆座った座った!」



 それを聞いて受験者たちは自分の席に座り始める。



 俺は試験会場をまっすぐ突っ切り壇上へ。当然ヒソヒソと話し声は聞こえてくるが、んなもん無視だ。精神衛生上、大切なことだ。



「えーでは、試験を始めますが、その前に、伝えたいことがあります」



 ──静寂。



「皆さん、この昇級試験を受けてくださり、ありがとうございます」



 受験者に向けて、壇上の上から頭を下げる。



 ──ザワザワ。



「皆さんがどのような動機で昇級を目指すのか。それは人それぞれでしょう。異能者としてレベルアップしたことの証明。就職活動のため。何となく。千差万別であることは当然ですが、どのような動機であれ、皆さんが挑戦を選んだこと、大変うれしく思います」



 そういう人だからこそ、俺も応援し甲斐がある。



「ですので、皆さんが無事この試験を突破し、これを糧に成長してくださることを、心より願っております」



 だが、だからと言って試験を融通することにはならないけど。



「では、試験内容を発表します。一次試験は、異能基礎知識を確かめる筆記試験です」



 またしてもザワつく会場。



「この試験では基本中の基本、異能についての知識を問います。まず三十分講義をしますので、それが終わり次第テストを十分間行います。百点中九十点以上あれば、一次試験合格とします」



 俺の言葉を聞いて、少し安心感が出た。



 Bランクの異能者なら知ってて当然の知識、かつそれを受ける前に講義があることをしってか、もう合格ムードだ。



 ……当然、それだけではないのだが。



「ただし、一つルールを付け加えさせてもらいます」



 ピシッ、と今まで弛緩していた空気が張り詰める。



「講義中、眠ってしまったり意識が途切れてしまった方はその時点で不合格となりますので、お気を付けください」



 そんなこともできない集中力がない人間は、Aランクになる資格はない。



 俺がAランクに求める能力は、基礎的な知識──ではなく、こちら。



 いかなる場合でも、集中力を切らさず物事に対応できるか。



 例え、どのような異能者でも共通する能力を、俺はAランクに必須だと思っている。



 まあ、俺はAランクじゃないんだけどね!



「では、紙とペンはこちらで用意させていただきましたので、こちらをお使いください」



 無良に目配せすると、受験者一人一人の前に紙とペンが召喚された。



 受験者は驚いている者もいれば、無良に目を向ける人もいる。



 ……これやったの俺なんだけどね! 事前に机と椅子に呪符張り付けて準備してたから、そこまで呪力いらんのよ。



「では、説明も終わりですが……何かご質問は?」



 ──無言。



 何だ、誰も引っかからなかったのか。さっきの説明におかしなところあったのに。



 あ、むしろ気が付いてて言わないだけか? 他の受験者にバレたら、敵に塩を送ることになるから。



 どちらにしろ、頑張って欲しい事には変わりないけどね。



「無いようなので、講義を始めます」



 俺は黒のマーカーを持って、ホワイトボードに向かう。



 ──致死量一歩手前。常人では耐えられない現人神の殺気。その三割を各受験者に浴びせながら、講義を始めた。


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