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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第一章 ようこそ風魔の里へ
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現人神とは④

事務所にいたのはうちの社長と一人の少年だった。



「社長、来ましたよ」



「おう、すまねえな」



 活気良く返事したのは《三日月の共鳴》社長共耶光重(ともやみつしげ)。丸刈りで筋骨隆々。見た目は二十代程だが、実年齢は三十六歳のおっさんである。



 そしてもう一人、来客用ソファに座り、不機嫌そうにこちらを見る少年。



「彼は?」



尋ねると、トゲトゲ金髪に黒の虹彩が特徴の少年が立ち上がる。態度がちょっと悪そうな少年だが、一体どんな呪具をご所望なんだろうか?



まあ、断るつもりだから依頼でも作らないけどね



音無電磁(おとなしでんじ)。あんたが呪具を作ってる人?」



「そうだ。名前は鳴神透」



 なかなか生意気そうな感じのする少年だが……底知れぬ呪気を感じる。



 ちなみに呪気とは指向性のない呪力のこと。流れで言えば呪気が呪力になる感じ。



「鳴神さん、頼みが──」



「まあ落ち着け」



 若干食い気味な音無君と諫める。何か慌てているように見えるが、急ぎの事情があるのだろうか?



「説明するから座りなよ。あ、社長冷蔵庫からアイス持ってきて下さい。二人分お願いします」



「社長を使い走りにするなよ」



納得いかなそうに言いながらも、アイスを持ってきてテーブルに置いた。



口では言いつつも、実は不満なわけではない。社長といっても三日月の共鳴は零細企業。従業員と社

長の違いなんてほとんどない。今はお客さんがいるからこのような態度を取っただけ。



見た目中学生ぐらいの少年は再びソファに座り、俺はその対面に座る。相手が子供とはいえ、立派な依頼人。ちゃんと話を聞いた上で断らせてもらおう。



「説明する前に一つ聞きたいんだが、どうして呪具が欲しいんだ?」



欲しいだけなら下で売ってるのにわざわざこうして来ているということは、何かしらの理由があるのだろう。



「……一か月後の神遊祭があるのは知ってますか?」



「ああ、そういえばそんな時期か」



 神遊祭とは日本三大異能組織が開催する異能者の大会だ。別名異能者のオリンピック。ただし世界大会ではない。



「俺は個人トーナメントに出る予定なんだ」



 確か予選はもう終わったはずだから、本選のことを言っているのだろう。



 ということは、それなりには実力があるということか。



「へえ、実力に自信あるんだ」



「もちろん! と言いたいところなんだが……」



 急にトーンが沈む。



「もしかして自信なくて、それで欲しがってるのか?」



「…………」



深く頷く。自信ないのに出るなよ! というツッコミは一旦置いといて。



「……そこまで勝ちたい理由があるのか」



「実はトーナメントで優勝したら、雷神の現人神にしてくれるって」



「……は?」



思わず唖然としてしまう。突拍子が無さすぎるワードだ。



「誰だよそんなこと言った奴は」



 こんな少年を標的にするとは質が悪い。冗談で出てくる言葉じゃないし、話自体は本当なんだろうけど、一体どこの神だ。



建御雷神(たけみかづち)様」



「うわぁ、あいつか……」



思わず神様をあいつ呼ばわりしちゃったよ。まあ多分大丈夫だろ。こんなことで天罰代わりの雷を落とすような性格してないし。



 しかしあの戦闘狂め、マジで言ってるな。文句の一つや二つぐらい言おうかなと思ってたけど、建御雷神相手では分が悪いな。止めとこ。



 けれど、これだけは言わせて。



こんな少年を巻き込むんじゃねえよ……。



「建御雷神様を知ってるのか!?」



「知ってるよ。会ったこともあるし、戦ったこともある」



建御雷神は武神、剣神、軍神、雷神の神格を持つ武力では日本最強の神霊だ。見た目はおっさんで、享楽的かつ刹那的な馬鹿である。



ただ、見た目や性格は信仰によって変わるから、今もその通りかどうかは分からない。少なくとも男性ってことは変わらないとは思うけど、昨今のサブカルの影響を受けているかもしれない。



もしかしたら今はおっさんじゃなく子供になってたり、青年になってるかもな。流石に性格は変わらないと思うけど。



「マジで!」



「ああ、死にかけたけどな……」



あれは思い出したくない……。



俺が現人神になる際に高天原で、儀式を受けた後に行われた宴会で建御雷神が酔っぱらって襲い掛か

って来たのだ。笑顔で斬りかかってくるとか正気の沙汰じゃねえ。



 そういえばその時雷神の現人神の席が空いてるってボヤいてたっけ。生き残るのに必死であんまり気に留めてなかったな。



 一応、席が空いたことには関わっているけど。



「それは置いとくとして……何、現人神になりたいの?」



「ああ!」



何という真っすぐな瞳。ヒーローを見ているように輝いている。そんないいものじゃないと思うぞ現

人神なんて。



「ちなみに鳴神は現人神だぞ」



椅子でクルクル回りながら言う社長。暇なら仕事しろよ。後勝手にバラすな。一応国家機密レベルなんだぞ現人神は。俺の周りは守秘義務という言葉を知らない奴が結構いるのかな?



「マジで!?」



 本日二回目のマジで。瞳のキラキラが増したじゃねえか。直視できねえよ。



「何の現人神なんだ!?」



「創造神だ」



「すっげー!!」



 興奮状態の音無君。呪具の件忘れてない?



「話を戻すぞ。現人神になりたい理由は聞かねえが、一つ言わせてもらうと、呪具をつくるのは駄目だ」



「なんでさ!」



「力が欲しいからって道具に頼るな。それじゃ道具を使いこなすんじゃなく道具に使われているだけ。楽に力を得ようとすると危ないんだ」



即席で得た力なんて碌なものじゃない。力を持つものの責任を持ち合わせて初めて道具の力は最大限に引き出されるものだ。



呪具を作る側の人間として、そこの見極めは重要なのだ。身の丈に合うものを提供しないと結局身を滅ぼすことに繋がりかねない。



「力に呑まれて自滅したいってなら話は別だが、そうじゃないだろ?」



 これで諦めてくれればいいんだけど。



「……つまり、呪具を扱えるだけの実力がありゃいいんだろ?」



「まあ、そういうことだが」



 うーん。怖気づいて諦めるかと思ったが、逆に火を付けちゃったっぽいな。



 だって瞳の輝きが増したもん。現人神候補になっただけはあるか。いやー失敗失敗。甘く見てたわ。



 だけど、今の問答で引かなかったのは十分資格はある。



「ならテストしてくれよ! 俺が鳴神さんの道具を使いこなせるかどうか、鳴神さん自身の目で!」



「そうしてやりたいんだけど、俺明日仕事あるから無理だな」



 依頼の優先順位は早い者勝ちと決めている。今回の場合は魔獣退治が優先だ。



「社長、代わりにやってくれませんか?」



「やだよ。俺じゃテストにならないだろ」



 そうか……社長が相手だと瞬殺か。異能者ではないけどそこら辺の異能者より強いしな。俺も純粋な力比べなら負ける自信あるし。



「光明ちゃんに相手してもらえば?」



「社長、光明はこういうのには向いてないです」



 光明は狙撃手だから、テストといった直接バトルは向いていない。



「大丈夫だろ。仮にも精霊だし」



「……うーん、ちょっと聞いてみます」



俺の事情に巻き込むのは気が乗らないが、他に方法が思いつかないのも事実。



一階に降りて光明に聞いてみると、「いいですよー」と快諾してくれた。いいのかよ。お前戦闘向き

じゃないのに。



 まあ、光明が決めたことに口出しするのもどうかと思うし。本人がそれでいいならいっか。

俺は再び事務所に戻る。



「オーケー貰ったんで、音無君、ついてきて」



「どこに行くんだ?」



「三階。そこでテストするよ。あ、社長は店番お願いします」



「えー」



 不満そうに呟く社長。



「アイディア出したの社長なんですからそれぐらいして下さい」



 今日店員は光明しかいないから誰かが代わりに店にいなきゃいけない。事務所にも社長しかいないから、これはもう決まっているようなものだ。



「それってどうなんだろう」



 どうなんだろう、じゃないよ。出来るのアンタしかいないじゃねーか。



「商品盗まれても知りませんよ」



「それはいけない」



 俺が指摘すると先程の適当モードからしっかりモードに変わった。



 そして社長はアイスを持ってきた時とは違い、軽やかな動きで事務所を後にした。

全く、ちゃんとしてくれよ。



「んじゃ行こうか」



 あ、断るつもりだったのにこれは作る流れか? どうやら音無君に同情してしまったみたいだ。


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