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目立たず静かに過ごしたい!  作者: 文月灯理
第四章 教えるのも試すのも楽じゃない
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勉強会と言ったらお泊り会だよなあ!②

どうも、金鈴です。



 立ち込める湯気、シャワーの音。



 そして何より、姦しい話声。



 お風呂に入っていれば当然聞こえてくる音たちが、この場を支配していた。



 いやそれは別にいいんだよ。あたしは静かなのも好きだけどこういう賑やかなのも好きだし。



 けどさ、どうしても我慢ならないこともある。



 ……こいつら、胸大きくない?



 夜鶴・紅葉・紫苑は知ってたからそこまでダメージはないけど……千里とエリス、歳の割に発育良いじゃないか……。



 千里はCぐらいか? 最近の娘は発育良いんだなと思った矢先にエリスのEだよ。その胸で聖職者は無理でしょ。というか未成年でしょ。



 いやーホント、世の中理不尽だよねえ。欲するものには与えられず、無欲なものには与えられる。そ

れおかしくない?


 必要としている者にこそ与えなさいよ。これでも努力はしているんだから、少しぐらい変化があってもいいじゃない。



 湯気が生き物のようにうねる。人の行き来がある証拠だ。



 ちくしょう。どうしたらあんなに大きな果実が育つのか。お前ら豊穣神でも信仰してんのか。



 いや、僻んでいても何も変わらない。少しでも建設的な思考を巡らせなきゃ。



 やはり、成功者に秘訣を聞くのが良いか。



 恥を忍んで、いざ行かん!



「ねえ、夜鶴」



 湯の中を泳ぐように移動して夜鶴に接触。これより作戦を開始する。



「何ですか金鈴さん」



「その胸どうやって大きくなったん?」



 こういう時は直球勝負だ。搦め手を使う必要はない。



「そうですね……透様の事を考えていたらこうなってましたよ?」



 ちっ、そういうメルヘンな回答は求めてねーんだよ! もっと現実的な意見を知りたいんだこっちは!



 なんて態度を表に出せる訳もなく、心の中でせき止める。



「おや、胸を大きくしたいのかな?」



 身体を洗い終えた紫苑が湯船に浸かる。



「それならいい薬があるが……」



「遠慮しとく」



 紫苑の薬とかやべー奴に決まってんじゃん。絶対無理。



「そうか……未完成のものだし仕方ないか」



 ほらなー! 



というか同僚に何つーもん投与しようとしてんだ。倫理観が電気分解されたのか?



「別に胸なんて邪魔なだけだと思うけど?」



「そうですよね。肩が凝るだけですし」



 紅葉とエリス……あんたら、言ってはいけないことを言ったッ!



「えっと、金鈴、さん? どうして胸を大きくしたいんですか?」



「いい質問だよ千里。それはもちろん、大人として見られたいからさ!」



 この幼児体型のせいで、どれだけ子ども扱いされてきたか……あたしには、それが堪らなく屈辱なのだ。



 身長はこんなに寝てるのに伸びないから望み薄だが、胸ならあともうワンカップぐらい上がるかもしれない。



「誰も彼もあたしを子ども扱いしてくるんだ。特に透! いっつも子ども扱いしてくる! もううんざりなんだーっ!」



 あたし渾身の叫び。混じりけのない純粋な不満だ。



「でもアンタ、今日子供料金で電車乗ってたわよね?」



「うっ……」



 くそ、見られてたか!



 流石弓兵、とんでもなく視野が広い。



「金鈴さん、流石に矛盾してますよ。というか犯罪じゃないですか」



「仕方ないだろ駅員が毎回『大人料金になってるよ』って指摘してくるんだ!」



 しかもこっちは式神。身分証なんて持っちゃいない。



「まあ、その議論は置いといて……胸を大きくする方法について考えようじゃないか。私も興味がないと言えば嘘になる」



「紫苑さん、それ以上大きくするつもりなんですか? ……はっ、まさか透様を誘惑する気ですね!?」



「っ!?」



「ほうほう」



 千里の表情が強張り、エリスは興味深いような表情。



 ……成程、二人ともかと思いきや、実のところ一人だった訳か。



「そんなことはしないさ。……いや、それもいいかもしれないね」



「ぐぬぬ……」



 余裕な紫苑に夜鶴は敵意三分の一、焦り三分の二ぐらいの感情を向ける。



 だが、注目すべきはそこじゃない。



 ほんの一瞬だが、紅葉が紫苑に鋭い目を向けた。まるで獲物を狙うかのように。



 しかし、その目つきもすぐ戻り困惑気味なところを見ると……自覚はなさそうだ。



 そしてもう一人、秋奈。



 彼女の場合は正直よく分からない。何せ表情が全く変わっていない。表情筋が存在しない仮面の如く不動。



 だが、普段の透への言動を考えると……芽はありそうだ。



 作戦通り、これで透への関係図は把握できた。まだまだ穴の多い関係図だが、全体像を把握するのには十分。こちらの密かな悩みを暴露した甲斐はあった。



 ……いやあったんだろうか。分からん。



 面白そうだからやってみたは良いものの、これを把握したところであたしに何の利益があるんだろう。



 確かに面白いのだけど……少なくともこれを誰かに伝えたらヤバいことになる。



 何だかとんでもないものを考察してしまったようだ。



 仕方ない。これはあたし一人で楽しむこととしよう。



「それで、胸を大きくする話だったね?」



「紫苑、その話は風呂に上がった後にしない? 今したらのぼせる」



 慣れているあたしや、火の精霊である紅葉は問題ないとしても、他の面子は長時間風呂に入るのに耐性がなさそうだ。特にエリスや千里は客人。健康被害を与える訳にはいかない。



「確かに長くなりそうだし……では続きは二階の客間ではどうだい?」



「良いね。パジャマ女子会パーティーの幕開けだ」



 客間はリビングの上にある二つの部屋。この人数だと入りきらないけど、この客間を仕切る壁は取り外せる。団体客が来た時を想定して作られた部屋だ。そこは抜かりない。



「私は先に出ますね」



 暑いのが苦手な夜鶴は話が纏まった途端に湯船から上がり脱衣所に向かった。無理させちゃったかな。



 それを皮切りに、次々と風呂場を後にする面々。



 まあまあ広い脱衣所とは言え、あの人数を処理できるかなと思い、あたしはもう少しのんびりすることとした。



 あたしは髪長いからどうしても時間かかっちゃうしね。




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