眠る財宝
フランスのニコルを筆頭に走る先頭集団はカンボジア国境に程近い町アヤンプラテートにある最初のチェックポイントを通過していた。
その日はすでに夜も遅くなっていたので各自宿をとったり食事をしたりしていた。
ここまでツワモノ揃いの先頭集団にくっついて走る健闘を見せている日本の仲西は小さなレストランで一人夕食をとっていた。
すると一人の男が相席を求めてきた。
[いいかい?]指でテーブルを指しながら男が聞いた。
[どうぞ]仲西は反射的に答えた。
スラリと背が高く浅黒い肌、黒髪に黒い瞳
イタリアのマルコだった。
彼もやはり名のある大会への出場経験を持つ優勝候補の一人だがプレイボーイとしても有名な男だ。
[一人で夕食とはわびしいな]
マルコが言った。
仲西は苦笑いを見せただけだった。
二人で黙々と食べているとマルコが
[あんたもお宝目当ての出場かい?]
と聞いてきた
[お宝?]仲西はすっとんきょうな声で答えた
[まさか知らないわけじゃないだろう?
この大会は表向きは自転車レースになってるが実は世界のどこかに眠ってる財宝のありかを示すためのレースなんだぜ]
[そうだったのか、本当に知らなかったよ。
で君もそれ目当てなのかい?]
仲西が遠慮がちに聞いた
[まぁな]とマルコ。
[でも今は2017年だよ、そんな財宝本当にあるのかなぁ?もしかしたら主催者が流したデマなんじゃない?]と仲西。
[ケイゴの疑問はもっともだ、だが今回のはデマじゃないと俺はみてる。アジアではどうかわからんけどヨーロッパではかなり昔から言われてる話しなんだ、しかもこの大会のスポンサーを見たらデマ流すようなせこい会社じゃないだろう]
たしかにその通りだと仲西は思った。
しかもそんなデマを流しても主催者側にはメリットもない。
[それに]とマルコが付け加えた
[ロマンもあっていいじゃないか、男はいくつになっても夢を追いかけてなきゃな!]