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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

窮鼠もさすがに虎は噛めない

作者: kiki

 



 ナズーリンが命蓮寺を去って数ヶ月。

 それはつまり、荒れ果てた寺を立てなおしてから数ヶ月の月日が経過したということを意味する。

 もう数ヶ月なのか、まだ数ヶ月というべきなのか、時間の感覚は人それぞれだが、少なくとも星にとってはこの数カ月は途方もなく長い時間だった。

 白蓮の尽力と星の能力もあって、信者は思ったよりも速いペースで集まったおかげか、寺の立て直しにはそう時間はかからなかった。

 かつての仲間も戻り、また以前のようにみんなで一緒に暮らしていける、そう思った矢先にその事件は起きた。


「それじゃ、私はここを出て行くことにするよ」


 ナズーリンは星にそう告げ、それから数日後に宣言通り出て行ってしまったのである。

 今は無縁塚の近くに小さな小屋を建てて暮らしているようだが、命蓮寺からはかなり距離が離れている。

 と言っても、空を飛べる彼女たちにとっては距離など大した問題ではないのだが、星が懸念しているのは物理的な距離ではない、心の距離だ。


 離れ離れで暮らすようになってからも、呼び出せばナズーリンはいつだって飛んできてくれたし、望めば命蓮寺に泊まってくれもした。

 もちろん呼び出すのは仕事の用事があるからなのだが、多少強引な理由付けでも来てくれないことはなかった。

 多少の愚痴は聞かされたが、彼女と二人で過ごすための対価としては安いものだろう。

 だがそれも星が望んだからだ、部下と上司という関係上そうならざるを得ないのかもしれないが、ナズーリンが星に対して何かを要求するということは滅多になかった。

 星が望まなければ、彼女はお泊りどころか寺に来ることすらない。

 それが星にとってはとてつもなく高く、厚い壁のように思えてならなかった。

 何気なく寺に来て欲しい、理由がなくても会いに来てくれないだろうか、そう望む自分の気持ちが上司と部下のそれでは無いことに気づくまで、そう長い時間は必要無かった。

 よくよく考えてみれば、今までだってただの上司と部下と呼ぶには親密すぎる関係だった気がする。

 あえて口にはしなかっただけで、上司と部下ではなく、相棒のような関係だと認識していたのだ。

 星が失敗した時もナズーリンはすぐに助けてくれたし、めったになかったが逆にナズーリンをフォローすることもあった。言葉を交わさずともお互いの意思を汲み取ることが出来た。

 だからその感情が双方向であると信じて疑わなかった。今までは、一度も。


 ナズーリンが出て行く直前まで星は説得を続けていたのだが、結局彼女が折れることはなかった。

 申し訳無さそうに――果たしてそれが本心からの表情かはわからないが――頭を下げながら、やんわりと寺に残ることを断られた。

 元々ナズーリンは聖を慕って集まったではない、そんな彼女にとって命蓮寺は居心地の悪い場所だったのかもしれない。

 無論、星にとっては心地の良い空間ではあったが、だからこそナズーリンはその空気が馴染まなかったのだろう。

 仲間たちは惜しみながらも、仕方のないことだと言ってナズーリンを無理に引き止めようとはしなかった。

 ナズーリンが彼女たちにとって身内では無いように、彼女たちにとってもナズーリンは身内ではなかったから。

 仲が悪いわけではない、仕事中もうまくやっていたし、プライベートで星以外の命蓮寺の面々と遊びに行く事もあった。

 程度の問題なのだ、星を除いて彼女たちは必死になって引き止める段階までは至っていなかった、ただそれだけのことで、残酷だと思うかもしれないが当たり前のことだと納得していた。

 あるいは、星だけがナズーリンのことを気にかけていたのが逆に気を使われているようで嫌だった、という可能性も考えられる。

 後になって思えば、ナズーリンが寺に残る理由など一つもなかったのだし、出て行く理由はいくらでもあった。

 それに気づくことができていればもっと上手く立ち回れただろうに、と星は心の底から悔やんでいた。


 結局、二人の関係は仕事だけの関係で仕方なかったわけだ。上司と部下以上の感情など幻想に過ぎない。

 それどころか、自分自身の感情さえ幻だったのではないかと疑ってしまうようになった。

 ナズーリンから星に向けての感情など所詮は想像でしか無い、それが揺らいだ所で答え合わせで間違いに気付いた程度の話だ、大した痛みはない。

 だが、自分の感情が揺らぐのは話が違う。

 千年以上も共に歩んできた相手、その間一度だって疑ったことのなかった自分の気持ち、それがたったの数週間程度で消えてしまうのだ。

 共に過ごした時間の全てが無駄になってしまうような気がした。

 胸が痛い、吐き気がする、ナズーリンのことなんて考えたくない、なのに嫌でも考えてしまう。

 どうしても、どうやったって、どこまでいっても。

 逃げ場なんてなかった。逃げようとしていたそれは、千年以上の時を経てとっくに星の心に根付いてしまっていたから。心そのものと呼んでも差支えはないだろう。


 苦悶の日々を送る星。

 だがしかし、ある日を境に状況は一変する。

どうしてもナズーリンの事が頭から離れなかった星は、寺で座禅をして自分の冷静さを取り戻そうとしていた。

 だが、そう簡単に頭から消えるはずがない。

 頭を空っぽにしようとしても、どうしてもナズーリンの姿が浮かんできてしまう。

 最も集中出来る状況を作り出したのは自分自身だ、高まった集中力によってむしろ想像が具体性を帯びて、傷はさらに広がろうとしていた。

 どうにかして気をそらそうと、全く関係のない事――例えば今日の夕食のことだとか、食後のデザート、三時のおやつ、とにかく自分の好きな事をでらために考えようとしてもナズーリンが真っ先に浮かんでくる。

 あまりにナズーリンのことばかりを考えていたせいか、ついには幻聴まで聞こえてくる始末。

「ご主人様、ご主人様」と耳元で囁く声が聞こえてくる。

 幻聴を聞いてしまうとは、自分も来るところまで来てしまったようだ、そろそろナズーリンに土下座してでも寺に戻ってきてもらう時が来たのかもしれない、そんなことを考えてしまうほど星は自分が追い詰められて居るのを実感していた。

 頭を下げればナズーリンは従うだろう、嫌がりはするだろうが土下座してまで頼んできたことを無下に断ったりはしないはずだ。

 だが、それでは意味が無い。

 今の星に必要なのはナズーリンが自ら望むことなのだ、無理やり連れ戻したって、全てが元通りになるわけではない。


「ご主人様、目を開けてくれ」


 星はその幻聴を悪魔の囁きだと思うことにした。

 修行には、いつだって甘い誘惑がつきものである、それに打ち勝ってこその修行だ、心の強さとはそういうことだ。

 それでもまた聞こえてくる、どんなに心を閉ざそうとも、ナズーリンのことを頭から追い出そうとしても、幻聴は一向に消えようとはしない。

 だが一方で、このまま目を閉じてその声を聴き続けたいという欲求もあった。

 飢えているのだ。どんなに虚しい行為か知りながらも、幻聴で満たせるのならそれでもいい、そう考えていた。


「ごーしゅーじーんーさーまー!」


 幻聴は次第に明瞭に成り、そして不機嫌さを孕んでいく。

 悪魔は焦っているようだ、星の心の強さが奴を追い払おうとしているのだ。

 まあ、実際には心の強さなんて物があるわけではなく、ただ目を開けた瞬間にこの夢が終わってしまうのが怖いだけなのだが。

 溺れていたい、沈んでいきたい、そこにはきっと星の望む姿のナズーリンが居るだろう。

 どんな時でもそばに居てくれる、望まずともついてきてくれる、そんな彼女の姿が――


「いい加減にしろっ!」

「あいたっ!」


 紐のようなものでぺちんと頬を叩かれる、その痛みに星は思わず目を開けてしまった。


 ――ああ、夢が終わってしまう。


 幻聴を惜しむ星は、不機嫌なままの表情で自分の頬を叩いた物の正体を探った。

 だが紐らしき物は見つからない、代わりに目の前では黒のスカートがひらひらと踊っている。見覚えのある柄だった。

 視界を上げる。

 土下座してでも見たかった顔が、見慣れた顔で星を睨んでいた。

 不機嫌さなど一瞬で吹き飛んだに決まっている、自分がそうしようと考える前に、その姿を視界に捉えた瞬間に反射的に笑顔に変わっていた。

 嬉しくて嬉しくてしょうがないと思う前に体が反応して、自分が獣だった時のように勢いに任せて思い切りナズーリンに飛びつく。


「ナズーリンっ!」

「ご主人様、人の話はちゃんと聞くようにと以前から説教して――ってうわああぁっ! 何だい急に、危ないじゃないかっ」

「ナズーリン、ナズーリン、ナズーリンっ!」

「ああもう、そんなに何度も呼ばなくても私はここにいるから、安心してくれよ。

 と言うか痛いし重たいんだが、離してもらえないかな」

「会いたかったです、ナズーリン!」

「いや、だから人の話はちゃんと」

「少し痩せましたか? 肌も荒れている気がします、ちゃんと睡眠はとれています? 

 もしかして何か悩みがあるとかですか!?

 それは大変です、だったら私が相談に乗りますよ、何でも聞いてください、何でも頼ってください!

 こう見えても中々に人生経験は豊富……ってずっと一緒にいたんですからナズーリンは知ってますよね。

 あはは、私としたことが会わない間にボケちゃってたみたいです。

 でも折角ですから相談してみてくださいよ、案外役に立つかもしれませんよ?

 ほら、早く早く!」

「ご主人様、落ち着いてくれよ。

 何をそんなに心配しているのか知らないが、心配しなくともほんの数日前に会ったばかりだろう?」

「心配なものは心配なんです! それに――」

「それに?」


 ナズーリンはただ来てくれただけじゃない。

 タイミングも神がかり的だったし、星にとって最も重要な、大事な物を持ってきてくれた。


「ナズーリンから会いに来てくれたの、初めてですよね」


 そう、自分の気持ちを信じる自信を。

 ナズーリンが自分の意思でここに会いに来てくれた、ただそれだけで今まで疑ってきた気持ちの全てが取り戻せたような気がした。


「だから私、嬉しくて嬉しくてっ」

「ああ……そういえばそうだったかな。

 それにしても、私から会いに来たってだけでここまで喜ぶものなのかい?」

「だけ、なんて口が裂けても言えませんよ、それが全てと言ってもいいほどです。

 とにかく嬉しくて楽しくて幸せで仕方ないんです、だからしばらくは離してあげません、私が飽きるまでは付き合ってもらいますからねっ」

「はぁ、仕方ないな。わかったよ」


 あきらめ気味に息を吐きつつも、その表情はどこか温かい。


「そういうことなら、思う存分抱きつくといい」


 そう言いながら、ぽんぽんと星の頭を優しくなでた。

 どちらが主人かわかったもんじゃない、だが二人は昔から”こう”だった。

 しっかり者でおせっかい焼きのナズーリンと、うっかり者で甘えたがりの星、二人が揃えばそうなってしまうのも仕方無い。


「んふー、久々のナズーリンの匂いはなんだかひと味違いますね」

「こら、抱きついていいとは言ったが匂いを嗅いでいいとは言ってないぞ」

「息をするなって言うんですか? いいじゃないですか、減るものじゃないんですし。

 でも、なんだかいつものナズーリンの匂いとは違うような気がしますね」

「……臭うのか?」

「そういうのではなく、一緒に暮らしていた時はきっと同じような匂いだったんでしょうね」

「ああ、そうかもしれないね、過ごしている場所も環境も違うのだから変わってくるだろうさ」


 寂しいような、ドキドキするような、なんとも言えない感情が星の胸に渦巻いていた。


「しかし、胸に顔をうずめて匂いを嗅ぐのは正直少し変態っぽいぞ」

「上司を変態呼ばわりとは、いい度胸ですね」

「そう思うなら少しは上司らしい振る舞いを心がけてくれたまえよ」

「ナズーリンみたいな優秀な部下が居るから無理でーす」

「こら、開き直るなっ」


 そう言いつつもナズーリンの匂いは未だ星の胸いっぱいに広がっていて、自分と違う匂いを嗅いでいると、思わず住んでいる家やそこでの生活、食事のことなんかを想像してしまう。

 一人で寂しくないだろうか、料理は上手だったから心配はないだろうけど、きちんとバランスよく食べているだろうか。

 自分だったら、きっと寂しくて、同じ味付けの食事でも味気なく感じてしまうだろうな。

 そんなことを考えながら、膨らみそうになる寂しさをナズーリンの温もりと香りで上塗りする。


「そろそろ気は済んだかい?」

「そうですね、これ以上続けるとナズーリンが疲れてしまうでしょうし、これぐらいにしておいてあげましょう」

「優しい上司様で助かるよ」

「えっへん」


 褒められていないことを知りながらも、星はわざとらしく胸を張った。

 だったら最初から抱きつくなよ、とはあえて言わないのがナズーリンなりの皮肉の美学らしい。

 ようやく星のホールドから開放されたナズーリンは、その場で立ち上がると首と肩を二、三回ぐるぐると回した。

 回す度にぽきぽきと骨がなる音がする。


「そんなに重かったですか?」

「体重差を考えてくれよ、虎とネズミじゃこうなるのは当然だろう。逆ならまだしも」

「ふむ……じゃあ今度は逆にしましょうか」


 ナズーリンは直前の自分の失言を悔い、思わず「しまった」と声に出してしまう。

 やっと逃げ出せたのに、また似たような状況に陥る地雷を自分で踏み抜いてしまうとは、全くらしくない。

 星は床に座り込み、少し足を開くと自分の足の間をぽんぽんと叩いた。

 それはもう最高の笑顔をナズーリンに向けながら。


「はい、ナズーリン専用の居場所はここです」

「……なんだ、そんなことか」


 てっきりまた抱きつかれるのかと思っていたナズーリンだったが、どうやらただの”いつも通り”の体勢を望んでいるだけのようだ。

 これも抱きついていることに違いはないが、彼女に負担はほとんどない。

 星が叩いた場所にナズーリンが腰掛けると、星は両腕でその小さな体を包み込んだ。


「ふぅ、やっぱりこれが一番落ち着きますねえ」

「落ち着くのはご主人様だけだろう」

「ええー、ナズーリンだってこれ好きじゃないですか」

「後ろからじゃ顔は見えないだろう」

「横顔だけでも表情はばっちり読み取れるんですからね」

「気のせいだ」

「気のせいじゃありませんー、そういう言い方するんだったらもう二度としてあげませんよ?」

「うっ……。

 くそぅ、それで一番ダメージを受けるのはご主人様だろうに」

「ふふん、捨て身の攻撃です」

「そんな下らないことを誇らしげに言うんじゃない。

 はぁ……そうだよ、ご主人様の言うとおりだ、私もこれは嫌いじゃない」

「好きって言えばいいのに、素直じゃないですね」

「ご主人様ほど脳天気にはなれないんだ」


 星の言う通り、ナズーリンだって本当はこの体勢が好きで好きで仕方無い。

 いつもだったらお互いに示し合わせることもなく、自然にナズーリンが星の足の間に座って、星も自然とその体を抱きしめる。

 二人がある程度親しくなってから始めたのだが、いつからこうしているのか具体的な時期は二人とも覚えていない。

 かれこれ千年以上も続けてきた行為で、二人に一切の恥じらいはなかった。

 緊張するとか、胸が高鳴るとか、そういう気持ちには一切ならない。あるのは平静、安穏。


「なあ、ご主人様」

「どうしたんですナズーリン」

「今日は……何の理由もなく来たわけじゃないんだ、折り入って話したいことがあって」

「それは、雰囲気が悪くなる内容ですか?」

「……おそらく」

「じゃあ聞きたくありません、って言ったらやめてくれます?

 折角ナズーリンの方から来てくれたのに、水を差すような話は嫌です」

「それは無理だよ、絶対に謝らないといけないことなんだ」

「謝る、ですか」


 星に心当たりは全くなかった。

 むしろ自分の方こそ謝らなくてはならないことが沢山あって、ありすぎてどこから手を付けていいのかわからないほどだ。

 星を怒るのはナズーリンの役目で、ナズーリンに非があることなんてほとんどなかった。

 何か失敗があったとしても、それは常に星のことを考えるがゆえの失敗で、星が彼女を責めることなんてほとんどなかったはずだ。


「私が寺を出て行く時、ご主人様は必死で説得してくれたじゃないか。

 本当はね、引き止めてくれて嬉しかったんだ、社交辞令なんかじゃなく本気で嬉しかった、まずそれは信じて欲しい」

「そのことですか。

 良かった、嫌われてたわけじゃなかったんですね」

「そんなわけないだろう! 私がご主人様を嫌うことなんてありえない、絶対に!」


 元から感情を表に出す方ではないナズーリンにしては珍しく直情的な言い方に、星は少し驚いていた。

 だが驚き以上に、それを圧倒的に上回る歓喜があった。

 ナズーリンの今の言葉を覚えているだけで、星が自分の気持ちを疑うことはもう二度と無いだろう。

 今日までの悩みは、すでに跡形もなく霧散していた。


「まず、止めてくれたのに出て行ってしまったことを謝りたい。

 ご主人様の善意を無下に扱ってしまったことを、心の底から申し訳なく思っている」


 ナズーリンの耳がしなだれる。

 覗きこまなければ表情は見えないが、その耳だけでナズーリンの反省の度合いが手に取るようにわかった。

 星は力なく折れ曲がった耳の上から頭を優しく撫でる。


「謝るのは私の方です、ナズーリンが出て行く理由はいくらでもあったはずなのに、それに気づかず無神経に引き止めてしまいました。

 本当はナズーリンに命蓮寺のことを手伝う義理なんてないはずですもんね、みんなとも昔からの知り合いというわけではありませんし。

 あの時にもっと気の利いた言い方ができれば、ナズーリンに罪の意識を抱かせないような方法を取ることが出来ていれば、今まで苦しませることもなかったでしょうに」

「ご主人様、それは違うんだ。私に出て行く理由なんてなかったんだよ」

「そうなんですか?」

「いや、なかったと言うか、残る理由が大きすぎたと言うか」

「うーん……よくわかりませんが、だったらどうして出て行ったんです?」

「それは……」


 気まずそうに言いよどむ。

 ナズーリンの耳はさっきよりもさらに力を失い、ぴたりと頭にくっついている。


「残る理由も、出て行く理由も、きっと一緒だったんだ。

 ご主人様がそこに居るから。私の隣に居てくれたから。

 本当は残りたくて仕方なかった、でも、だからこそ私は我慢が出来なくて……」

「えっと、どういうことなのか私にはさっぱり」


 星の飲み込みが悪いというわけではなく、ナズーリンは自分でも上手く説明できなかった。

 いや、説明しようとしなかった。未だ踏ん切りが付いていない。

 今まで積み上げてきた信頼や、自分の立場、そして星との距離、色んな物が天秤の向こう側に重しとなってのしかかり、真実を話す勇気を奪ってしまう。

 ネズミは所詮ネズミ、どんなに出来る自分を演じても臆病な自分からは逃げられない――


「……」

「ナズーリン、無理して話さないでいいんですよ。

 私は傍に居てくれればそれだけで十分ですから、それ以上なんておこがましくて望めません」

「傍にいるために必要なことなんだ」

「必要なことなんてありません、ナズーリンがナズーリンであるだけで私は十分なんです。

 ただそれだけでこんなにも幸せなんだって、離れて暮らした時間で気付けましたから」

「それは、私だって一緒だよ。

 こうして一緒に居るだけで幸せだし、胸が暖かくなる。心の底から安心する。

 でも……駄目なんだ、それじゃ。

 今のままでは、私はきっとまた同じ過ちを繰り返す、またご主人様のことを傷つける。

 だから、全部話して、懺悔して、自分で自分を許さなければならない」


 一緒に居た時間は確かに長い。長すぎるほどに長い。

 だからこそ、二人は自分たちの距離感を見失ってしまっていた。

 立ち位置を測るためには俯瞰が必要だ、見直すためには今の自分とは違う場所に立つ必要がある。

 二人に訪れた別離は、意図せずに俯瞰の機会を与えてしまった。

 良い機会と呼んでいいものかは分からないが、二人の関係を見なおす絶好の機会であるのは間違いない。

 時には見たくないものが見えてしまうかもしれない。

 だが二人に関してはその心配はなかった、見えたものは自分で思っていた以上に相手のことを想う自分の姿だったのだから。

 だからこそ、ほんの数日ぶりの再会がこんなにも嬉しくて、相手から会いに来てくれたという些細な変化が狂おしいほどの幸福を与えてくれる。

 それ以上なんて求めようとも思わなかった。もちろんそれ以下なんてもっての他だ。

 今のままでいい、それで十分。


「確かに、ここで暮らしている間にも自分が蚊帳の外に居るという実感はあった。

 それが少し辛いと感じることはあったけれど、ご主人様が居たから平気だったんだ。

 そう、ご主人様がこの場所に居るだけで、私が残る理由なんて十分だった。

 でも……私の欲望はそれだけじゃ満足出来なかったらしくてね。

 今までは二人きりだったから考えたことなんてなかったけれど、私以外の妖怪や人間と――特に聖と話しているのと見ると、胸が苦しくて」


 自分の胸に手を当てながら、ナズーリンは苦しそうに吐き捨てる。


「どうしてそんな楽しそうに、私はそこに居ないのに、って」


 そう考えてしまう自分にありったけの憎しみを込めて。


「日に日にその気持ちは強くなっていったよ、自分ではもうどうしようもなかった。

 どうにかしたかったのに、間違った気持ちだって理解していたのに、どうにもできなかったんだ!」

「ナズーリン……」

「要は、嫉妬だよ。

 私以外の誰かがご主人様と話しているのが憎くてたまらなかった。

 傍に居たのは私なのに、今でも一番近いのは私なのに、どうして私と同じように話すんだろう、私と居る時以上に楽しそうなんだろうって、考えたくなくても自然と頭に浮かんでくるんだ。

 黒い独占欲がふつふつと湧き上がって、発散するわけにもいかなくて、このまま貯めこんだらいつか取り返しの付かない間違いを起こしてしまうと思った。

 だから……離れようと思ったのさ、間違いなんて起こせないぐらいに遠くまで」


 ナズーリンの住む無縁塚は幻想郷の端にある。

 対して人里の位置は幻想郷の中心近く、その近辺にある命蓮寺からは無縁塚はかなり離れている。

 いくら空を飛べると言っても、星の呼び出しにすぐに反応するには近いに越したことはない。

 本当は、ナズーリンは外の世界に出て行きたいぐらいだった。それが無理ならいっそ消えてしまっても良いと思った。

 何があっても汚してはならない相手だったのだ、それが役目のためでもあったし、ナズーリンの個人的な望みでもあった。

 しかしそれを汚してしまうかもしれない危うさ、頭の中ですでに汚してしまった自己嫌悪、嫉妬と自分への憎しみの間で板挟みになる苦痛。

 命蓮寺の面々こそ星の傍にいるのに相応しくて、自分はそうではないのだと、所詮は他人でゲストでしかないのだと、自分勝手に断じてしまった。

 離別は、その末の決断だった。


「気持ち悪いと思われるかもしれないが、今はとても満たされている。

 こうして腕の中にいる間だけはご主人様のことを独占できるから」


 自分の前に回された星の手を、ナズーリンは愛おしそうに両手で包み込んだ。

 ナズーリンの体からはすっかり力が抜けていて、全てを預けていることを星は理解していた。

 こうして身を預けてもらっている時だけはナズーリンの役に立てているような気がして、星にとってこの体勢は恩返しのような物だ。

 もちろん理由は後付けだが、その認識だけで自己満足の餌ぐらいには出来ると思っていた。

 だがどうやら自己満足ではなかったらしい、少なくとも今はナズーリンの欲求を満たすことができている。

 そのことに星は少なからず充足を感じていた。

 しかしそれも一時的なものだ、星が寺に居る限り嫉妬は付いて回るだろう、かといって星が寺を出て行くことなど出来るわけがない。


「すまない。

 謝るつもりだったのに、余計に困らせてしまったようだ」

「困ってなんかいません、ただ悩んでいるんです」

「悩むことなんて無い、これは私のわがままさ。

 その……たまにこうして抱きしめてくれるだけでいい、それだけで私はご主人様の部下でいられるから。

 頼み事を出来る立場では無いことは理解しているが、お願いしてもいいかい?」


 つまり、たまに寺に来た時こうして抱きしめて欲しいと言うことらしい。

 別にそれは構わない、星は喜んで抱きしめるだろう。

 だが、問題が解決したわけではない。一時しのぎ、先延ばししているだけだ。

 それで星が満足するはずがない。


「貴方が苦しんでいるとわかってるのに、私がそれを放っておけると思いますか?」

「……すまない」


 放っておけない事を知らないわけがない。ナズーリンは打算的な自分が嫌で仕方なかった。


「謝らないでください。

 気に病む気持ちはわからないでもないですが、ナズーリンが素直じゃないのは誰よりもよーく知ってますからね。

 大切な誰かに頼られるなんて滅多にあることじゃありません、私はむしろそれを誇りに思います」


 それでも文句一つ言わず救ってくれると言うのだから、同じ毘沙門天の弟子としてナズーリンは自分との格の違いを見せつけられた気がした。

 普段はおっちょこちょいで情けないくせに、実はナズーリン自身も星が居なければ何も出来ない情けないやつなのだ。

 きっと二人が出会えたのは運命のような物で、以外の誰かじゃ二人はどうしようもない奴のままだったのだろう。

 ナズーリンだったから、星だったから、毘沙門天が与えてくれた星屑のひと粒を掬うような奇跡に、ナズーリンは心から感謝する。


「まあ、心配しなくとも最初から私にとって一番大事な人はナズーリンなんですけどね。

 でも、それでは足りないんですよね。

 どうやって証明したらいいんでしょう。言葉ですか? それとも行動ですか?」


 ナズーリンも自分が何を望んでいるのか理解しているわけではなかった。

 嫉妬、独占欲、そういった満たされない物があることだけは理会しているが、それを満たすために必要な物が何であるか、そこまで知っているわけではない。


「それがわからないんだ、何をしたら満足なのかが自分でもわからない」

「ということは、段階的に試していくしかないみたいですね」

「段階的?」

「ナズーリンが満足してくれるまで、一つ一つ階段を登っていけばいいのです」

「だから何の階段を――」


 星は答えるより前に行動に移した。

 柔らかく暖かな感触がナズーリンの耳に触れる。


「なっ、ななっ!?」

「ふふ、どうでしょう、これはもう上司と部下のスキンシップではありませんよね」

「何を考えてるんだ君はっ!?」

「何って、接吻です。耳なんですから別にいいじゃないですか」

「良い訳があるかっ、これじゃ上司と部下じゃなくて……っ」

「ですからそう言ったじゃありませんか。

 最初に言い出したのはナズーリンなんですよ、今のままじゃ満足できないって、要するに上司と部下じゃ駄目ってことでしょう?」

「それはそうだが……」

「で、どうです? 満足出来ましたか?」


 ナズーリンはその感触を思い出しながら、自分の耳に指先で触れている。

 正直言って、嬉しい。

 少なからず欲求は満たされている、ただでさえ抱きしめられて満ち足りていた所に降ってきたキスだ、満たされるどころか溢れ出しそうになっている。

 それでも、ナズーリンは心の何処かでこんなものは一時しのぎだと考えていた。


「まだ足りないようですね」


 顔を赤らめながらニヤつくナズーリンの表情からは不満などは見て取れない。

 だが横顔を覗きこんだ星は一瞬でそう判断した。

 ナズーリンは心の奥を読まれた気分だった、千年の月日はここまで相互理解を進めてしまったのか。


「ご主人様に隠し事は出来ないな」

「ことナズーリンに関しては世界で一番詳しい自信がありますからね。

 大丈夫です、ナズーリンだって世界で一番私のことに詳しいはずですから」

「そうかな、ご主人様はわからないことばかりだよ。それどころか、私は自分のことだってよくわからないんだ」

「今はたまたま見失っているだけです、すぐに見えるようになりますよ」


 星自身がそうであったように。

 きっかけはほんの些細なことだ、当の本人であるナズーリンですら”その程度のこと”と考えてしまうほどに。

 ただナズーリンの方から会いに来てくれるだけでよかったのだ、それだけで呪いは解ける、魔法がかかる、怖いものなんて何もかも消えてなくなる。


「次はどうしましょうか? ナズーリンはどう思いますか、まだまだ足りないならいっそ二段飛びで進めてしまってもいい気がするのですが」

「ご主人様は恥ずかしくないのかい」

「相手が貴方でなければ恥ずかしかったかもしれませんね。

 今の私はナズーリンに関して恐れることも恥ずかしがることも一切ありません、貴方のためなら何でも出来る気がします」

「何でも、か」

「今想像してるよりもずっとすごいこともできちゃうと思いますよ」


 星は疑いようのないナズーリンへの想いを手に入れた、もはや何があってもぶれないし削れない。

 だから言葉通り、今の星は冗談抜きで”何でも出来る”状態だった。

 その気になれば命を賭けることだっていとわないだろう。

 確かに星は命蓮寺の仲間たちと親しげに話す。聖のことは尊敬しているし、他の住人たちもかけがえのない友人だと思っている。

 だが、一番はいつだってナズーリンだった。

 疑うことすら馬鹿馬鹿しくなるぐらいに、優先順位としては断トツで彼女が一番だったのだ。

 それは星自身でも自覚していたし、命蓮寺の仲間たちにも周知の事実であった。

 ナズーリンが普段の冷静な状態であれば、星の気持ちを疑うことなどなかっただろう、嫉妬など無駄な行為だとすぐに気付いていただろう。

 星は誰かと話している時だってナズーリンの姿が見えればすぐにそっちに意識を向けたし、場合によっては会話を中断して寄り添うこともあった。

 それを咎める仲間は居ない。つまりは全員気付いている、あの二人はとっくに割り込む隙間もないほどに通じ合っているのだと。

 気づいていないのは当事者の二人だけで、そんな二人のことを皆もどかしさを感じつつも微笑ましく見守っているのだ。

 近いからって鮮明に見えるとは限らない。

 近すぎて見えないものもある、ナズーリンは今そんな落とし穴にはまってしまっているのだろう。


「それじゃあご主人様、私のことを好きって言ってくれないかな」

「はい、大好きです」

「……あっさり言ってのけたな」

「もう自分の気持ちを疑うのはやめましたから。

 ナズーリンの方はどうなんです、私のことは好きなんですか?」

「嫌いじゃない」

「えいっ」


 星の人差し指がナズーリンの頬に突き刺さる。


「何をするんだ、痛いじゃないか」

「空気を読まないナズーリンにおしおきです」


 全く悪びれないナズーリン。

 星は突き刺した指をぐりぐりと回した。


「わかってて聞いたんじゃないのか」

「今ぐらいは素直になってくれるかと思ったんです!

 確かに自分の気持ちは疑わないとは言いましたが、貴方の気持ちはまだわかりませんから」

「言うまでもないだろう」

「そういう態度が私を不安にしたんですよ」

「……すまなかった」

「私たちの間にだって言ってくれないとわからないことはあります。

 どんなに貴方の心を読み取れても、答え合わせ出来ないと正解かどうかはわからないんですから、たまには本音を聞かせてくれないと自信を無くしてしまいます」

「面目ない……」


 星は自分の気持ちを素直に伝える方だったが、ナズーリンはさっぱりだ。

 素直じゃないと言えば無愛想な性格のように思えるかもしれないが、恥ずかしがり屋と言えば短所だって長所に変わる。

 それが彼女らしさと言えばそれまでなのだが、星はそんなナズーリンだからこそ好きになったのだろう、だがそのせいで不安も感じていた。

 恥ずかしがり屋と言えば可愛くは聞こえるし、実際星はそう思っているのだが、今だけは別だ。

 恥ずかしがって上司を不安がらせるなど部下として失格ではないだろうか。


「それではもう一度聞きますね、ナズーリンは私のことが好きですか?」


 ナズーリンをさらに強く抱きしめ、体を密着させながら星はそう問いかけた。

 しばしの逡巡、未だ抵抗する往生際の悪い羞恥心をどうにか跳ね除けて、ナズーリンは口を開く。


「ああ、好きだよ」


 一言溢れると、もう止めるものは何もなかった。

 堰を切ったように星への想いが溢れ出る、羞恥心のストッパーは濁流の前には意味を成さない。


「好きで、好きで、自分で嫌になって逃げたくなるぐらいに好きなんだ。

 いつもミスするくせに好きで、人の話なんて全然聞かないくせに好きで、欠点だらけなのにその欠点すら好きになってしまった。

 嫉妬するぐらいに好きで、全部独占したいぐらいに好きで、自分で出て行ったくせに寂しくて泣くぐらい好きだ。

 好きで好きで仕方無い、最初はただの上司だったはずなのに、自分でもどうしてこんなにって悩むぐらいに……ああ、どうしようもなく好きなんだ」


 星は声を聞いただけでわかった、それが誤魔化しようのない心からの言葉なのだと。

 星とナズーリンは対称的なようで本当は似たもの同士だった。

 疑う必要のないものを疑って、自分勝手に不安になって。

 こんな馬鹿げた話が他にあるだろうか、こんなにも好意を向けられていたのにそれを疑うなんて、星は自分の愚かさがほとほと嫌になる。

 何が上司だ、何が毘沙門天の代理だ、お前なんてただのケダモノで十分だ。

 獣は獣らしく、欲望のまま好きなようにしたらいい。


「寂しくて泣いたんですか?」

「恥ずかしい話しだけどね、思いっきり泣いたよ。自分が寂しがり屋だってことに初めて気付いた」

「ふふふ、ナズーリンの泣き顔は一度ぐらいは見てみたいです、きっとさぞ可愛いんでしょうね」

「やめてくれよ、今だって恥ずかしいのに」

「大丈夫、私も一緒ですから」

「泣いたのか?」

「ええ、次に日に目が腫れてみんなから心配されるぐらい泣きましたよ」

「そっか……それは嬉しいな」

「はい、私も嬉しいです」


 きっと今までだって両想いだった。

 だが、お互いに気持ちをはっきりと告げた今とは全く違う。

 今までは改まって”好き”なんて言う機会は無かった、言うだけでこんなに楽になるなんて、ナズーリンは全く想像していなかった。


「それにしたって、お互いに好き好き言い合う上司と部下なんて果たして世の中に居るんでしょうかね。

 そもそも私たちは上司と部下と呼べる関係なんでしょうか」

「呼べないとしたら、他にどういう呼び方があるんだい?」

「そうですね……例えば、友人でしょうか」


 自分で言っておいて、星はしっくり来ないものを感じていた。


「違いますね」

「ああ、違うね。まだ足りない」

「そうですねえ。

 じゃあ親友でしょうか?」


 さっきよりは少し近づいた気がする、それでもまだ足りない。

 今の自分達の居る場所とは離れた場所を指している、そんな感じがする。


「……まだ足りない、ですね」

「ご主人様、言っておくが私は最初からそのつもりで言っているからな。

 まあ、何となく気づいていないんじゃないかとは思っていたけどね。

 そういう所を含めて、ご主人様のことを好きになったんだから」

「何となく恥ずかしいことを言われている気がします」

「何となくじゃない、素面に戻ってから悶えるのが恐ろしくて仕方ないんだからな、どうしてくれるんだ」


 恥を捨てたのは一時的なことで、ナズーリンの性格がそう簡単に変わるわけがない。

 明日か、早ければ数時間後にはもう元の彼女に戻っているだろう。

 例えそうだとしても二人の関係が以前と同じ状態に戻ることはないのだが。


「だったら、一生素面に戻らないようにずっと一緒に居るしか無いですね」

「君に羞恥心は無いのか」

「ありますが、どうやらナズーリンに関しては緩くなってしまうようでして、私の赤面顔を見たいなら貴女が頑張るしかないですね」

「いつか絶対に復讐してやる……」


 声色だけは怒気を孕んでいるようにも聞こえるが、耳まで真っ赤になった顔を見ればナズーリンの心境を察すのは容易だ。

 結局は素直じゃないだけ、ということで。


「さて、親友では足りないと言うことはつまり、親友以上ナントカ未満のナントカになりたいってことですよね」

「今更隠して何の意味があるって言うんだ」

「せっかくですし勿体ぶって見ようかと、必要な儀式もありますしね」


 儀式という言葉が解せないナズーリンだったが、聞き返すよりも早く星によって遮られてしまった。

 星は自分の体を後ろへずらし、同時にナズーリンの体をずるりと下に動かす。

 足を伸ばして座っていたナズーリンの体は、小さいこともあってあっさりと滑りながら移動する。

 一体何をするつもりなのか、儀式とは一体何なのか、いくつもの謎が浮かび上がったが星はそれに答えてくれそうにもない。

 答えるよりも先に、行動で示すつもりらしい。

 星は両手をナズーリンの頬に添えると、ほんの少し力を込めて顔を上へと向けた。


「んふふ、ナズーリンってば真っ赤になっちゃって可愛いですね」


 星の視界に移るのは、真っ赤に茹であがったナズーリンの顔。

 今まで背後や横顔ばかりを見ていたせいか、やけに新鮮に見える。

 ここまで恥ずかしがるナズーリンなんて珍しいから余計にだ、思わず顔が緩んでしまうのがわかった。


「私の顔を見るためにわざわざこんなことを?」


 呆れ顔のナズーリンに、星は緩んだ顔をさらにニヤリと歪ませた。


「ま、待て、まさかご主人様、そのまま――」

「待ちませーん」


 有無をいわさず、唇を触れ合わせる。


「あふ……ぁ……」


 文句を言っていた口も触れ合った瞬間に黙りこくる。

 千年以上一緒に過ごしてきて、もう知らない事なんてなにもないと思っていた。お互いに。

 だが、どうやらまだまだのようだ。

 唇がこんなに柔らかいなんて知らなかった、こんなに甘いなんて知らなかった。

 そして、こんなに可愛いなんて知らなかった。


「ぷぁ……」


 唇を離すと、ナズーリンの口から惚けた吐息が漏れる。

 とろんとした瞳が星の顔をぼんやりと眺めていた。


「……ほんとうに、バカだな君は」


 彼女らしい刺のある言葉だったが、星はそれを褒め言葉と思うことにした。


「バカだ……ほんとに、どうしようもない……度し難いバカだ……」


 そう言いながら、ナズーリンはキスの感触を思い出すように唇を指で撫でている。

 甘さはまだ残っている。感触は強烈すぎてどうやら二度と忘れられそうにない。

 忘れられないということはつまり次も望んでしまうということで、もう二度と以前の二人には戻れないだろう。


「これで満足できましたか?」


 段階的に試している途中だったことをナズーリンはすっかり忘れていた。

 これで足りないと言えば、星はその先も考えているのだろうか。

 この脳天気な上司のことだ、どうせ考えているだろうし、一切の躊躇いもなく望めばそうするのだろう。

 もういい、満足した。実際ナズーリンはそう感じていたし、これ以上など身がもたないと思った。


「少し、足りない」


 だから、自分の口から出た言葉が自分自身で信じられなかった。

 思考と行動が噛み合わない、ぼんやりとした意識は満足に体の操作すら出来ないと言うのか。

 それとも――


「まだ聞いていないからな、上司と部下じゃないって言うんなら私たちは一体何なんだ」


 心の奥底では、まだ先を見てみたいと望んでいるからなのだろうか。

 星は心底嬉しそうに笑いながら、ナズーリンの問いかけに答える。


「そうですね、恋人と呼んでもいいでしょうか?」

「うん、それでいい。大好きだよご主人様」


 恋人という言葉がナズーリンの心にじわりと染み入る。

 満たされるのを感じるが、一方で欲求がさらに強まっていく。

 また、欲しくなった。

 ナズーリンは星を見上げながら両手でその頬を掴むと、自分の唇へと引き寄せる。

 もちろん抵抗は無い、二度目のキスを交わす。

 一度目ほどの衝撃は無いと思っていたが、全くの間違いだった。

 何ら遜色ない感触が、唇を通して脳まで届く。頭の中が全部星で埋め尽くされていく。


「お寺の中なのにこんなことをして、聖に見つかったらこっびどく怒られるでしょうね」

「追い出されるかもしれないな」

「その時はナズーリンの家に泊めてもらいますから」

「その時が来なくとも、いつでも泊まりに来ていいよ。

 むしろ来て欲しいぐらいさ、ご主人様と二人きりで一日過ごせるなんて夢のようじゃないか」


 以前なら当たり前の事だったはずなのに、今はそんな時間すらも貴重に思える。

 だからこそ、愛おしく思えるのかもしれないが。


「それに、ご主人様と違う匂いなのは少し寂しいからね」

「そうですね、私も同じ匂いの方がいいです」

「……」

「……」

「……まるで変態みたいだな」

「あははっ、他の人から聞いたら変態そのものだと思いますよ」

「ふふっ、そうだろうな。

 しかもそれを悪く無いと感じてしまうのだからさらにたちが悪い」


 二人とも匂いフェチのつもりは無いのだが、気にしてしまうのは獣としての本能なのだろうか。


「そうだ、せっかく恋人になったんですし、ナズーリンに提案があるんですが」

「ご主人様がそう言い出す時はだいたい良くないことが起きる前触れだ」

「失礼なっ、今回は無難な提案ですよ」


 今回”は”と言うことは、星自身も自覚はあるらしい。


「私たち上司と部下で、だからご主人様って呼んでるんですよね?

 もう恋人になったんですし、もう名前で呼んでしまってもいいんじゃないでしょうか」

「ああ、そんなことか」

「重要な事ですよ」

「そうかな、まあ星がそう望むのならそう呼ぼうじゃないか」

「あっさり……」

「別に抵抗は無いさ、名前を呼ぶだけだろう?」


 どうやら赤面を期待していたらしく、星はあからさまに肩を落とした。

 そう言われても、とナズーリンは困り顔だ。

 そもそも寺の他の住人たちに対しては今でも呼び捨てなわけで、例外はどちらかと言えばご主人様呼びの方なのだ。


「期待はずれだったようだし、ご主人様呼びに戻してもいいかい?

 このまま名前で呼んでいると他の連中に厄介な絡まれ方をされそうだ」

「そうですね、いつも通りのナズーリンが好きなんですし、あえて変える必要なんてないのかもしれません」


 星も星で、いとも簡単に好きなどと言ってくるのだから、むしろナズーリンより始末におえない。

 ナズーリンはあやうくまた赤くなってしまいそうになったが、深呼吸でどうにか心を落ち着ける。


「さて、私はそろそろ帰らせてもらおうかな」

「ええー、早すぎますよ、もっと余韻を楽しむべきです!」


 星の腕の中から立ち上がろうとしたナズーリンだったが、逃げる前に捕まってしまう。

 体格差もあるが、元々の種族の違いもあって力で星には全く敵わない。


「離してくれないと帰れないんだが」

「離したら帰っちゃうじゃないですかぁっ」

「だからそうしたいと言っているんだ」


 別にナズーリンだって星から離れたいわけではない。

 星の気持ちはわからないでもないし、離れたくないと言ってくれるのは素直に嬉しかった。


「……泊まるのに必要な道具を持ってくるだけだよ、だから離してくれ」

「へ?」

「まあ、このままご主人様が私を家まで連れ帰ってくれるというのならそれも悪くはないがね。

 いっそうちに泊まっていくかい? 私はどちらでも構わないよ」

「ナズーリン……いきなりお泊りなんて、大胆ですね」


 ナズーリン自身、自分でもそう思っていた。

 早計すぎる、もっと段階を踏んで絆を深めていくべきだ、と。

 だが、素面にさせないと言ったのは星の方なのだ。そのためには一晩でも二晩でも一緒に過ごすしか無い。

 そこで次のステップに進むのならそれでもいい、どうせいずれ進む先なのだから。


「えっと、じゃあ……ちょっと待っててもらってもいいですか、準備してきますのでっ」

「うちに泊まるんだね」

「はいっ、どんな所で暮らしてるのか見てみたいですし、狭い所でナズーリンと二人きりなんて……なんだかドキドキしますっ」


 ドキドキで済むのならそれでいいのだが、ナズーリンはもはや緊張を通り越して諦めにまで至っている。

 正直言えば、寺に泊まる方が気が楽だったし、てっきり星もそちらを選ぶと思っていた。

 片付けだってしていないし、買い物だって必要だろう。

 買い物ついでにデートなんてのも乙かもしれないが、それではまるで夫婦みたいじゃないか。


「夫婦……」


 立ち上がり自分の部屋へ向かおうとする星の耳に、ナズーリンのそんな呟きが聞こえてきた。


「急にどうしたんですか?」

「ああ、いや、なんでも……ん?」


 ナズーリンの頭に妙案が浮かぶ。

 思えば今日はずっと星に攻められっぱなしだった、相手を弄び優位に立つのはいつも自分だったはずなのに、星が赤面する姿を一度も見ていない。

 むしろナズーリンが赤くなってばかりで、その度に星を喜ばせてしまった。

 ちょっとばかし甘やかし過ぎではなかろうか、このまま調子に乗らせてはいけない、自分の立場と言うものを理解させなければ。

 つまり今こそが反撃のチャンス、今を逃す手は無い、そう考えたのだ。


「なあご主人様、一つ伝えておきたいことがあるんだが」


 どうってことない、くだらない提案だ。

 それでも、今の星になら抜群に効くだろう。


「ほら、今までは上司と部下だからご主人様と呼んでただろう?

 でも私たちは今や恋人だ、それなのにご主人様と呼ぶのはどうも違和感がある」

「そうですね、でも今更になって名前で呼ばれるのも変な感じでしたし……」

「そこでだ、言葉ではなく意味を変えてみようと思うんだ」

「意味を?」


 星の頭の上にハテナマークが浮かぶ。

 ご主人様という言葉に目上の相手を呼ぶ以外の意味があっただろうか。

 一般的には主――つまり雇い主に向けて使う言葉であるはずで、他の使い方など、少なくとの星の頭には浮かんでこなかった。

 どうやら星がその意図に気づいていない事を察すると、ナズーリンは口の端を吊り上げながら人差し指を立てて説明を始めた。


「上司ではなく、夫を呼ぶ時にご主人様と言うだろう? だから今日からはそういう意味で呼んでみようと思うんだが……」


 そこまで言って、ナズーリンは初めて気付いた。

 確かに聞かされた星は恥じらうだろう、効果は抜群だ、間違いなく。

 だが、言うのは自分である。

 そう、気付いてしまったのだ。

 あ、これ自分もめっちゃ恥ずかしいじゃん、と。

 だがもう遅い、諸刃の剣を自分に突き刺しながら星に向かって特攻するしかないのである。


「どうだろう、ご、ご主人様」


 同じ言葉なのに、全く違う言葉のように感じた。

 本来なら星の恥じらう姿を見るための作戦だったのに、むしろナズーリンの方が恥ずかしい思いをしてしまっている。

 そんなつもりではなかった、攻勢を仕掛けるつもりだった、なのに思わず顔が熱くなる。耳どころか体中が真っ赤に火照るのがわかった。


「……」


 言葉を失う星。


「ご主人様?」


 呼びかけても反応はない。

 ナズーリンは不安げに微動だにしない星の様子を伺った。

 もしかして引かれてしまっただろうか、いくらなんでもわざとらしすぎただろうか、なんて不安を抱きながら。


「……はぁ、ナズーリン、どうしてくれるんですかこれ」


 星は顔を手で覆い、悲しそうにそう言った。

 未だナズーリンは不安そうにその表情を覗きこんでいるが、心配には及ばない。

 想定通り、いや想定以上に彼女の作戦は成功した。成功しすぎて困ってしまうほどに。

 幸か不幸か、赤面したナズーリンの自爆は星の急所のど真ん中に直撃したらしい。

 ただ呼ばれるよりもよっぽど、恥じらいながら告げられるご主人様という言葉には破壊力があった。

 それはもう、理性なんて粉々に砕けるほどに。


「もういいです、やめました」


 星はナズーリンに一歩近づく。

 準備のために部屋に戻るのをやめたらしく、向かうべき方向とは逆、部屋の中心近くに座るナズーリンに一歩二歩と近づいていく。


「準備なんてまどろっこしいことしてる場合じゃありません」

「なあご主人様、何だか目が怖いぞ……?」


 ナズーリンが怖がるのも仕方無い、それは獲物を狙う獣の目だった。

 ご主人様という言葉を聞く度に自分の体が制御できなくなっていくのがわかった、一度、二度と呼ばれる度に理性が遠く届かない場所へと飛んで行く。


「お、落ち着けっ、まずは準備だ、準備をしてゆっくり私の家に向かおう、なっ?」

「無理です」

「無理じゃない、ご主人様だったらできる、私が保証しよう。

 誰よりもご主人様のことを知っている私が保証するんだぞ、間違いない、だから自分を信じるんだ!」


 焦るあまり、ナズーリンは星が理性を失った原因をすっかり忘れてしまっている。

 星はご主人様と呼ばれる度に、理性が離れていくのを感じていた。

 あと少しで掴めそうになっても、再びナズーリンが星のことをご主人様と呼ぶ、その瞬間に掴んだ理性を全力で投げ飛ばしてしまう。

 遠く遠く、あまりに遠くに行ってしまうものだから、終ぞ追いかけることをやめてしまって、もうなるようになってしまえと、全て諦めることにした。

 悪いのはナズーリンなのだから、その本人がやめようとしないのなら遠慮する必要も無いのだから。


「ひぅっ……」


 顔を近づけられて思わずナズーリンは目を閉じた。

 キスされるか、もっと酷いことをされるかのどっちかだろうと思っていたのだが、見事に予想は外れる。

 次の瞬間、彼女の体は浮き上がっていた。星の両手に支えられて抱き上げられたのだ。


「いきましょうか、ナズーリン」


 真っ暗な視界の中で聞こえてきた星の声は、さきほどと違って何故か優しげで、ナズーリンが目を開くとそこには声と同じくいつも通りの、優しく微笑む星の姿があった。


「ふふ、どうしたんですか、そんなに怯えて」


 訝しげに目を細めるナズーリンに対して、あっけらかんと答える星。

 そこでようやく気付いた。


「……謀ったな、この私を」

「最初に仕掛けてきたのは貴方の方からですよ、因果応報です」

「憎たらしいご主人様め」


 憎たらしいの上に愛おしいというルビが付いていることを星は知っている。

 つまり、最初の反応も、ナズーリンに迫ったのも、全ては演技だったのだ。

 ナズーリンがやられたままで終わらせるわけがない、最後に何か仕掛けてくるはずだ――そう考えた星は、良からぬ企みよりも前からずっと警戒していたのである。

 そしてネズミはまんまと網にかかり、虎に捕まってしまった。


「はぁ、今日は私の完敗だよ。

 もう満足しただろう、早く下ろしてくれよ。準備の間は大人しく待ってるからさ」

「おや、何を勘違いしてるんです?」

「満足してないとでも言うのかい」

「いえ、そういうわけではなく」


 よく見てみれば、表情は元に戻っているが、星の目は前とそう変わっては居ない。


「私、ナズーリンを謀りはしましたが、冗談なんて一言も言ってませんよ?」


 それは理性を失った、獣の目だ。


「ご主人、様……?」

「だからその呼び方が駄目なんです、だってそれ私のことを旦那様って呼んでいるんでしょう?

 そんなんだから、聞かされる度にナズーリンは私の物なんだって、めちゃくちゃにしてもいいんだって、そういう欲求が沸き上がってくるんです。

 最初に言い出したのは貴方なんですから、責任とってください。

 上司と部下じゃなくて夫婦だなんて、そんなこと言われて私が平気で居られるわけがないじゃないですか。

 私を壊したのは、ナズーリンなんですよ?」


 ナズーリンは、自分の中に沸き上がってくる感情をうまく声に出来なかった。

 それは恐怖だ、畏怖だ、ネズミの本能が虎には敵わないと告げている。

 しかも自分はすでに捕らわれてしまっている、万が一の奇跡もありえない。

 だが、心のどこかに捕らわれてしまった事実を歓迎している自分も居て……それが一番恐ろしいかった。

 誰かに食べられてしまいたいなんて今まで一度たりとも考えたことなんてなかったから、自分の中から沸き上がってくる未知の欲求に恐怖しているのだ。


「ささ、早く行きましょう、一刻も早く行かなければこれ以上は待てません」

「そ、そうだ、せめて聖に報告ぐらいはするべきじゃないかな!」

「そんなのは後でどうとでもなります」

「いや、しかしだねっ」

「はいはい、うるさいお口は黙らせちゃいましょうねー」

「んぐっ!?」


 言葉通り黙らされるナズーリン。

 塞いだのはもちろん唇で、当然それで彼女が黙るわけがない。


「ぷはっ……ご、ご主人様、いくらなんでも節操がなさすぎるぞ!?」

「だったらご主人様と呼ぶのをやめたらいいじゃないですか、またキスしますよ?」

「キスを脅しに使うんじゃない!

 わかった、ご主……今までの呼び方で駄目なら、これからは名前で呼ぶことにしよう。

 ……星、節操がなさすぎるぞ!」

「改めて聞くと呼び捨てもいいですね、昂ぶります。キスしていいですか?」

「結局どう呼んでも駄目じゃないか!」

「そうですよ、だから諦めて私に身を任せてください」


 星の腕の中で暴れた所で、少し困らせるだけで開放には至らない。

 諦めるしか無いと、いっそ受け入れてしまえば楽になれると知りながらも、ナズーリンのプライドがそれを許さなかった。

 関係は変わっても、素直になれない根っこの部分は変わらない。

 何もかもさらけ出して欲望のままに行動するなんて、そんなことが出来たなら星とナズーリンの関係は今日までこじれたりはしなかった。


「待ってくれ、本当に待って、せめて心の準備ぐらいは!」

「家に着くまでに十分できますよね」

「そういうことではなく、一人で落ち着く時間をだな」

「私、一人になったら寂しくて死んでしまいます」

「兎か君は!」

「虎です」

「知ってるよ! ああもう、何でもいいから私を開放してくれぇぇぇっ!」


 幻想郷の空にナズーリンの叫び声が響く。

 当然、彼女がその日のうちに開放されることは無かった。






 その後、星がナズーリンを連れて寺に戻ってきたのは次の日の夕方過ぎだったそうだ。

 無断で外泊した星は聖にこっぴどく怒られそうになったのだが――隣に寄り添い、こっそりと手を重ねるナズーリンの姿を見て、なぜかすぐに許してくれたらしい。

 むしろ「でかした!」と褒められた。

 いつの間にか聖の号令で散開していた命蓮寺の面々は、数時間後にどこからともなく大量の酒を運んできた。

「これは酒ではない、般若湯だ」という言い訳にしか聞こえない理由を盾に寺で行われた盛大な酒宴はナズーリンと星の惚気話を肴に大盛り上がり、夜が明ける頃まで続けられたそうな。





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― 新着の感想 ―
[良い点] いい話でした。やはりkikiさんはkikiさんだった。 [気になる点] ストーリーの構成が素敵。 [一言] デーデデンっ♪ デッデデデン♪
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