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エンド  作者: hirorin
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第1章 8話 コルテーゼ

 「あのさ、あれ、どういうつもりなんだ?」


 テレビのインタビューの後、気を取り直してリナの父親が待つというコルテーゼ社の本社に向かっているが、あれから会話という会話が生まれていない。


「なにが」


「いや····インタビューのときもだし、その前とか」


 テレサは美人だし好きか嫌いかで言ったら好きだけど、何ていうか好きの種類?みたいなのがまだよくわからないし。テレサがどういうつもりだったのかもわからないし。


「コイツ、感情読めないし何考えてるかわからない。でしょ?アナタの考えてること。」


「は?」


 突然の言葉に反応が遅れる。図星なのがまた怖い。


「〈ジャミング〉、私の能力。アナタも能力に頼ってないで少しは考えた方がいい。」


 そんな気はしてたけど、いざ本人に言われるまで信じられなかった。能力を妨害する能力、多分それが彼女の力。


「それならさ、もっと楽しそうな顔したりしてくれると助かるんだけど。」


 イアンがそう言うとテレサの足が止まる。何か気にさわったのか?


「わからないの」


「·····何が?」


 厄介なのは怒ってるのかどうかもわからないことだ。


「楽しいとき、どういう顔をすればいいのか。悲しいとき、どうやって泣けばいいのか。」


「··········そうか」


 わかってる、彼女も別に意地悪しようとか思ってるわけじゃないんだ。彼女は外でずっと一人だった。きっと俺より長い期間。だから知らない、何もわからない。


「アナタは、表情豊かなのね。」


「あぁ、七歳まで両親がいたから。」


「安心して、インタビューのあれは冗談だから。」


 冗談?どこからどこまでが?もしかして全部?それはそれで、何かモヤモヤする。


「アナタといると安心するって言うのは本当。」


「あ、そうか。」


 うーんわからない。俺の対人スキルが低いからか、それともテレサが特殊なのか。


「一つ聞いていい?」


「いいよ」


 なんだろ、聞きたいことって。


「あの日のあれは誰?私を助けてくれた人とアナタは同じ人?」


 困惑、多分俺の今の表情はそんなところだ。心を読まなくてもわかるくらい、わかりやすい顔で俺は困惑している。彼女は何を言ってるんだ?


「何言ってるんだ?俺は俺だよ、一緒に屍鬼の群れから逃げたろ?それであのデカイ巨人が出てきて、それで·····それで」


 あれ?あの後、俺はどうなったんだっけ?


「質問を変える。今、アナタの中に何人いる?」


 テレサ、何を言っているんだ。


「ごめん、怯えさせるつもりはなかった。この世界で弱い人間が正気を保つのは難しい。私は心をアナタは人格を見失ってる。」


 テレサは俺の首に手を回し顔を近づける。テレサの顔が息のかかる距離まで接近する。


「私達、仲間だね」


 そう言って彼女は笑う。ずっと見たかった彼女の笑顔、この世のものとは思えないほど綺麗な笑顔。でもそのとき、俺はただただ怖かった。


「リナのお父様が待ってる、行きましょ。」


 ♦

 ♦

 ♦

 ♦


 コルテーゼ社に着くと、黒服にサングラスといったかなり危なそうな男二人に社長室に案内された。あれからテレサとは一言も喋っていない。


「君がイアンだね。」


「·····はい」


 リナの父親と思わしき人はなんだか高そうなソファに座っている。テーブルを挟んで向かい側のソファを勧められたので俺達は黙って従う。


「まずは大事な娘を助けてくれたことを感謝する。」


「そりゃあ心配したでしょうね。会社のデスクで書類の処理に追われながら。」


 かなり上からの言葉に少しムカつき、思わず皮肉を言ってしまう。


「あまりいじてないでくれ。娘が無事だったときに帰る家を守るのも大切な事だ。もちろん救助隊の要請もしたが、たった一人の訓練生の為に部隊を出すことは出来ない、と言われてしまってね。」


 彼は嘘は言っていない。それでもこの値踏みするような感じが非常に不快だ。


「それで、愛しい娘の為に何も出来なかった人がなんの用ですか?」


「その愛しい娘から君に十分な報酬を払うように言われてね。誠に勝手ながら君の身元を調べさせてもらったよ。」


「それで?」


「エイムズとい名に聞き覚えがあってね。調べさせてもらったよ。そちらのお嬢さんの身元は分からなかったがね。」


 だからなんだと言うんだ。俺の両親は関係ないだろ。父さんは田舎の村出身で母さんは遊牧民だ。


「さて、少し話を変えよう。君は悪魔と人間が対等に渡り合えると考えているかね?」


 今度はなんだ。掴みどころのないオッサンだ。


「無理だ。」


「君はここに来る途中でキュプロスと対峙したそうだが」


「俺達が助かったのは運が良かっただけだ。もし、もう一度対峙すれば俺は確実に死ぬ。」


 なんたって俺はあのとき、どうやって切り抜けたか一切覚えてないし。つまり運が良かった。それだけ


「それでは我々はどうやって悪魔と戦っていると思う?」


「それは····」


 こっちが聞きたい。リナは特殊な武器がどうたらとか言ってたけど、装備が揃った程度でどうにかなるのか?


「ではまた話を変えよう、悪魔とはなんだね?」


「さっきから話があっちこっち、つまりは何がいいたい?」


「イアン、焦らないで」


 イライラする。馬鹿にされてるのか。話の要点が全く掴めない。


「君達は悪魔同士が争うのを見たことがあるかね?」


「ない····はずだ。人間を攻撃する過程で同士討ちになることはあるが悪魔同士で争うのは見たことがない。」


「なぜだと思う?」


「それは·····奴等が向こう側からきた仲間同士だからだ。」


「君の考え方だと我々と野生動物はお互いを決して攻撃しない仲間という事になるが?」


 馬鹿にされてる気がする。それでもコイツが俺に向けている感情は最初から変わっていない。コイツは俺を試している。


「悪魔が同じ目的を持った同じ生き物だから。姿形は違うけど全部同じ生き物だから。ウイルスとか寄生虫とか可能性は色々あるけど」


「そう、我々も彼女と同じ考えに至った。そして見つけたよ、あるウイルスを。」


「あるウイルス?」


「ウイルスと言っていいかはわからない。どちらかと言うとあれは意志を持った細胞だ。我々はそれを便宜上ミューテイトウイルスと呼ぶ事にした。」


 ミューテイトウイルスか····信じろって方が無理だけど。


「ウイルスなら感染したりするんじゃないか?」


「当然そうなる、というより我々は微量ながら体にミューテイトウイルスを取り込んでいる。」


「な!!」


 イアンは思わず立ち上がる。テレサはある程度予想していたようでリアクションが薄い。


「一般人の侵食率は5%、この数値が80%を超えると発症、つまりは悪魔に変異する。目安として屍鬼10体に噛まれるとこの数値を超えると考えてくれ。」


 いやいや、それ変異以前に出血死してるからね。


「なら俺達の血液も調べたんだろ?なんたって俺は丸一日意識不明だったらしいからな。」


「察しが良くて助かる。彼女の侵食率は3%、君の侵食率は10%、二人とも正常だった。」


「じゃあイルミナティの隊員は?」


「驚いた····テレサと言ったか?素晴らしい推理だ。その通り、先程の答えに繋がるがイルミナティの正隊員の侵食率は個人差はあれ全員40%を超えている。」


「つまりウイルスを意図的に取り込んでるということか?じゃあリナの言っていた特殊な武器ってのは?」


「これ以上は機密事項でな。悪いが話せない。」


 人間に悪魔の細胞を取り込むなんて、そんなマネが許されるのか。それで仮に身体能力が上がって悪魔と渡り合っても、それは人間と言えるのか。


「非人道的だと思うかね?だがね、この理論を提唱し、実用段階まで研究を進めるたのは元イルミナティ、ヴァチカン本部所属天才ウイルス学者ピーター=エイムズ、他ならぬ君の父上だよ。」


「父さんが····イルミナティの研究員だと·····そんなはずは、父さんは田舎の村の出身で···」


「彼が君にそう言ったのか?私の知る彼は、実験体を解体し、その悲鳴を聞くのを生きがいとしているような男だった。」


「嘘だ!!適当なこと言ってんじゃねえ!」


 この男をぶん殴ってやろうかと思った。いや、殺してやろうと思った。テレサが止めなかったら。


「イアン、ここで暴れてもなんの意味もない。座って。」


 父さんはそんな人じゃない。父さんはいつも優しくて、俺に生き方を教えてくれて、命懸けで俺を守ってくれて。


「母さんは····どうなんだよ····」


「それに関しては機密事項だ。悪いが一般人の君に教えることは出来ない。」


 機密、機密、なんだよ機密って。なんなんだよ!ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな、ふざけんな!!


 「それで、報酬の話でしたよね。まさかこんな話をする為に私達を呼び出したわけではないでしょう。」


 「報酬の話だが····娘が君達にパリでの定住権を与えて欲しいと。」


 「先程の話では、アナタは娘の命の為に部隊を強制出動させる権力も持たないはずです。沢山の移民希望者が安全圏の外で定住権を獲得する日を待っている状況にも関わらず、アナタ一人の言葉で私達に優先的に定住権をまわすなんて到底できない。」


 テレサの言葉は冷たく淡々としている。それに移民を全て受け入れる余裕がないという話も初耳だ。恐らく昨日、テレサが独自で調べた情報だろう。


 「君は随分と賢いようだね。その通り、娘の頼みとは言え私の力にも限界がある。そこで相談なんだが。君達、イルミナティに入らないか?」


 「なぜです?」


 「君達には適性があるからだ。先程君達の侵食率を調べたと言ったが、そのついでにミューテイトウイルスとの適合率を調べさせて貰った。その結果テレサ、君から98%という驚異的な数値が出た。それに彼、イアンの数値は平凡なものの生身でキュプロスを倒す戦闘力、今イルミナティの戦力はいくらあっても足りないぐらいだ。上層部からも二人を入隊させたいと言う声が多数ある。」


 98%、それが凄いってのはだいたいわかる。だってほぼ100%だし。


 「それによって私達の得るメリットは?」


 「イルミナティに入隊すれば市民権が手に入る。君達の年齢だとまずはイルミナティの運営する学校に通うことになる。そこには寮もあり当然給料も出る。それに、イルミナティで功績を上げれば彼の両親についても知る機会が得られる。」


 正直、魅力的だ。あくまで俺には。まず衣住食が確保できる。学校にだって興味がある。それに両親の事についても知る機会が得られる。でもテレサは別だ、イルミナティに入れば当然悪魔と戦うことになる。彼女の中での天秤がどちらに傾くかはわからない。


 「俺は····入った方が得だと思う。」


 「私も、学校には少し興味がある。」


 テレサが学校に興味があるなんて、ちょっと意外だ。あまり他人に興味がないと思ってたんだけど。


 「実は娘が二人ならそう言うだろうと言ったものでな。すでに入隊届けを出している。君達は今日の午後から授業を受けることになっている。これも娘の希望で、ある程度の衣服や食料は君達の部屋にすでに運び込まれている。」


 「へえ····俺達が断ったらどうするつもりだったんだよ。」


 「その場合君達二人をパリ市への不法侵入ということで拘束し、解放の交換条件として入隊させるつもりだった。」


 てことは最初から結末は決まってたわけだ。·····食えないやつだ。本当にあのホワホワお嬢様の父親かよ。


 「はぁ·····はめられた気もしなくもないが、とりあえずやってやろうじゃねえか。」


 イアン=エイムズ

 十五歳 O型 適合率70%


 テレサ

 十六歳 A型 適合率98%


 2064年、6月25日、イルミナティ パリ支部入隊

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