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エンド  作者: hirorin
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第1章 3話 旅路

 今朝は昨日の雨が嘘のように晴天だ。日光はいい、悪魔の活動を鈍らせるばかりか生きる気力をくれる。それに焼ける鹿肉のこうばしい香り、ここでこうして朝から焚き火が出来るのは昨日の夜に雨が止んだのと朝の晴天のおかげだ。やっぱり日光はいい。


「お嬢様はまだ寝てるけどな」


 実は昨日色々あってしばらく一緒に行動することになった女がいる。俺と同い年で言っちゃえばそこそこの美少女だが中身はあまあまのお嬢様だ。そうとう疲労が溜まっていたのか彼女はまだ起きない。


「と、そろそろいい感じかな。」


 鹿肉がいい感じに焼けている。腹も減ったし今日のことはこれを食べてから考えよう。


「うーん、お腹空いた。」


 とそこでドアが開く。中から出てくるのは昨日知り合ったばかりの金髪の少女。


「起きたか、これ食うか?」


 予想通り少女は奇異の目で鹿肉を見てる。


「私····ダイエット中なんだけど····」


「は?」


「今日だけ、今日だけよ私。」


 あ、結局食うのね。なんかダイなんちゃらとかほざいてた気がするけどまあいいや。


「いないね、屍鬼」


「日光を避けて屋内に入ったか森の中だろ。連中は日中はだいたいそんな感じ、昨日は雨で太陽隠れてたからちょっと元気だったけど。」


「詳しいのね」


「そりゃあ十五年も居れば」


「こんな生活を十五年もか···考えられない···」


 そりゃあ半日でギブアップしそうな子には無理だろ。俺は別に不便を感じたことはないけど。


「ねえ、もしアナタが良かったらなんだけど····パリに住まない?私のお父さんに頼めば多分市民権も手に入ると思うんだよね。」


「·····考えとく」


 正直魅力的な話だ。彼女の話から推測するにパリには綺麗なベットも風呂も十分な食料もある。何よりも帰る家があるということは精神的にもかなり楽になる。でも即決するほど俺は馬鹿じゃない。まず違和感として今朝からずっと視線を感じている、それも四百m以上の距離を常に保っている。こんなのは初めてだ。


「バックの場所は覚えてるんだよな、足は動きそうか?」


「かなり痛いけど昨日よりはマシ、でも走るのは無理そう。」


 リナの足は折れてる、多分無理をしても連続して四時間以上の移動は難しい。悪魔の目を掻い潜りながら地下道の入口を目指したとして恐らく二日はかかる。まあ視線の主の出方次第で変動するが。


「あまり無理せずにゆっくり進むか、極力建物を避けて見晴らしのいい所を行く。日中は悪魔の活動が鈍いけど脅威が無くなったわけじゃない、警戒しながら慎重にな。」


「えっと····足の速い奴に狙われたら?」


「その時はおぶってでも逃げるしかないだろ、その場合入口の鍵以外のお前の荷物は全部捨てていくけどな。」


 うわーすげぇ心配そうな顔してる。見捨てて逃げたりしないって道徳心に反するし良心が傷つくし。


「それじゃあ出発するか、足の調子を見て休憩はさみながら進むからな。日が沈む前に安全な寝床も確保したい。」


「安全な場所なんてそう簡単に見つかるの?」


「あるさ、以前俺が使ったところがまだ使えるならな。」


 確かあの時は進行方向に歪みが出来て引き返してきたんだっけ。


「以前パリに行こうとしたことが?」


「ああ、エッフェル塔が一目見たくてな。ほら、こんな生活を続けてると小さくても何か目的があった方が楽しいだろ。」


「じゃあ今は私をパリに送り届けるのが目的?」


「ついでに昔の目的も叶えてくるかな。」


 あの時は引き返したけど自然公園の付近に悪魔が多いってことはなかった。あくまで一年前の時点ではだけど。地下道があるならそこまで危険な旅にはならないはずだ。


「バックはこれでいいのか?」


「ちょっと!!中身勝手に見ないでよ!!」


「なんだ?見られたくないものでもあんのか?」


 なんだ、気になるな。女の子の鞄を漁るのは気が引けるがまあいいだろ、コイツの場合。


「ねえ!ほんとうにダメだから!!写真とか見ちゃダメだから!!」


「ん?写真ってこれか、話には聞いてたけど本当によく出来てるな。で、この男誰?」


 写真に映ってるのは世にいうイケメンにカテゴライズされるような赤髪の爽やかな青年。


「····二期上の先輩」


 リナは耳まで真っ赤にして答える。


「お前こういうのが好きなんだな。」


「·····別に」


「顔真っ赤だぞ」


「うるさい!!」


 怖い怖い、でもコイツ好きな男なんているんだな。俺はどうだ····まあ人と関わることがなかったし好きな人なんて出来たことないな。


「学校って楽しいのか」


「どうしたの急に」


「いや、別に」


「楽しいことばっかりじゃないけどやっぱり友達とかといるのは楽しいかな、もちろん嫌なことも沢山あるよ、教官が厳しいとか訓練が厳しいとか。」


「·····そうか」


「アナタは楽しいこととかないの?」


 俺の楽しいこと。楽しいこと·························ないな


「俺は毎日を生きるので必死だったから。」


「そっかー、でもねアナタもパリに来れば楽しいことが沢山あるよ。」


「·····考えとく」


 まあでも、強いていうなら人と話してるのは意外と楽しかったりする。


 結構歩いた二時間くらいかリナはまだ行けそうだ、それに思ったより彼女は体力がある。本人曰く学校で散々訓練させられてるらしい。そしてその時は来た。今朝からずっと感じていた視線はまだ付いてきてる。そして視線の先からわずかな殺気を感じる。


「リナ!!」


 俺がリナを引き寄せるのと銃声が聞こえたのはほぼ同時だった。不本意にも抱き寄せるような形になってしまったがそんな事は今はどうでもいい。やはり狙いはリナだ、なぜ狙われてるかはわからない。ただ開けた場所を歩いていれば必ず狙撃してくると思った。狙いがリナだとわかったのは殺意の感じ方が少しおかしかったからだ。


「え、なに!銃声!!」


 弾丸がリナの髪をかする。視線の先から俺に対しての怒りと驚きを感じる。二発目を警戒するが視線の主は気配をくらましてしまった。当然か、日中とはいい銃声は奴等を集める。


「大丈夫か?」


「ビックリしたけど大丈夫·····あの···そろそろ離してれない?」


「あぁ、悪い」


 彼女が離れる瞬間いい匂いがした。なんか無意味にドキッとしてしまう。


「なんでわかったの」


「あーなんていうか、信じて貰えないかもしれないけど俺、感じるんだ人に向けられてる感情が。」


「へーアナタ感情受信体質なんだ、珍しい。」


「は?」


 嘘、信じた。そんな馬鹿なこんな話信じるのかよ。それもさも当然の事のように。


「エボルブなんて珍しくないよ、第二世代では五人に一人、第三世代なんかは二人に一人がエボルブだし。」


「エボルブ?」


「そ、進化した人間って意味でエボルブ。持ってる能力は人それぞれ私が知ってるエボルブで一番面白い能力を持ってる人なんかは魚とお話出来るとか。」


 魚と話せる能力?使えないなんてもんじゃないぞ、いやむしろ不便すぎるだろ。だって魚釣ってたら釣られた魚の断末魔とか聞こえてくるんだろ、トラウマになって魚食えなくなるだろ。


「第二世代ってのは?」


「第二世代ってのはゲートが開いてから産まれた世代、第三世代ってのはその子供達の事ね。科学者たちはエボルブの発生とゲートの発生の関連を研究したりしてるけど未だによくわかってないんだって。ちなみに私の能力は〈スコープ〉、と言っても常人より五倍目が良いってだけの能力。」


 目が常人より良い、ただそれだけ。でもそれはこの世界で生きる上で助けになることは間違いない特殊な力。


 「それはさておき、狙撃されるようなことに心当たりは?」


 イアンが問うとリナは「うーん」と首を傾げる。


 「仲の悪い人とかはいるけど·····命を狙われるようなことは···あなたはどうなのよ」


 「俺は····多すぎてなんとも」


 「なにそれ、野蛮すぎない?」


 困った顔で答えるイアンを見てリナは可笑しいとばかりに笑う。イアンはわかっている、この狙撃は自分を狙ったものではないと。しかしそれをこの少女に伝えることが出来ずにいる。ただでさえ追い詰められた状況の彼女をさらに追い詰めることになるからだ。それでも彼女は賢い、まだ出会ってから一日しかたっていないイアンにもそれはわかる。きっと心のどこかでわかってるはずだ。


 もう狙撃手の気配はどこにもない。「休憩にするか」というイアンの言葉にリナは黙って頷く。日が沈むまでおよそ三時間、イアンが思ってたよりもリナは体力があり予定よりもだいぶ進んでいる。この調子で行けば寝床を見つけたあと夕食にありつくことも可能だ。


 最高の一日だって言葉はフラグか


 イアンが見上げる空は雲一つない晴天。イアンには物心ついてからずっと疑問に思ってたことがあった。


 空ってなんで血のように赤いんだろうか

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