表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
エンド  作者: hirorin
2/12

第1章 2話 出会い

 俺には特殊な能力がある。特殊と言っても別に超能力が使えるわけじゃない。ただ感じるのだ。自分や自分の近くの人に向けられる殺意、恐れ、尊敬、哀れみ、嫉妬といった感情が。だからこの女の子が俺を騙そうとしたり攻撃しようとしてるわけではないのはすぐにわかった。それでも彼女の言葉を全て信じる事は出来ない。


「イルミナ、は?」


 俺が聞き返すと彼女は、リナは不思議そうな顔で首をかしげる。


「うーんおかしいな。イルミナティのコルテーゼ家って言えばだいたいは伝わるはずなのに····」


 どうやら本気で困ってるようだ。彼女の目には俺が非常識な頭のおかしい奴に見えてるに違いない。


「悪いけどイルミナティが何のことかわからないし、君の家の事なんか知らない。」


「えーとねイルミナティって言うのはヴァチカンに本部を置いたユーラシア大陸全土で活動してる対悪魔組織だよ。」


「悪魔?」


「さっきの奴らとかゲートの向こう側から来る奴等を総称して悪魔って呼んでるの。これ、常識よ?」


 ゲート、多分歪みの事だろう。てか俺今少し馬鹿にされたよな。常識ってどこの世界の常識だよ、市街地で銃ぶっぱなして死人集めてる方が余程非常識だろ。アンタさっき俺に助けられて泣きまくってた人だよね?なんで物知りなお姉さん見たいなテンションになってるのかな。


「どうでもいいけどさ、お前歳いくつ?」


 ヤバいな····さっそく言葉遣い崩れてきてる。


「ん?私?先月で十五歳になったかな。来月から史上最年少でイルミナティの正隊員になるエリートよ。」


 げ!同い年だし。しかも自分でエリートって·····


「ふーんエリートが街中で銃をぶっぱなして死にかけるかね····」


「そういうアナタは?どこの誰なの?」


 コイツ俺に生命救われたのもう忘れてるよな絶対


「イアン=エイムズ、歳は十五だ。」


 「え、嘘同い年!!年下だと思ってたのに!!」


 それはこっちのセリフだ。


 「とりあえずいつまでも玄関の前に座ってるのもあれだしそろそろ動こう。奴等も追ってこないみたいだし、これだけ騒いでも襲われないからこの建物内に居るってこともなさそうだし。」


 「うん、そうだね·····あうッ!!」


 イアンに続いて立ち上がろうとしたリナが急によろける。イアンに支えられて辛うじて立ってはいるがかなりつらそうだ。


 「どうした!まさか噛まれたとか·····」


 「大丈夫、ちょっと木の枝が刺さっただけだから。」


 見ると左足の太ももから大量に出血している。これはどう見てもちょっとではない。


 「ここに座れ」


 バックから包帯とテープ、そして消毒液を取り出す。二ヶ月前に盗賊達からくすねてきたものだ。


 思ったより傷がひどい、足を貫通してる。それに多分骨折もしてる。これはちゃんとした施設で治療しないとマズイ類いの傷だ。でも当然この世界にそんな施設があるわけがない。とにかく出血がひどい、なんでだ最初はこんなに出血しているようには見えなかったのに·····もしかして俺のせい?俺が怪我をしてるのを知らずに走らせたから?銃を撃ったのもリナが馬鹿だったからじゃなくて怪我で素早く逃げれなかったから?


 「ごめん····俺のせいだ····俺の····」


 「ん?なに謝ってるの?支部に戻れば治療できるし大丈夫、大丈夫!」


 リナは変わらず笑顔だ。


 「治療出来るところがあるのか!」


 「うーんパリに行けば大体の施設はあるよ、病院も学校もあと映画館とか。」


 そんなことありえない。どんなに頑丈なバリケードを作ろうが一箇所に定住すれば奴等、彼女達で言う悪魔がどんどん群がって最終的には破壊される。この世界で生き残るには移動し続けるしかないはずだ。


 「·····どうやって」


 「街全体を三十mの壁で囲んでるんだよ」


 「そんなのいつか破壊されるに決まってる。それに奴等、悪魔には空を飛ぶ奴だっているはずだ。」


 「私もよくわからないんだけどその壁ってほとんど銀で出来てるらしいんだよね。」


 「銀で?」


 「悪魔はね、銀が苦手らしいの。だからある程度の高さの銀壁を作れば奴等は入ってこれないんだよね。当然劣化とかで補強工事をするから定期的に壁の近くの悪魔は討伐してるんだけど。」


 理屈はわかった。いや、わかってないけど。そんなことより悪魔を討伐だって?


 「悪魔って倒せるのか!」


 「何言ってるの?アナタもさっきバンバン倒してたじゃない。」


 「違う!!俺が言ってるのは向こう側の連中だ!」


 「うーん訓練生の私は持ってないけど正隊員がもってる特殊な武器を使えば倒せるみたいだよ。もちろんチームを組んでだけど。」


 「そうか····倒せるのか····」


 悪魔は倒せる。それにリナの話を聞く限り俺の思ってる以上に人間は生き残ってる、しかも悪魔を倒せるだけの力をつけて。この世界はまだ終わってないんだ。


 「応急処置、上手いね····」


 消毒して包帯巻いて足を固定しただけだけど····お礼を言われるのは悪くない。


 「父さんに教わった。」


 「どんな人だったの?」


 「え?」


 「間違ってたらごめんなんだけど多分亡くなってるんでしょ?アナタのお父さん」


 少し驚いた。よく考えるとさっきから俺が一方的に質問している。


 「父さんは····学のある人だった。狩りの仕方、敵の倒し方、応急処置、文字の読み書き、生き残るために必要な事を教えてくれた。他にも数字の足し引きみたいなことも教えてくれた。父さんはいつか役に立つと言っていたけど役に立った試しがないのが残念だ。」


 「どんな最後だったの?」


 「ある日、運悪く目の前に歪み、ゲートが開いてそこから出てきた悪魔から俺を逃がして死んだ。父さんも母さんも八年以上前の話だ。」


 あの日のことは今でも鮮明に覚えてる、四足歩行にライオンのような頭が三つとにかくデカかったアイツ。後で必ず追いつくといった両親は何日待っても帰ってこなかった。


 「二人の死は無駄じゃなかったと私は思うな····だってアナタは今日まで立派に生きてるんだから。」


 俺の手の甲に水が垂れる。あれ、俺は泣いてるのか。いやいやありえないだろ。八年も前の話だし。きっと雨だって髪とかすげえ濡れたし。てか俺は初対面の女の子に何を話してるんだ。二ヶ月ぶりに人に会って饒舌になってるのか。


 「なんか重い話になっちゃったな。お前はなんでこんなところにいるんだ?話を聞く限りお前は安全な都市出身なんだろ?」


 「初任務でミスしちゃって」


 「ミス?」


 「パリからロンドンに物資を届けるだけの簡単な任務だったんだけど機械のトラブルで機体を墜落させちゃって。」


 「それは····気の毒だな。」


 「本当に信じられないよー、日帰りで終わる任務だし今頃家に帰ってシャワー浴びてたのに····通信機壊れちゃったし物資も燃えちゃったし····」


 「後半なんで泣きそうなの?」


 「だって、家に帰れないかもしれないんだもん·····」


 ああ、そうか。この子には帰る家があるんだもんな。俺みたいな奴はとりあえず無事ならどうとでもなるけどこの子は違うんだ。


 「·····その足なら三日はかかるよ」


 「え?」


 「パリ、帰りたいんだろ。連れてってやるよ。」


 「さっきも私を助けてくれたり、どうしてアナタは初対面の私にそこまでしてくれるの?」


 なんでだろ。最初に助けた理由はわかってる後悔したくないから、見捨てて夢見が悪くなるのが嫌だから。つまり自分のためだ。今回は·····なんでだろ


 「多分リナが羨ましいんだと思う。帰る家があるって凄いことだし·····だからちゃんと家に返してあげたい···のかな?」


 「かなって私に聞かれても····でもありがとう。」


 感謝されるのは悪くない。勢いで家に返すとか言っちゃったけど正直無事にパリにつけるかどうかは結構怪しい。何故かパリなどの旧大都市付近には悪魔が多い、前々から疑問だったが今日ハッキリした。人がたくさん住んでるから悪魔が集まる、そして銀壁に遮られて周りの郊外に悪魔が散らばる、結果的にパリに陸路で近づくのが困難になるわけだ。それに俺の今の装備、弾薬はほぼないから実質ナイフ一本、そしてリナは負傷している。結構マズイ


 「パリに向かうにはもちろん陸路····だよね?」


 「君が墜落した機体を修理できるって言うなら空路でも良いんだけど、俺はそっち方面はまるっきり素人だし。陸路しかないだろ。」


 「実はね····ここから北上したところにある自然公園の何処かに地下道の入口があるの。」


 「へぇ、気が利くじゃないかイルミナティさんは。」


 このイルミナティとかいう組織は馬鹿では無いみたいだ。パリに大量の人間が定住すればそれだけ悪魔が群がりパリに近づきにくくなる、それを考慮して恐らくそこだけじゃなくパリから少し離れた至る所に入口を作っているだろう。


 「パリの地下墓地をイルミナティさんはここ数十年で拡大したってことか。」


 「あなた地下道に詳しいの?」


 「言ったろ、父さんが教えてくれたって。」


 地味に初めて役に立ったよ父さん。


 「問題は····さっき屍鬼から逃げる時に入口を開くためのIDカードの入ったバックを落としちゃったこと·····なんだけど。」


 「ぐ、なに?」


 「屍鬼〈グール〉よ、さっきさんざん私達を追い回してた連中。」


 「ああ、そういう名前なのかアイツら。それで、要するに地下道の入口のカギを落としたってことでいいのか?」


 「落とした場所は大体覚えてるから大丈夫、今すぐにでも取りに行けば。」


 「いや、明日にしよう。足が心配だ。」


 「·····そう」


 それに今日は音を出しすぎた。多分そこらじゅうから死人、つまりは屍鬼が集まってきてるはずだ。今日はもう外を出歩くのは危険すぎる。ああクソ、誰だよ最高の一日とか言ったの、若干死にかけたし。鹿肉、調理しようにもな····明日でいいか明日で。


 「シャワーとかあるわけないよね。ビショビショで気持ち悪い。」


 「シャワーならさっきまで天然のを浴びまくったろ。」


 「私は、お湯がいいの!!」


 「お嬢様のご希望に添えなくて誠に申し訳ありませんが着替えならこの家を物色すればあるだろ。多分カビだらけだろうけど。」


 「いい!このまま寝るから風邪引いちゃったらどうしよう···」


 「先が思いやられるな。あとお前が今寝そべってるソファだけど多分ダニだらけだぞ。」


 「嘘!!信じらんない!!いっつ!」


 「急に動くと足に響くぞ。」


 少し騒がしい奴だけど周りに人がいるのも悪くないかもしれない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ