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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
一章:ナイトとの出会い、そして交流
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香りと眼光

 三日目。

 葉咲は既に巫女の授業での課題に成功していた。しかし、本来の目的は長時間の同調。また、大車輪に挑戦となった。


 風が話しかけてくる。葉咲の体はあっという間に風にのった。地面が空のように見えて、世界が回り始めた。



 気が付いたら、葉咲は自分の記録を更新していた。葉咲は実体の無い風に触れると、風が見る見る間に形をとる。


「ありがとうございます」


 風が葉咲を暖かく包んだ。






 授業が終わると、いつも教室にナイトが集まる。担当の巫女を迎えに来たのだ。その様子をしらけたように見る水翡と葉咲。陽花は友達が帰るので寂しいようだ。


「祐樹さんは迎えに来ませんよね」


「はんっ、来なくていいのよ。あんなやつ」


 水翡が鼻を鳴らした。突然陽花が水翡をつつく。


「何の用よ」

「うしろ…」


 水翡が振り返ると巨体が立っていた。話題にあがっていた祐樹だ。


「水翡、プールに行くぞ。陽花はろうそくの続きだ」


 祐樹は話題に触れなかった。


 露骨に嫌そうな顔をする水翡。陽花は上手くいってないらしく、うなっていた。水翡を引き連れて行く祐樹に、何も言われなかった葉咲は問う。


「私は自由ということでしょうか?」

「ああ」


 率直で分かりやすい答えは葉咲を安心させた。


「うらやましー」


 水翡が口を尖らせる。


「そう思うのなら早く習得しろ」

「ぐっ!」


 歯を食いしばる水翡。祐樹が背を向けた時、舌を出した。


「クロール50m×2」


 ゆっくりと振り返る祐樹は水翡いわく魔王に見えたようだ。けれど苛立ちは消えず、足を大きく踏み鳴らしながらついていった。






 なんとなく葉咲は教室に残ってみた。


 ナイトが巫女を丁重に扱っているのが見て取れる。なぜ、巫女を大事に扱うのか。祐樹の接し方と比べると、天と地だ。


 数分もすると、教室には誰もいなくなった。葉咲も部屋を出るため鞄を手にすると、ずっしりとした重みがあった。図書館で借りた史記が入っているからだ。すでに読み終わっているから、図書館に行こう。珪くんに会えなかったら、次の巻読めばいいだけですし。


 そう思って廊下の角にさしあたると、いい香りがした。フローラルの甘い香り。

 気づいたときには足は動き出していた。




 歩いた先には少年と女の子がいた。女の子は葉咲と同じクラスなのですぐ分かった。少年は背のみが見える。

 誰でしょうか。きっと魅力的な人。

 少年の声が聞こえる。


「まあ、お前なら上手くやれるって。心配するな」

「でもぉ…」


 少年の声は珪だった。知れてよかった。そして胸が熱いことに気がつく。葉咲は自分のことながら不思議に思った。


「げっ、葉咲じゃん」


 珪は葉咲に気づく。その後すっごく困った顔をしたが、小さい紙袋をだし、その中の粉をばら撒いた。珪のことを素敵な人と思っていたが、そうでもなくなる。

 珪は担当の巫女に向かって話しかける。


「俺の巫女ならやれるさ。な?」


 優しく頭をなでる。女の子は頬を少し赤くして、頷く。そして、帰っていった。





「はーーー、びっくりしたじゃねーか」


 珪は、がしがしと頭をかく。


「やっぱりナイトって巫女第一なんですね」


 葉咲は珪を見てしみじみと言う。


「ん?そんなことか?」


 きょとんとする珪。

 顔は真剣なものに変わる。


「あのな、巫女は俺らの命でもあるんだ。巫女の力が強ければ強いほど、ナイトの地位も上がる。だから巫女を大切にする。特に自分の巫女をな。他の巫女も表面的にだが大切にするやつもいるぐらいだ」

「必死なんですね」


 からかうように言ったら、


「まあな」


 にっと笑い返される。


「そういえば、さっき珪くんが撒いていたものは何ですか?」

「あー、解毒剤」


 珪は、ばつが悪そうに言った。


「解毒剤?何のですか?」

「そりゃ、魅了の……って、その顔は聞いてないんだ?」


 珪が見た葉咲は目が点になっていた。


「相変わらずだなー、祐樹さん」


 祐樹さんの部分に親しみを感じた。


「知り合いですか?」


 大きく頷く珪。


「ああ、前にちょっとしたプロジェクトがあったから、それでな」




 珪の陽気な声の後、静けさが訪れる。葉咲の目線に耐えられなくなった珪はしぶしぶ話した。


「俺達ナイトはそれぞれ魅了の力を持つんだ。その一例として“香り”の魅了が俺。常に肌から香るのが特徴だ。その香りは相手が好ましいと思うにおいとなり、魅了する。そして、対象が無差別なんだ。だから自分の巫女といる時しか香らせないようにしてる。俺よりも先輩のナイトは他人の巫女も魅了するらしいけどな」


 あの胸の高鳴りは魅了の力だったのだ。


「納得です。さっき珪くんがすごくかっこよく見えたので、どうしたのかと思ったんですよ」


 柔らかな笑みで告げる。珪は“かっこいい”という単語に反応して、顔が真っ赤だ。葉咲は珪の顔が真っ赤になったので首をかしげる。

 手がだるくなったので、鞄を持ち替え、本の存在を思い出す。本をゆったりと取り出す。


「これ、読みましたので」


 史記を渡す。とたんに珪の目が輝いた。


「ほんとに一日で読んだのかよ。でも、すっげーうれしい。さんきゅ」


 珪がにこっと笑ったのが、葉咲には可愛く見えた。


 この笑顔で何人落としたのでしょうか。珪様を見守る会とかあるかもしれない、と笑う。



 空気までもが軽くなった珪をみて、葉咲は話しかける。


「珪くんが読み終わったら、話をしませんか?」


 名案というように頷く珪。キラキラした笑顔。


「そうだな。話が合って、楽しそうだ」


 にこにこという雰囲気のまますごした。




 三日目の午後。

 水翡は水の中浮かぶ。

 そして時たま泳いだりする。

 少しずつ水に馴染んでいく。

 生まれ変わるかのような感覚だ。


「今日はこれで終わりだ」


 祐樹がそう言ったのでプールから上がる。

 祐樹は室内プールというのにサングラスをしている。

 水翡は奇妙に感じた。


「そういえばいつもサングラスしてるわね。どうして?」


「実は日光に弱くてな…」


 まるで病弱少年であるかのように言う。


「は?ヴァンパイア?」


 顔をしかめる水翡。

 はっ、と嘲笑するかのように祐樹は笑った。


「そうだったな。お前は普通の女とは違った。

 大抵はそこで同情されるんだが…、誤魔化されないな。

 ナイトにはそれぞれ魅了の力がある。

 俺は“眼光”だ。魅了を防ぐためにサングラスをしている」


 サングラス越しに目が合ったような気がした。


「つまり目が合うだけで、一目惚れ状態になるってこと?」


 祐樹はため息をつく。

 嫌な事を思い出したようだ。


「そうだ。麻薬のように、一度見たらとらわれる。

 そして何度も見つめると、強くとらわれる。

 執着となるんだ。しかし、それを愚かにも恋とよぶ」


 水翡は分かってしまった。

 この人は愛されないと思っていると。

 そしてそれがこの人を孤独にしている。


「けれど、あなたを本当に愛した人もいるはずだわ」


 初めて水翡は祐樹に向けて笑う。

 母のごとき慈愛の笑み。

 いつものふくれた顔や、睨む顔はどこにもない。


 祐樹は固まった。


 そして、


 彼は悲しそうに水翡を見て、自虐的に笑った。


「そうだな。確かにいた」


 その後、祐樹は水翡を見なくなった。

 見るとしても数秒。

 水翡は思わず腹が立ったが、祐樹の先程の顔がよぎる。

 何も言えなくなった。

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