表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
一章:ナイトとの出会い、そして交流
5/33

初日

 カーテンからうっすらと太陽の光が差し込む。部屋にはベッドのなかでまどろむ水翡がいた。しかし、それを遮る者が現れた。


「起きろ」


 水翡が目を開けると、目の前にナイト(祐樹)がいた。


「ぎ」


 叫ぼうとしたら、口を塞がれる。そしてサングラス越しに目で威圧された。


「朝から騒ぐな。うるさいだろうが」


 正論だがいきなり驚かされた水翡からすれば大変むかつく。

 祐樹は水翡な黙り込んだのを見て、手をのける。


「寝坊するお前が悪い。今日から授業だ。早くしろ」


 ずいっと黒がメインのワンピース型制服が出される。


「ちょっと待ってよ! どうしてあんたが葉咲の部屋に入れるの?」


 確か部屋の主が認めた者しか入れないはずだ。葉咲がこいつを認めたとは思えないし……。


「おれがお前らの担当だからだ」

「げっ」


 もっともな理由だ。つまり、担当する巫女の部屋なら入れるということで、水翡の部屋も例外ではない。


「おれはお前に早くしろと言っているんだが。遅刻するぞ」

「あんたがいると着替えられないわ」


 祐樹は無言で外に出て行く。その素直さが水翡にはなんだか少し笑えた。



 案内されたのは1-A。神殿に来て一年の者がここに入る。そのなかでAクラスは最も優れたクラスだ。Eクラスが最低だそうだ。


 水翡はクラスに幼い子ばかりで疑問に思う。横に立つナイトを横目で見て、ポツリとこぼす。


「クラス違うんじゃないの」

「俺が間違えると思うか? ここで合っている」


 ずっと考え込んでいた葉咲が顔を上げる。


「分かりました。つまり、ここに連れてこられる巫女は小さい頃に発見されるんですね。そのため年少が多い、と」


 葉咲の導き出した答えに、祐樹は頷いて肯定する。


「言っておくが、バカな真似はするな。巫女の地位が下がる。喧嘩も買うなよ。負けるからな。じゃあな」


 廊下の先に小さくなっていく祐樹の背が見える。思わず水翡はイラっとして、口をへの字に下げる。


「なんかムカつく」

「まあまあ、陽花ちゃんもすでに教室に入っているようですし」


 ちらっと陽花を見ると、すでに幼い巫女達と鬼ごっこをしている陽花がいた。思わず水翡の肩から力が抜ける。


「私、あの子みたいにやっていく自信無いわ」

「あそこまで仲良くしろとは言ってませんってば」




「はい、今日から新しいお友達が入ってきました。お名前と属性を言ってね」


 先生ののんびりした口調に水翡は脱力しつつ、姿勢を保ってみせる。


「はいはーい! 私火田 陽花! 火属性だよ。みんな仲良くしてね!!」


 すでに打ち解けていた陽花は大きな拍手で迎えられる。


「私は風本 葉咲と申します。風属性です。どうぞよろしく」


 にっこりと笑った葉咲に魅了されたのか、こちらも大きな拍手だ。そして残った水翡に期待の目が集まる。


「青月 水翡です。水属性。よろしくお願いします」


 申し分ない拍手が返される。


 そして席を紹介され、そのまま社会の授業に入る。今日は日本史のようだ。水翡たちは習っていた範囲なので苦労はしない。葉咲の声が静まった教室に響く。


(さい)とは空気の清浄化を国内で始めた人です。彼のおかげで私達は外で息をすることが出来ます」

「よろしい。座りなさい」


 着席した葉咲に尊敬のまなざしが集まる。それを友ながら誇りに思う。社会は葉咲の得意教科なんだから。


 二時間目は国語。これは陽花の独断場。褒められて、照れてる様子が可愛かった。男だったら惚れてる。

 これが学校だと男子に葉咲と私の牽制が入るのよね。そう思ってたら葉咲と目が合っておかしかった。


 三時間目は算数。これまでの鬱憤を晴らすかのように水翡は答えていく。


「水翡さん、みんなの答える分も残して下さいね」


 先生にこんなことを言われるほどだ。ぷっという音が聞こえたので見てみると、葉咲が笑いを堪こらえていた。


「ちょっと、葉咲!?」

「あはははは!!」


 ついに陽花が笑い出す。つられたようにみんなが笑い出して、最後には水翡も笑った。先生も笑ってた。



 その後体育があって、水翡と陽花が注目された。

 しかし、その後の授業で水翡たちは壁にぶつかるのだった。それは巫女の授業だ。


「さて、自分の属性の所に行きましょうね~」


 その言葉に従い陽花は火属性の所に向かう。しかし、何をするのかさっぱり分からない。さっそく聞いてみる。


「ねえねえ、何するの?」


 いそいそと用意をしていた女の子に声をかける。


「あっ、陽花ちゃんだ!」


 すでに“陽花ちゃん”呼びになっていることから、陽花のフレンドリーさが分かる。


「あのね、火の中でどれだけいられるかを特訓するの!」

「え?」

「お手本するよ!」


 少女は迷いなく火に飛び込んでいく。


「危ない!!」


 思わず手を伸ばすが、女の子は大丈夫と言わんばかりにピースをする。顔色も変えずに火の中にいる。熱くないのだろうか。しばらくして、火の中から出てきた。


「これが限界かな。時間が長ければ長いほどいいんだって! お姉ちゃんもしようよ」


 いつもならここで、『へえ、そうなんだ。私やりたいな!』ぐらいは言っているだろう。それが今回は黙り込んでいる。女の子は陽花の腕を掴む。


「お姉ちゃんは火が嫌いなの? 火はお姉ちゃんのこと好きって言ってるよ?」


 うるうると目を潤ませて見上げてくる。良心に負けた陽花は心を奮い立たせた。


「よし、頑張る!」


 これを水翡と葉咲が見ていたら、上手い操作方法だと褒めていただろう。


「頑張って、お姉ちゃん!」

「とりゃーーーー!!」


 陽花は火に飛び込む。


「あちっ、あちちち!!」


 数秒もしないうちに火から飛び出た。


「お姉ちゃん、そんなことしたら死んじゃうよ!」

「ありがと~」


 女の子が慌ててバケツの水を陽花にかける。幸い、火傷やけどはなかったようだ。


「酷い場合は火傷をしたり、燃えちゃうんだ。でも、お姉ちゃんは大丈夫だったね。火がお姉ちゃんのこと好きだからだよ!」


 目を輝かせて言われるのは悪い気がしない。


「へへ、ありがと。どうやったら火のなかでいることが出来るの?」

「火と同調するんだよ。火をじっと見つめてたら自然とできるよ」

「うむむ……」


 言われた通りにしてみるが、さっぱり分からない。じっと見つめているだけで授業が終わった。




 葉咲の部屋に集まった三人は暗い顔をしていた。どうやら、水翡と葉咲も上手く出来なかったようだ。


「どうやって水の中で息するのよ……。訳分かんない」


 水翡が疲れきった声で言う。


「私は大車輪を風の力を借りてする、というものでした。まったく出来ませんでした」


 葉咲は肩を下げてみせる。オーバーリアクションだ。


「私もだよ。火の中でなんて、ずっといられないよ~」


 何かを振り切るように、ごろごろころがる陽花。


「つまり、私達が一年から始められたのはこれが原因でしょうか」

「う……、確かに」


 水翡は悔しそうにする。外で暮らしてきたため、巫女の力について知らなすぎたのだ。ミストについても、術者が鼻をつままれると効果が切れるなんて知らなかった。巫女であった母も他界しており、自己流で学ぶしかなかった。


「明日こそ頑張るもん!!」


 握りこぶしを二つ作って意気込む陽花。その決意を胸に一足先に眠った。


「私も負けてられないなぁ」

「ふふ、そうですね」


 陽花を見ながら、水翡は言う。笑って見守る葉咲がいた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ