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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
五章:絡みゆく過去
26/33

暴走 選択

 


 現在の俺の状況。


 琢磨先輩に呼び出される。

 どこに行くのかと思えば和葉さんの部屋。

 中にはなんと葉咲が。

 驚く俺と葉咲。

 気まずっ。


「えぇと、珪くんはどうしてここに?」

「いや、俺も正直分からない」


 なぜ琢磨先輩はこんなことをしたんだ?

 葉咲のナイトになったんじゃないのか?


「そうですか」


 沈黙が気まずくて口を開く。


「そうそう、直人先輩から聞いたんだけど、みんな葉咲のこと探してるみたいだぜ?

 直人先輩も探すなんて信じられないだろ。でも本当なんだ。

 あの人いい意味で変わったよな。

 でさ、俺の巫女で灰黒だったやつが灰白になったんだ。

 もうすぐ白灰だよなー。葉咲は確か白だっけ?

 あれ?葉咲??」


 気まずさを隠すために無駄にペラペラ話していたのが悪かったようだ。

 葉咲はじっと黙って下を向いている。

 俺の話おもしろくなかったか?


 その時、一陣の風が俺の頬を切った。

 続けざまに現れる風。

 波のようにして葉咲を囲っている。

 今のはなんだ?





 当然ながらこの部屋は窓なんて開いていない。

 その状況下で風が起こるということは俺か葉咲が原因だ。

 もちろん俺じゃない。


 小さく葉咲が呟いている。

 耳を澄ましてみる。


「……まれ、鎮まれ!!」


 何だ?もしかするとこれは――


「お願いですから言うことを聞いてください!!」





 暴走だ。

 一応同じ風属性だから干渉できるかもしれないと思い、香りを取り戻す袋をぶちまける。

 シトラス系の香りが部屋に広がる。


<風よ、俺に従え!!>


 俺の風が葉咲の風を包み、

 弾かれた。


 つまりこの風は俺よりも上、神殿の風になるのか?

 風本家当主に代々受け継がれる神殿の風。

 とても気位が高く、扱うのが難しいといわれる風だ。


 どうすればいい?どうすれば!!

 冷静になれ、冷静に……。


 葉咲が苦しそうに神殿の風を抑えている。

 ――やるしかないのか?





「葉咲、恨むなら俺を恨め」


 この部屋に残っていた香りがフローラルの香りに変わっていく。

 それに伴い葉咲の表情がうつろで光悦したようなものになっていく。

 珪のもつ、香りの魅了。


「葉咲」

「はい、何でしょうか」

「ゆっくりでいい。風を収めるんだ」

「はい」


 うつろな目は神殿の風を見る。

 風が少し収まってきている。

 が、途中でバチッと弾かれる音がする。

 怯む葉咲。


「大丈夫、落ち着いてやれ」


 その言葉通り、時間はかかったが全て風は収まった。

 やったぁというように珪に微笑む葉咲。

 普段ならありえない光景に珪は胸が痛むのを感じる。


 珪は終わりだというように葉咲の頭をなでる。


「お疲れ」


 同時にふらっと後ろに倒れる葉咲を慌てて支える。

 気を失っている。

 珪は匂いを消す粉を空気上にふって、葉咲の様子を見る。

 心なしか頬が赤い。

 額に手を置く。


 熱か。


 幸い和葉さんの部屋にはキッチンがついていたので、氷水で冷えたタオルを葉咲の額にのせる。

 温かくなったら取り替えて。

 ついでに和葉さんのベッドも借りている。

 病人なんだ、いいよな。





 葉咲の熱は1日で下がった。

 原因は疲れ、そして神殿の風の制御の負担というところか。

 コンコンと部屋をノックする音がある。

 入ってきたのは琢磨だった。


「この様子だともう安心ですね」

「琢磨先輩は知ってたんですか?」

「そうです。そしてこの人は意地っ張りだから言わないだろうということも。

 で、葉咲様。起きませんか」


 じと、と眠る葉咲を見る。

 葉咲は視線に耐えかねて、しぶしぶ起きる。


「起きてたのかよ!」

「私が部屋に入った時から、ね」

「まったく琢磨さんはゆっくり寝かせてくれないんですから」


 通りで琢磨先輩が敬語でしゃべると思ってた。


「はいはい。で、私が来た用件はこれです」


 琢磨が手にしたのはテレビのリモコン。

 迷いもなくテレビをつける。

 放送されていたのはニュース番組のようだ。





<今日も巫女らが危険種から我々を防衛してくれました。映像はこちらです>


 水翡がすれすれでかわしていたティーナの大きな地割れが映し出される。

 画面でも大迫力の力に惹きつけられる。


<土の精ティーナは今日も絶好調ですね>

<そうですねー。そして今回は新しい巫女にも視点を当ててみました>


 映し出される緋色。そして対をなす青。

 息の合った連携で危険種を倒していく。

 緋色が蹴りで距離を引き離し、その隙に詠唱していた青が氷塊を投げつける。

 合間に緋色のちいさな火が攻撃しているのが見えた。

 言葉なき詠唱。


<これは美しい連携ですね>

<ええ、息ぴったりです。そして圧倒的というとこちら>


 駆ける風。

 たなびく緑。

 まるでその空間の支配者のように。

 かまいたちで危険種たちを切り伏せていく。


<これは綺麗かつ圧倒的>

<ええ、そんな彼女たちに取材もしてみたんです>





「ティーナが大技出してたのはこの為だったのね」

「そうだ。そしてティーナが責めていたのは、昔報道に撮られていたことを教えなかったことだ」

「私たちにも教えなかったわよねぇ」


 水翡はじと、と祐樹を見る。

 そして対する祐樹は見ざる、聞かざる、言わざるというところか。

 陽花が次の映像に興味を示した。


「あ、また葉咲ちゃんだよ」





<お名前は風本 葉咲さんですよね>

「はい、そうです」


 にこりと優雅に笑ってみせた。


<葉咲さんは風本家当主になったそうですが、その感想は?>

「神殿の内情に詳しいですね。感想といいますと、大変です」


 そう言って苦笑する彼女は年頃の少女のようで愛らしく見えただろう。





 水翡は違和感に気づく。


「ねぇ、葉咲って風本家当主だったっけ?」

「ううん、ちがったはずだよ?」

「そうよねぇ」


 つまりはこの違和感が失踪に関係するということか。


「陽花、行くわよ」

「うん!!」





とある一室の戸が叩かれた。

部屋の中からはーい、という女性の声がする。

その声よりも早く扉を開けた者がいた。

男は扉の先にいる少女たちを見て言う。


「何か?」


と。


水翡たちが頼れる人間は少なかった。

その中で唯一止めないだろう人間、ティーナに聞きに行くことにした。

が、現れたのはティーナのナイト忍。

完全に予想外の展開だ。


「もう、忍ったら私のお客さんなのに勝手に出たでしょ!

あら?水翡たちじゃない。陽花、体調はどう?」


水翡は愛想笑いをし、陽花は元気だよと返した。

ティーナは訳ありの二人を見て部屋に通してくれた。





「はぁ?風本家の場所が知りたい?どうしてよ」

「葉咲がそこにいるからよ」

「確信は?」

「90%」

「あら、そこで100%って言わないのね」


ティーナはくすっと笑った後、ティーカップを手に取る。

ゆらりと揺れる紅茶。


「風本家は血を重んじるの。

だから普通の者は入れない仕組みになっているわ。

本当に奥まで入れるのは風本 才葉と風本 和葉ぐらいね。

あぁ、後は琢磨さんと直人さんかしら」


それでも行くの?と目が問う。

水翡は自信をもって頷いた。


「神殿には東西南北に名家があるの。

東に水、西に土、南に火、北に風。

つまり北に行けばいいわ」


「ありがとう、ティーナ」





風本家と思わしき所に着く。

が、問題が。


「ここから警備が強くなってるよ~」

「それが問題なのよねぇ。第一、葉咲のいる場所知らないし」


その時、風が水翡らを包む。


「これは……葉咲の風ね」

「案内してくれるみたいだよ!行こう!!」


3人で高校に通っていた頃の風の匂いがした。





その頃の葉咲は珪と琢磨と共にTVを見ていた。

丁度水翡の取材がされている。


葉咲はただ、黙って見ていた。

目に焼き付けるように。


「そんなに大切ならどうして離れたんだよ、葉咲」


珪の言葉に葉咲は悲しそうに眉を寄せた。

助けを求めるように珪を見つめて、目をそらす。


頼ればいいのに。言えばいいのに!


珪はぐっと拳を握りしめた。





風はとある一室で止まった。

豪奢な金のつくりの扉。

中央には緑の宝石、エメラルドが堂々と構えている。

そのエメラルドに風が触れ、ゆっくりと扉が開く。


扉の先に驚く葉咲と珪がいた。

対照的に落ち着いたナイト、琢磨。

そんな彼らに水翡は不適に笑った。



「帰ろう?」



優しく笑って葉咲に向けられた手。

水翡のたこができた手と陽花の小さな手が並んでいた。

それに葉咲は手を伸ばし、はっと気がついたように戻した。


「出来ません」

「どうして?」


水翡は静かに答えを待っている。

そんな水翡に押されつつも葉咲は、ゆっくりと答えた。


「私がここにいないとみんな消えてしまうから」

「そんなに弱い私たちだと思う?葉咲の守りたいものは本当に弱い?」

「何よりも、一緒にいたいよ。葉咲ちゃん」


葉咲の目が揺れる。

そしてそんな葉咲をぺしっと叩く水翡。


「いー加減にしろ、葉咲!

私たちをなめてるの!?隠れて生き抜いてきたのよ!?

誰にも助けを求めることなんて出来なかった。

それに学校は、あの人たちの縄張りだから、ちゃんと護るでしょうし」


大丈夫よ。


「うん、私たちのお父さんとお母さんは強いから」


大丈夫。


「水翡ちゃん、陽花ちゃん」


感極まったように二人を見る葉咲。

その場の空気さえも動かしてはいけないようで、珪は身動きすらしていない。

反対に琢磨は動いた。


「あなたは逃げた母の分まで背負おうとしていますね。神殿を。

けれど、当主様は逃げたわけではありません。ただ、外が見たかっただけ。

あなたは選択しなければならない。

ここか、あの巫女たちの元か」


琢磨が未だに当主と呼ぶのは風本 才葉。


「あの日、三人の巫女が逃げた。

一人は恋という感情のため、もう一人は友達だから付き合って。

当主様は『ちょっと外見てくるね』と言った。

風本 才葉に何を言われたか分かりませんが、選択の時です」


葉咲は黙り込んだ。

そして静かに目をつぶる。

唇がそっと開かれる。

葉咲の答え。






「私は、私は――



帰りたい」



うかがうように緋色と青を見る。

同時に緋色と青は笑って手を差し出した。


「「一緒に帰ろう」」

「はい!」


今度こそ水翡たちの手を取った。





部屋に残ったのは珪と琢磨。

珪はやっと息をつけるとばかりに肩の力を抜く。

そして扉―葉咲たちが出て行った―を見たまま動かない琢磨を見て、複雑な表情をする。


「琢磨先輩、そんな顔するなら行かせなければよかったのに」


しかし振り返った琢磨は無表情だった。


「俺は別に後悔してはいない。もともと葉咲嬢のナイトじゃないしな」

「え、そうなんですか」


琢磨はこくり、と頷く。


「ナイトが変わるには上部に報告しなければいけないだろう?

そうなると葉咲嬢の場所が分かってしまう」


つまり琢磨先輩はまだ――



「生涯、風本 和葉のナイトだ」



琢磨はそう言って嘲笑した。


「あの人との思い出が鮮烈すぎて、次の巫女も取れない。

思い入れすぎたな」





葉咲を連れて帰った水翡と陽花はすぐさま祐樹のもとへ向かう。

葉咲のこれからの扱いについてが心配だからだ。

その思いとは裏腹に祐樹は普段と変わりなく言い放つ。


葉咲は変わらず俺の巫女である、と。


「は?」


3人そろって相当間抜けな顔をしていた自信がある。

そんな私たちに祐樹は言った。


「これからも頼むぞ、葉咲」

「はいっ!!」


私たちはまた始まった。


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