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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
四章:ナイトの秘密
17/33

ここにいたもの 動 秘密

 


「「うぅ~ん」」


 一際日当たりのよい、和やかな中庭から二つのうなり声が聞こえてくる。


「ナイトねぇ……」


 水翡は書きまとめたメモを見てみる。


 ナイト、巫女を守るもの。

 一応剣とか武術を学んでいるらしい。

 魅了がやっかい。

 魅了にて巫女を虜にする。

 何故か精霊に力を借りれる。

 基本的に巫女に優しい。


「ナイトってナイトなんじゃないの~?」


 椅子にもたれながら背伸びする。


「でもそれじゃあ答えにならないよー」


 陽花が机にうつ伏せてメモを見る。


「うぅーん、ナイトとはー、ナイトとはー、何だろう」

「教えてあげようか?」


 背後から天の声もしくは悪魔の囁きが聞こえてきた。

 にっこりと現れたのは直人だ。


「直人さん!」

「げっ」


 二人とも分かりやすい反応をする。

 陽花は嬉々として、水翡は顔をしかめて直人を見る。


「やぁ、陽花ちゃん」

「私はスルーかよ!?」

「いたんだ?」


 しれっと答える直人に、ガクッと肩を落とす水翡。

 確かこいつは陽花しか見ていなかったっけ。

 今更のことに苦笑いする。


「ねえねえ直人さん、ナイトって何なの?」


「ナイトとは幼少から巫女に仕えるために学園で学ぶんだ。

 ナイトを知るためにはそこに潜入したほうがいいと思うよ」


「潜入?」


 きょとんとする二人。


「そう、潜入。

 僕が学園に忍び込むのを手引きしてもいい。

 ただし条件がある」









「学園に忍び込む条件が、陽花ちゃんを連れて行かないことだとは思いもしませんでした」


 葉咲がガクランに着替える。


「そうよねぇ。まったく直人らしいというか」


 水翡もガクランに着替える。


「呆れますね」「呆れるわ」


 部屋の片隅で体育座りで黙りきっている陽花を見る。

 完璧拗ねている。


 コンコンと部屋をノックする音がする。


「準備出来た?」

「もちろん」


 その声を聞き、ドアを開けた直人。


「案内するよ。ナイトの巣へ」









 森の広場を通り抜けると、ぽつんとコンクリート立ての校舎があった。


「あれがナイトの学園だよ。

 このまま真っ直ぐ行くんだ。

 教職員には見込みのあるナイトだって説明してるから。

 上手くやるんだよ」


 ナイトの仕事が忙しいのか、小走りで帰っていく。

 見送った後進もうと足を踏み出したところ、後ろの木ががさがさ揺れる。

 降り立つ人影。


「やっと直人さん帰ったよー」

「陽花!?」「陽花ちゃん?」


 ガクランを着こなした陽花だった。

 袖を腕まくりしてやんちゃっぽいが、ただ単に身長が足りなかっただけであろう。


「どうしてここに?」

「いつでも三人一緒だよ」


 それが彼女の答えなのだろう。

 水翡らは一緒に行く事を決意した。







「貴方達が直人さんから聞いた新入生ですね。

 えっと、二人だと聞いてましたが」


 困ったように笑う案内人。


「直人さんの手違いなんだって。

 本人がすまないねって言ってたよ?」


「そうでしたか。では案内しましょう」


 陽花のフォローで三人揃って忍び込む事となる。

 男装で。

 なぜならナイトの学園はナイトだけの学園。

 つまり男子校なのだ。





「今日から“俺”は“常盤”な」


 さらしを巻き、胸を平らにした水翡が言う。


「では私は“一之介”で」


 同じくさらしを巻き、女性的なラインが隠れてしまっている葉咲が続いた。


「じゃあ~、“僕”は“竜貴たつき”」


 一応さらしは巻いているが、普段と何ら変わらない陽花が不敵に笑う。






 さて、ナイトの秘密を暴こうじゃないか。

 ここにいたであろう父の名を使って。




 新しく編入するナイトの姿に教室内はざわめいた。

 現れたナイトが相当美しかったからだ。


「桁外れに強いってことか」

「是非、お近づきになりたいね」


 中性的な、いや、女性らしいナイトに惑わされる。





「常盤だ」

「一之介です」

「竜貴だよ」


 それぞれ名を名乗る。

 苗字を聞かないのはタブーだからだ。

 そう聞いた時を思い出す。









 とある日、常々疑問に思っていたことを祐樹に尋ねた。


「どうしてナイトには苗字がないのかしら?」

「なくても支障はない」


「そうじゃなくて…、苗字って大切なものでしょう?

 家族のつながり、家系を示すものだから。

 私は青月という名で両親と繋がっているって思うもの」


 無言で考え込む祐樹。

 サングラスの下の目は迷いに泳いでいるのか、苦悩で伏せられているのか。


「ナイトには、家族がいない。

 血の繋がりはあっても、家族と認めない。

 育てられた覚えがないからな。

 だから苗字は必要ない」


 とても寂しいことを平然と祐樹は言ってのけた。


 そうか、私はナイトの触れてはいけないところに触れちゃったんだ。

 彼らにとって苗字はタブーなのだ。








「姫決定だな」

「やっと姫じゃなくなる」


「姫?」


 三人揃って聞き返す。


「姫ってのはクラスの中で美しい者を指すんだ。

 丁度お前達のような、ね」


 若緑の髪がさらりとなびく。

 ついでに流し目で見られる。


 思わず水翡こと常盤は鳥肌を立て、

 葉咲こと一之介は笑って流し、

 陽花こと竜貴は


「君の方が美人だと思うよ~」


 本人にその気はないのだろうが、口説いていた。

 若緑の髪を持つナイトはきょとんとしたのち、笑い出した。


「決めた!姫はあんたがやりなよ。竜貴」

「えぇ!?」

「俺の権限を使って決定。

 皆もこれでいいかい?」


 満場一致のようだ。

 水翡達でさえも。


「酷いよー」

「そういえばあんたの権限って何なんだ?」


 水翡は陽花の話をスルーした。

 陽花は恨めしそうに見ている。

 葉咲もスルーしている。


「あーっと、それは……」


 今まで流暢に話していた少年が口ごもる。

 すると黙って見ていた銀髪のナイトが、少年の肩を叩いて口を開く。

 にゃりとした笑みと共に。


「こいつは前姫。

 な、秀司しゅうじ姫」


「煩いよあんた」


「どうやらわたくしは秀司姫のご機嫌を損ねてしまったようだ。

 嗚呼、どうすればよいのだろう」


「今すぐその口調止めろ!戒!!」

「ちぇっ。分かったよ秀司姫」


 白銀の髪を持つナイトは、肩をすくめて竜貴達を見る。

 背後の睨みなど知らないように。


「俺はクラス長の戒。こいつは前・姫の秀司だ。

 分からないことはこの二人のどちらかに聞いてくれ」


 銀髪の男は戒というらしい。


「現・クラス長補佐の秀司だ。

 困ったときは俺に言いな。必ずお前達の助けになってやるから」


 新緑の髪を持つ秀司は華やかに笑った。







 自分の受け持つ巫女へ、決闘キャンセルの知らせが入る。

 勝手知ったる家のごとく、祐樹はノックせずに部屋に入る。


「水翡、明日の決闘だが――!?

 水翡!?」


 水翡の部屋は無人だった。

 葉咲の部屋も、陽花の部屋も。

 あの日がよぎる。





「あなたは私の事本当に好きなの?」


 もちろんと答えた。


「私は本当にあなたのこと好きなの?」


 それには答えられなかった。


「ウソツキ」


 ちがう、どうして声が出なかった?

 どうして引きとめられなかった!?





 次の日、彼女は消えていた。





「水翡は逃がさない。

 俺の巫女だ!!」


 いつの間にか陽花と葉咲のことは消えていた。

 ただ、水翡だけは駄目だった。

 彼女だから同じ轍は踏みたくないのだ。

 駆けだす。水翡を探すため。




「水翡!」





 知らない間に惹かれてた。

 忌むべき空色は俺を魅せる。

 勝気な瞳が俺を貫く瞬間が好きだった。


 手遅れにならなければいい。




「どうぞ、姫君」


若緑の髪をさらりとなびかせ、秀司が色気を含んだ笑顔で振り返った。


どうすればいいのかなぁ?





ことの起こりは教室移動。

次は実技だと聞き、移動しようかと呼びかけた。

すると秀司はすたすたとドアに向かい開ける。

ここで冒頭に戻るのだ。





どうしよう、これって女だってばれてるのかな。

ってことはこれって通っちゃ駄目だよね!?

わわわ、ど~しよ~。


「何男相手にやってんだよ。

気持ち悪い」


水翡(常盤)の助け舟が入る。

秀司はしばし考え、納得したように頷いた。


「ああ、常盤達は知らないのか。

姫ってのはクラス内の美人がなるだけじゃなくて、

女扱いされるんだよ」


「どうしてそんなことをしなきゃいけないの?」


「そうだね、分からないことを尋ねる姿勢は好きだよ」


ふふっ、と落ち着かない視線を向けられる。

その頭を小突く戒。


「授業に間に合わないって。

移動しながらにしないか?」


「いってぇな!

お前本気でやっただろ!!」


後頭部を押さえて怒鳴る。


「おや?そんなに力を入れてないつもりなんだが。

ああ、そうか。秀司は元姫だから、そんなにやわになったんだね。

可哀想に」


おもいっきり同情した目つきで秀司を見る。

自分を刺すような視線に構わず。

歩き出した戒を追うように、皆進む。


「姫ってのは巫女代理さ。

女の子の扱いを今から練習しておくためのもの。

僕らは巫女のために存在するのだから」


「はっ、欠片も思っていないくせに」


「秀司」


舌打ちをして先を進む。

少し後ろを歩く水翡達。

暗い空気を振り切るように明るい声を出す戒。

「って言ってもね~、結局はナイトのうさはらしかな。

何年間もここにいるとストレスが溜まるんだよ。

姫は丁度いいからかい役」


「そんなものに竜貴をしたのか!?」


今にも掴みかかりそうな水翡(常盤)に慌てる戒。


「違う違う!

本当に美しいものに敬意を込める場合もあるんだよ、ほんとに。

だから俺は君達なら誰でもよかったんだよ」


類は友をよぶ。

ナンパはナンパをよぶ。


固まる水翡(常盤)達。


「あんたたち急がなくていいのかい?

あと一分切ってるぜ」


まさしく救いの声だった。





「今日の授業は魅了についてだ。

各自、自分の魅了については知ってるな?」



それぞれが頷く中、水翡達は頷けなかった。


巫女に魅了なんてないーーーー!!


内心あせりつつも、平静を装う。



「姫君達の魅了は何だい?」


「え、えぇと、あ、あはははは」


笑うしかない陽花(竜貴)

硬直する水翡(常盤)

そして葉咲(一之介)は


「秘密です」


「へぇ、意味深だね」


試すような眼差しが葉咲(一之介)を見る。

葉咲(一之介)は正面から挑む。


「当ててみてください」


ふふっ、と見る者を惑わす笑みで言った。

それを見て、困ったように笑う秀司。


「そう言われちゃ、聞けないね。

まぁ当ててみせるけど」


「自信がおありのようで」


互いがにこにこしているのを傍観する水翡と陽花。

葉咲のお陰で魅了を聞かれなくて済んだのだ。

心からほっとする。





その後ナイトの魅了の使い方の説明となった。

限りなく巫女に優しく接し、魅了をかけるのだ、と。

信用させていたほうが魅了にかかりやすいからだそうで。


「ってことは、いちいち信用させなければならないのか?」


水翡(常盤)がめんどくさそうに言う。

実際はナイトの妙な優しさに納得していたのだが。

つまりナイトたちの優しさは信頼させるため。


本当に?

あの人だけはちゃんとぶつかってきてくれなかった?


「信用させなくても力があればいいんだ。

巫女の精神を抑え付けるほどの圧倒的な力が。

ただ、多すぎる力は」


戒が口を閉じる。

空気が重い。

再び開く口は、秀司と言葉を重ねた。


「「何かを失う」」


「一体、かの有名なナイト達は何を失ったんだろうね。

祐樹先輩、直人先輩、珪先輩…。

誰もが何かを失う」


何故かその姿が痛々しく感じられた。


「だから俺はナイトにはならない」


強い声に、決意した瞳に、何も言えなくなる。

過去の私達のようだった。

結局は捕らえられたけど。


「秀司!!」


いい加減にしろ、と言外に含まれた言葉を聞き取る秀司。


「……分かってるさ。

どんなに足掻いても無理だってコト。

俺らがやってるのも悪あがきだしな」


力ない笑みで水翡らを見る。


「あんた達みたいな巫女様なら歓迎なんだけどな」


普段通りに笑っていたが、悲しい笑みに見えた。

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