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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
三章:巫女の権威
16/33

始まりの巫女 存在 少年



中央ドーム。多くの人が集まった。

そりゃそうだろう。

前代未聞の試合が行われようとしているのだから。





総裁が試合前の水翡らを見に来た。


「お嬢さん方、調子はどうかの?」

「上々ね」

「元気だよっ」

「変わりありません」


それぞれが笑みを浮かべた。

それを見て、総裁も安心したようだ。


「それは良かった。ではお嬢さん方に、

始まりの巫女の加護を――」




葉咲はごく最近、同じ言葉を聞いたのを思い出す。

そう、危険種が神殿を攻めてきたとき。

同じことを言った人がいたのではないか?


そう考え込んでいるうちに、総裁は相手側の巫女のもとへ向かっていた。




「祐樹さん、総裁には息子さんがいらっしゃいますか?」


すぐさま疑問を尋ねる。



「確かにいた」

「そうですか」





「始まりの巫女の腹に」



今、何と。



「総裁と始まりの巫女は恋仲だった。

巫女は全ての期待を背負う。

危険種が現れれば、風邪であっても、何であっても巫女は立ち向かわなければならない。



例え、妊娠していたとしても」


「そんな、酷い!」


憤りを見せる水翡。

祐樹は横目で見たのち、続けた。


「総裁はもちろん止めた。

周りに他のナイトや巫女がいるにも構わず、必死に。

のちにあれが総裁のもっとも人間らしい姿であったと言われている。


始まりの巫女を止めるべく、総裁が掴んだ腕を、巫女は握って振り返ったそうだ。



『あなたの手はみんなを守るもの。

私の手は危険種を破壊するもの。

そのためにいるの。

行かせて』



止められなかった。

始まりの巫女は大きな腹を愛おしむように撫でて、戦場へと向かったんだ。

総裁がいくら待とうとも帰ってこなかったが。


これは一部にしか知らされていない話だ」



「私達、始まりの巫女は戦でなくなったぐらいしか知らなかったわ」


水翡が声のトーンを落として言った。

影を落とす。



「悲しいね、痛いね」


陽花が自分のことのように受け止め、泣いている。




「まるでその姿は聖母」


葉咲がぽつり、と呟いた。

皆の注目が葉咲に集まる。


「今やっと4つの光を抱えていたのか分かりました。

この神殿のエンブレムは、金の髪をもつ少女が黄、赤、緑、青の光を抱えています。

始まりの巫女の慈悲の心を表したのでしょう?

そしてエンブレムに描かれた少女は始まりの巫女」



祐樹がゆっくりと頷く。



「このときの姿から神殿のエンブレムは作られた。

さぁ、巫女よ。お前らの戦場が待ってるぞ」



巫女という言葉が重く感じられた。




両者揃ったところで試合は始まる。

未だかつて行われたことのない3対4の試合が。





『ルールは変わりません。

ただ、例外はどちらかの陣の全滅です』


「全滅!?そんなの……」


『おかしいですか?』


水翡の思考を読み取ったかのように審判は紡ぐ。


『巫女に必要とされるのは正確さです。

戦場において、正確に危険種の息の根を止めるため。

情けや慈愛などでは生き残れません。

そのため、試合では相手の敗北が前提。つまりどちらかの陣の全滅となるわけです』


水翡は押し黙る。


『では納得していただけたようなので試合スタート!』





前方に水翡と陽花が立つ。

後ろには肉弾戦に向かない葉咲。

敵となった巫女達が真っ先に狙ったのは、


水翡だった。


「やっぱりねー。この中で私が一番弱いもの」


それでも不安をみせない。

むしろ不敵に笑う。

そして剣が合わさるかという時、水翡は上半身を折り曲げた。


空を切る剣。


あっさりとかわされた巫女達は気づく。

今のは攻撃させられたことなのだと。

つまり、今この無防備な状況を狙ってのことではないのか。

気が付いたときにはすでに遅く―





陽花が迫っていた。


巫女の腕を引き、一本背負いで四重の円が描かれた外へと飛ばす。残った二人はというと、葉咲の風が容赦なく場外へと追いやっていた。


「あとは貴方だけよ」


水翡が後方で様子見をしていた巫女を睨みつける。

家に取りに行った剣を構える。


「役立たずね、あの子達。

でも、負けるわけにはいかないの。

三日やそこらで白になった貴方を、私は許さない!!」





巫女には昇級試験が一年に二回ある。

それに合格するか、試合で勝つかで位が上がるのだ。

通常は4年かかる。

それを水翡らは半年で成し遂げた。

敵が多くても仕方ないだろう。





あと一人。戦いはもうすぐ終わる。

水翡は剣を構え、駆ける。

同じく陽花も水翡に続く。

迎え撃つように敵方の巫女は微動だにしない。

やっと近距離になったころ、ぶつぶつと呟いていることに気づく。


<……あまねく命よ、今集え!形を成し、貫け!!>


大地が隆起し、大地の槍が水翡を狙う。




しまった、かわし切れない――!!




「水翡ちゃん!!」


陽花が身を投げ出し庇う。

このままでは大地の槍は陽花の心臓を貫いてしまう。


「だーーめーーーーー!!」







どぉおおん


想像とは違った音がした。

肉を切る音ではなく、何かぶつかる音。


「水翡ちゃん、とどめを!!」


葉咲が風の力を放った後だった。

まだ終わっていない。

これで、最後!


風の衝撃で仰向けになっていた巫女の首筋に剣をかける。


「降参しなさい。さもないと……」


「どうせ殺せもしないくせに。

殺せるものなら殺しなさい」


覚悟を持った瞳が交差する。


「そう、甘く見られたものね。

私は人を殺した事があるのよ。

だから殺すことに迷いなんてない」


剣が先程よりも深く刺さり、赤い血がつーっと流れる。


「ひっ!!負けだわ、私の負けよ!」


圧倒的勝利だった。





『水翡チームの勝ちです。

水翡さんは“白灰”から“白”へ位が上がります。

後の二方は変わりありません。

そして負けたチームの方全員は“白”から“灰白”へと下がります。

後で水翡さんには新しい制服を届けますね』


「圧倒的だね」


祐樹の隣に立つ直人が感心したように呟いた。


「そうだな。

陽花の速攻。葉咲の詠唱を中断し、魔力の塊をぶつけるという機転。水翡の迷いのなさ。

これらが揃ってあの強さとなる」


冷静に分析しながらもあの三人から目を離せない。


「困ったね。目が引きつけられる」


祐樹は無言の肯定を返した。


「祐樹、なぜ巫女には魅了がないか知ってるかい?

それはね、巫女の存在そのものが魅了だからなんだよ。

存在で僕らを魅了し、僕らを守る気にさせる。

自分の意思じゃないみたいで嫌だったけど、彼女達を見ているとそれもいいかなって思えるね」


「知ってる。だから困ってるんだ」


ちらりちらりとなびく空色。

俺は知っている。

その色の優しさを。

暖かさを。



違う。



水翡の強い瞳がよぎる。

あいつは彼女じゃない。あんな目はしないんだ。




「巫女は存在で魅了する。

僕らなんて敵わないさ」



決闘が終わり、水翡らは宿題にとりかかる。


ナイトとは何か?


葉咲は図書館で、水翡と陽花は二人でナイトについて調べることにした。





図書館にて、葉咲はナイトと書かれているもの全て読み漁る。

が、何もかすらない。


隣に人が座る。

少し、葉咲の肩が震えた。


「久しぶりだな」


本を読んでいて気が付かないふりをする。

むっとした気配が伝わる。


「葉咲」


今まで読んでいた資料を集め、椅子から立ち上がる。


「待てよ」


腕を掴まれ、動けなくなる。





あの日から、葉咲は俺を避けるようになった。

俺が同じ部屋に来ると、気が付かないうちに消えているのだ。

その彼女にやっと接触できた。


だが、まるで蝶のようにすり抜けていく。

腕を掴み、引き止める。

それが俺を思いがけない事実に硬直させる。


葉咲を引き止めるため掴んだ、手首。

それがあまりにも細くて。

今掴んでいる力だと折れてしまいそうに感じた。





「何ですか、ナイトの珪」


一行に手を放さない珪に、痺れを切らした葉咲は口を開く。

その言葉に含まれたのものは毒。


どうして私のナイトでもないのに話しかけるんですか?

分かったなら手をのけて下さい。


そう読み取れた。

葉咲の言葉にはいつも含みがあって、それに上手く返さなければこの会話は終わりだ。





「ナイトでも一人の人だ。気になることがあれば追う。

どうして俺を避ける」


「分かっている答えを聞くのは愚かですよ」


「それでも、俺はお前と話したい。

お前と話すのは楽しいから」


葉咲は深いため息をつく。


「鈍感。

男女の仲というものは複雑なんです。

一方がふってしまえば、もう戻れないというのに。

それでも私はいつも通り振る舞おうとしました。

けど、珪くんは……」


「何だよ」


先を促す。


「珪くんは普段通りでした。

私は珪くんが罪悪感を感じているなら、いつも通り振る舞う予定だったのに」


拗ねたように目を反らす。

思わず笑ってしまう。

葉咲が睨む。


「悪い悪い。

葉咲って意外と可愛いんだな」


「なっ!!」


羞恥に頬を染める。


「俺はナイトだから、お前が思うほど綺麗じゃない。

女のいがみ合いに巻き込まれることは多々あるからな。

だから身についた。普段通りに振る舞う術が」


「珪くん?」


珪くんが知らない男性に見えた。


「お前はそのままでいろよ」


ポンポンと頭を撫でる。


「明日も話しかけるからな。

無視するなよ?」


ん?と優しく覗きこむ珪に赤面する。


「わ、分かりましたから離れて下さい!」


にっと楽しそうに笑って明日への言葉を紡ぐ。


「また明日」





柄にもなく火照った頬を押さえる。

熱い。


珪くんがいつも頬を染めたりしていて、可愛いと思ってた。

でも珪くんも男の人で。

少年だった彼が大人の顔をするとすっごく戸惑う。


違う。惹かれてる。

どうしょうもなく。


あなたが私の気持ちを消すために忘れろと言った言葉。

それがここに来て、優しさだと知る。

珪くんはまだ緑さんのことが好きなんだ。


それでも少年と大人の顔を持つ彼が好き。

今回は負けた気がしてならないけど。

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