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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
三章:巫女の権威
15/33

過去は続く 宿題 髪の色

「こんにちは。“白灰”のクラスに慣れたかしら?」


 水翡の前の席にティーナが座った。


「クラス違うんじゃない?」

「いいのよ。あなたに用があって来たから。

 それで、クラスには?」

「見たら分かると思うけど」


 どの生徒も、遠巻きに彼女を見る。


「そうよねぇ、あなた達昇級試験も受けずに白になったものね。

 私は決闘で位が上がったのよ」

「自慢でも言いに来たの?」


 ケラケラ笑い出すティーナ。


「やっだ、私もそこまで暇じゃないわ。

 白になるとね、摩擦が激しくなるの。

 相手の隙をうかがって、落とすために。

 でも私はそんなの性に合わないからここにいる」


 水翡の目を覗きこんで笑う。


「対立宣言、ね」





「その対立宣言した人がどうしてここにいるのよ」


 ちゃっかりと水翡らに加わって昼ごはんを食べている。


「弱点分かるかなーって思ったのよ」

「そのわりに、くつろいでるよね!?

 葉咲もお茶出さない!」

「でも彼女、お茶に詳しいので出し甲斐がありますし」


「ティーナさんは何た

「陽花も話しかけない!」


 しゅんとする陽花。


「祐樹の巫女は将来を約束される」


 ティーカップを視点の合わない目で見たティーナは言い放った。


「彼の巫女は必ず白になるの。

 だから彼の巫女は周囲から妬まれる。

 そして彼は巫女の中でもてはやされる」


「私も、いろいろあった。

 母国フランスを離れ、弟を国に置いてきた。

 彼はその不安を除いてくれた」


「ナイトだから」


 影が落ちる。


「それでもいつか心が手に入ると思ってた。

 必死で彼についていった。

 戦場でも震える手を隠して、彼の隣に立った」


「ねぇ、水翡。祐樹は優しい人よ。

 ナイトとして、とても良くしてくれる。

 でも誰も気が付かないのかしらね」


 水翡の髪を掴んで、力強く引っ張る。


 痛い。


「祐樹はこの色の髪を持つ人を避けるの。

 当たり障りなく接して踏み込ませない。むしろ遠ざけるのよ。

 可哀想な子。あなた祐樹に嫌われてるわ」


 意識が遠ざかる。




「水翡ちゃん!!」


 陽花の強い手に私は目を覚ます。

「大丈夫よ、大丈夫」


 眉が下がりきった陽花は葉咲と目を交わす。

 強引に引かれていく手に、あの場を離れていると知った。





「嘘つきもいいところです。

 水翡ちゃんが一番大切にされているのに」


「そう、彼女だけ例外。

 でも本当のこと。祐樹はあの色を避ける。

 過去に痛い目に合わされたのよ、きっと」


「祐樹さんは水翡ちゃんを嫌っていません」


「はいはい、嘘言って悪かったわよ」

「後で謝るなり、本当のことを言うなりして下さいね」

「おっかなー」


 葉咲は笑顔でティーナを見る。


「すみませんでしたー」





「――翡ちゃん、水翡ちゃん!!」


 陽花が必死な顔で見ていた。


「陽花……」


 力が抜けたように座りこむ。

 唐突に笑い出す水翡。

 陽花がそっと抱きしめる。


「あんなやつ、大嫌いなのに、嫌われたら悲しいなんて変よね。

 おかしすぎて笑っちゃった」


 陽花が水翡の頭をなでる。


「泣かないよ。あの日よりも全然痛くないから」


「強くなりたいから」


「いつまでも弱虫じゃ、駄目なんだよ」


「泣かないから」


 木陰から覗く光がとても美しく見えた。



 人は常に傲慢である。

 どの人からも好かれたいと思い、

 嫌われるのはイヤとわがままを言う。


 分かってるよ、そんなこと。

 世の中にはどうしても仲良く出来ない人もいるって。


 でもね、やっぱり悲しい。





「だーーーー!!」


 プリントをばらまいて、髪をくしゃくしゃとかき混ぜる水翡。


 集まったプリントは葉咲や陽花の方にまで飛ぶ。

 陽花がプリントを被ってしまった。

 葉咲が飛び散ったプリントを集める。


 ちらりとプリントを見てみる。



「あらあら、人気ですね。水翡ちゃん」


 どれも決闘の願いだ。



「葉咲だってモテモテじゃない」


 負けないぐらいのプリントの量。

 二人してため息をつく。



「なんかさー、こう、ぱーーっと片付けたいよね」


 陽花が身振り手ぶりで言う。


「そうよね。こうも沢山あると嫌になっちゃう。

 大体毎日何回戦えばいいのよ」


 葉咲が手を打った。


「そうです、パーッと片付けちゃいましょう!!」



「「え?」」






「そんなこと馬鹿げてるわ!1対1って決まってるのよ!?」

「そうよ、これは伝統なのよ!」


 葉咲の案を話したところ、反対がおこった。



「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。何の騒ぎかのぅ」



「総裁!!」


 白いひげを蓄えたおじいさんが現れた。

 この神殿に初めて来た時、見た人だ。(参照)


「何の騒ぎか話してごらんなさい」

「あ、はい。えーっと……」


 挑戦を申し込んだ巫女が言いづらそうにするので、

 葉咲が口を開く。




「3対4で同時に試合をしたいと話していました」

「ふむ」


 ひげをなで、思案する。


「おもしろそうじゃのう。よかろう、許可する。

 明日、午後4時。場所はー、西のドームでは少し小さかろう。

 中央ドームに決定じゃ」


「中央ドーム!?式典用じゃないですか!」


「普段は使わないからのう。有効活用するべきじゃよ」


「あの、私明日のその時間に試合が入ってます」


「別の日に変えてあげよう。後でお嬢さんのナイトに書類を渡しておくから」


「は、はい」



 総裁権限使いまくり。



「いいのかしら?」


 水翡が口を挟む。


「何がかのう?」

「そんなにいろいろと決めて」


「ふぉっ、ふぉっ、ふぉ。総裁というのは無駄に長生きしておる。

 その上余計な程に権力もあるのじゃよ。

 お嬢さんが心配することはない。

 もしものことがあれば祐樹に引き継ぐつもりじゃしの」


「祐樹に!?」


 思わず大きな声を出す水翡。

 隣で口をパクパクさせる陽花。

 葉咲は少し考え込んでいる。




「おや、知らなかったかの?祐樹は次期総裁じゃよ。

 わしはあの年よりも早く総裁になった」


「祐樹が、次期、総裁」


 水翡は噛みしめるように区切って話す。


「祐樹はセンスがいい。

 それに比べ、直人は少々蛇の道を歩きすぎた。

 直人を次期総裁に推したのでは周りの反発を買う。

 祐樹はその点の心配はない」


「つまり直人さんがまっとうであれば、総裁になる可能性があったと言うのですか?」


「まっとうとは手厳しいのう。しかし、それはないのじゃよ。

 彼は全ての精霊に愛されておる。

 まるで始まりの巫女を思わせるかのように」




「全て?ナイトなのに?」


 誰もが水翡と同じことを思っただろう。




「お嬢さん。『ナイトなのに』とはどうして言えるのかのぅ」




 聞いた事がある言葉。


「前、祐樹も言ってた」


「ふむ。じゃあお嬢さんに宿題としておこう。

 よーく考えなさい。では、明日」





 部屋に帰って、三人で宿題を考えてみる。


「分からない。そもそもナイトって何?」


 水翡がお手上げ、と手を上げた。


「ナイトとは守る者では?」


 葉咲は今現在の考えを述べた。


「確かにピンチの時は守るみたいね。

 でも、戦場では逆だから違うと思うの」


「誰かに聞こうよ」


 陽花が名案とばかりに明るい声を出す。

 すかさず水翡が問い返す。


「誰に聞く?」


 静まり返る部屋。




 陽花の思考。

 直人さんに聞いたら交換条件になりそうだよー。


 葉咲の思考。

 珪くんは気まずいので、駄目ですね。


 水翡の思考。

 直人は何だか含みがあって聞きたくないし、祐樹は聞けないわ。

 祐樹からの宿題でもあるんだから。




 水翡は静まった部屋を見渡す。

 誰もが暗い顔をしていた。


 宿題は保留。



 明日、水翡は初めての決闘だ。

 ルールをおさらいすることにした。


 えっと、確か円があるからそこから出ちゃ駄目なのよね。

 部外者が円に入った場合も駄目。

 円から出た場合は失格。負けを認める場合は相手側の勝ち。


 戦い方は何でもあり。

 そもそも円に入った時点で戦いは始まるのよ。

 このせいで陽花が……。

 許すまじ直人。


 巫女の力はもちろん、武器の使用も可。

 今まで見たのでは弓を使ってたわ。

 私は剣を使うからー、ん?



 確か脅迫されて神殿に入ったのよね?

 学校の帰りだったから、持ってるのは教科書、文房具。



 武器ないじゃん。





「祐樹、大変よ!」


 祐樹の部屋に駆け込む。

 スタンドライトの光が眩しく、目を瞬く。

 部屋の主は書類と向き合っていた。



「何がだ」


 書類を置いて水翡を見る。


「明日の試合の武器がないのよ。家に置いてきちゃった」

「お前武器使うのか」


 水翡の細い腕を見る。



「一応ね。接近戦が出来ないじゃない」

「分かった。少し待っていろ」



 新しく用紙を取り出し、つらつらと書いていく。

 時々水翡に直筆を書かせたりしたが、全て書き終わったらしい。

 それをボックスに放り込んだら、転送完了だ。


 数秒後、判が押されて返ってくる。



「外出許可が出た。行くぞ」

「え、どうしてあんたと」


「巫女の外出時はナイトも一緒だ。護衛も兼ねている。

 ついでに言うなら、お前は歩いて家に帰るのか?」



 白旗。降参。



「そうね、あんたが正しい」


 関心したように見る祐樹。


「私だって間違ってると思ったら認めるわよ!」

「そうだな、いいことだ」



 口を緩ませて笑った。

 静かな笑顔。


 いい顔なのに。ずっとそうしてればいいのよ。

 そうすれば――っと、直人二号になっちゃう。

 それに、もったいないわよね?


「車を出す。ついてこい」





 車庫は薄暗かった。

 車のそばでもそもそ動くものがあった。


「げっ!あの時の犬!!」


 私達をさんざん追い回してくれた犬だ。



「ティムのことか。元気にしてたか?」


 バウ、バウ!!


 祐樹にとびつこうとして、紐がびんびんになっている。

 学ばない奴め。



「この犬ティムって言うのね。店で買ったの?」


 今や犬は貴重とされ、高い値がつくのに。


「拾った。それから訓練をして今に至る」

「へー、その目つきがヤバくて、よだれが垂れてて、歯が凄い犬がねぇ」


「拾った時は違った」



 スーツの胸ポケットから写真を取り出す。

 現れたのは愛らしい目をした黒い小犬。

 どこかのCMでも通用するだろう。


「可愛い!!」


「そうだろう。俺はティムに全ての愛情をそそいだ。

 結果は、少し後悔している」


 そりゃそうだろう。

 愛の劇●にでも出そうな子犬がこんな犬になるとは誰も思うまい。


「まぁ、可愛いことには変わりない」



 祐樹は愛犬家らしい。

 なおかつ親馬鹿。





 祐樹の車に乗り込んで沈黙が続く。

 丁度いい。聞いちゃえ。


「そういえば祐樹って私のこと嫌いなのよね?」


 回りくどいことは嫌い。直球で勝負。

 自分でもかなり直球だと思う。剛速球かも。



「何故そう思う」


 否定しない。



「この髪の色が嫌いなんでしょ?」


 空色の髪を持ち上げる。

 私としては自慢なんだけどなぁ。


 祐樹が、運転しつつもため息をついた。



「誰から聞いた」

「ティーナ」


「そうか。あいつは長く俺のそばにいたからな。

 良くも悪くも知る」



「だが、髪の色でお前を嫌いになるとは限らない。

 お前自身はおもしろいやつだ」


「どこが!」

「そこがだ。そこにその色は嫌いじゃない」



 車を止め、水翡の髪をとる。



「好きだから戸惑う」



 愛おしむようにじっと見つめ、はなす。


 頬が熱い。

 水翡は隠すように頬に手をおく。



「無意識に突き離す。違うと分かっているから」


「誰と?」


「さあ、誰だろうな。着いたぞ」



 無理やり話が切れてしまった。

 不満に思い、眉をつり上げる。

 しかし、家を包む黒が心を冷やす。



 ――――お前の両親は帰らない。

 死んだ。―――――――――



 そう、この闇だった。

 伝えに来た者も黒を纏い、まるで黄泉の国に手招きされている気がしたのだ。



「行かないのか?」

「あ、ええ。もちろん行くわよ」


 しかし、踏み出すのが怖い。

 シートベルトを外したまま硬直する。


「そうだ。祐樹も家に入りなさいよ。

 料理ご馳走してあげる」

「ああ」



 頷いてくれたのは、やさしさ。





<瞳孔検証。指紋検証>


 レーザーが水翡の目の瞳孔をチェックし、インターホンに置いた指もチェックしている。


<青月 水翡と認証>


「もう一人は客だから」


<了解。瞳孔と指紋を検査させていただきます>



 同じように検査していく。


<どうぞ、客人>





 玄関のドアを開けると、自動で明かりが点く。

 いつも出かけると時に見る写真立てが変わらずあった。


「これ持っていこーっと」


 手に取る。

 写真立ての裏から紙が出ていた。

 水翡は何気なく戻す。





「冷蔵庫の中空っぽよね?」


<はい。水翡様が帰られなくなって5日後に捨てました。

 ご所望なら取り寄せますが>


 水翡の家はこのコンピューターが管理しているらしい。


「じゃあ、ナスとひき肉、豆腐とー」





「料理、出来たのか」


 出来上がった夕食を見て祐樹は言う。

 テーブルに広がる料理の数々。

 どれも水翡の手料理だ。



「しつれーね。これでも一人暮らし長いのよ」

「そうか」

「そーそ。あ、剣忘れてた」



 食事を中断し、慌てて二階に上がる。

 いない水翡の席を見て、祐樹は


「すまない」


 と呟いた。





 それから水翡は久しぶりに家の風呂に入って帰ることに。

 祐樹は神殿で入ると言ってた。

 祐樹の家は神殿なのよね。


 遠ざかる、闇に包まれた家に少し安心した。

 次帰る時は昼がいいな。

 あの日がよぎるから。


 水翡はそう思った。


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