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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
三章:巫女の権威
14/33

嘘 許可

 攻撃力が程々である葉咲は神殿の北を守るように言われた。

 通りざまに危険種を倒していく。


 危険種には知能と言ったものはないはずですが――

 これはあまりにも作為的です。

 裏に何かありますね。


「おや、おじょうさんがこの非常時にナイトをつけないでどこへ?」


 金がかった茶の髪が目に入る。

 紳士のような立ち姿。

 誰?


「ああ、私もナイトだから安心するといい。

 それでおじょうさん、君は戦うつもりかい?早すぎると思うんだが。

 見てごらん。怯える巫女達を」


 ナイトにすがりつく巫女。

 部屋に閉じこもる巫女。

 危険種と戦うのにはあまりにも幼すぎた。


「私は温室の花ではありません。

 戦う時には牙をむき、独りで戦場に立ってみせます」


「お名前は?」

「葉咲」


「苗字は?」


 しばらく言うのを渋った後


「風本ですが」


 と答えた。


 男はひっそりと笑った。


「君に、始まりの巫女の加護を」


 葉咲の手に口付けた。

 そしてそのまま去っていく。

 あっけにとられて見ていたが、神殿の破壊音で目を覚ます。


「早くしないと」





<水撃!>


 崩れゆく危険種。

 水翡を囲む危険種が消えた。


 しかし、再び押し寄せてくる危険種。


「こんなに現れるくらい地球は汚染されてるの!?

 そんなこと、分かりもしなかった」


 異常気象の歪みで生まれる危険種を最近は見かけなかった。

 ぬくぬくと神殿でいたから。

 でも今は悔しがっている暇なんてない。

 悔しいなら力に込めるしかない。


 水翡の周りを囲むキラキラとした結晶。

 次第に密度を増し、輝きを放ちはじめる。


<氷よ、その冷徹さをもって封じ込め。

 一歩たりとも進ませるな!>


 水翡を囲う結晶は神殿南区域に広がった。


 きーん


 危険種の像が出来上がった。


「祐樹が心配だわ」




「このくらい引き付けておくか」


 危険種が祐樹を囲む。

 しかし一角だけ違った。

 銅像のように凍っている。


「祐樹!大丈夫なの?」


 そこから姿を表したのは水翡。


「どうして来たんだ。自分のところはどうした?」


「そんなものもう終わったわよ。

 ただ、祐樹って本当に戦えるのかなーって思ったのよね。

 ナイト独立部隊隊長とか訳分かんないこと言うしさ」


「その名の通りナイトのみで編成された部隊だ。

 どの隊員も巫女なしで戦えるほどの力を持つ」


 サングラスをすっとはずした。

 覗くのは冷ややかな漆黒の瞳。


 どきっ


 こんな時なのに。馬鹿。



「見ておくんだな。ナイトの戦い方を」


 強い瞳は空を見る。


<風よ、風よ。我こいねがう。

 神殿を守護する古き風に感謝を捧げ、力を。

 願うのは敵の殲滅。

 切り裂け!!>


 瞬時に現れたかまいたちが危険種を切り裂いていく。

 急に見晴らしが良くなった。


「巫女並、それも葉咲クラスの力。

 どうして?ナイトは巫女の力を持たないんじゃ……。

 ナイトって何なの?」


「ナイトはどこで生まれ、育つ?

 ナイトは何があってナイトとなる?

 なぜ、俺達は魅了を持つ?」


 こちらが聞いているはずなのに問い返される。


「そんなの分からないわ」


 息をつく祐樹。

 何が込められたものなのか。

 絶望?安堵?


「持ち場に戻れ。

 俺がこの西を守れる事が分かっただろう?」


「ええ」


 水翡はちらりと祐樹を見て、背を向けた。





「もうすぐで神殿だ!みんな持ち堪えろ!」

 巫女を引き連れて、直人は神殿を目指す。

「直人様、あれを!!」

 緑が神殿の入り口を指した。

「何もないじゃないか」

 いつも通り白い柱が立ちそびえている。

「違います!その、上!!」

 白い神殿の屋根にたった一つ赤が見える。



「あ、直人さんだ!お帰りー!!」


 屋根の上から叫ぶ陽花。

 元気良く手を振ってくる。

 直人は疲れた気持ちで手を振り返した。


「それで君はどうしてそんなことろに?」


「私が三人の中で攻撃力が高いからここになったんだ。

 神殿の入り口だしね」


「君はまだ“灰黒”じゃないか!!」

「関係ないよ。みんなを守りたいだけ」


 それがどれほど難しいか分かっているだろうか?

 簡単に言う陽花を心配そうに見つめる直人。


「っ、危険種が!!」


 命からがら逃げてきたが、背後に並ぶ黒い集団。

 地平線が見えなくなるまで黒に染まっている。

 まだ少しばかり距離が離れているが。


「今の内に神殿に!」

 そんな直人を不思議そうに見つめる陽花。



「見てて、私の守るためにある力を」



 いつの間にか隣に立つ火の精霊王と両手を重ねる。

 二つの火が昇り立つ。

 白と赤。

 次第にその赤も消え、白となる。

 白き炎は大きくうなりを上げ、危険種に放たれる。


 どぉぉん


 轟音ごうおんが立ち、地面が大きく窪くぼむ。

 塵一つ残さない。

 背筋がひやりとする程、圧倒的な力。


「こんな人に、私は勝負を挑んでいましたの……?」


 藤は恐ろしいものを見るような目で陽花を見た。

 陽花はふわりと笑った。

 安心させるように。

 それが彼女の本質。


「どんなに強くても変わらない人。

 そんな人だから直人様の隣に立てるのでしょうか」


 誰に問いかけたのか分からぬ問いは後ろに立つアリアによって返された。


「ただ、陽花さんだから。

 彼女が笑うだけで空気が明るくなる。

 心の在り様が美しい。

 そんな彼女だから、直人様は暗闇から出れる」


 牙をむき出しにしていた子犬。

 捨てられて、寂しくて。

 人肌を求めたけど、何も得られず。

 そんな時、陽花が一人の人として抱きしめた。


「私達は巫女でしかないのよ」





 今回奮戦した巫女、ナイトは位を上げられた。


 葉咲、陽花は“灰黒”から“白”。

 水翡は“黒”から“白灰”。


 これが嫉妬を生み、彼女らを戦いの日々に送り出すのだ。





 ナイトのみが集まる朝会。

 そこで祐樹は注目を浴びていた。

 痛いほどに。




「もう一度言う。俺は反対だ。

 あいつらは神殿に入ったばかりだ」


 その痛い空気の中で直人がクスリと笑う。


「そう言っても彼女らが入って来て三ヶ月経つ。

 その間に彼女らは白にまでなってしまった。

 才能だね?いつまで正式に試合させないつもりだい?」


 からかうような言葉。

 こいつは性格が悪い……。


 深いため息をもらす。


「分かった。水翡、葉咲、陽花の三人への決闘を許可。

 決闘の申し込みを聞こう」


 影から守る

 彼女らは知らないのに





 葉咲、陽花が入った白のクラスは針のむしろのようだった。

 さっ、と陽花が葉咲の後ろに隠れる。


 嫉妬でしょうね


 葉咲は完璧な笑みを浮かべ、


「風本 葉咲と申します」


 と言った。





「もういい加減にしてよね」

 ひどくげんなりした顔で水翡は言う。


「今日だけで戦いを17回申し込まれました」

 葉咲は笑うが、目が全く笑ってない。


「あ、私は15回。勝った~。

 じゃなくて、陽花は?昼三人で食べてから見かけないわね」


 あたりをきょろきょろと見渡す。

 眩い赤はひとかけらも見当たらなかった。


「逃走中です。戦いたくないからって。

 それでも8回申し込まれてましたよ」


「少なっ!いいわね」


 羨ましがる水翡。

 反対に葉咲は暗い顔をする。


「どうしたのよ、葉咲」

「ええ、えっと……」


 葉咲は躊躇ためらったように言葉を濁し、それでも決意して口を開く。


「陽花ちゃんは東、神殿の入り口を守りました」

「そうね。陽花が一番攻撃力高いから」

「陽花ちゃんは見事危険種を倒しました。跡形も残らず。

 そこにいたのは?」


「白と“灰白”の巫女。あと、彼女らのナイト」


「水翡ちゃんは陽花ちゃんに初めてあった時、恐れませんでしたか?

 陽花ちゃんだけ、一人で危険種を倒してました。

 幼かった私達は二人がかりで倒していたのに」



 まだ、母が生きていた頃。

 初めて三人は会った。親友の子ども同士というきっかけで。

 その日、偶然にも危険種が現れて、母達は訓練と言って幼い三人を送り出す。


 怖かった。いつも見守ってくれる存在はいない。

 ただ闇雲に攻撃してやっと倒せた瞬間、葉咲と顔を合わせてほっとした。

 その気の緩みがいけなかった。

 全身を隠してしまうような大きな危険種が襲ったのだ。


 声を呑んで震えるしか出来なかった私達。

 その前で炎が燃え上がり、灰となって消えた。


 あの危険種を瞬時に消してしまう力――


 震えながらも顔を上げる。


『大丈夫?私が守ってあげるからね!』


 小さい彼女が足を震わせながら背を向けていた。




「あの頃から無茶な子だったわ」

 額に手をあて、クスッと笑う。


「そのあと私達が陽花ちゃんの隣に並びましたよね。

 必死で戦って、勝って、安心したら涙が出て」

「そうそう、一番大泣きしたのが陽花だったのよね~!」

「いつの間にか二人で慰めてました」


 ふふっ、と笑い出す葉咲。


「怖かったけど、陽花を知ったら怖くなくなった。

 そういえば、二人と会う前にお母さんが言ってたなぁ」



 目を正面からしっかりと合わせ、母は言った。


『恐れないで。

 知らないのに恐れるのはやめなさい。

 知ってから恐れなさい。

 その人と向き合うことが必ず必要になるから』



「きっとその為に言ってたのよね」


 その言葉を言った後、

 母が蒼の瞳を伏せていたのは気のせいだろう。





「発見」

「私は戦わないから!!」

「は?」


 耳を塞いで縮こまっている陽花と屋上に来た直人はじっと見つめあった。




「あはははは!それであんなに丸まってたのか」

「戦いたくないもん」


 頬を大きく膨らませる。

 思わず直人はその膨らんだ頬をつつく。

 もちろん空気の抜ける頬。


「な~お~と~さぁ~ん?」

「あ、つい」

「直人さんなんて知らないっ」


 体育座りで直人に背を向ける。


「まあまあ、そう言わずに。いい話を持ってきたんだ」

「何!?」


 らんらんと輝いた目が振り返る。


「君に試合の申し込みが7件」

「直人さんの馬鹿ーーーー!!」


 陽花はフェンスに手をかけ飛び降りる。


「ここ、屋上っ!」


 手をのばす直人。

 逃げるように落ちる陽花。

 陽花は近くにあった木の枝で1回転。

 緩んだスピードで隣の木に移る。

 木を渡ってどこかへ。いや、おそらく部屋だろう。

 しかし、今のは何と言うか


「お見事」


 直人は陽花が落ちてないか確認して、屋上を出るドアノブを手に取る。


「陽花ちゃん苛めるクセ止めないとなーー。

 つい苛めちゃうんだよね。どうしてだろ」





「今日から、お前達は正式に決闘の許可が出た」


 祐樹が水翡らを集めて言った。


「迷惑よ。今日だけで19回も申し込まれたのよ!?

 め・い・わ・く!」

「そう思うのなら文句は直人に言ってもらおう」

「直人さんのバーカ、直人さんのバーカ」


 陽花はやさぐれて、体育座りをしている。


「そのせいで21回も申し込まれたんですか!?

 拒否権はありますよね?」



 意訳:なかったらどうなるか分かってますよね?



 葉咲を呆れた眼差しで見る祐樹。


「ある。だが、どうしても断れないのもある。

 俺よりも先輩のナイトから申し込まれた場合と、お前らより先輩の巫女から申し込まれた場合だ」


 疲れたようにネクタイのタイを緩める。


「つまり俺に来た申し込みは10件有効。どれも直人だな。

 あ、これは違った」


 依頼書の紙を依頼者ごとに分類している。


「お前らのはこっち。

 巫女が決闘を申し込んだらナイトの俺に書類が来るようになってるからな。

 陽花、直人の決闘は例外だ」


 陽花が直人に騙されて戦ったあの決闘のことだ。


「残念なことにお前らには先輩しかいない。

 どれも有効だ」


 がっくりと肩を落とす三人。


「出来るのなら、直人さんに挑戦を挑みたいのですが」

 葉咲がにこにこと言った。


「条例では“巫女は守るべき対象であり、戦うことは許されない”とある。

 もし戦えたとしたら、負けるだろうな。

 直人は風と土の守護が強い上に、体術と剣術の使い手だ。

 体力のないお前は確実に負ける」


「あ、じゃあ私は?」

 好奇心を隠さずに聞く水翡。


「直人は長くナイトを務めている。

 水属性にも詳しい。その隙をつかれて終わりだ」


 水翡は顔をしかめる。

 自分の知識不足は身に染みているからだ。

 隣の赤が目に入る。


「陽花は?」


 祐樹は何故か噴出す。


「直人の無様な負けだろうな」

「どうして~?」




 惚れた弱みだろうな。

 もちろん口には出さないが。

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