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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
三章:巫女の権威
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馬鹿でもいいよ 防衛前線

 水翡は夜更かしをして、皆を待っていた。

 夜の静けさにどうしても落ち着かない。



 コンコン



 帰ってきた!


「遅いっっ!!」

「すいません」


 先ほど見知った、珪という少年がいた。

 彼の肩から葉咲が寝ているのが見える。


「葉咲、どうしたの?」


 珪は視界を迷わせ、沈黙の後に答える。


「俺から言っていいか分からないから、葉咲本人から聞いて下さい」


 何が起こったのだろう。

 恐ろしくて無闇に聞けない。


「そう。ここね、葉咲の部屋なのよ。ベッドまで運んでくれない?」

「いろんな属性が調和しているいい部屋っすね」




 葉咲をベッドに寝かせる。

 珪は葉咲をみて眉を寄せ、髪をそっとなでて囁く。

 何を言ったのだろう?遠く離れた水翡には聞こえなかった。




「じゃ、失礼します」


 何が、あったのだろう。





「“忘れろ”って忘れられると思いますか?」


 かすれた、泣きのまじった声が部屋を支配する。


「否定してくれればよかった……」


 月の光で涙が浮かぶ。


 何も出来ない水翡。





「直人様、申し訳ありません!」


 緑が平謝りする。


「もういいから、下がるんだ」


 直人の何処も見ていない目に恐怖を覚える緑。


「直人様……」

「下がるんだ!!」


 空気がしびれた。

 同時に開くのはドア。

 現れた陽花はすぐさま直人の腕を引き、連れ去った。


「どうしてあの子が?」

 緑が怪訝そうな顔をする。




「私よ」

 アリアがドアから顔を出した。


「どうしてですか!?私達は直人様の巫女です。

 直人様をお慰めするのが私達の役割ではありませんか!」


 アリアは静かに首を振った。


「直人様の巫女であるからこそ駄目なのです」

「何故!?」


 ただ口を閉ざすアリア。





 着いた先は屋上。


「君は、どうして?」

 状況も飲み込めず、直人は問いかける。


「直人さんが元気ないから気になったんだ。

 どんなに笑顔でも、分かる人には分かるんだよ」


「君は馬鹿かい?

 僕は君に酷いことをしたんだよ?裏切りというものを。

 それなのに君は心配する」


 陽花は座って夜空を見上げる。


「ここ、直人さんの息抜き場だよね。

 ここで少しでも直人さんの癒しになればいいと思ったんだ。

 だから連れてきたんだ」


 直人を引っ張り、無理やり座らせる。

 そして正座した膝の上に直人の頭をのせる。


「な、何を」


 起き上がろうとする直人を押さえて話を続ける。




「直人さんは頑張りすぎなんだよ。

 誰にも隙を見せないくらいに。

 私、そんな直人さん嫌いじゃないよ」


「“憎い”って言葉知ってる?」

「意味なら。でも、やっぱり憎めないし、嫌いにもなれない。

 みんな大好きだから」


「君は馬鹿だね」


 腕で目を隠す。


「馬鹿でいいよ。

 直人さんの心が癒されるのなら」


 直人の茶色の柔らかい髪をなで、歌いだす。



 子守唄



 優しく、何故か昔を思い出させる歌に直人はひっそりと涙を流す。





 次に直人が目を開けたのは太陽が昇る頃。

 顔を上げると、こくりこくりと船を漕ぐ陽花がいた。

 直人は柔らかく微笑む。


「ありがとう。君のお陰で吹っ切れたよ。

 もう、あの人を追うのはやめる事にした。憎むことも。

 今はただ君に感謝の言葉を」


 持ち上げた手を陽花の頬へやる。


「君だから、だろうね」


 愛しげに笑って、頬をなでる。


「もう少し、このままで」


 安らかに瞳を閉じる直人。



 ありがとう





「すいません、遅れました!!」

 教室に駆け込む陽花がいた。



「陽花が独占されてるわ」


 とてつもなく不機嫌に言う水翡。

 静かに頷く葉咲。


「あの人、ついに壊れましたか?」





 あれから、笑顔が戻った直人。

 そして囲む巫女達。

 違うのはその中に混じる陽花だった。


「直人さん、今日は何歌うの?」

「何にしようか。作るのはどうだい?」

「うわぁ!それいいね!!」


 はしゃぐ陽花。暖かく見守る直人。



「何あれ。知らぬのは本人だけみたいなバカップルモードは」

「むしろ本人達は自覚がないようです」


 残念と言わんばかりに手を合わせる葉咲。



「天変地異とはこのことか」


 祐樹が水翡の背後に立っていた。


「うぎゃぁ!そんなところに立たないでよ!」

「気にするな」

「気にする!」



 あんなことがあってただでさえドキドキしてるのに



 水翡の心情にも構わず、直人の方に歩みだす。


「直人、久しぶりだな」

「祐樹!本当に久しぶりだね。

 朝の会では会うけど、面と向かって会うのは久しぶりだ」


 にこやかに迎える直人を見て、祐樹はつぶやく。


「トゲが取れたな」

「分かる?」


 嬉しそうに微笑む。


「ああ。ナイト育成時に俺を盾にしてた頃と大違いだ」

「根に持つねー。

 祐樹は目つきが悪いから一緒にいると楽だったんだ。

 変な輩撃退に」

「あれは俺達の線が細いからいけないんだ」

「おかげで腕っ節が強くなった」


 クスクスと笑い合う二人。


「直人さんと祐樹さんが話してるの初めて見た!!」


 陽花が目を輝かせて言う。


「そうか?」

「そういえばそうだったね」


 祐樹が直人に問い返し、直人が答えた。


「僕らは同僚だけど、同級生でもあるんだ」

「年違うように見えるけど?」


 聞いていた水翡がすかさず疑問を尋ねる。


「祐樹が三年飛び級してるからだよ。

 ナイトとして素晴らしい才能を持つ。

 どの精霊にも愛され、ナイトの魅了を完璧に使いこなせる技量。

 同じナイトとして羨ましいね」


 そこで改めて祐樹を見る水翡達。


 祐樹は相変わらずだった。



 ♪~



 放送によって、神殿の空気が変わる。


「行くぞ!」

「はい!!」

 直人が用意を整え、巫女が続く。


「俺達は部屋に戻るか」

 部屋への道を辿る。





 落ち着かないので祐樹の部屋で待つことになった。


「ほんと、殺風景な部屋」

 黒が基調の部屋は寂しく見える。


「植物とか置こうよ~」

 陽花も不満なようだ。


「私の部屋にあるお茶セット持ってきましょうか?」

 葉咲には心配されている。



「好きにしろ」


 投げやりな祐樹に喜んで部屋を賑やかにする三人。

 女が三人寄ればやかましいとはよく言ったものだ。


「だいたいカーテンが黒自体おかしいのよ。

 ただでさえ部屋が暗いのに」

「じゃあピンクにする~?」

「それでは嫌がらせですよ」


 きゃっきゃっと騒ぐ水翡達。

 過去にもあった光景。



 しかし突如として、目を鋭くし構えを取る三人。

 祐樹はまったく状況が読めてない。


<狙い打て!水撃!!>


 水の流れが窓を砕き、外に飛び出す。


「陽花!」

 アイコンタクトする水翡。


「分かってる!」


 目が燃える

 言葉なき詠唱


 屋根からも火があがった。


「後は私ですね」


<この神殿を守る古き風よ。

 この部屋を守りたまえ。

 四結界!!>


 緑の光が部屋を包んだ。




「一体何があったんだ」


 珍しく戸惑う祐樹。


「それ、見たら分かるでしょ」


 祐樹の足元を指す水翡。


「!?」


 黒く、焼けただれた腕。

 危険種の腕。


「危険種が神殿に入り込んでるわ。前線では何をしてるの?」

「神殿が危ないよ!!」


 ざっ、と座る水翡達。

 膝を立てる座り方はヨーロッパの誓いを立てる騎士のようだ。


「私達はあなたに従うわ」

「戦い慣れてるから力になれると思うんだ!」

「何にも臆しません。どうぞ、役立てて下さい」


 祐樹は深く目をつぶる。

 開く、強い光を灯した漆黒の瞳。


「神殿を、守る!!」





「今回は楽だな」


 後へ後へと引いていく危険種を見て、直人は言う。


「無事なことに越したことはありませんわ」


 直人を守る巫女が安心させるように言った。


「いいえ、本当に不自然ですわ。

 先ほどまであちらが優勢でしたのに」


 アリアが直人の言葉から訝しがる。


 揺れる地面。


「ティーナさん、派手にやりますのね」


 いつもより前線をゆくティーナを見つめるアリア。



 ピリリリリ



「こんな時に携帯か!」


 着信は祐樹。


「祐樹!?まったく今戦って、え?」


 直人はすぐさま戦場を見る。



 大きく離された神殿。

 いつもより深入りしている自分達。

 優勢だったのに下がりだした危険種。



「嵌められた!!」


 戦場の視線が直人に集まる。


「神殿が、攻撃されている!!」





 白の巫女と“灰白”の巫女が抜けた神殿はあまりにも非力だった。

 けれど、戦わなければならない。

 教師、総裁までも戦っていた。


「神殿に結界を貼ろうとしましたが、危険種が忍び込んでいて意味がありません!」


 あせりを隠せない葉咲。


「危険種の殲滅を最優先する。

 前線から戻ってくるまで持ちこたえるだけでいい。

 二手に別れるぞ!」


「いいえ。一人一人ばらばらでいいわ」

「水翡?」



「やってやろうじゃない。いつも全力出せなくてイライラしてたのよ」


 不敵に笑う。


「じゃあ本気で行くよ!!」


 燃える瞳。隣には火の精霊王がいた。


「全力で叩き潰すのみですね」


 強気に微笑む。



「祐樹、あんたはどうするの?誰についてくる?」


「俺はナイト独立部隊隊長だった。一人でも戦える」


「そう、じゃあ戦いの始まりね」


 揺れる神殿

 守るべく腕を広げる巫女達

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