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巫女の住まう都市  作者: 花ゆき
二章:ナイトの権威
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白き炎 許さないで

 戦い方が蘇る。

 構えをとる陽花。

 火が当たるすれすれで跳びはねる。

 陽花のいた場所に火の焦げ後が残った。

 未だに煙が出ている。


「何よ、急に動いたって変わらないんだから」


 火の球が立て続けに陽花を襲う。

 観客の不安に反し、軽々と避ける陽花。

 着々と藤に近づく。


 藤は舌打ちをして弓を取り出す。

 弓と共に火の球がくるようになった。

 さすがの陽花でも全てかわしきれず、弓や火の球があたる。

 それでも前進する陽花。


 怯えた藤は大きな火の塊で陽花を狙う。

 まともに食らった陽花は倒れるが、またゆっくりと立ち上がる。


 誰もがこの試合の行方を予想出来なかった。





「三時間たったな。体力勝負だ」


 祐樹は冷静に会場を見た。


「じれったい!

 陽花が巫女の力さえ使えればあんな奴ー!!」


 歯をくいしばって怒っている水翡。


「ですが陽花ちゃんは火の力を人には使わないでしょうね」

「あーー、忘れてた」





 足をふらふらさせながら何度も立ち上がる陽花。

 息を切らしながら弓を引く藤。


「これで、終わらせてあげるわ」


 疲れを知らないのか巨大な火の塊を作り出す。

 そして無常にも陽花へ。





「陽花ーー!!」


 水翡が身を乗り出す。


「水翡、落ち着いて座っていろ」

「でも、私の力なら陽花を!!」

「陽花が負けても助けたいか?」


 声が出なかった。


「水翡ちゃん、悔しいのは私も同じです。

 これが終わったら沢山癒してあげましょう?」





 巨大な炎といえるものは陽花を狙う。

 この距離で感じる熱。

 しかし、陽花にはもう避ける力が残っていなかった。

 陽花は受け止めるように目を閉じる。

 眩しいほどの光と熱が、顔の近くまできて、消えた。

 目を開くと、空間が炎を捻ねじ曲げて、飲み込んでいた。

 炎を消し去った後に現れたのは


「主あるじ、あの者を消す許可を」


 筋肉質な赤髪の男性だった。


「殺しちゃいけない」

「では傷つける許可を」

「それも駄目だよ」


 力なく笑う陽花。

 それを見て、胸が痛む男。


「ですが、主の不調な火に戦いを挑むなど許せません。

 これでは一方的です」


「それでも傷つけちゃ駄目なんだ!!」


 初めてここで声を荒げる陽花。


「――主の言葉ならばそのように」


 男は優雅に一礼した。


「ちょっと待ちなさいよ!それ、何!?」


 置き去りにされた藤が苛立ちを込めて聞く。


「気付いているのに、聞くのか?」

「いや、信じたくない!」


 男は残酷なまでににゃりと笑みを落とす。


「私は火を統べる王。火の精霊王。

 私の主を傷つけた罪、償うがいい」


 彼が作り出した炎はそんなに大きくなかった。

 ただ、温度が桁外れに高い。

 白き炎。


 小さいため、藤のもとへ速く達する。

 パァンという音が響き、煙が立つ。

 残ったのは……


「主!?」


 彼が守るべき主、陽花だった。


「何よりも簡単に人を殺せる炎だからこそ、人を傷つけちゃいけないんだ」


 怒りの瞳を向ける陽花の背には藤がいた。



 おそろしい、あの炎。

 あの子がいなかったら私は――。


「ばかね。私なんか庇わなかったら今頃勝っていたでしょうに」

「あなたはたった一人の人だから」

「そう。ありがとう」


 藤は目を深くつぶり、目を開く。

 意思の宿る強い瞳。


「直人様、お許しを。“藤は試合放棄します”」


 この時起こった反応は様々だ。


 驚く陽花。

 安心する火の精霊王。

 口の端を上げて笑う祐樹。

 駆けだそうとしている水翡。

 水翡を引きとめ、笑顔で陽花を見守る葉咲。

 そして、笑っているが目は笑っていない直人。


『では陽花さんの勝ちということで、陽花さんの位は“黒”から“灰黒”へ。

 そして藤さんの位は“灰白”から“黒灰”へと下がります。

 以上にてこの試合は終わります』


「陽花ーーーーー!!よくやったわ!」


 紅い円から出た時、待ち構えたように水翡が抱きついた。


「無事で良かったです。あ、じっとしてて下さいね」


 葉咲が水翡の後から現れた。

 陽花の傷口に手をかざす。


<風よ、我が友を癒したもう。

 命の息吹、春の風、芽生え、それらは命をも救う>


 新緑の光が陽花を包み、陽花の怪我を一瞬にして癒してしまった。


「私がやろうとしてたのに」

「治療は早い方がいいじゃないですか」

「えへへへ。ありがと~、葉咲ちゃん」


 その姿に何故かなでなでしてしまう葉咲と水翡。

 陽花はきょとんとしていたが、直人の後ろ姿を見つけ、駆けだす。


「陽花!!」


 引き止めるために伸ばした水翡の手は届かなかった。



 陽花は直人の姿が見えたので駆けだした。

 だが、声はかけられなかった。

 あまりに空気が重かった為である。



「期待をかけてあげたのに、君には失望したよ」


 直人の容赦ない言葉。

 目をつぶり、ひたすらこらえる藤。


「君は第九位の巫女とする。

 まったく、時間の無駄だった。

 せっかく下がった位を取り戻すチャンスだったのに。

 君は役立たずだね」


 悲しみに息を呑む藤。

 目が大きく揺れている。


 パァン!!


 直人の視界が揺らぐ。

 視界を戻すと、目の前には陽花が立っていた。


「さいってーだ、直人さんって。

 藤さんはあんなに必死で戦ってたのに!!」


 燃える怒りの瞳。

 触れたら激しい痛みのもと焼けてしまいそうだ。


「君が負ければよかった。

 そのためにこの日を選んだ」


 怒りに言葉も出ない陽花。


「人はものじゃない!」


 陽花とは真逆に冷えた目が見下ろす。


「ナイトにとって巫女は所有物さ。

 だからおもちゃをかわいがるようにランク付けをする。

 そして巫女をどう扱うかもナイト次第。

 君は部外者だろう?口出ししないでくれないか」


 陽花は落ち着きを取り戻す。


「私今回のこと怒ってないよ。

 直人さんにも事情があっただろうし。

 でも、藤さんへの扱いは許せない」


 落ち着いた目が直人を見つめる。

 それでも笑顔はない。


「それでいいさ。早く行きなよ。友達が待っている」


 打ち切るように言う。

 陽花はじっと直人を見つめた後、立ち去る。


 ――君は僕を許さないで





 その後、祐樹が陽花を呼んだ。

 巫女の位が上がったので、新しい制服に変わるそうだ。

 “灰黒”の制服。


 巫女の位は黒、灰、白の中でも二つに分かれる。

 黒は“黒”と“黒灰”。

 灰は“灰黒”と“灰白”。

 白は“白”と“白灰”である。

 実に細かい。

 制服の色も微妙に違うのだ。


 それを着て、教室を移ることになった。

 水翡らより上の学年、3-Aのクラス。


「うーん、複雑。でも、早く追いついて見せるからね」

「そうですね。待ってて下さい」


 寂しいながらも送り出した。





 放課後。水翡がふらふら歩いていると、放送が流れた。

 危険種が現れたのだ。


 白と灰白の巫女、ナイトが慌ただしくしている。

 しかし、灰黒、黒の巫女は見当たらない。

 ナイトが上手く隠しているのだろう。


「祐樹!」


 視界のすみに金が見えた。

 ティーナだ。


「どうした。こんな忙しい時に。お前のナイト、忍が待ってるぞ」

「いいのよ、そんなこと。

 ねぇ、私やっぱりあなたじゃなきゃ駄目よ。

 あなたのことが好きなの」


 必死にすがりつくティーナ。

 しかし、手を払いのけられる。


「幻だ。魅了の効果が続いているんだろう」


 返ってくるのは、否定。


「そんなことない!私は本当にあなたのことが――!!」


「水翡」


 げっ、耳傾けてたのがばれたか。

 ティーナがおっかない顔で睨んでいる。


「何?」

「ここに立て」


 何のためか分からないが、言われた通りにする。

 祐樹が耳元で囁く。


『じっとしていろ』


 何なの一体。


 応えは数分後に分かる。

 影が水翡を覆いつくしたからだ。


「――!?」


 両手で押し返そうとするが、手を握られ、捕らえられる。

 男の力に水翡は身動きできない。


「俺にはもう好きなやつがいる。お前じゃない」


 ティーナは目に涙を浮かべていた。

 それでも泣かないのは彼女の気高さ。


「祐樹を本当の意味で捕まえた人なんていないのよ」


 金糸が舞い、去っていった。




 空気を裂くような音がする。

 祐樹が左の頬を赤くして立っていた。


「あんたって最低ね!あんなこと勝手にするなんて!!

 これでも見直してたのに……。

 あんたなんて大っっ嫌いよ!」


 怒りに震える水翡。

 怒りと恥ずかしさで染まる両頬。

 目が潤むのは怒りと悲しみ。


「ふんっ!」


 水翡は背を向けて去っていく。

 その背に声がかかる。


「巫女はナイトの下でしかない。

 ナイトは巫女を守る者とあるが、それは体勢をつくろったものだ。

 巫女はナイトには逆らえない。巫女だからだ」


 振り返る、深海の瞳。


「あっそ。でも私、そういう押し付け、大嫌いなのよ。

 じゃあね」


 背を向けると、空色の真っ直ぐな髪が宙を舞う。

 それはいつか見たもので。


 “さようなら”


 祐樹は眉を寄せた。

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